失敗を繰り返す中小企業政策(2)日本振興銀行編 [経済政策]
昨日の「失敗を繰り返す中小企業政策」の続きとして、日本振興銀行を取上げよう。
同行は、日銀OBで金融コンサルタントだった木村剛が、「貸し渋り」の風潮に対抗する中小企業専門銀行として2004年4月に開業。木村は金融庁が銀行検査用の金融検査マニュアルを策定する際に、積極的に関与。不良債権問題では、問題なのは「大口30社の問題」であると、小泉首相の面前で、金融庁長官を論破、その後の大口先への「特別検査」導入などの流れをつくり、金融庁が竹中平蔵担当大臣の下で、不良債権処理の「ハードランディング路線」に切り替えると、それを推進する「竹中チーム」でも主導的役割を果たした。
銀行は免許制なので、その取得は通常は極めてハードルが高く、取得も時間がかかるが、中小振興企業への積極的支援を標榜する日本振興銀行に対しては、金融界が驚くほどあっさりと免許が交付された。銀行設立の経緯を描いた「金融維新」を出版、不良債権問題に悩む銀行にコンサルティングをするなど、鼻息は荒かった。
初めのうちはスコアリング融資で貸出増加を図ろうとしたが、不良債権が予想以上に発生するなど、思うように伸ばせなかった。木村は、「不良債権問題のプロ」を自認していたが、金融検査マニュアル作成に関与したといっても、所詮はアメリカのものを日本の実情も余り考慮せず導入しただけで、後日、金融庁は中小企業向けのマニュアルを別途作成せざるを得なくなった。木村自身が銀行実務には疎かったことが足を引っ張ったこともあり、貸出増加には苦戦。2007年12月頃からは資金調達が困難化した商工ローン大手のSFCGの貸出債権買取りで、貸出を一転して飛躍的に増加させた。資金は定期預金金利を高目にすることで調達。その間、後述するような問題点がマスコミなどで多く指摘されるなかで、金融庁の検査で問題点が明らかにされ、2010年5月には4ヶ月間の業務停止命令という異例の重い処分を受けた。翌月には各種の法令違反で刑事告訴され、木村は辞任、代わって作家で社外取締役の江上剛氏が社長になった。SFCGから買取った貸出債権の多くが、既に信託銀行などに売却されたもので、無価値だったことも判明。9月になり債務超過で再建困難として破綻を申請、金融庁は初のペイオフに踏み切った。通常の銀行の破綻処理では、預金保険機構が受け皿金融機関に資金援助する方式を採ってきたが、同行ではシステムコストがかかる流動性預金はなく、定期預金だけであったため、預金保険が1人1000万円までは支払うが、それ以上の分は残存価値を預金額に応じて支払うというペイオフ方式を採った。
金融庁が特に問題視したのは、SFCGからの貸出債権買取り1471億円のうち、100億円は1ヶ月後にSFCGが買い戻す契約をしており、その手数料が出資法上限金利29.2%を大きく上回る45.7%だった違反。さらに、SFCGとのやりとりのメールを木村らの指示で削除するなど、検査忌避を図った銀行法違反。
金融庁が指摘した以外にも、報道された問題点は以下の通り。
・木村が金融庁顧問だった2003年5月に彼が経営するコンサルティング会社が免許取得前の準備会社から1億円のコンサルティング料を受け取っていた。顧問辞任は8月の予備免許申請時。
・民主党・国民新党政権下で免許交付の問題を調査した第三者委員会は、「免許交付が不当」との結論を出したが、元担当大臣だった竹中、伊藤の両氏は調査に応じず、金融庁職員の責任も検証の対象外とした。
・振興銀行は破綻寸前の融資先110社、うち上場企業20社からなる「中小企業振興ネットワーク」を組織、融資した資金を転貸することで相互に回したり、同行の増資を引き受けさせていた。
・木村の親族会社に1.7億円の情実的な融資。
・社外取締役の弁護士が2010年7月に理由は不詳ながら自殺。
木村には2012年3月に東京地裁が懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。預金者12.7万人、預金総額5820億円。保護限度超過分3423人だが、超過額は僅か110億円。つまり、預金保険の保護を売り物に高利で預金を集めるモラルハザードの典型。これを検査で知りながら放置してきた金融庁の責任も重大。
破綻前の貸出4200億円のうち、 不良債権が3900億円と実に91%、これは整理回収機構が引取る。正常な「適資産」 300億円はイオン銀行に19億円で譲渡。しかし、適資産であれば本来は必要ない貸倒引当金を、譲渡直前に260億円も急遽つけた。これにより、譲渡を受けたイオン銀行は、貸倒引当金が不要になるので、戻り益が出るメリット。事実、イオン銀行の2012年3月期は2007創業以来初の黒字になった。また、最終的に預金保険機構には約3500億円の負担になったが、公表されている「破綻処理のための資金援助等」に計上されているのは、何故かその半分の1742億円のみ。
こうした、不透明な処理の裏には、金融庁の「恥部」である振興銀行を一刻も早く「消してしまいたい」という不純な動機があったのではとの観測も。
日本振興銀行をめぐる問題は、同行のみならず金融庁も含めまさに「疑惑のオンパレード」。起訴されたのは氷山の一角。SFCGによる貸出債権の「二重譲渡」も、同行は「被害者」であると主張したが、真相は闇の中。さらに、事後処理まで疑惑が持たれる始末。こうした破廉恥極まる事件があったことを忘れてはならない。
明日は金曜日なので休み、明後日に比較的簡単な新銀行東京の例を取上げるつもりである。
同行は、日銀OBで金融コンサルタントだった木村剛が、「貸し渋り」の風潮に対抗する中小企業専門銀行として2004年4月に開業。木村は金融庁が銀行検査用の金融検査マニュアルを策定する際に、積極的に関与。不良債権問題では、問題なのは「大口30社の問題」であると、小泉首相の面前で、金融庁長官を論破、その後の大口先への「特別検査」導入などの流れをつくり、金融庁が竹中平蔵担当大臣の下で、不良債権処理の「ハードランディング路線」に切り替えると、それを推進する「竹中チーム」でも主導的役割を果たした。
銀行は免許制なので、その取得は通常は極めてハードルが高く、取得も時間がかかるが、中小振興企業への積極的支援を標榜する日本振興銀行に対しては、金融界が驚くほどあっさりと免許が交付された。銀行設立の経緯を描いた「金融維新」を出版、不良債権問題に悩む銀行にコンサルティングをするなど、鼻息は荒かった。
初めのうちはスコアリング融資で貸出増加を図ろうとしたが、不良債権が予想以上に発生するなど、思うように伸ばせなかった。木村は、「不良債権問題のプロ」を自認していたが、金融検査マニュアル作成に関与したといっても、所詮はアメリカのものを日本の実情も余り考慮せず導入しただけで、後日、金融庁は中小企業向けのマニュアルを別途作成せざるを得なくなった。木村自身が銀行実務には疎かったことが足を引っ張ったこともあり、貸出増加には苦戦。2007年12月頃からは資金調達が困難化した商工ローン大手のSFCGの貸出債権買取りで、貸出を一転して飛躍的に増加させた。資金は定期預金金利を高目にすることで調達。その間、後述するような問題点がマスコミなどで多く指摘されるなかで、金融庁の検査で問題点が明らかにされ、2010年5月には4ヶ月間の業務停止命令という異例の重い処分を受けた。翌月には各種の法令違反で刑事告訴され、木村は辞任、代わって作家で社外取締役の江上剛氏が社長になった。SFCGから買取った貸出債権の多くが、既に信託銀行などに売却されたもので、無価値だったことも判明。9月になり債務超過で再建困難として破綻を申請、金融庁は初のペイオフに踏み切った。通常の銀行の破綻処理では、預金保険機構が受け皿金融機関に資金援助する方式を採ってきたが、同行ではシステムコストがかかる流動性預金はなく、定期預金だけであったため、預金保険が1人1000万円までは支払うが、それ以上の分は残存価値を預金額に応じて支払うというペイオフ方式を採った。
金融庁が特に問題視したのは、SFCGからの貸出債権買取り1471億円のうち、100億円は1ヶ月後にSFCGが買い戻す契約をしており、その手数料が出資法上限金利29.2%を大きく上回る45.7%だった違反。さらに、SFCGとのやりとりのメールを木村らの指示で削除するなど、検査忌避を図った銀行法違反。
金融庁が指摘した以外にも、報道された問題点は以下の通り。
・木村が金融庁顧問だった2003年5月に彼が経営するコンサルティング会社が免許取得前の準備会社から1億円のコンサルティング料を受け取っていた。顧問辞任は8月の予備免許申請時。
・民主党・国民新党政権下で免許交付の問題を調査した第三者委員会は、「免許交付が不当」との結論を出したが、元担当大臣だった竹中、伊藤の両氏は調査に応じず、金融庁職員の責任も検証の対象外とした。
・振興銀行は破綻寸前の融資先110社、うち上場企業20社からなる「中小企業振興ネットワーク」を組織、融資した資金を転貸することで相互に回したり、同行の増資を引き受けさせていた。
・木村の親族会社に1.7億円の情実的な融資。
・社外取締役の弁護士が2010年7月に理由は不詳ながら自殺。
木村には2012年3月に東京地裁が懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。預金者12.7万人、預金総額5820億円。保護限度超過分3423人だが、超過額は僅か110億円。つまり、預金保険の保護を売り物に高利で預金を集めるモラルハザードの典型。これを検査で知りながら放置してきた金融庁の責任も重大。
破綻前の貸出4200億円のうち、 不良債権が3900億円と実に91%、これは整理回収機構が引取る。正常な「適資産」 300億円はイオン銀行に19億円で譲渡。しかし、適資産であれば本来は必要ない貸倒引当金を、譲渡直前に260億円も急遽つけた。これにより、譲渡を受けたイオン銀行は、貸倒引当金が不要になるので、戻り益が出るメリット。事実、イオン銀行の2012年3月期は2007創業以来初の黒字になった。また、最終的に預金保険機構には約3500億円の負担になったが、公表されている「破綻処理のための資金援助等」に計上されているのは、何故かその半分の1742億円のみ。
こうした、不透明な処理の裏には、金融庁の「恥部」である振興銀行を一刻も早く「消してしまいたい」という不純な動機があったのではとの観測も。
日本振興銀行をめぐる問題は、同行のみならず金融庁も含めまさに「疑惑のオンパレード」。起訴されたのは氷山の一角。SFCGによる貸出債権の「二重譲渡」も、同行は「被害者」であると主張したが、真相は闇の中。さらに、事後処理まで疑惑が持たれる始末。こうした破廉恥極まる事件があったことを忘れてはならない。
明日は金曜日なので休み、明後日に比較的簡単な新銀行東京の例を取上げるつもりである。
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2015-05-07 16:38
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