タカタのリコール問題 [企業経営]
今日の日経夕刊は、「タカタ問題「安全より利益優先」 米上院委が報告書 同社は反論」を報じた。そこで、タカタのリコール問題をより掘り下げた報道を紹介したい。
まず、5月28日付けダイヤモンド・オンラインの「タカタの全米リコール“降伏”は、トヨタ・バッシングの悪夢の再来か?」である。そのポイントは以下通り。
・5月19日、米運輸当局(NHTSA)は「タカタが一部自社製エアバッグの欠陥を認め、全米リコールに同意した」と発表。これを受けて各種報道でも、全米リコールに消極的だったタカタがついに“降伏”したと言わんばかりの見出し
・米国では2014年6月以降、タカタ製のエアバッグが暴発して死者が出る事故が数件発生し、タカタに対する非難が高まっていた。14年11~12月には米上下両院で公聴会が開かれ、さながらタカタの“公開処刑”と化す場面も
・エアバッグを膨らませる火薬は湿気に弱いとされ、実際に不具合は高温多湿地域で発生。そのため、この時点ではそうした地域限定でリコールを実施中で、タカタもその必要性を認めていた
・対象地域に含まれていない米ノースカロライナ州でもエアバッグ暴発事故が起きたことが発覚、NHTSAや米議員らはリコールの全米拡大を要請するも、タカタは科学的根拠に乏しいと反論。その姿勢にさらなる批判が高まり、タカタ・バッシングの様相を呈していく。そうした政治ショーの極め付きが、今回の“勝利宣言”
・タカタは5月18日、NHTSAに対して4通の不具合情報報告書を提出。同時に、予防的措置を目的とするエアバッグ回収の対象地域について、高温多湿地域から全米に拡大する「同意指令」に署名。だが、この「同意指令」の内容からも、「科学的根拠が明らかではない中、欠陥認定はできない」という、これまでのタカタのスタンスに変化は見られず、欠陥は認めていない
・タカタは不具合が発生していながら原因が特定できていない案件については、この分野で権威のある独フラウンホーファー研究所に第三者調査・検証を依頼。独調査機関が15年3月にまとめた中間報告を受けて、タカタは水面下ではNHTSAと足並みをそろえて協議を進めてきた
・その結果、型式や使用年数、使用環境条件などに基づき、リコールを段階的に全米に拡大した方がいいものもあれば、今後の拡大を検討すべきものもある、というのが今回の発表の中身だ。独調査機関の中間報告などからも徐々に明らかになりつつあるが、一連のエアバッグ問題のポイントは次の2点。①タカタのエアバッグは(製造ミスなどは別として)、自動車メーカーや米当局が求める性能基準は基本的に満たしていた。しかし、②2000年代からエアバッグに使われ始めたばかりで、歴史のまだ浅い現在の火薬には、どうやら経年劣化リスクがある
・ここから示唆されるのは、当局や自動車メーカー、エアバッグメーカーそれぞれが責任のなすり付け合いをするのではなく、エアバッグで使用する火薬には、耐用年数を設ける定期的な交換制度が必要なのではという議論
・タカタは、エアバッグ大手で唯一、火薬に暴発リスクが高いとされる「硝酸アンモニウム」を使用。その点も公聴会などで追及された。しかし、豊田合成やオートリブ、米TRWなどライバル各社が使っている「硝酸グアニジン」も、暴発リスクは小さいが、逆に経年劣化で適切に燃焼しない不発リスクが高まるといわれている
・注意すべきなのは、09年秋以降の“トヨタたたき”でも見られた通り、やはり米国社会のヒステリックともいえる世論醸成。特に今は、競争力を低下させ不満を募らせつつある米自動車部品業界の意向が反映され、米政府や議会を通じて理不尽な難癖をつけてくる可能性が否定できない
・TPP交渉では、自動車部品関税の即時撤廃を求める日本に対し、自国メーカーを守りたい米国は20~30年かけて撤廃すべきと主張。また、米国では近年、自動車部品カルテルで関係者の起訴・収監者が急増、その大半がタカタを含む日本企業
http://diamond.jp/articles/-/72371
次に、リコール費用などについては、5月25日付けロイター「焦点:タカタが苦渋の全米リコール、対策費の負担さらに拡大も」の2頁目以降を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・リコール費用の多くは自動車メーカー側が暫定的に負担。原因が特定されず、タカタの責任も明確できないため、同社と自動車メーカーの間の費用分担の比率が決められないからだ
・タカタは、リコール対象車のうち約940万台分については、13年3月期と15年3月期に計約785億円の引当金をすでに計上済みだが、昨年11月の米公聴会以降に実施されたリコールは未計上
・現時点でタカタが負担することになりそうな追加リコール費用は、3000億円近くになるとの試算も。15年3月末の純資産は1487億円、現預金は691億円。実際はリコール費用が出ていくタイミングや集団訴訟での支払いまでには時間差があるとみられるものの、債務超過となる可能性や資金の流動性など財務基盤の悪化が懸念
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OA03S20150525?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0
タカタの言い分にももっともなところもあり、またリコールには部品メーカーとしての立場上、難しい面もあるのだろう。また、米国の議員といえども選挙民受けを狙ったパフォーマンスに走りがちで、米運輸当局もタカタに責任をなすりつけようとするといったタカタにとっては、逆境が事前に予想された。しかし、それらを考慮したとしても、今回のタカタの対応は、テレビなどでの米議会公聴会報道などを見る限り、危機管理の基本もできておらず、素人目にも「お粗末」との印象を受けた。今回の事件は、教訓を引き出すには、事態が落ち着いてから、タカタの対応についての詳細な検証や分析が必要だが、そこで得られるであろう教訓は、タカタだけでなく、日本企業全体にとって大きな意味をもちそうだ。
まず、5月28日付けダイヤモンド・オンラインの「タカタの全米リコール“降伏”は、トヨタ・バッシングの悪夢の再来か?」である。そのポイントは以下通り。
・5月19日、米運輸当局(NHTSA)は「タカタが一部自社製エアバッグの欠陥を認め、全米リコールに同意した」と発表。これを受けて各種報道でも、全米リコールに消極的だったタカタがついに“降伏”したと言わんばかりの見出し
・米国では2014年6月以降、タカタ製のエアバッグが暴発して死者が出る事故が数件発生し、タカタに対する非難が高まっていた。14年11~12月には米上下両院で公聴会が開かれ、さながらタカタの“公開処刑”と化す場面も
・エアバッグを膨らませる火薬は湿気に弱いとされ、実際に不具合は高温多湿地域で発生。そのため、この時点ではそうした地域限定でリコールを実施中で、タカタもその必要性を認めていた
・対象地域に含まれていない米ノースカロライナ州でもエアバッグ暴発事故が起きたことが発覚、NHTSAや米議員らはリコールの全米拡大を要請するも、タカタは科学的根拠に乏しいと反論。その姿勢にさらなる批判が高まり、タカタ・バッシングの様相を呈していく。そうした政治ショーの極め付きが、今回の“勝利宣言”
・タカタは5月18日、NHTSAに対して4通の不具合情報報告書を提出。同時に、予防的措置を目的とするエアバッグ回収の対象地域について、高温多湿地域から全米に拡大する「同意指令」に署名。だが、この「同意指令」の内容からも、「科学的根拠が明らかではない中、欠陥認定はできない」という、これまでのタカタのスタンスに変化は見られず、欠陥は認めていない
・タカタは不具合が発生していながら原因が特定できていない案件については、この分野で権威のある独フラウンホーファー研究所に第三者調査・検証を依頼。独調査機関が15年3月にまとめた中間報告を受けて、タカタは水面下ではNHTSAと足並みをそろえて協議を進めてきた
・その結果、型式や使用年数、使用環境条件などに基づき、リコールを段階的に全米に拡大した方がいいものもあれば、今後の拡大を検討すべきものもある、というのが今回の発表の中身だ。独調査機関の中間報告などからも徐々に明らかになりつつあるが、一連のエアバッグ問題のポイントは次の2点。①タカタのエアバッグは(製造ミスなどは別として)、自動車メーカーや米当局が求める性能基準は基本的に満たしていた。しかし、②2000年代からエアバッグに使われ始めたばかりで、歴史のまだ浅い現在の火薬には、どうやら経年劣化リスクがある
・ここから示唆されるのは、当局や自動車メーカー、エアバッグメーカーそれぞれが責任のなすり付け合いをするのではなく、エアバッグで使用する火薬には、耐用年数を設ける定期的な交換制度が必要なのではという議論
・タカタは、エアバッグ大手で唯一、火薬に暴発リスクが高いとされる「硝酸アンモニウム」を使用。その点も公聴会などで追及された。しかし、豊田合成やオートリブ、米TRWなどライバル各社が使っている「硝酸グアニジン」も、暴発リスクは小さいが、逆に経年劣化で適切に燃焼しない不発リスクが高まるといわれている
・注意すべきなのは、09年秋以降の“トヨタたたき”でも見られた通り、やはり米国社会のヒステリックともいえる世論醸成。特に今は、競争力を低下させ不満を募らせつつある米自動車部品業界の意向が反映され、米政府や議会を通じて理不尽な難癖をつけてくる可能性が否定できない
・TPP交渉では、自動車部品関税の即時撤廃を求める日本に対し、自国メーカーを守りたい米国は20~30年かけて撤廃すべきと主張。また、米国では近年、自動車部品カルテルで関係者の起訴・収監者が急増、その大半がタカタを含む日本企業
http://diamond.jp/articles/-/72371
次に、リコール費用などについては、5月25日付けロイター「焦点:タカタが苦渋の全米リコール、対策費の負担さらに拡大も」の2頁目以降を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・リコール費用の多くは自動車メーカー側が暫定的に負担。原因が特定されず、タカタの責任も明確できないため、同社と自動車メーカーの間の費用分担の比率が決められないからだ
・タカタは、リコール対象車のうち約940万台分については、13年3月期と15年3月期に計約785億円の引当金をすでに計上済みだが、昨年11月の米公聴会以降に実施されたリコールは未計上
・現時点でタカタが負担することになりそうな追加リコール費用は、3000億円近くになるとの試算も。15年3月末の純資産は1487億円、現預金は691億円。実際はリコール費用が出ていくタイミングや集団訴訟での支払いまでには時間差があるとみられるものの、債務超過となる可能性や資金の流動性など財務基盤の悪化が懸念
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OA03S20150525?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0
タカタの言い分にももっともなところもあり、またリコールには部品メーカーとしての立場上、難しい面もあるのだろう。また、米国の議員といえども選挙民受けを狙ったパフォーマンスに走りがちで、米運輸当局もタカタに責任をなすりつけようとするといったタカタにとっては、逆境が事前に予想された。しかし、それらを考慮したとしても、今回のタカタの対応は、テレビなどでの米議会公聴会報道などを見る限り、危機管理の基本もできておらず、素人目にも「お粗末」との印象を受けた。今回の事件は、教訓を引き出すには、事態が落ち着いてから、タカタの対応についての詳細な検証や分析が必要だが、そこで得られるであろう教訓は、タカタだけでなく、日本企業全体にとって大きな意味をもちそうだ。
タグ:タカタのリコール問題 タカタ問題「安全より利益優先」 米上院委が報告書 同社は反論 タカタの全米リコール“降伏”は、トヨタ・バッシングの悪夢の再来か? 米運輸当局(NHTSA) タカタが一部自社製エアバッグの欠陥を認め、全米リコールに同意 タカタ製のエアバッグが暴発 死者 公聴会 公開処刑 火薬は湿気に弱い 不具合は高温多湿地域で発生 ノースカロライナ州 エアバッグ暴発事故 タカタ・バッシング 不具合情報報告書 予防的措置 エアバッグ回収 「同意指令」に署名 独フラウンホーファー研究所 第三者調査・検証 中間報告 経年劣化リスク 定期的な交換制度が必要 硝酸アンモニウム 暴発リスクが高い 硝酸グアニジン 不発リスクが高まる トヨタたたき 米国社会のヒステリックともいえる世論醸成 米自動車部品業界の意向 理不尽な難癖 リコール費用 焦点:タカタが苦渋の全米リコール、対策費の負担さらに拡大も 自動車メーカー側が暫定的に負担 約940万台分 785億円の引当金 追加リコール費用は、3000億円近くになるとの試算 純資産は1487億円 債務超過となる可能性 財務基盤の悪化が懸念
2015-06-23 19:50
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