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失敗を繰り返す中小企業政策(6)まとめ [経済政策]

今日は、これまで5回にわたって取上げてきた「失敗を繰り返す中小企業政策」をまとめたい。
代表的な失敗例として、6日の「スコアリング融資と金融庁による推奨」を皮切りに、「日本振興銀行」、「新銀行東京」、「東京都の債券市場構想」、「中小企業金融円滑化法」の順で取上げてきた。

失敗が繰り返される背景を考えてみよう。まず第一には、中小企業政策が6日にも指摘したように「水戸黄門の印籠」的な意味を持ってしまい、関係者全員が「思考停止」に陥ってしまうことがあるのではなかろうか。中小企業政策がもつ「弱者救済」的色彩もこれを強めていると思われる。このため、仮に例外的に「異論」を抱く者がいたとしても、全体の「空気を読んで」、あえて口に出さずに飲み込んでしまうので、表面的には「異論なし」とされてしまうのではなかろうか。

第二は中小企業の一般的なイメージとは異なる一部の企業群の存在である。やや古いが、週刊エコノミスト2010年9月14日号で、信金中央金庫の信用金庫部次長の佐々木城夛氏は概ね以下のように指摘。
・中小零細事業者の実態は、政府が示す「真面目に取組み、苦労を強いられている」だけの単純なもののではなく、金融機関用とその他用の2種類の決算書を作成する事業者も少なくない
・代表者も債務保証により事業が破綻すれば丸裸に。追い込まれれば、どんなことでもしかねないのが人間
・このため、通常の金融機関は担保提供を求め、多くの行職員を顧客先に訪問させ、融資後の信用状態変化の早期把握に努めている
つまり、スコリング融資だからといって、対面審査をせず、代わりに信頼性の低い財務諸表などの数字だけで審査するのは、極めてリスクが高いビジネスだった。これは、東京都の債券市場構想でも同様である。無論、リスクの高さを金利の上乗せで完全にカバー出来ていれば、問題はなかったが、6日に指摘したように、現実には「金利競争で望ましい金利より低目にせざるを得ない」面があったため問題化せざるを得なかった。

第三には、金利の設定が望ましい水準ではないとしても、通常の融資に比べれば高目だったため、優良な借り手は通常の融資に流れ、残った借り手は不振先ばかりになり、借り手の母集団が通常の融資に比べ劣化するという、経済学の用語でいう「逆選択」の問題が発現してしまったことである。これは、貸し手は借り手の真の姿を把握出来ないという「情報の非対称性」から生じる問題である。通常の融資の場合は、これを避けるため、金利をむしろ低目に設定し、借入需要が超過する分を「審査」のフィルターにかけることで、「信用割当」をしている。さらに、長期継続的な取引関係を通じて、借り手が機会主義的な行動を取らないよう監視をしている。この長期継続的な取引関係こそが、リレーションシップ・バンギングの真髄である。この意味で、金融庁がスコアリング融資をリレーションシップ・バンギングの手法の1つとして推奨したのは、全くの誤りであった。

こうした初歩的な理屈は頭では理解していたとしても、第一でみた「思考停止」が冷静な思考を妨げた可能性がある。さらに付け加えれば、「ブレーキ役よりも、エンジン役として新しいことに取り組んでいくことをよしとする」組織の「宿痾」も「共犯」だったのかも知れない。
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