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自衛隊が抱える問題 [国内政治]

これまで、新安保法制を何度も取上げてきたが、今日は、それを支える自衛隊が抱える問題を取上げよう。

まずは、軍事ジャーナリストの清谷信一氏が5月11日付け東洋経済オンラインに寄稿した「防衛省装備調達に欠落している"大事なもの" 兵器調達の際に「時間」「総額」の概念がない」を紹介したい。そのポイントは以下の通り。
・防衛の指針となる防衛大綱では今後10年の主要装備の数だけが決まっている。たとえば戦車の定数は300両だが、戦車の種類別の内訳までは示されない
・中期防衛力整備計画(中期防)は大綱の半分の期間の5年間において、ある程度は調達すべき主要装備の数が示されている場合がある。だがそれは中期防中の5年間の計画でしかなく、調達される装備の総数が明記されているわけではない
・例えば、オスプレイは中期防で17機の調達が決まっているだけで、最終的に何機(何個飛行隊)が、どのような構想のために必要であり、そのためにはいつまでに全機を調達し、プロジェクトの総額はいくらになるのかを防衛省は説明せず、当然、国会でも審議されてない
・89式小銃は採用されて四半世紀を超えるが、いまだに旧式の64式小銃との更新が終わっていない。しかも調達単価は約32万円と、同時代に開発された米国など他の先進諸国の小銃の約8倍だ。当然ながら訓練、兵站は二重となり、部品の量産効果もでにくく、運用コストは高くなる
・自衛隊の調達手法は軍隊としてみても、かなり例外的。他の主要な民主主義国家においては、新しい装備の調達が計画される場合、それをどのような戦略、ドクトリン(戦闘教義)の下に、なぜ必要かが開示。また、どの程度の数が必要か、いつまでに必要かも事前に開示。輸入ではなく国産開発を選ぶのであれば、開発予算はどの程度必要か、期間はどの程度かかるのかも議論される。プロジェクトの総額を議会に対して説明し、その計画を議会が承認することによって、はじめてGOサイン
・日本では、国産開発に際して、調達数、調達期間、プロジェクトの総予算が示されないまま、国会では「議論」されたことになってしまう。防衛省が示した開発予算は、ほぼそのまま通ってしまう。国会と文民統制が機能しているとは言いがたい。このようなおかしな状態が恒常化しているために、それが「常識」になってしまった。まさに「日本の常識は世界の非常識」の典型例
・政治が「実力組織」を統制する文民統制の要諦は「予算」と「人事」。その武器を政治と有権者が自ら手放している。単年度予算は、米国をふくめてほとんどの国が採用しているので、これは言い訳にならない
・なぜ自衛隊の調達は高額になるのか(戦闘ヘリAH-64Dは富士重工業がライセンス生産し、陸幕の内部見積もりでは62機が調達される予定だった。ところが、陸幕は急な心変わりで、調達数を僅か13機に減らし、調達を打ち切ろうとした。ところがそれまではライセンス生産に掛かる費用などを頭割りで要求していたために、10機の調達では数百億円の損害を出すことになる富士重工は慌てた。だが陸幕の主張は「62機の調達を約束したことはない」と強引に幕引きを図り、富士重工が提訴して訴訟中
・諸外国ならこんな喜劇(悲劇?)は普通起こらない。それは国会がプロジェクトを了承して、国とメーカーが契約を結ぶからだ。空自のF-2戦闘機は当初約130機の調達が98機に削減され、また陸自の偵察ヘリ、OH-1は当初約250機調達の予定が34機と激減
・調達計画が変わることは致し方がない。問題はこうした変動も織り込んだうえでの契約を結んでいるかどうか。このような極めて不明瞭な事業では、多めにマージンを取ろうというインセンティブが働く。この調達システムが、日本の防衛装備のコスト高を招いている一因
・AH-64Dの騒ぎを受けて、防衛省は2010年度からメーカーに生産ライン構築費やライセンス料など、生産初期に支払う初度費をまとめて支払うことになった。AH-64Dと同じように調達数が減ったとしても、企業側が大きな損失を出さずに済むようにするためだ。だがこの初度費も問題だ。本来初度費は、本来、一度で支払われるはずだったが、実際には一度で払われるわけではない。改修や手直しなどで延々と「初度費」が払われており、もはや「初度費」ではなくなっている。
・戦闘機F-35Aの調達の本来の目的は、近代化が著しい中国の戦闘機部隊に対する我が国の航空優勢を確保。そうであれば、中国側の装備計画を分析し、「いつまでに2個飛行隊、42機を戦力化する」というプランが必要だ。このような防衛装備に対する「調達数」「調達期間」「予算総額」という概念の欠如は装備調達の高騰化を招くだけではなく、軍事的な合理性を欠いて国防を危うくする。そして防衛予算の不透明化を招いて、文民統制の根幹を損なっている
http://toyokeizai.net/articles/-/69177

第二に、元自衛隊幹部で軍事ライターの文谷数重氏が5月4日付けの同誌に寄稿した「ネパールへの自衛隊展開は、なぜ遅れたのか 長距離輸送機の調達戦略に問題あり」を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・ネパール大地震で各国は米国製のC-17輸送機を使って即座に災害援助。自衛隊の展開は1週間近く遅れた。これは最大の輸送機であるC-130の性能不足が主因。輸送機を利用した直接展開できないため、緊急支援もその後の自衛隊派遣も初動は民間機による移動に。自衛隊輸送機の投入は中継地経由となるため、その調整に手間取る。
・日本は2000年に新輸送機として完成品のC-17を導入せず、新規開発であるC-2の国産を選んだ。しかし、C-2開発はトラブル続きで開発期間延長を3回も繰り返し、未だ納入されず
・しかも、C-2は現段階ではすでに能力不足。将来的に海外派遣が増加するため、航空輸送の必要性も増加。それを考慮すればC-2の開発・量産は止め、中古機であっても能力が高いC-17を買うべき
・C-2の量産機は2016年度中に引き渡されるとされるが、当座は運用試験用に留まる。おそらくは2020年近くまでは安定した運用は望めない
・C-2国産を決めた2000年時点でC-17購入を決定していれば、2005年には導入できた
・C-2には既に4000億円が投入(これまでに開発費を2500億円以上、また完成前にもかかわらず、既に8機分で約1500億円分が発注)。C-17を1機300億円としても、これまでの支出4000億円でC-17を13機は購入できた計算
・C-17は整備補給体勢が確立。部品交換時期の見極めや供給体勢も確立しており、海外でトラブルがあっても米軍に泣きつける
・C-2開発の決定時、自衛隊の海外派遣は始まったばかりで、中身もPKO程度に過ぎなかった。このため、C-2はその所要に合わせた輸送機として計画。最大搭載量30トンでは、戦車や救難潜水艇(DSRV)の空輸は不可能。これが可能なのはC-17しかない。今からでもC-2を中止し、C-17を購入することによるメリットは大
http://toyokeizai.net/articles/-/68675

第三には、6月11日付け日刊ゲンダイ「自衛隊“心のケア” 防衛省とパソナグループのただならぬ関係」を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・イラク戦争などの海外派遣に参加した自衛隊員の自殺者は計56人
・「自殺利権」ともいうべきメンタルケア業務を現在、防衛省から請け負うのは人材派遣大手のパソナグループだ。傘下の「セーフティネット」社が、04年度から365日24時間対応の電話相談窓口「あなたのさぽーとダイヤル」事業を独占的に受注
・「契約初年度こそ競争入札で、年間約2500万円でセ社が落札したが、翌05年~07年度は随意契約。受注額も増え、年間約5000万円で推移」(防衛省事情通)
・セ社は海自の元幹部が立ち上げ、従業員12人の会社に少なくとも4人の防衛省幹部OBが再就職
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/160643

第四には、念のため自衛隊員の自殺率に関する誤解を取上げた、元内閣参事官・嘉悦大教授の高橋洋一氏が6月23日付けのZAKZAKに寄稿した「イラクに派遣された自衛隊員の自殺率、ちゃんと計算すれば分かる事実」を紹介しよう。そのポイントは以下の通り。
・7年間で自殺者数54人とすれば、10万人当たりの自殺率は33.7人。自衛隊全体の自殺率の10万人当たり34.2人とほぼ同じ水準
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150623/dms1506230830005-n1.htm

初めの2つの記事の内容は、衝撃的だ。巨額の調達額を背景にしたいいかげんな調達姿勢、国会や国民への説明不足、文民統制の形骸化など多くの問題を孕んでいる。こんな様子では、この他にも多くの問題が隠れているのだろう。新安保法制を支える自衛隊についても、国会議員やマスコミはもっと真剣に取上げてほしいものだ。
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