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JR九州の上場問題 [経済政策]

今日はJR九州の上場問題を取上げたい。

元銀行員で経営コンサルタントの小宮 一慶氏が、9月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「JR九州上場と新国立競技場問題を考える 国民の税金を勝手に使わせてはならない」のポイントを紹介したい(▽は小見出し。一部の表現はわかり易く修正)。
・JR九州の完全民営化に向けて、6月に改正JR会社法が成立。今後は、2016年秋の上場に向けて、必要な手続きが進められていく
・しかし、最大の問題は「経営安定基金」3877億円の扱い。経営安定基金とは、在来線の収益を補塡するために、基金の「運用益」をJR九州に与えているもの。この原資は国民の税金
・問題は上場に際し、JR九州は基金の運用益でなく、基金そのものをもらってしまおうとしていること
▽国民の財産のはずが……
・もともとは国民のおカネですから、上場するなら、基金は国庫に返すべきか、あるいは、政府からの借入などとすべきで、いずれにしても、政府(=国民)の財産とすべきもの。 ところが、JR九州は、上場に際しそれを自分のものとしてしまい、整備新幹線の路線の賃料などに充てるとしています
・これは、一般企業で言えば、上場に際し、それまで株主から入れてもらっていたおカネ、あるいは借りていたおカネを自分のものとすると言っているのと同じです。とてもおかしな話だと私は思っています
・このような理解しがたい話は、国内で無数に起こっているのではないかと心配しています。最近話題になった新国立競技場問題も同様です。新国立競技場の問題は「目立つ」話だったので国民の注目を集めましたが、目立たない問題でも数多くの問題があるのではないでしょうか。国民から広く浅く集めたおカネを、既得権益にばらまいたり、既得権益が不当に得をしているようなことが多く起こっているのだと思います
・今回は、JR九州の平成27年3月期決算(2014年4月〜2015年3月)を分析しながら、上場について私の意見を述べたいと思います
▽JR九州の鉄道事業は赤字、全体の営業利益率も低い
・2015年3月期の売上高にあたる営業収益は、鉄道事業を中心とする運輸サービスが1745億円、建設や駅ビル不動産などの関連事業を含めた、合計で3574億円。 営業利益は127億円だが、運輸事業は132億円の営業赤字。駅ビル不動産事業が184億円の営業黒字。駅ビルなどの不動産事業など、ほかの事業で何とか黒字を確保
・JR九州は、人口減少や少子高齢化の加速によって、鉄道事業は縮小していくと見ており、今後は全事業の売上高のうち鉄道事業に占める割合を40%以下に落とそうとしている。 売上高営業利益率は3.6%しかありません。ちなみに、同じJRグループの中で上場している本州3社の数字は、JR東海が30.3%、JR東日本は15.5%、JR西日本は10.4%
▽経営安定化基金の運用益で利益をカサ上げ
・経常利益を見ると、255億円と営業利益より大きい。この理由は、冒頭でも触れた「経営安定基金運用収益」が125億円上乗せされているため
・経営安定基金とは、国鉄が分割・民営化される際に、鉄道事業が赤字だったJR北海道、四国、九州のいわゆる「JR三島会社」に対して交付された資金。JR三島会社は、鉄道事業だけではやっていけませんから、「経営安定基金を運用して、その運用益で鉄道事業の赤字を埋める」ということになった
・JR九州の場合は、貸借対照表の「純資産の部」に「経営安定基金」として3877億円計上。これが通年で125億円の運用益を生んでいますから、運用利回りは3.2%
・「純資産」というのは主に株主の所有分を表すものだが、会社がもらったものではなく、あくまでも株主から「預かって」いるもので、会社のものではない
▽上場する際に基金をもらうとは、言語道断
・基金はあくまでもJR九州などに「預けて」あるもので、それを運用した「運用益」を与えているということなのです。これは、株主が会社に入れた資本金などのおカネを会社に与えているのではなく、あくまでも預けているだけで、それを使って利益を生んでもらおうというのと同じ発想です。 そうした意味で、JR九州が上場に際して、基金を国庫に返さず、あるいは政府からの借り入れや政府にその分の株券を発行するのではなく、「もらってしまう」という点に私は疑問を感じているのです
・基金はもともと、国民の税金です。上場するから預かっていた税金を原資とする基金をもらってしまうというのは、とてもおかしな話だと思うのです
・先ほども述べましたが、国民から預かっているおカネは、いわば、株主から預かっている株式と同じです。ですから「純資産」に計上されているのです。意味合い的には貸借対照表の「純資産の部」のうち、「資本金」と「資本剰余金」等と同様に考えられるおカネなのです。しかも、基金は交付された際に、「純資産」の部に「経営安定基金」として別科目で計上され、損益計算書上も、「経営安定基金運用収益」として、こちらも別勘定で計上
・基金が与えられたものであるなら、与えられた時点で純資産に別項目で計上される必要はありません。あくまでも「預けている」という趣旨だからです
▽資本組み入れ可能で金利も払う劣後債がいい
・最も正しいやり方は、基金を「資本金」に振り替えるか、あるいは「永久劣後債」にするというのではないかと思います。 永久劣後債とは、社債の一種で、会社が倒産した時に、債務の支払い順位がほかの債務より低い債券のことです。借り入れと同じですが永久に返済をしないので、資本の一部に組み入れることができます
・そして、これに0.5%でも1%でも金利をつければ、国民の資産をなし崩し的にJR九州に譲渡されることなく、金利で国民に還元することもできます。これまで国民から無利息で預かっているおカネの運用益で事業を成り立たせてきたのですから、上場後は、幾分かでも国民に還元することを考えるべきではないでしょうか
・なぜ、JR九州が上場に際し基金をもらってしまうことになったかの詳細は不明ですが、国会議員がバランスシートという概念を十分に理解していないからではないかと私は考えています。国の予算は単年度予算で、フローでしか考えていませんから、元来、政府が預けているおカネ(つまり国民の資産)であっても、一度、JR三島会社に交付されてしまったら、「あげた」と同じという意識を持っているのです。資産(ストック)という概念がないのです
・この基金の取り扱いに際し、国土交通省が中心となりとりまとめた「JR九州完全民営化プロジェクトチームとりまとめ」によれば、「経営安定基金取扱い」として「完全民営化した後においても取り崩し禁止や運用に係る規制が付された資産、すなわち会社や株主が自由に処分することができない資産を持ち続けることになり、経営の自立性が損なわれる」としています。私もこの意見にはまったく賛成です。裁量権を持って使えたほうがいいでしょう
・しかしこのことは、基金をJR九州が「もらう」ということを必ずしも正当化するものではありません。というのは、これは、貸借対照表の「資産」について述べていることであって、資金調達源である「純資産」に属する基金を自分のものとしていいという理由づけにはもちろんならないのです
・この「とりまとめ」によれば、先ほどの文章に続いて、「JR九州の純資産の半分以上を占める経営安定基金が政府の規制の下にあることは、ほかの上場企業には見られない特殊な形態であり、投資家としても資産の評価が困難である」ともあります。このように純資産に関しても触れていますが、これとて、それを「もらって」かまわないという根拠にはなりません。一般の企業にある、負債や純資産の勘定科目に振り替えればいいだけの話で、「もらう」ということを正当化するものでないことは明らかでしょう
・JR九州が、上場に際しもらった基金をどのように使うかという点にも注意が必要です。最も大きなものは、九州新幹線の平成28年度以降の施設使用料を20年分ほど一括前払いすること(2205億円)。2つめは、無利子借入金の返済(800億円)。3つめは、鉄道事業関連の設備投資(872億円)という用途に使われるとのことです
▽税金で借金を返済、利益をかさ上げするJR九州
・整備新幹線は「上下分離方式」といって、新幹線の運行や施設の維持管理はJRが行っていますが、線路などの施設の建設や保有に関しては、(独)鉄道・運輸機構が保有つまり、JRは鉄道・運輸機構から「線路などの施設を借りている」という形になっているのです
・その賃貸料を20年分ほど前払いするために、受け取った基金のうち2205億円が使われるということです。こうすれば、今まで払ってきた賃料がいらなくなるわけですから、当然、利益がかさ上げされます。もう少し詳しく言うと、事業費用がそれだけ減るわけですから、営業利益がその分20年間かさ上げされるということです。先に指摘したように、それでなくとも低い営業利益率もかさ上げされるわけですから、JR九州にはとても都合がいいわけです
・本来なら国民から預かっているおカネを、事業で運用して利益を上げるのが本筋ですが、おカネを「もらう」こと、さらには、費用を先払いすることで利益がかさ上げされるということです
・繰り返しますが、あくまでも国民からの資金は、先に述べたように「資本金」や「永久劣後債」などのかたちで貸借対照表上に残し、それを今度は自由に運用して利益を出すというのが筋でしょう。しかし、ストックの概念である貸借対照表とフローの概念である損益計算書の違いがわからない人には、この議論もなかなかわかりにくいものです
・国会議員の中で、このことを理解している人がどれだけいるかが疑問です。そして、わかっている人たちの中でも、わからないふりをして、JR九州におカネを「あげて」しまったほうが都合のいい議員もいるのではないでしょうか
▽無数にある「既得権益」を見逃すな
・新国立競技場の建設計画が白紙になった際、森喜朗氏が「国がたった2500億円も出せなかったのか」とコメントしたことが話題になりました。この発言は、まさに問題の核心を突いています。 この2500億円という金額は、日本の国家予算96兆3420億円のうちの「たった」0.3%。JR九州の基金3877億円も、同様に0.4%程度。一般の国民にとっては非常に大きな金額ですが、予算を考える国会議員や役人にとっては、小さな金額でしかありません
・ましてや「他人の」おカネです。はっきり言って細かい話ですので、彼らも把握しきれないところがあるのです。JR九州の件は、そもそも、バランスシートの概念もありませんから、問題そのものの本質も理解できていないかもしれません
▽税金を九州の利権にばらまいていいのか
・政府全体から見れば、割合としては小さくとも、同じような既得権益にからむ問題は無数に存在しているのではないでしょうか。国家予算全体での、残りの99%に関わることでも、このようなことはたくさんあるのではないでしょうか。しかし、このようなことが許されていたら、国の経済や秩序はおかしくなるでしょう
・JR九州の上場益も、本来であれば財務省に入る予定だったものですが、今のところ、長崎をはじめとする整備新幹線に使われる可能性があります。つまり、利権の食いものに使われるわけです。 JR九州は、3877億円の国民への返済を踏み倒した上に、九州の利権にばらまくのです。こんなことが許されていいのでしょうか
・しかも、同社の利益率は数%しかありません。この収益力の低さを、この先20年ほどの新幹線の賃料を前払いすることで利益をかさ上げし、ある意味「誤魔化して」いくわけです。ほかの事業を拡大していこうとしているとはいえ、鉄道事業の本質的な赤字体質は今後もずっと続いていきますからね。もらったおカネで赤字を補塡するわけですが、この分、国民が損をしているわけです。預けていたおカネをあげてしまうわけですから
・上場自体は悪いことではありませんが、国民の税金が原資の資金をもらってしまい、利益のかさ上げをすることは許されるのか、という点に、私は大きな疑問を感じます。 国民から広く浅く集めて、利権者に配られるという話は、国全体から見ると小さな話ですので、残念ながら関心を持っている人が多くないのが実状です。しかし、私たちはそれを貪る者がいることをきちんと認識しておく必要があります
・JR九州の基金の話や、新国立競技場の問題などのように、国家財政自体から見れば小さな話ですが、大きな矛盾をはらんだ問題がたくさんあるということを、私たちは知っておかなければならないのです。そして、このような矛盾が財政全体でも起こっていないことを心から願うばかりです
http://toyokeizai.net/articles/-/82515

この秋の日本郵政の上場も問題が多く、これまで取上げてきたが、JR九州の上場にもこんなに大きな問題があることはこの記事で初めて知った。
本来であれば財務省に入る上場益も、長崎をはじめとする整備新幹線に使われる可能性があるというのも由々しい問題。一旦は、国庫に入れた上で、整備新幹線に使うのであれば国会審議で承認を得るのが筋だ。
JR九州のように利権が絡む案件では、野党も与党とほぼ同じ立場だろうから、こうした問題を追及するのはマスコミに期待する他ない。しかし、膨大な広告費を抱えるJRグループへ遠慮したためか、新聞での報道はこうした問題点には一切触れられていない。朝日新聞も然りである。政官の暴走は止まりそうもない。
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