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日銀の異次元緩和政策(その5) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、本欄では4月28日、29日、30日、5月20日に取上げた。今日は(その5)として取上げたい。
7月16日付けの日経新聞は、前日に開かれた日銀の金融政策決定会合について、「日銀強気、消えぬリスク 今年度成長率見通し1.7%に下げ 物価2%上昇へ正念場」と伝えた。今回の会合では、4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を中間評価。15~17年度の物価上昇率の見通しは4月時点よりもそれぞれ0.1ポイントずつ下げたが、「その数字に非常に大きな意味を持たせる必要はない」と黒田総裁は想定通りの動きだと、やや苦しい説明をしたとのこと。

やや古い記事だが、異次元緩和の本質を批判した記事として、元財務官僚で慶応大学准教授の小幡績氏によるインタビュー記事、5月22日付け日経ビジネスオンライン「もはやデフレではない 異次元緩和は即終了すべき 『円高・デフレが日本を救う』の著者、小幡績氏に聞く」のポイントを紹介しよう。
・異次元緩和は呪文が効いた結果。日本は長年、いわゆる縮小均衡にはまっていた。リーマンショック以降も、世界の景気が回復する中で日本だけが取り残されていた。メディアのせいもあるし、政治家のせいもある。とにかくみんなで「日本はだめだ」と思い込んでいた
・衆院が解散された2012年11月16日に市場は一気に動いた。選挙は自民党が勝つのが明白で、安倍晋三氏が首相になれば、いわゆるリフレ政策、大規模緩和が実施されるとの期待が爆発し、円高、株高が急激に進んだ
・大幅金融緩和は通貨安、円安は株高、というこれまでの経験則から動いた。これも理屈ではなく、これまでの経験則であって、そうであれば、ほかの投資家もそう動くだろうからと、すべての投資家が動いた。そのきっかけを作ったのが、安倍さんのリフレ政策、デフレ脱却という言葉
・別の言い方をすれば、「デフレ脱却」「リフレ政策」というのはいわば呪文で、みんなが「この呪文は効く」と信じたことが大
・異次元緩和のリスクは依然として残っている。経済学のゲーム理論で言うところのいわゆる「フォーカルポイント」が以前は縮小均衡にあったのが、大規模緩和を行う安倍政権に変わるということで、円安株高に移った。金融緩和自体がよかったというより、これをきっかけに動くだろうとすべての投資家が思ったことが大
・実際に異次元緩和が行われ、「円安株高となる」と思ったことが自己実現。そして、黒田総裁は投資家の予想を上回る緩和をしたので、呪文が「クレディブル(credible)な呪文」となり、効果は絶大となった
・問題は、私が2年前に出版した『リフレはヤバい』のタイトルが象徴しているように、リフレ政策が長期的には非常に大きなリスクを伴うこと
・短期的には、株価の上昇によって消費が増える、あるいは円安が進んだことで輸出企業は輸出量が増えなくても利益率が上昇するといった効果があった
・しかし、長期的には円安で購買力が失われ、日本国民はエネルギーなどの輸入品に多くの所得を使わされ、全体としては確実に貧しくなった。資産価値もドルベースでは下がり、世界における日本の経済規模は半分近くに減少
・「雰囲気を一変させる」というベネフィットを得たのだから、これ以上むきになって追加緩和をする必要はない。これまで異次元緩和を支持してきた人たちの間でも最近は、「インフレ率2%」あるいは「2年で達成」ということに無理にこだわる必要はないという意見がかなり出てきている
・黒田総裁は、景気は十分に良い、むしろ過熱しているくらいだ、という認識。もはやデフレギャップ(実際の需要が潜在供給を下回っていること)は存在しない、つまり、有効需要と供給力で需要の方が上回っている、という認識。景気からいけば、金融緩和は必要ないどころか、引き締めをする、あるいは米国のように、緩和政策の出口に向かうというのが普通の状況
・自国の国富を4割も減らして嬉しいのか。異次元緩和が上手くいっている間に、米国のように抜け出す方法を模索すべき。異次元緩和とは異次元、異常なのだから、緊急対策であって、普通の状況では悪影響が非常に大きい。悪影響の最大のものは円安。私は1ドル=80円でもいいと思うが、1ドル=100円を超える円安はデメリットの方が大きいというのはコンセンサス
・今の日本は高齢化が進んでいて、生活者と労働者の比率は2:1。つまり、国民全体は生活者だけど、働いているのは半分。企業の業績が円安で改善し、ベネフィットを得ている人はどんなに大きく見積もっても半分。生活コスト上昇は全員にかかる。つまり、デメリットの方が大きい。円換算による生産高であるGDPの伸び率と、国民の生活水準なり幸福度の向上とが結びつかないため、8割の人が景気回復を実感できずにいる、ということになる。円安で得をしているのは外国人観光客だけ
・目指すべきは自国の通貨高。自国の通貨が強い方がトータルで見ると「絶体に得」という事実を再認識する必要。一時的な円安を利用して製品を輸出し、世界中を席巻して、そこでシェアを獲得しポジションを築くという過程にある時は、円安攻勢でいった方が戦略的に得な局面はあった。しかし、それはせいぜい1970年代までの話。自国の労働力を安売りして食いつなぐというのは経済発展の初期段階の国がすること
・世界的な経済のポジションで言えば、日本は資産国であるという立場をもっと自覚して、それを活用すべき。強い通貨を生かして、海外の労働力、海外工場をうまく使って、その生産から得られる利益の大半を知的財産による所得、あるいは投資所得、本社としての利益として獲得し、国内の所得として環流させる。これをもっと進めるべき。今の円安誘導策はこの流れを政策によって止め、過去のモデルに企業を引きずり戻すことになる
・異次元緩和の第2の問題点は、あえてインフレを目指しているという点。「デフレマインド脱却」というおまじないの意味ではいいが、おまじないから冷めてみれば、物価が高くていいことは何1つない
・もっと危険なのは国債市場。異次元緩和により、日本の国債市場がおかしくなってしまい、何が起きるか分からないというリスクを増大させてしまった。リスクをさらに高めるようなことは避けて、早く異次元緩和から抜け出した方がいい
・量的緩和の出口戦略は、極めて難しい問題。私自身、これだけ量的緩和を批判していても、「明日、日銀総裁になったらどうしますか」と聞かれれば、異次元緩和はやめるが、量的緩和を全面的にやめるわけではありません。買い取った国債のロールオーバーをしながら、リスクが実現しないようおそるおそる出る道を探るでしょう。今の米国のFRB(連邦準備理事会)の出口戦略を見ていても分かるが、とにかく最初の方向転換は極めて慎重にならざるを得ない
・国債に対する需要が高まって、タマ不足になっているのに国債価格は値下がりし始めている。これはみんなが「恐い」と思い始めているから。国債市場から逃避している金融機関が増えているということで、市場全体ではリスクの許容度は落ちている。日銀が国債の買い入れの拡大を止めたらどうなるか本当に分からない。その気配だけでも危険な状態。私は、黒田総裁は追加緩和をもうしないのではないかと見ている
・政府刺激策は潜在成長率を下げる。景気と経済成長は別物で、景気を無理によくすると、経済成長は阻害される。景気が悪い時に、景気の波を調節するために、若干政府が民間経済の代わりに需要を出すのは意味がある。しかし、こうした刺激策は今日を生きるためだけのものであって、未来を消耗させる。それだけ金を使ってしまうわけだから、その分、長期の成長力を削ぐわけでマイナス。未来を犠牲にして今を凌ぐわけです
・財政出動も、金融緩和も、結局は短期の需要を増やす政策。現在の成熟した日本経済では、公共投資は日本全体の生産力を上げるものではなく、生活インフラ及び需要としての役割で、また民間設備投資なども金利の影響は小さいので、要は、消費などの短期の需要を刺激。こうなると、資産だけ減っていくことになる。だから成長できなくなった
・最も非経済的な経済主体に貸し付けて、彼らが投資もせずに目先の刺激策に使ってしまい、いわば成長のための無駄遣いを重ねてきたというのが「失われた20年」の真の理由。日本政府が今、抱えている1000兆円を超える借金を、未来のために投資していたら、どれほど成長力が上がっていたか。民間に金が残っていれば、国内に投資しておけば、あるいは海外投資でも収益が得られた。3%で回ったとしても毎年30兆円が入ってきていた
・もはや日本は、アベノミクスの第3の矢の「成長戦略」のように政府が決めて、トップダウンで実行する段階の国ではない。国は投資環境を整え、幼稚園から大学まで教育を充実させ、何より人を育てることにエネルギーを全力投入すればいい。日本というチームが強くなるためには、まず「個」が強くなることが必要。そういう力ある個を育てていけば、おのずと成長の道は開けていくはずで、あとは政府の介入を小さくし、民間に委ねる。政府が効率化を図り、財政再建を行い、過度の金融緩和を止めれば、自然と日本経済は活力を取り戻し、経済成長力を高めていく
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150521/281410/?P=1

次に、選択7月号「日本銀行 異次元緩和「宴の終焉」で始まる悪夢」のポイントを紹介しよう。
・日銀内部でも、追加緩和第二弾では「財政ファイナンス懸念」が高まるとの見方が出てきた。いずれ長期国債でもマイナス金利、買い手は日銀だけに
・大手行、地銀とも国債残高はギリギリの水準にまで落としており、これ以上の売り手としては期待薄
・追加手段は「竹槍ほども効果なし」 首脳陣は「辞任」すら許されない。インフレ目標の引下げとセットにして追加緩和を打ち出すことが不可欠。インフレ目標未達のまま放置するのも「軌道修正」以上に愚策

いよいよ追い込まれた日銀だが、19日付けの日経新聞は「物価判断に新指標 生鮮食品だけでなく…エネルギーも除く 1~2月を底に上昇拡大」と題して、消費者物価の基調判断の新指標として、生鮮食品だけでなくエネルギーも除いたものに注目。この新指標は、本年1、2月を底に穏やかな上昇過程にあり、5月の上昇率は0.7%と、生鮮食品だけを除いた上昇率0.1%を上回っている。下押ししているエネルギー価格を除けばそうなるのは当然。しかし、そうであれば、当初からそれを目標にすればよかったものを、今になって未練たらしく持ち出すのはどんなものかと思わざるを得ない。
タグ:日銀の異次元緩和政策 日銀強気、消えぬリスク 今年度成長率見通し1.7%に下げ 物価2%上昇へ正念場 物価上昇率の見通しは4月時点よりもそれぞれ0.1ポイントずつ下げたが その数字に非常に大きな意味を持たせる必要はない 黒田総裁は想定通りの動き 小幡績 日経ビジネスオンライン もはやデフレではない 異次元緩和は即終了すべき 『円高・デフレが日本を救う』の著者、小幡績氏に聞く 異次元緩和は呪文が効いた結果 日本は長年、いわゆる縮小均衡にはまっていた 「日本はだめだ」と思い込んでいた 衆院が解散 市場は一気に動いた リフレ政策、大規模緩和が実施されるとの期待が爆発し、円高、株高が急激に進んだ 「デフレ脱却」「リフレ政策」というのはいわば呪文 みんなが「この呪文は効く」と信じたことが大 異次元緩和のリスクは依然として残っている フォーカルポイント 縮小均衡 円安株高 黒田総裁は投資家の予想を上回る緩和 呪文が「クレディブル(credible)な呪文」となり、効果は絶大 リフレ政策が長期的には非常に大きなリスクを伴う 長期的には円安で購買力が失われ 全体としては確実に貧しくなった 世界における日本の経済規模は半分近くに減少 これ以上むきになって追加緩和をする必要はない 景気は十分に良い、むしろ過熱しているくらいだ、という認識 デフレギャップ 存在しない 引き締めをする、あるいは米国のように、緩和政策の出口に向かうというのが普通の状況 自国の国富を4割も減らして嬉しいのか 異次元緩和が上手くいっている間に、米国のように抜け出す方法を模索すべき 悪影響の最大のものは円安 高齢化 生活者と労働者の比率は2:1 企業の業績が円安で改善し、ベネフィットを得ている人はどんなに大きく見積もっても半分 生活コスト上昇は全員にかかる デメリットの方が大 目指すべきは自国の通貨高 日本は資産国であるという立場をもっと自覚して、それを活用すべき 今の日本の国債市場は既にかなり危ない 第2の問題点は、あえてインフレを目指しているという点 危険なのは国債市場 量的緩和の出口戦略は、極めて難しい問題 国債に対する需要が高まって、タマ不足 国債価格は値下がりし始めている これはみんなが「恐い」と思い始めているから 政府刺激策は潜在成長率を下げる 最も非経済的な経済主体に貸し付けて 彼らが投資もせずに目先の刺激策に使ってしまい 成長のための無駄遣いを重ねてきたというのが「失われた20年」の真の理由 「成長戦略」のように政府が決めて、トップダウンで実行する段階の国ではない 人を育てることにエネルギーを全力投入 まず「個」が強くなることが必要 選択7月号 日本銀行 異次元緩和「宴の終焉」で始まる悪夢 追加緩和第二弾では「財政ファイナンス懸念」が高まるとの見方 長期国債でもマイナス金利、買い手は日銀だけに 大手行、地銀とも国債残高はギリギリの水準にまで落としており これ以上の売り手としては期待薄 インフレ目標の引下げとセットにして追加緩和を打ち出すことが不可欠 インフレ目標未達のまま放置するのも「軌道修正」以上に愚策 物価判断に新指標 生鮮食品だけでなく…エネルギーも除く 1~2月を底に上昇拡大 消費者物価の基調判断の新指標 生鮮食品だけでなくエネルギーも除いたものに注目 穏やかな上昇過程
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