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アベノミクス [経済政策]

アベノミクスについては、マスコミで礼賛論が溢れているので、批判的立場を中心に取上げよう。
アベノミクスの「三本の矢」である、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略のうち、第一の矢の異次元緩和については、このブログの4月28日、29日、30日、5月20日と4回にわたり取上げた。今日は、全般について取上げたい。

まず第一に、4月19日付け日経新聞の「アベノミクスの「怠慢」」を改めて紹介したい。そのポイントは以下の通りで、批判というより後押しする内容。
・金融緩和を受けての円安・ドル高で押し上げられた企業業績は、15.3期に過去最高水準に。企業統治改革により、株主配分や成長投資に前向きな企業も増えた。企業部門の活性化は株高の最大の要因だ
・一方でアベノミクス全般に対する市場の見方は、一時ほど好意的なものばかりではない。医療、雇用、農業といった分野の岩盤規制改革に関して、物足りなさを口にする外国人投資家が増えている。「怠慢局面に入ったアベノミクス」

第二には、上げ潮派の論客、財務省出身で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が5月12日付けZAKZAKに寄稿した「増税の影響「なかったこと」にしたい日銀総裁や学者 誰も口にしないお寒い現状」、を取上げよう。そのポイントは概ね以下の通り。
・日銀が2%のインフレ率目標達成時期について「2016年度前半ごろ」と、事実上後ろ倒しにしたが、黒田総裁が「消費増税があったので需要が落ち込んだ」と言えないのは、黒田総裁自身が消費増税に積極的で、「消費増税の影響は軽微である」と言っていたから
・実際には影響は軽微どころではなく、黒田総裁の見通しは大外れであったが、それを認められない
・マスメディアも、消費増税に賛成した大手紙などは、今さら消費増税の影響が大きかったとは言えない。だから、黒田総裁と同じ穴のムジナ
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150512/dms1505120830004-n1.htm

第三には、財務省出身で早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が、5月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「高い成長率は原油安の効果であり アベノミクスの成果ではない」を取上げよう。そのポイントは以下の通り。
・1~3月期の実質GDP成長率が高かったのは、原油価格が低下したためで、アベノミクスの成果ではない
・現在の実質GDP水準は、異次元金融緩和が導入された14年4~6月期とほとんど同じ。1~3月期の高成長率は、落ち込みからの回復にすぎない
・実質家計最終消費支出は、13年7~9月期をピークとして、それ以降、14年1~3月期の直前まで減少。インフレ目標は、「消費者物価上昇率が高まれば、経済が活性化する」との考えに基づくもの。実際に生じていることはまったく逆で、インフレ目標の誤りを証明
・日本の成長率は先進国の中では最低水準(アメリカの実質成長率12年1~3月期から15年1~3月期の平均値は2.2%。日本は0.65%)
http://diamond.jp/articles/-/72162

第四に、同じ野口氏が5月29日付けの東洋経済オンラインに寄稿した「安倍政権の本質は、戦時経済への回帰である 野口教授、「ますますアナクロ化していく」」を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・1980年代頃から、日本人の考え方が変化。株価や地価が上昇すれば、働かなくとも、投機をするだけで巨万の富が得られるという錯覚が生じた。そうした考えがバブルを引き起こし、その考えが間違いだと思い知らされたはず
・ところが、この数年、そうした考えが再び広がりつつある。円安によって、企業の利益は労せずして増加。それによって株価が上昇し、「何もしなくても、このままで日本経済は回復」という、根拠のない期待が一般的に
・高齢化社会を乗り切るためには、生産性の高い新しい産業が日本にも登場することがどうしても必要。安倍内閣の経済政策の本質は、国の介入を強める方向
・本来は民間企業によって決められるべき賃金決定に介入して、賃上げを図ろうとすらしている
・中央銀行の独立性に対して否定的な態度をとり、日本銀行による大量の国債購入を通じて国債市場を支配し、金利を異常に低い水準に押しとどめている
・他方で、自由な市場活動のために不可欠である規制緩和は、ほとんど進捗していない。このような経済政策では、市場の競争によって生まれる新しい産業の登場を期待することはできない
・「経済活動に対する政府の関与を強める」という考えは、戦時中に岸信介など「革新官僚」と呼ばれた人々が確立した、戦時経済体制の基本思想と同じもの
・安倍政権は「戦後レジームからの脱却」を唱えているが、その経済政策の基本的性格は、「戦時経済体制への回帰」。戦時経済体制(「1940年体制」)は、戦後もほぼそのままの形で生き残り、戦後の復興や高度成長、そして石油ショックへの対応において、大きな役割を果たしたと評価できる
・しかし、、1980年代頃から、基本的条件が大きく変化。中国が工業化し、ITが発展したために、市場経済の有効性が高まった。逆に言えば、40年体制的な経済の有効性が失われた
・「政府が経済成長を主導」という考えは、現代の世界ではアナクロニズムになっている。安倍内閣の経済政策に欠けている最大のものは、この歴史認識
http://toyokeizai.net/articles/-/71180

このブログの4月4日では安部首相の賃上げ要請を取上げ、また政治・外交面での歴史認識も取上げてきたが、歴史認識の誤りが経済政策でもあるとする野口氏の指摘は新鮮で、全く同感である。




タグ:アベノミクス マスコミで礼賛論 三本の矢 大胆な金融緩和 機動的な財政政策 民間投資を喚起する成長戦略 アベノミクスの「怠慢」 後押し 岩盤規制改革 物足りなさ 上げ潮派 増税の影響「なかったこと」にしたい日銀総裁や学者 誰も口にしないお寒い現状→異次元緩和でもいい マスメディア 黒田総裁の見通しは大外れであった 黒田総裁自身が消費増税に積極的で、「消費増税の影響は軽微である」と言っていたから 「消費増税があったので需要が落ち込んだ」と言えないのは 黒田総裁と同じ穴のムジナ 野口悠紀雄 高い成長率は原油安の効果であり アベノミクスの成果ではない 実質GDP成長率が高かったのは、原油価格が低下したため アベノミクスの成果ではない 1~3月期の高成長率は、落ち込みからの回復にすぎない 実質家計最終消費支出 14年1~3月期の直前まで減少 インフレ目標の誤りを証明 日本の成長率は先進国の中では最低水準 安倍政権の本質は、戦時経済への回帰である 野口教授、「ますますアナクロ化していく」 働かなくとも、投機をするだけで巨万の富が得られるという錯覚 バブルを引き起こし 考えが間違いだと思い知らされたはず そうした考えが再び広がりつつある 何もしなくても、このままで日本経済は回復 根拠のない期待が一般的に 高齢化社会を乗り切るためには 生産性の高い新しい産業が日本にも登場することがどうしても必要 安倍内閣の経済政策の本質は、国の介入を強める方向 賃金決定に介入 中央銀行の独立性に対して否定的な態度 国債市場を支配 金利を異常に低い水準に押しとどめている 規制緩和 、ほとんど進捗していない 岸信介など「革新官僚」 戦時経済体制 「戦後レジームからの脱却 戦時経済体制への回帰 40年体制的な経済の有効性が失われた 「政府が経済成長を主導 アナクロニズム 歴史認識
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松本康男

 アベノミクスなどと言う名前を付けるのも馬鹿馬鹿しいと思っている。
大事なのは全体像でなく個別の施策だろう。
 私はそもそも阿部の後ろにいるアメリカ帰りの経済学者を信用していない。しかし、個別の施策では見るべきものもある。
 日銀黒田の1回目のQEは成功だったと云って良いと思う。しかし、2回目はやり過ぎ。円安の行き過ぎが米国を刺激して安倍政権と溝ができてしまった。そうなるととたんに浜田などは、さらなるQEはもう要らないなどと云う。米国にいい顔をしたいだけで、存在自体が有害だ。
 評価しているのは、メディアは批判しかしないが、農協に手を付けたことだ。今までその政治力を恐れて誰も手を付けなかった。日本の農業をダメにしてきた張本人なのだから、これは大きい。政治力を削げば衰退は時間の問題だろう。
 さらに、外交についても今まで軍事力について語ることがどういうわけかタブーだったが、議論ができるようになり始めている。阿部の安保観が良いかどうかはこれからの話だろうが。タブーなしで議論ができるようになったのは進歩だろう。
 経済的な政策はマクロでは評価できないが、個別には評価できる政策もあるというのが、アベノミクスに対する評価だが、いかが。
by 松本康男 (2015-06-01 18:40) 

岩崎 敬介

コメント、ありがとう。私は黒田のQEの1回目も評価してないので貴君とは意見が分かれる。外交、軍事力についても同様。異次元緩和等については、このブログで取上げているので、ここでは、個別には反論しない。農協改革については、ポーズに過ぎないのではないかと疑っている。
by 岩崎 敬介 (2015-06-20 22:54) 

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