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ギリシャ問題(その1) [世界経済]

先月から綱渡り状態で一進一退を続けてきたギリシャ支援を巡る問題が、今日付けの日経新聞によれば、「ユーロ圏首脳、ギリシャ条件付き支援で合意 法制化15日期限、3年で11兆円超」と一応の決着をみたようなので、今日はこの問題の基本的な事項を(その1)として取上げよう。

・まずは、ギリシャ問題の基本的な事実関係を簡単に振り返っておこう。2009年10月に政権についた左派政権が、前政権が財政赤字を粉飾しており、2009年の財政赤字のGDP比が3.7%ではなく、実に13.2%(後に15.4%に膨らむ)に達していることを表明。統一通貨ユーロ参加国は、赤字幅を3%以内に収める義務への大幅逸脱であった。国債は格下げとなり、利回りも大幅に上昇、国債発行が困難となった。
・2010年5月にEUやIMFなどから3年間で総額1100億ユーロの金融支援を引き出した。2012年3月には、さらに1600億ユーロの金融支援、この時には銀行など民間投資家が保有する国債の元本の53.5%を削減、残額も新たな国債に交換させる形で、実質的に8割近い債務免除(ヘアカット)も行った。これは「無秩序なデフォルトを回避」 したとして市場からは評価
・他方で、金融支援時に課された財政赤字削減要求を満たすため、歳出削減、増税などの厳しい緊縮政策を採った結果、実質GDPの水準は、2013には2009比で74にまで落ち込んだ(EU18か国平均は102)。
2013の失業率は27.5%(同11.9%)、特に25歳未満の若年層では58.3%(同24.0%)と惨憺たる状況にある。
・本年1月、総選挙で反緊縮派の急進左派連合が圧勝、 財政再建・構造改革計画の全面的見直しや債務減免を要求。その後も紆余曲折を経て、冒頭の決着となった(債務減免は盛り込まれず)
・なお、IMFへの6月末までの15億ユーロは返済されず、デフォルトとなったが、IMFは即時の債務返済は求めないとした。7月14日付けで満期がきたギリシャのサムライ債116億円は、予定通り利息も含めて支払われ、民間向け債務はデフォルトさせない姿勢を示した
・今回の決着での支援は条件付きなので、ギリシャが15日の期限までに法制化出来なければ、いよいよ「無秩序なデフォルト」やユーロ離脱の可能性が高まる。

ギリシャ問題については、支援の中心となるドイツとギリシャを「アリとキリギリス」にたとえ、ギリシャが年金を払い過ぎている、公務員が多すぎると批判するドイツ流の見方が多かったが、最近は論調にも変化がみられる。

元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が、7月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ギリシャ問題の解は「ユーロ離脱、EU残留」」のポイントを紹介しょう。やや古いが、いまだに通用する部分が多い。
・ドイツは「うまみ」を謳歌してきた  それが忘れられている。ドイツなどのユーロの中心国では、ギリシャなどの周辺国が増える「うまみ」もある。欧州中央銀行(ECB)の政策金利は、ユーロの物価指数に占めるドイツなどのウェイトが高いため、それらに合わせて過去低めに設定。このため、ギリシャなどの南欧の景気が過熱し、そのインフレ率はECBが域内の物価安定の目安とする「2%未満」を上回ってきた
・同じユーロ国でも、インフレ率が相対的に低いドイツの輸出製品価格は低く抑えられる一方、インフレ率の高いギリシャなどの輸出製品は価格競争力を失っていく。このため、ドイツなどの輸出は急増し、その果実を謳歌
・ギリシャ問題では、ドイツなどは援助国、ギリシャなどは非援助国という構図であるが、それまではドイツなどはユーロ拡大の最大の受益国であったことが忘れられている
・ユーロの問題点に言及しない解説は無意味。ギリシャ独自のドラクマ通貨時代では、危機のたびにドラクマが下落して、対外借金を棒引きにすることで、ギリシャ経済はなんとかやってこれた。しかし、ユーロに加入してから、この手が使えなくなった
・その一方、ギリシャがユーロに加入したことによって、ドイツは受益国になった。この観点から言えば、ドイツがギリシャ支援をするのは当たり前である。それにもかかわらず、緊縮財政を強要し、結果としてギリシャ経済の苦境からの脱出を妨げてきたのが問題
・地政学上の重要性から ユーロ離脱でもEU残留は可能。経済的な観点から見れば、ギリシャもドラクマという独自通貨を復活させて、EUに残留すればいい。このポジションは、EU域内では関税なし、人・資本移動が自由なので、かなりのメリットがある。その一方で、金融政策の自由度を持つので、ギリシャにとっては長期的には「いいとこ取り」のような合理的な選択
・ギリシャの地政学的な位置付けから、経済・政治統合のEU、ひいては安全保障の北大西洋条約機構(NATO)にギリシャは不可欠
http://diamond.jp/articles/-/74250

現在の窮状については、11日付け日経新聞「ギリシャ、銀行に三重苦 資金繰り難/不良債権膨張/国債損失リスク」が伝えている。そのポイントは以下の通り。
・資本規制の導入や預金流出による資金繰り難のほか、不良債権の膨張、保有するギリシャ国債の債務不履行懸念といった「三重苦」が金融機関の経営を苦しめる
・預金保護への懸念が高まり、年明け以降、ギリシャの銀行からはすでに約2割の預金が流出。6月末以降に導入した銀行休業など資本規制の下でも流出は続いており、ECBからの資金供給が途絶えれば、資金が枯渇し、破綻に追い込まれかねない
・13年に資金繰りに行き詰まったキプロスでは銀行が大口預金のカットに踏み切っており、ギリシャも二の舞いになるとの不安は大。ギリシャ中央銀行や財務省はEUとの協議を受けて、週明け月曜日に、銀行の営業再開の是非について話し合う予定
・ECBは支援額の引き上げなどの条件として、銀行の支払い能力の確保などを求めており、金融の正常化には時間がかかる恐れ
・四大銀行の3月末の債権残高に占める不良債権の割合は24~38%と、極めて高い水準で高止まり。チプラス政権の発足以降、特に中小企業と個人の延滞比率が高まっている。市場は四大銀行が抱えるギリシャ国債にも疑念の目。ギリシャ政府が発行する短期国債はギリシャの大手銀行が主な引き受け手。今後のEUとの協議で財政破綻懸念が再び高まれば、保有国債の償還も危うくなる。不良債権や保有国債の大幅な損失処理に踏み切れば、四大銀行は資本不足に陥る可能性
・12年の2度にわたる資本注入に続き、3度目の資本注入が不可欠な情勢だ

次回の(その2)では、今回の合意の背景、ギリシャのユーロ離脱などを取上げるつもりである。
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