失敗を繰り返す中小企業政策(1))スコアリング融資と金融庁による推奨 [経済政策]
今日は、久しぶりに経済政策として、我が国の中小企業政策が失敗を繰り返してきた問題を取上げよう。まずは、我が国における中小企業の位置づけを見てみよう。法人企業統計年報2012年によれば、資本金10億円未満の中堅を含む中小企業の比重は、法人数で99.8%、売上高で61.1%、経常利益では46.4%を占める。従業員数の比重は、経済センサス基礎調査ー企業2009.7(現時点では最新)によれば74.9%である。中小企業は経済社会の中核をなす存在といえよう。他方で、法人企業統計年報でみた自己資本比率は、全体37.4%、資本金10億円以上の大企業42.7%、資本金10億円未満~1億円以上が34.9%、1億円未満~1千万以上が33.7%、1千万未満になると12.2%と、中小企業の財務体質の弱さを示している。
これらを背景に、中小企業政策は「水戸黄門の印籠」的な意味を持ち、与野党一致して取り組まれることが多い。しかしながら、その成果は残念ながら失敗続きである。事例としては、第一に本ブログの4月13日付けで既に取上げた「新規上場(IPO)ブームの裏面」がある。第二には、メガバンクが取り組んだスコアリング融資と、これを金融庁が中小企業向け貸出の促進策として推奨して、最終的に失敗に終わったケースがある。第三には、中小企業専門銀行として発足した新銀行東京、日本振興銀行の失敗。第四には、東京都が取り組んだ中小企業向け融資の証券化の失敗。第五には、中小企業金融円滑化法の失敗がある。
今日は、第二のスコアリング融資と、これを金融庁が中小企業向け貸出の促進策として推奨して、最終的に失敗に終わったケースを紹介しよう。第三以降は後日、取上げるつもりである。スコアリング融資とは、決算書などのさまざまな数値を基に倒産確率や回収可能性などを算出して、これから貸出金利を設定しようとする中小企業向け無担保、第三者保証不要の融資のこと。住宅ローンや消費者ローンでは一般的な手法だが、これらに比べ大口になる企業向け融資では例がなかった。2002年4月に三井住友銀行が「ビジネス・セレクトローン」として売り出した。1件当たり最大5000万円(現在は1億円)を融資、金利は3%前後以上と通常の融資に比べ高目で、新規先の場合は手数料も必要。支店網のない地方にもこのローンの営業部隊を配置し、大々的に営業活動を展開。この結果、2005年9月末で取組件数14.1万件、融資残高3.4兆円になったとされる。対面審査なしに書類だけで機械的に審査することで、営業効率を上げる革新的なモデルともてはやされ、他のメガバンクもすぐ追随。中小企業向け貸出促進策に困っていた金融庁もすぐに飛びつき、2003年3月に「リレーションシップ・バンギングの機能強化に向けたアクションプログラム」でその活用を要請した。ただ、対面審査なしのスコアリング融資は、本来は対面審査など長期的取引関係を重視するリレーションシップ・バンギングとは対極のトランザクション・バンギングの典型例であるだけに、民間金融界には金融庁の位置づけに首を傾げたものも多かった。
その後、スコアリング融資で大量の不良債権が発生、三井住友銀行は2006年に抑制に転じ、2007年には対面審査も含むより厳格な審査基準を導入したが、ホームページでのPRは続けている。他のメガバンクも同じ流れをたどったが、ホームページでのPRは控えているようだ。金融庁も推奨を止めた。
失敗の原因は、金利競争で望ましい金利より低目にせざるを得ないこと、財務データの正確性の欠如、一部債務者の詐欺的行動、基礎になる倒産データが米国に比べ蓄積が少なく信頼性に欠けることなどがある。特に、会計士監査がない中小企業の財務データは、税務署用には赤字、取引先用には収支トントン、銀行用には小幅黒字と3つを使い分けるケースもあるといわれるほど信頼性に欠ける。スコアリング融資を引き出す目的であれば、審査に使われる税務署用で小幅黒字を申告し、多少の税金を払ってでも、融資金を手にした上で夜逃げ、といった不心得者が続出。借り手のモラルハザードの典型例である。
さらに、スコアリング融資を悪用した有名な事件としては、2008年3月に発覚した不動産会社コス・トラストをめぐる事件がある。同社は三井住友銀行から100億円、三菱東京UFJ銀行から10億円を調達、返済期日には商工ローン大手のSFCGから不動産を担保に借りた資金で返済、新たに借り換えることを繰り返していた。同社の危機に気づいたSFCGが不動産担保を処分して回収したが、銀行側は回収できず、全額損失となった。これは銀行が対面でなく、機械的審査に依存していた隙を突かれ、SFCGの後塵を拝したおそまつな事例である。
明日は、中小企業専門銀行の失敗例を取上げるつもりである。
これらを背景に、中小企業政策は「水戸黄門の印籠」的な意味を持ち、与野党一致して取り組まれることが多い。しかしながら、その成果は残念ながら失敗続きである。事例としては、第一に本ブログの4月13日付けで既に取上げた「新規上場(IPO)ブームの裏面」がある。第二には、メガバンクが取り組んだスコアリング融資と、これを金融庁が中小企業向け貸出の促進策として推奨して、最終的に失敗に終わったケースがある。第三には、中小企業専門銀行として発足した新銀行東京、日本振興銀行の失敗。第四には、東京都が取り組んだ中小企業向け融資の証券化の失敗。第五には、中小企業金融円滑化法の失敗がある。
今日は、第二のスコアリング融資と、これを金融庁が中小企業向け貸出の促進策として推奨して、最終的に失敗に終わったケースを紹介しよう。第三以降は後日、取上げるつもりである。スコアリング融資とは、決算書などのさまざまな数値を基に倒産確率や回収可能性などを算出して、これから貸出金利を設定しようとする中小企業向け無担保、第三者保証不要の融資のこと。住宅ローンや消費者ローンでは一般的な手法だが、これらに比べ大口になる企業向け融資では例がなかった。2002年4月に三井住友銀行が「ビジネス・セレクトローン」として売り出した。1件当たり最大5000万円(現在は1億円)を融資、金利は3%前後以上と通常の融資に比べ高目で、新規先の場合は手数料も必要。支店網のない地方にもこのローンの営業部隊を配置し、大々的に営業活動を展開。この結果、2005年9月末で取組件数14.1万件、融資残高3.4兆円になったとされる。対面審査なしに書類だけで機械的に審査することで、営業効率を上げる革新的なモデルともてはやされ、他のメガバンクもすぐ追随。中小企業向け貸出促進策に困っていた金融庁もすぐに飛びつき、2003年3月に「リレーションシップ・バンギングの機能強化に向けたアクションプログラム」でその活用を要請した。ただ、対面審査なしのスコアリング融資は、本来は対面審査など長期的取引関係を重視するリレーションシップ・バンギングとは対極のトランザクション・バンギングの典型例であるだけに、民間金融界には金融庁の位置づけに首を傾げたものも多かった。
その後、スコアリング融資で大量の不良債権が発生、三井住友銀行は2006年に抑制に転じ、2007年には対面審査も含むより厳格な審査基準を導入したが、ホームページでのPRは続けている。他のメガバンクも同じ流れをたどったが、ホームページでのPRは控えているようだ。金融庁も推奨を止めた。
失敗の原因は、金利競争で望ましい金利より低目にせざるを得ないこと、財務データの正確性の欠如、一部債務者の詐欺的行動、基礎になる倒産データが米国に比べ蓄積が少なく信頼性に欠けることなどがある。特に、会計士監査がない中小企業の財務データは、税務署用には赤字、取引先用には収支トントン、銀行用には小幅黒字と3つを使い分けるケースもあるといわれるほど信頼性に欠ける。スコアリング融資を引き出す目的であれば、審査に使われる税務署用で小幅黒字を申告し、多少の税金を払ってでも、融資金を手にした上で夜逃げ、といった不心得者が続出。借り手のモラルハザードの典型例である。
さらに、スコアリング融資を悪用した有名な事件としては、2008年3月に発覚した不動産会社コス・トラストをめぐる事件がある。同社は三井住友銀行から100億円、三菱東京UFJ銀行から10億円を調達、返済期日には商工ローン大手のSFCGから不動産を担保に借りた資金で返済、新たに借り換えることを繰り返していた。同社の危機に気づいたSFCGが不動産担保を処分して回収したが、銀行側は回収できず、全額損失となった。これは銀行が対面でなく、機械的審査に依存していた隙を突かれ、SFCGの後塵を拝したおそまつな事例である。
明日は、中小企業専門銀行の失敗例を取上げるつもりである。
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