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東芝不正会計問題(その7)八田進二・青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授の指摘 [企業経営]

今日は、昨日に続き東芝不正会計問題を(その7)として企業会計の第一人者である八田進二・青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授の指摘を取上げよう。

先ず、8月3日付けダイヤモンド・オンライン「第三者委員会報告でも終わらない東芝問題の根深さ 八田進二・青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授に聞く」のポイントを紹介したい。
・東芝の事例は不正会計であり、これは俗にいう粉飾決算
・一般人の金銭感覚では、1500億円は十分に巨額だと言える金額。しかし、会計監査の世界では、重要かそうでないかを見極めるポイントの1つは「ある情報が間違っていた場合、正しい情報を知っていたとしたら、情報の利用者(投資家など)は違う意思決定をしただろうか?」ということです。今回で言えば、5年超で1500億円、つまり年平均で300億円程度の利益水増しが分かったわけですが、東芝は連結売上高が6兆円を超える大企業です。この金額自体は、投資家の意思決定を大きく揺るがすような規模ではないと言えます
・第三者委員会の報告書は、東芝のP/L(損益計算書)を中心に議論をしていて、B/S(貸借対照表)には、ほとんど触れていない。それでは東芝の会計の全貌を調べ上げたとはとても言えず、従って問題がすべて明らかになったとは思えません
・また、こういう不正が複数年にわたって放置されていたという、ガバナンスの問題は非常に大きい
・「なんかおかしい」はあったのに 監査法人はなぜ見抜けなかったか?。監査法人には経営判断の権限や、財務諸表の作成責任はありません。当然ながら、これらは企業のすることで、監査法人は助言や相談、指導をするという立場です。また、警察や検察と違って捜査権も持っていません。つまり、経営者がきっちりと説明責任を果たすという意識を持っていて、それに協力するのが監査法人だと言えるでしょう
・経営者がハナから不正をするつもりだった場合、捜査権のない監査法人が見抜くのは、非常に難しい場合もあります。オリンパス事件を受けて2年前、「監査における不正リスク対応基準」が策定。これは平たく言えば、「疑念を感じたら、途中で投げ出さず、納得するまで企業と議論しろ」ということです
・報告書を読むと、新日本監査法人は節目節目で疑問に思うところがあったようです。「なんかおかしい」と、東芝の担当者とやりあった形跡があるのですが、その際に十分に納得いくまで議論をしたのだろうか。「あれ?」という小さな疑問を投げ出さずに探れば、糸をたぐりよせるように、不正発見に行き着くことができたかも知れない
・事件の発端は内部告発でしたが、内部告発を待たずとも、監査法人が止められた可能性はなかったのだろうか。そのあたりは検証されるべきでしょう。新日本(監査法人)はぜひ、自分たちで検証作業をして、発表してもらいたい
・見抜けたケースが公表されて褒められることはなく、見抜けなかったケースばかりが表沙汰になり、責められる。これは監査法人の宿命
・第三者委員会報告書は どこまで信頼できるのか?。報告書には「本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて、東芝のためだけに行われた」と記してあります。監査法人も似たようなものですが、東芝から雇われていて、お金をもらっているのです。第三者性とは独立性と同義と言えますが、これでは独立性があるとは思えない
・また、第三者委員会メンバー4人のうち、松井秀樹弁護士が共同代表を務める法律事務所は、東芝子会社と顧問契約を結んでいました。それを第三者委員会設置の2日前に解約。これまで関係があった弁護士を第三者委員に選ぶなんて、人的構成がそもそも、間違っていたと言わざるを得ません
・企業会計ではP/LとB/Sは互いに影響を及ぼし合っており、必ず両方を見なければなりません。なぜB/Sの信頼性をチェックしなかったのか、非常に疑問
・第三者委員会の独立性や調査範囲、調査時間などを考えると、この報告書の中に示唆に富む情報が盛り込まれてはいますが、これをもって最終版、決定版とは言えないのではないか
・不正会計の本当の原因は いまだに追求されず。東芝のみならず、多くの企業や組織で設置される第三者委員会の大半は、あまり信頼を置けないと思っています。限られた時間の中で、できる手続きだけをして、得られた分の情報だけ開示しましょうという、部分的な情報開示でしかないものが多すぎるからです。実際、過去には第三者委員会が報告書を出した後、検察が改めて入ったら、第三者委員会の報告書の大部分がデタラメだったという事例もあるくらいです
・東芝の2015年3月期決算は、8月に出るようですが、ここで一件落着とも思えません。B/Sの精査もしなければならないし、ガバナンス体制も変える必要があるでしょう。これらを見届ける必要があります
http://diamond.jp/articles/-/75932?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

次に、内部統制の観点から指摘した、8月4日付け日経ビジネスオンライン「「お飾り」だった東芝の社外取締役 内部統制の専門家、八田進二氏が語る企業統治の「魂」」のポイントを紹介しよう。
・ガバナンスの仕組みでは国内のトップランナーだったのに、今回のような不正会計を防げなかったのは、器を作っても魂を入れられなかったということでしょう。仕組みや社内規定といった形式を整えても、運用を間違えると意味がない
・今回の問題からは、多くの反省材料が摘出できます。東芝のトップには恐らく、上場企業が社会の公器であるという意識が希薄だった。自分たちの保身や組織防衛のために企業を私物化したことが、今回の背景
・優秀な頭脳を間違った方向で活用。権限を持つトップがそうした意識に染まると、社内の雰囲気は変わっていく。東芝のような「偏差値の高い組織」だとなおさらです。頭が良い部下は、1を聞いて100を知ってしまう。直接的な命令に限らず「あうんの呼吸」で指示されても、部下はトップの意図を忖度して行動に移してしまう。優秀な頭脳を、間違った方向に使っているわけです
・トップからミドルに指示が伝わる過程で、誰かが倫理観や正義感を持っていれば、もっと早い段階で歯止めをかけられたはずです。ところが今回、外部機関への告発でしか問題を明らかにできなかった。東芝の組織全体のDNAに、根深い問題が潜んでいると言わざるを得ない
・そうなると、是正は簡単ではありません。トカゲの尻尾と一緒で、一部を切っても復活してくるからです。取締役や執行役を切るだけでは足りない。過去3代の執行部に関与した幹部は、本社の中核部門から外すぐらいの意気込みがないと、東芝の再生は難しいでしょう
・皮肉ですが、東芝の内部統制は別の意味で有効に機能したのではないでしょうか。トップの意向を末端まで浸透させて順守させるという観点では、「優等生」と評価してもいいかもしれません
・内部統制は本来、社長の経営方針や経営哲学を社内にはりめぐらせて、実現するための仕組みです。取締役会の手足となって、暴走しがちな執行部門を監督し、ときにはブレーキをかける。そして、企業価値と業務効率を高めるのが本来の目的
・東芝の場合、社長の方針というスタート地点が間違っていました。そのうえ組織のコンプライアンス意識が脆弱で、統制環境が整っていなかった。結果、悪い意味で内部統制が機能してしまった。そして、社長の方針を忠実に実行してしまった
・結果から見ると、社外取締役は「お飾り」だったと言わざるを得ません。 元外交官など誰もが納得するような高名な方々が、東芝の社外取締役に名を連ねてきました。しかし彼らは、委員会設置会社における社外取締役の使命を理解していなかった。大事なのは「監督」。株主を筆頭とする様々なステークホルダーの代表として、暴走するかもしれない社長を監視するのが最大の役目。助言は二の次、三の次。助言が必要な社長は「無能」と言うべきでしょう
・2000年代初頭、日本が「失われた10年」から復活できないのは会社組織の仕組みに問題があるという議論が浮上。そこで、監督と執行を明確に分ける米国型のガバナンスが脚光を浴びた。この仕組みをいち早く取り入れたのが、東芝でした。そのため、東芝は「器」の面では最先端と言われてきました
・しかし、いくら形を整えても、最後は人の問題だということが改めて明らかになりました。 前任の社長が後任を選び「バトンを渡す」と、選ばれた人は恩義を感じ、自由にモノを言えなくなります。そして、「院政」などの日本的な企業風土を生み出しているわけです。これを断ち切るのが、指名委員会の存在意義です
・だから、日本の経営者は委員会設置会社への移行に二の足を踏んでいるのです。「オレの後継者を、なぜ外部が選ぶんだ。冗談じゃない」とね
・ところが東芝の指名委員会は、前任のトップが指名した人を「追認」する機関になっていました
・室町さんは4月に設置した社内の「特別調査委員会」を率いていましたが、十分な役割を果たせなかった。5月に第三者委員会が立ち上がったことで、当事者能力のなさを如実に示してしまったわけです。果たして求心力があるのか、疑問ですね
・でもそういう人がいなくなると、意志決定の継続性がなくなりかねない。今は緊急避難で、過渡的な人選だと思います。次にどのような人をトップに選ぶのかが、指名委員会にとって大きな課題です
・旧来型のDNAを保持している、内部の人を選んでも東芝の体質は変わりません。子会社や関連会社に転出した人や、出向組には多くの人材が眠っているはずです。一度外に出た人が帰ってきて、問題を解決すべきだろうと考えます
・不正を見抜けず、今までの体制を間接的に支えてきた4人の社外取締役が、刷新委員会のメンバーに名を連ねています。取締役としての役割を担えなかった人が、次の体制に対してあれこれ注文するのは、筋が違うと思います
・仮に刷新委員会で良いアイデアが出たとしても、外部の人が納得してくれるかどうか。本来なら、完全にフレッシュな人たちで議論して再スタートを切るべきでしょう
・第三者委員会は7年間合計で1518億円の利益水増しを指摘しましたが、割り算したら年200億~300億円程度。一つひとつの案件はさらに少額になります。見逃しても仕方ないとは言いませんが、年間6兆円の売り上げがある東芝にとっては小さな話でしょう
・むしろ、もっと根深い問題があるはずです。第三者委員会が東芝が抱える問題を摘出できたとは考えられない。第三者委員会は「東芝から委嘱され、東芝のためだけに調査した」と報告書に注記し、4つの事業しか見ていないとしています。しかも4つの事業についても不十分です
・複式簿記の原理では貸借対照表、つまりバランスシートを見ないといけない。利益の計上がおかしくなるとバランスシートに反映されるはずなのに、そこにメスが入っていません
・私が本当に知りたいのは資産の部分です。米ウエスチングハウス(WH)の「のれん」がどうなっているのか、繰り延べ税金資産をどう計算すべきなのか。ところが、報告書はこの点の評価をしていないため、東芝の問題を検証する素材にはなり得ません。もう少し状況を見ないと、東芝の会計数値を信頼できない
・私は今回の報告書を根本的には信用していません。第三者委員会が特別な権限を持っていないことに加え、不祥事を起こした経営者が委員を選任し、その企業がカネを出して調査するからです。一種のコンサルティング業務と言えるのではないか
・しかも今回、東芝はかなりの金額を支払っていると聞きます。そのコストが企業価値を毀損していないかどうか、検証する必要もあるでしょう
・東芝はこれから過去の決算を訂正します。2015年度の第1四半期は既に終わり、第2四半期に入っています。これらの決算をまとめる過程で重要リスクを調べていくはずです。どんな問題が浮上するのか、しないのか。しっかり見極めたいと思います
・会計監査人が市場の番人であるのは事実。ですが、メディアはそこに最後のツケを回し、責任を負わせている面はあるでしょう。会計事務所は「信頼を旨」とするので、攻められると弱いのです。 外部監査の限界に達しているのも間違いない。巨額で国際化した複雑な取引を、昔ながらのやり方で監査するのは無理だと思います
・あくまでも一般論ですが、カネボウや日興コーディアルグループの事件を受けて規制が強化され、監査業務が忙しくなったことも背景にあります。アリバイ作りのような仕事の量が増えていることは否定できないでしょう。監査の担当者が応接間に閉じこもって、電卓を叩く時間が長くなる。本当の意味での意見聴取をしなくなったと思います。 英語では会計監査を「Audit」と言い、もともとは「聞く」という意味の言葉です。重箱の隅をつつくような監査を続けてきた結果、原点を忘れているのかもしれません
・新日本監査法人が社会の期待に応えられなかったのは事実。反省の材料とするためにも、自らの行動を検証して報告することが求められます
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/073100058/?n_cid=nbpnbo_mlp&rt=nocnt

初めのは会計中心、二番目は内部統制中心だが、いずれも説得力に富んだ鋭い指摘である。今後の東芝や新日本監査法人の出方を注目していきたい。
タグ:東芝不正会計問題 八田進二 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授 ダイヤモンド・オンライン 第三者委員会報告でも終わらない東芝問題の根深さ 八田進二・青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授に聞く 不正会計 俗にいう粉飾決算 年平均で300億円程度の利益水増し この金額自体は、投資家の意思決定を大きく揺るがすような規模ではない ガバナンスの問題は非常に大 監査法人はなぜ見抜けなかったか 経営者がハナから不正をするつもりだった場合 捜査権のない監査法人が見抜くのは、非常に難しい場合もあります 新日本監査法人は節目節目で疑問に思うところがあったようです 東芝の担当者とやりあった形跡がある その際に十分に納得いくまで議論をしたのだろうか 監査法人が止められた可能性はなかったのだろうか 新日本(監査法人)はぜひ、自分たちで検証作業をして、発表してもらいたい 第三者委員会報告書は どこまで信頼できるのか 東芝から雇われていて、お金をもらっているのです これでは独立性があるとは思えない 第三者委員会メンバー 法律事務所 東芝子会社と顧問契約 第三者委員会設置の2日前に解約 これまで関係があった弁護士を第三者委員に選ぶなんて、人的構成がそもそも、間違っていたと言わざるを得ません なぜB/Sの信頼性をチェックしなかったのか、非常に疑問 最終版、決定版とは言えないのではないか 不正会計の本当の原因は いまだに追求されず 2015年3月期決算 ここで一件落着とも思えません B/Sの精査 ガバナンス体制も変える必要 これらを見届ける必要 日経ビジネスオンライン 「お飾り」だった東芝の社外取締役 内部統制の専門家、八田進二氏が語る企業統治の「魂」 ・ガバナンスの仕組み 国内のトップランナー 今回のような不正会計を防げなかったのは 器を作っても魂を入れられなかった 運用を間違えると意味がない 東芝のトップ 上場企業が社会の公器であるという意識が希薄だった 自分たちの保身や組織防衛のために企業を私物化 優秀な頭脳を間違った方向で活用 権限を持つトップがそうした意識に染まると 社内の雰囲気は変わっていく 偏差値の高い組織 直接的な命令に限らず「あうんの呼吸」で指示されても、部下はトップの意図を忖度して行動に移してしまう 誰かが倫理観や正義感を持っていれば、もっと早い段階で歯止めをかけられたはず 東芝の組織全体のDNAに、根深い問題が潜んでいる 是正は簡単ではありません 取締役や執行役を切るだけでは足りない 皮肉ですが、東芝の内部統制は別の意味で有効に機能 トップの意向を末端まで浸透させて順守させるという観点では、「優等生」 社長の方針というスタート地点が間違っていました 組織のコンプライアンス意識が脆弱 統制環境が整っていなかった 悪い意味で内部統制が機能してしまった 社長の方針を忠実に実行 社外取締役は「お飾り」 委員会設置会社における社外取締役の使命を理解していなかった 大事なのは「監督」 助言が必要な社長は「無能」 「失われた10年」から復活できないのは会社組織の仕組みに問題 監督と執行を明確に分ける米国型のガバナンスが脚光 この仕組みをいち早く取り入れたのが、東芝 「器」の面では最先端 最後は人の問題だということが改めて明らかに 前任の社長が後任を選び「バトンを渡す」 「院政」などの日本的な企業風土 断ち切るのが、指名委員会の存在意義 東芝の指名委員会は、前任のトップが指名した人を「追認」する機関 室町 当事者能力のなさを如実に示してしまった 緊急避難で、過渡的な人選 次にどのような人をトップに選ぶのかが、指名委員会にとって大きな課題 一度外に出た人が帰ってきて、問題を解決すべき 4人の社外取締役が、刷新委員会のメンバーに名を連ねています 筋が違う 本来なら、完全にフレッシュな人たちで議論して再スタートを切るべき もっと根深い問題があるはず 資産の部分 のれん 繰り延べ税金資産 会計監査人 市場の番人 外部監査の限界に達しているのも間違いない 規制が強化され、監査業務が忙しくなったことも背景 監査の担当者が応接間に閉じこもって、電卓を叩く時間が長くなる。本当の意味での意見聴取をしなくなったと思います 重箱の隅をつつくような監査を続けてきた結果、原点を忘れているのかもしれません 新日本監査法人 自らの行動を検証して報告することが求められます
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