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失敗を繰り返す中小企業政策(4)東京都の債券市場構想 [経済政策]

今日は、失敗を繰り返す中小企業政策の4回目として、東京都の債券市場構想を取上げよう。
これは石原慎太郎都知事が中小企業支援策として、新銀行東京と並んで打ち出したもの。「証券化」の仕組みを利用して、優秀で元気な中小企業が担保や保証人がなくても市場から資金調達できるようにしようとした。具体的には、銀行などが保有する中小企業向けの貸出債権や、中小企業が発行して銀行などが保有する市場性のない私募債を、案件を組成する金融機関が特別目的会社(SPC)に買取らせ、SPCは買取った多くの債権プールを担保として、社債などを発行して買取り資金を調達。その際に、個々の原債権にデフォルト(債務不履行)が発生する場合に備える信用補完措置として、発行する社債を返済の優先権で順位付ける(優先劣後構造)ことで、債権プールに生じたデフォルトによる損失をまずは劣後債に吸収させたり、或いは部分的に信用保証協会の保証を付けた。なお、原債権が貸出債権のものをローン担保証券:CLO(Collateralized Loan Obligation)、私募債のものを社債担保証券:CBO(Collateralized Bond Obligation)、両者を総称して債務担保証券:CDO(Collateralized Debt Obligation)と呼ぶ。

実際の組成は2000年3月から2010年3月まで11回行われ、延べ16200社の中小企業向けに7200億円を供給、2005年3月からは他の自治体も加えた広域の組成も行われた。 ところが、現実には原債権にデフォルトが多発。件数ベースでみたデフォルト率は、第7、8回では29%、第6、9回も19%に達した(下記リンク参照)。この結果、2006年3月に914億円発行された第7回のCBO(下記リンクはCLOのみなので表示なし)を例にみると、優先権が最上位の社債は当初のAAAの格付が続き、投資家は満額償還されたが、第2位の社債の格付は当初のAAAから毎年のように引下げられた末、2009年7月にには社債としてデフォルト、第3位の社債の格付も当初のAAから、第4位の社債の格付も当初のAから、同様にデフォルトとなり、投資家には合計で143億円の損失が発生。同時期に334億円発行されたCLOやその前後の時期に発行された社債もデフォルト率の高さからみて、相当の損失が出たとみられる。
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/kinyu/clo/toukeishiryou/default26.12.31.pdf

こうしたデフォルト率の高さから、市場の信頼を失い、2011年3月以降は組成されていないが、東京都や格付会社からの「総括」がないままであることは言うまでもない。結局、既にみたスコアリング融資の失敗と同じように破綻寸前の借り手が駆け込んだのが想定以上に多かったという借り手のモラルハザードが基本的な失敗の要因だが、この証券化の場合は、当初に融資した金融機関も直ぐにSPCに売却出来るとして、安直に融資した貸し手のモラルハザードもあったと思われる。2007の米国でのサブプライム・ローンの証券化で金融危機を引き起こした問題と構図は似ているといえよう。明日は中小企業金融円滑化法を取上げるつもり。
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