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東芝不正会計問題(その5)第三者委員会報告への著名2弁護士の批判 [企業経営]

東芝不正会計問題については、本欄でも6月30日、7月9日、22日、26日と取上げてきたが、今日は(その5)として、第三者委員会報告に対する著名2弁護士の批判を紹介したい。

まずは、23日付け日経ビジネスオンライン「東芝は「社長のクビ」より「監査法人」を守った 郷原信郎弁護士が指摘する、第三者委員会報告書の問題点」のポイントを紹介しよう。
・今回の東芝問題の本質は、会計処理が適正だったかどうかです。会計監査人、つまり新日本有限責任監査法人がどんなチェック機能を果たし、東芝の経営陣がどう対応したのかが最大の焦点であるべきです。ところが報告書では、一番大事なところを「スルー」しています
・東芝については、経営トップの確執や社内風土など、ガバナンスの問題が騒がれています。しかし、焦点はそこではありません。経営トップが過大な利益目標を「必達」だと押しつけて、現場が何かをしたとしても、最終的に監査法人がきちんとチェックできていれば、会計問題は起きないはずです
・この点をしっかり詰められなかったことが、報告書の最大の問題。監査法人との関係性が明確にならない限り、東芝経営陣に「不正の意図」があったかどうかが認定できないからです
・東芝の経営陣が決算で不正を働く方法は、二つしかありません。意図を持って監査法人を「だます」か、監査法人に「見逃してもらう」かのいずれかです。ところが、この点が報告書では触れられていないのです
・すると、東芝の経営陣にとって「監査法人が違法性を指摘しなかったので、問題ないという認識でした」という逃げ道ができるようになります。本来であれば、第三者委員会が東芝経営陣に「踏み絵」を踏ませるべきでした
・「あなたは監査法人を『だました』のですか、それとも『見逃してくれる』と思っていたのですか」、と。このプロセスが無いと、経営陣が取った行為が故意なのかどうか、不正の認識を持っていたかどうかが分かりません。現時点では「未必の故意」ぐらいしか認定できないでしょう
・第三者委員会は、監査法人側にもきちんとヒアリングした上で、田中前社長を始めとする経営者の認識を追及していくべきでした。お互いの言い分を付き合わせて矛盾を発見しないと、経営陣の悪意は認定できない。自らの言い分を覆す材料が報告書には記載されていない。そう考えたからこそ、田中前社長は「不正を直接指示した認識はない」という発言ができたのだと思います
・報告書が指摘するように、東芝が組織ぐるみで利益のかさ上げをしていたならば、監査法人は当然見抜けるはずです。各部門の損益や、どこで売り上げを伸ばしているかを確認するのは監査の基本です。これが分からないようなら、大手監査法人が監査する意味がありません
・今回の問題の発端となった工事進行基準については、IHIが2007年に問題を起こしています。IHIはそれを教訓にして、工事進行基準の管理や受注の適正化の取り組みを進めています。新日本監査法人はIHIの会計監査人でもありますので、東芝で同じ問題が起きているなら気付かないわけがないのです(編集部注:郷原信郎氏は現在、IHIの社外監査役を務めている)
・何の罰則もないまま許容されると、日本全体にとって深刻な事態を招きます。新日本監査法人は東芝だけでなく、数多くの日本を代表する企業の監査を実施。上場企業の会計が適正なのか、疑念を抱かざるを得なくなるわけですから
・ところが報告書を見る限り、東芝の第三者委員会は一番大事な監査法人問題にはほとんど触れていません。逆に、監査法人側の言い分を取り入れた表現も目立ちます。 第三者委員会は1500億円を超える利益の修正を指摘しましたが、東芝が一番恐れているのはそこではありません。今後は、のれん代の償却や繰延税金資産の再計算が課題になります。今まで通り、新日本が監査するならばある程度予測が付きますが、もしここで監査法人が変わったらどうなるか。別の監査法人が白紙から見直すようなら、どんな判断になるか想像がつきませんよね
・一方で報告書は、経営陣を厳しい表現で批判。指摘されている事実のレベルと比較すると、表現は辛辣。これだけの問題を起こした以上、世間に納得してもらうには批判的な文言が不可欠になるからです。さもなければ、第三者委員会が逆に批判される。サービス精神旺盛と言ってもいいかもしれない。結果として、経営者に焦点が当たりました
・そう考えると、東芝は歴代社長の「クビ」は差し出しても、監査法人は守りたかった。だからこそ第三者委員会は、監査法人との関係について踏み込まなかったという推測も成り立ちます。こんな報告書を見せられてしまうと、あり得ないシナリオではないでしょう
・メディアで報じられているように、西田(厚聰・前相談役)氏と佐々木(則夫・前副会長)氏の子供じみたケンカが無理をした背景なら、あまりにも低レベルです。本当は、会社が無理に無理を重ねざるを得なかったのかもしれません。もしそうなら、経営者の評価はがらりと変わります。東芝の財務状況などが本当に健全と言えるのか。そうした真相を明らかにした上で、今後の対応を考えないといけないでしょう
・第三者委員会が2カ月という短期間で、あれだけの規模の会社の調査をできるわけないと思っていましたし、蓋を開けてみたら「ああ、やっぱり」という印象。検察や特捜がこの結論を覆すのは難しい。任意でメールや書類を提供してくれればいいのですが、そうもいかない。「ひょっとしたら何かが出てくるかもしれない」というスタンスで捜索に入って、新たな証拠が出てこなかったら目も当てられないでしょう。それによって東芝という会社を潰してしまうかもしれない。そんなリスクを、検察は恐ろしくて取れないでしょう
・しかし、これで幕引きになると日本社会のためにはなりません。日本を代表する企業である東芝が、本当に健全な経営をしていたのかどうか。東芝の根幹にどのような問題があり、何を取り繕ってきたのか。この機会に、全ての問題を洗い出すべきでしょう。表面的なところだけで終わらせてはなりません
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/072200044/?P=1

次に、24日付け日経ビジネスオンライン「東芝の第三者委報告書は「落第点」 久保利英明弁護士が納得できない「4つの問題」」のポイントを紹介しよう。
・第三者委員会が発足した直後、「“生ぬるい調査”は東芝を傷つける」と指摘。その懸念が的中、「ほら見てご覧」といった感じ。東芝との利害関係を疑われかねない人を委員会のメンバーに選定し、短い期間で調べるとなると、結局“生ぬるい調査”にしかならない。こういう結論が出ることは予測できていた
・東芝でなぜこんな問題が起きたのか、本当のところが分からない。さらに、再発防止策や提言は最後の数ページに載っているだけで、東芝が具体的に何をすれば良いかも不透明だ。企業風土の問題を指摘しているが、結局どう変えるべきなのか書かれていない
・この報告書をきっかけに歴代3人の社長が辞任。3人を“人身御供”にして幕引きを狙っているようにも見える。致命的なのは、「事実」がきちんと書かれていないこと。これも含めて報告書には「4つの問題」がある
・①ある事象が起きたときに、社長がどんな命令を下したのか。それによって社内カンパニーがどう動き、財務部門は何を考えたのか。それに対して会計監査人はどんな判断を下したのか。報告書では、このような具体的な内容がクリアになっていない。これが「事実」が書かれていないという意味だ
・②事実をどう「評価」したかが不明。歴代の社長がどんな行動を取ったかという事実が明確でないのに、彼らは責任を取っている。その関係性が分からない。「工夫」という言葉を営業マンに対して言うのは理解できるが、財務部門に工夫を求めるのは粉飾と同義だろう。こうした疑問を第三者委員会が社長にぶつけた際、どんな答えが返ってきたのか。ところが、こうしたディテールが報告書からは読み取れない
・チャレンジという言葉が発せられた場は社長の「御前会議(社長月例)」で、その内容は取締役会では披露されなかったと聞く。恐らく、社外取締役には聞かせられない内容だったのだろう。東芝は指名委員会等設置会社で、社外取締役が強い権限を持っている。その社外取締役に知らせないでどんな話をしたのか。そこを突くことで、チャレンジという言葉の真の意味が浮かび上がるはずだった
・③会計監査人への調査をしていないことだ。会計不正でゲートキーパーになるのは監査委員会と会計監査人、そして内部監査だ。今回はここがダメだったのに、第三者委員会は「調査の領分ではない」として、報告書ではほとんど触れていない。事実上、突っ込んでいないわけだ。そりゃないだろう、と言いたくなるよね。今回のケースでは、新日本監査法人は東芝に「だまされた」か「グルだった」かのどちらかだ。「無能」であるなら話は別だけど。もし東芝にだまされたのなら、新日本監査法人の方から「三行半」を突きつけるのが筋だろう。信頼関係が根底から崩れたはずだから。ところが、そんな動きは見えてこない
・④不適切な会計処理が「経営判断」として行われたと指摘している点だ。だが、経営判断は「合法」であるのが大前提だ。会計を操作して粉飾しようというのは経営判断とは呼べず、「違法行為」とするべきだ。この点でも事実が不足しているため、経営陣の一連の行動が違法だったかが判断できない。歴代社長に「故意」があったかも認定できない。報告書では徹頭徹尾、「不適切」という表現が使われている。これは「不注意」とも言い換えられるレベルの言葉だ。違法性があったならば「不適正」と言うべきだろう。厳密に言葉を選ぶべき法律家が執筆した報告書で、なぜこの言葉が使われているのか
・不適切とはそもそも、ビル・クリントン米元大統領が考えた言葉だ。ホワイトハウス実習生との不倫スキャンダルの際、「法律には違反していないけども大統領としては褒められない」行動を指す。クリントンは実際、不適切と認めたが辞任はしていない
・東芝の歴代社長も、不適切なレベルの以上の行為をしていないなら、辞める必要は無い。報告書には書かれていない事実が、どこかにあるはずだ。このまま幕引きされてしまうとは限らない。有価証券報告書の虚偽記載で告発されるシナリオは残っているし、証券取引所の判断もこれからだ。刑事事件に発展する可能性もゼロではない
・次の焦点は経営者選びだが、一筋縄ではいかないだろう。今の財務部門が温存されたままでは、リスクが大きすぎて社外取締役の引き受け手はいないのではないか。今回は3人の主役が舞台から降りただけ。まだ舞台の幕は下りていない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/072300045/?P=1

いずれも、痛烈な批判である。特に、郷原氏の「歴代社長の「クビ」は差し出しても、監査法人は守りたかった」理由に、「のれん代の償却や繰延税金資産の再計算」の問題があるとの指摘は鋭く、さすがという他ない。また、久保利氏の「不適切」はビル・クリントン米元大統領が考えた言葉というのは、面白い指摘。
このまま「幕引き」をすれば、日本の企業会計、コーポレート・ガバナンスや資本市場のあり方について、内外の投資家の信頼を失うという手痛いダメージを被ることとなろう。ただ、刑事事件に発展する可能性については、元特捜部検事だった郷原信郎弁護士の見解では極めて少なそうだ。
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