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日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定問題 [外交]

今日は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定問題を取上げよう。
4月27日に日米両政府が防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定、中国による海洋進出など安全保障環境の変化を受け、日米がアジア太平洋を越えた地域で連携し、平時から有事まで切れ目なく対処しようとするもの。これに基づく新安保法制を現在、国会で審議中なので、これについては後日、取上げるつもりである。

ガイドラインの問題の1つは、安全保障環境の変化である。デニス・ブレア元米太平洋軍司令官(元米国家情報長官)が、日本外国特派員協会で講演した内容を、4月28日付け日刊ゲンダイが「元米太平洋軍司令官が明言「東アジアに軍事的危機はない」」と題して伝えた。そのポイントは概ね以下の通り。
・「日中戦争が起きる危険性があるとする報道が多いが、私はそうは思わない。東アジアの軍事情勢は非常に安定しており、そうした状態がずっと続くと私は見ている」
・ 「東アジアの領有権問題は一部例外を除けばほとんどが島に関するものだ。島の領有権を変えるには大規模な軍事作戦が必要で、侵略国は空と海の支配を長期間、続けなければならない。しかも東アジアは東欧や中東のように地続きでないため国境線をめぐる地上戦は起きず、宗派間、民族間対立や代理戦争の危険性もない」
・従って、北朝鮮が韓国に侵攻する危険性も「きわめて少ない」と言い切った
・「中国が尖閣諸島を軍事的に支配できる可能性は極めて少ない。そのようなことを試みれば失敗するし、すごい政治的リスクを冒すことになる」
・「東アジアを見渡した場合、紛争が起きる可能性のあるところは見当たらない。緊張はむしろ経済関係の方にある」
・ブレア氏がかつて務めた米国家情報長官は米中央情報局(CIA)の上に立ち、連邦政府の16の情報機関の人事・予算を統括する権限を持つ。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/159430

第二には内容面の問題として、5月14日付けダイヤモンド・オンラインに掲載された軍事ジャーナリストの田岡俊次氏の 「日本のために中国と対決したくはない 新ガイドラインに垣間見える米国の本音」を紹介しよう。そのポイントは概ね以下の通り。
・「中国を牽制」どころか、米国は事前に中国に指針を見せており、牽制にならない。米国は中国、日本の双方に良い顔をしたいのだ
・2013年10月、東京での「2+2」で防衛協力の指針改定を決めた際にも、日本側が準備した共同発表の草稿に「中国」や「東シナ海」の語が多く入っていたのを米国側がほぼ全て削除し、唯一残ったのは、中国に対し建設的な役割を求める、との趣旨の個所だけ。米国は指針改定が中国に向けたものではないことを中国に説明し、日米同盟には日本の軍事大国化を防ぐ効果がある、と以前から力説
・米国側の責任回避の本質は前回の指針となんら変わらず。新指針で「周辺事態」での協力を削り「グローバル」な協力に変えたのも、中東などでの日本の共同行動を求めると同時に、中国を対象としていないことを示すものとも考えられる
・自衛隊の一義的責任条項は、それを明確に日本国民に示すと「ではなぜ米軍を駐留させ、経費の大部分を日本が負担しているのか」との疑問が当然出るから、邦訳では自衛隊がそれらの作戦を「主体的に実施する」と訳してごまかした
・一義的責任条項は防衛官僚の間でも問題視する声があったが、今回の指針改定でも残り、弾道ミサイル防衛についても自衛隊が「主体的に実施」と追加
・米中は絶大な相互依存関係があり、米中が衝突すれば双方が大打撃を受ける「経済的相互確証破壊」(かつて米ソ間には核による「相互確証破壊」があった)が成立
・南シナ海で紛争が起きても シーレーンへの影響は軽微。「南シナ海は中東からのタンカーが通るシーレーンで、それがおびやかされるのは国の存立危機事態だから、米海軍に協力すべきだ」との説が出る。だが、もし南シナ海で紛争が起きれば、中東から日本に向かうタンカーはインドネシアのバリ島の東ロンボック海峡を抜け、フィリピンの東を通ればすむ話だ
・約1500km遠回りになり3日程航程が伸びるが、30万t級の大型タンカーの燃料費・人件費などの増加はリットル当たり15銭に過ぎない。南シナ海で紛争が起きてもそれ自体は「存立危機事態」ではない
・米中が万一衝突し、両国の経済が麻痺する方が日本にとって真の危機
http://diamond.jp/articles/-/71467

「一義的責任条項」について、新聞などでは殆ど報道されていない。さらに、デニス・ブレア発言は、ガイドライン改定の必要性を根底から揺るがすメガトン級の「爆弾発言」で、主要紙がこれを黙殺したことは由々しい問題。国民にとっては、多角的視点からの検討こそが求められているのに、政府にとって不都合なニュースは隠すというのでは、マスコミとしての役割の放棄である。このブログでは現在のマスコミの姿勢を幾度となく批判してきたが、今回のは特に酷い事例といえよう。

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