失敗を繰り返す中小企業政策(5)中小企業金融円滑化法 [経済政策]
今日は失敗を繰り返す中小企業政策(5)として、中小企業金融円滑化法を取上げよう。
これは、2009年9月に郵政問題・金融担当相に就任した国民新党の亀井静香代表が、記者会見で「日本の経済の基になっている中小零細の企業・商店が貸し剥しによって黒字倒産がドンドン起きているのが、残念ながら実体だ」。個人も住宅ローンの返済で苦労しているとして、「3年ぐらいは借入金の返済猶予(モラトリアム)の措置を執るべきだと考えている。早速これについては検討して、速やかに実施をしていきたい」と述べたのがきっかけ。与党議員による検討会などを経て、同年12月に2年間の時限立法として「中小企業金融円滑化法」が成立。銀行などが借り手からの返済猶予の申し出に応じるのは「努力義務」として、当初の強制色を緩和。また、返済猶予など貸付条件の変更等を行った貸付債権は、本来は「要管理債権」、さらに場合によっては「破綻懸念先債権」として不良債権扱いになり、貸出額の30~70%前後を貸倒引当金に積む必要があるが、同法の下では不良債権扱いしなくてよいとして、銀行等へインセンティブも与えた。
実際の申込件数は、下記リンクの通り、当初2年間の中小企業で半年間で60万件超、個人でも5~7万件に達した。このため、時限立法であるにも拘らず、1年延長を2回も繰り返し、2013年3月末で一応は期限切れとした。しかも、不良債権扱いしない特例措置を恒久化、銀行検査時に返済猶予に応じているかのチェックも引き続き行うなど、事実上、金融円滑化の考え方は期限なしに続くこととした。2014年9月末の申込件数累計は、中小企業で607.8万件、個人で40.2万件、うち実行された実行率は、各々、97.6%、92%と極めて高いものとなっている。銀行にとっては、返済猶予した債権は、不良債権とする必要がないとはいえ、不良債権の予備軍として将来、不良債権化する懸念がある。この予備軍を金融庁の公表資料から要注意先債権と要管理先債権の差であるとして推計すると、2014年3月末で予備軍が貸出全体に占める比率は、主要行で4.5%と公表不良債権比率1.3%の3倍、地域銀行では11.7%と同じく2.7%の4倍と、特に地域銀行にとっては極めて重い負担になっている。
http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20150206-3/02.pdf
他方、返済を猶予するだけでは「問題の先送り」との批判に対応して、期限切れ前には、金融庁や中小企業庁などが「中小企業金融円滑化法の期限到来に当って講ずる総合的な対策」を発表、様々な組織が企業再生を支援するとした。具体的には、金融円滑化措置を受けた30-40万社のうち、特に事業再生が必要な企業を5-6万社とみて、企業再生支援協議会が数千社、外部専門家等による支援機関が2万社、メインバンクや企業再生支援機構が3万社、をそれぞれ支援するとのイメージ。さらに、政府系の政策投資銀行によるセーフティネット貸付や、信用保証協会による借換保証で資金繰りを支援するとしている。他方で、金融庁は、無条件で返済を猶予するのではなく、金融機関が抜本的な企業再生に取り組むように促すとして、銀行の債権放棄や、企業の転廃業を促すよう要請。しかし、現実には、これらの企業の殆どは、メイン銀行などが長期間にわたり支援の努力をしてきたが、再生が困難なままで残った企業。上記のように「新しい役割分担」をしたとしても、実効性ははなはだ心もとないといえよう。また、もともと債権放棄には消極的だった地域銀行がいまさら応じるとは考え難く、企業の転廃業も容易ではなく、これは当局として一応要請したという「アリバイ作り」的色彩も覗える。
結局のところ、中小企業金融円滑化は「天下の悪法」(大前研一)だった。返済に苦慮する借り手が気の毒であることは言うまでもないが、返済を猶予するだけでは前述のように「問題の先送り」に過ぎない。しかも、不良債権扱いしないという「痛み止め」の「モルヒネ」まで与えた。こうした措置は、それを如何に「円滑に」終了させるかという「出口」が重要であるが、残念ながら「出口」が未だ見えていないのが実情であるといえよう。
明日は、これまでの「失敗を繰り返す中小企業政策」をまとめてみるつもりである。
これは、2009年9月に郵政問題・金融担当相に就任した国民新党の亀井静香代表が、記者会見で「日本の経済の基になっている中小零細の企業・商店が貸し剥しによって黒字倒産がドンドン起きているのが、残念ながら実体だ」。個人も住宅ローンの返済で苦労しているとして、「3年ぐらいは借入金の返済猶予(モラトリアム)の措置を執るべきだと考えている。早速これについては検討して、速やかに実施をしていきたい」と述べたのがきっかけ。与党議員による検討会などを経て、同年12月に2年間の時限立法として「中小企業金融円滑化法」が成立。銀行などが借り手からの返済猶予の申し出に応じるのは「努力義務」として、当初の強制色を緩和。また、返済猶予など貸付条件の変更等を行った貸付債権は、本来は「要管理債権」、さらに場合によっては「破綻懸念先債権」として不良債権扱いになり、貸出額の30~70%前後を貸倒引当金に積む必要があるが、同法の下では不良債権扱いしなくてよいとして、銀行等へインセンティブも与えた。
実際の申込件数は、下記リンクの通り、当初2年間の中小企業で半年間で60万件超、個人でも5~7万件に達した。このため、時限立法であるにも拘らず、1年延長を2回も繰り返し、2013年3月末で一応は期限切れとした。しかも、不良債権扱いしない特例措置を恒久化、銀行検査時に返済猶予に応じているかのチェックも引き続き行うなど、事実上、金融円滑化の考え方は期限なしに続くこととした。2014年9月末の申込件数累計は、中小企業で607.8万件、個人で40.2万件、うち実行された実行率は、各々、97.6%、92%と極めて高いものとなっている。銀行にとっては、返済猶予した債権は、不良債権とする必要がないとはいえ、不良債権の予備軍として将来、不良債権化する懸念がある。この予備軍を金融庁の公表資料から要注意先債権と要管理先債権の差であるとして推計すると、2014年3月末で予備軍が貸出全体に占める比率は、主要行で4.5%と公表不良債権比率1.3%の3倍、地域銀行では11.7%と同じく2.7%の4倍と、特に地域銀行にとっては極めて重い負担になっている。
http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20150206-3/02.pdf
他方、返済を猶予するだけでは「問題の先送り」との批判に対応して、期限切れ前には、金融庁や中小企業庁などが「中小企業金融円滑化法の期限到来に当って講ずる総合的な対策」を発表、様々な組織が企業再生を支援するとした。具体的には、金融円滑化措置を受けた30-40万社のうち、特に事業再生が必要な企業を5-6万社とみて、企業再生支援協議会が数千社、外部専門家等による支援機関が2万社、メインバンクや企業再生支援機構が3万社、をそれぞれ支援するとのイメージ。さらに、政府系の政策投資銀行によるセーフティネット貸付や、信用保証協会による借換保証で資金繰りを支援するとしている。他方で、金融庁は、無条件で返済を猶予するのではなく、金融機関が抜本的な企業再生に取り組むように促すとして、銀行の債権放棄や、企業の転廃業を促すよう要請。しかし、現実には、これらの企業の殆どは、メイン銀行などが長期間にわたり支援の努力をしてきたが、再生が困難なままで残った企業。上記のように「新しい役割分担」をしたとしても、実効性ははなはだ心もとないといえよう。また、もともと債権放棄には消極的だった地域銀行がいまさら応じるとは考え難く、企業の転廃業も容易ではなく、これは当局として一応要請したという「アリバイ作り」的色彩も覗える。
結局のところ、中小企業金融円滑化は「天下の悪法」(大前研一)だった。返済に苦慮する借り手が気の毒であることは言うまでもないが、返済を猶予するだけでは前述のように「問題の先送り」に過ぎない。しかも、不良債権扱いしないという「痛み止め」の「モルヒネ」まで与えた。こうした措置は、それを如何に「円滑に」終了させるかという「出口」が重要であるが、残念ながら「出口」が未だ見えていないのが実情であるといえよう。
明日は、これまでの「失敗を繰り返す中小企業政策」をまとめてみるつもりである。
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