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世界同時株安(その2) [世界経済]

世界同時株安については、8月25日に取上げた。今日の日経平均株価は1343円高と21年7か月ぶりの上げ幅で、18770.51円となった。欧米や上海市場でも持ち直したので、タイトルを変えようかとも思ったが、乱高下基調下での、「空売りの買戻し」といった一時的側面も強いと考え、そのまま(その2)とした。

今日紹介するのは、やや長い目でみたレポートである。
先ずは、信州大学教授の真壁昭夫氏が9月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「次の金融恐慌は2017年か!?“10年周期説”の信憑性」である。そのポイントは以下の通り(▽は小見出し)。
▽金融市場は安定を取り戻すが、いずれ中国の問題表面化は避けられない
・中国政府が矢継ぎ早に対応策を打ち出したが、世界の金融市場では依然として不安定な動きが続いている。ただ今後、リスク回避のために株式や原油などの先物を売っていた投資家の買い戻しが入ると見られ、早晩、金融市場は安定した展開を取り戻すだろう
・しかし、長い目で見ると、中国経済が抱える問題が片付いたわけではない。今後、数年というスパンでは、同国の経済や政治体制などの問題点が表面化する可能性は高い。というよりも、それは避けることのできない必然と見る
・今回の金融市場の混乱の中で、最も顕著になったのは中国政府の慌てぶりだった。なりふり構わぬ強引な株価押し上げ策や、突然の為替レートの実質的な切り下げなどは、明らかに政策当局のコントロールの限界を露呈していた
・市場関係者から、「経済や金融市場の動向に関して、中国政府が制御できる範囲はかなり限定的だったことが分かった」との指摘は多い。今まで、何ごとも力づくで抑え込むことが可能と考えられてきた、一党独裁の政治体制にも限界が見えたとも言える
・今後、何かのきっかけで中国の問題が顕在化した場合、今回の世界同時株安を上回る混乱が発生することも想定される。世界第2位の経済大国が抱えるリスクを過小評価することは適切ではない
・中国の経済問題と欧米経済の減速などが運悪くタイミングが重なると、主要国の経済政策ののりしろが限られていることもあり、世界経済はかつての世界恐慌のような厳しい状況に追い込まれることも考えられる。そのリスクシナリオは、頭の中に入れておくべきだ
▽中国経済が抱える本源的な問題点 このままでは世界にも影響不可避
・元々、中国経済では個人消費の割合が低く、輸出と設備投資が経済を牽引するエンジン役を担ってきた。ところがリーマンショック後、世界経済の大きな落ち込みに対し、当時の胡錦濤政権は、4兆元(現在の邦貨換算約80兆円)に上る大規模な景気対策で景気を浮揚させた
・しかし、その景気対策は、結果的に国内の供給能力を一段と拡大することになり、足元の中国経済は大きな過剰供給能力を持つことになった
・そうした中国経済の体質を変えるためには、個人消費を拡大させて、輸出・設備投資依存型の構造をモデルチェンジすることが必要だ。それには中間層を育成することが重要になる。高級品を志向しやすい一部の富裕層と、低価格商品への需要の大きい低所得層だけでは、国全体の有効需要を大きく拡大することは難しい。しっかりした購買力を持った中間層を拡大することは、中国経済の体質を変え、経済全体を安定させるためには必要不可欠だ。それは習政権も十分に理解しているはずだ
・しかし、現在の中国で、中間層を育成することは容易ではない。共産党一党独裁体制の下で、一部の政府関連機関や国有企業などが経済活動の中心を担っている状況を見ると、経済活動全般の効率化が遅れており、生み出した経済的な富を公平に分配する仕組みがワークしていない
・今後、中国政府は国営企業や金融市場の改革を断行すると同時に、社会保障制度などの改革を進め、国内の中間層を育成し経済構造のモデルチェンジを図ることが必要だ。それができないと、今回と同じように“チャイナリスク”の顕在化によって、世界の経済・金融に大きなマイナスの影響を及ぼすことは避けられない
▽“10年周期説”を無視できない理由 世界経済で続くデフレ傾向
・金融市場には“10年周期説”という見方がある。1987年、1997年、2007年と末尾に7が付く10年毎の年に、世界の株式市場が大きく下落するイベントが発生した。87年にはブラックマンデーがあり、97年にはアジア通貨危機、2007年にはサブプライム問題が発生した。この周期を適用すると、今から2年後の2017年に世界の株式市場が変調を来すとの見方だ
・この周期説を鵜呑みにするつもりはないが、足元の経済状況や米国の金融の金融政策変更の可能性などを考えると、2017年に世界的に株式市場が急落する事態が発生することも、あながち荒唐無稽と片づけられない部分がある
・そう考える理由の一つは、足元で世界経済のデフレ傾向が続いていることだ。大規模な過剰供給能力を抱える中国の卸売物価指数は41ヵ月連続マイナスで、明らかにモノを売りたい人が買いたい人を上回っている
・わが国では、日銀が異次元の金融緩和策を取ってデフレ脱却を目指しているが、原油価格の下落もあり、なかなかデフレ状況から明確に足を抜くことができない。また、相対的に期待インフレが高い欧米諸国でも物価水準は落ち着いたままだ
・そうした状況が続いている間は、世界経済全体が力強く回復に向かうことは難しい。ということは、企業業績の伸び率に限界があり、株価が大きく上昇することは難しいと見るべきだ
・逆に、そうした状況下で、“バブル”のように株価が急速に上昇するようだと、必ず大幅に下落する局面を迎えることは避けられない。特に、昨年夏場以降、景気減速が鮮明化しているにも拘わらず、株価が1年間余りで2倍以上に上昇した中国株がピークを打って、下落局面に入ることは時間の問題だったと言える
▽中国と米欧の変調が重なり、政策対応もできないという最悪のリスク
・もう一つの理由は米国の金融政策だ。同国の金融政策が緩和から引き締めに転換されたことは、“10年周期説”における株価急落のきっかけの一つになった。 基軸通貨であるドルを司る米FRBの金融政策が、お金を潤沢に供給する緩和基調から、金利を引き上げ、市中に出回っているお金の一部を吸収する引き締めに転換することは、米国のみならず、世界の金融市場に大きな変化をもたらす
・米国の金利が上昇することによって、同国の株式市場から投資資金が流出し、市場が不安定化することが懸念される。また、新興国の金融市場に回っていた資金は、米国に回帰する=リパトリエーションの可能性が高まる。それが実現されると、新興国の株式市場が不安定な展開になりやすくなる
・今回の世界同時株安の前まで、FRBは9月に金利の引き上げを実施するとの見方が有力だった。仮に今年中にFRBが金利引き上げを実施すると、かつて10年毎に発生した株価急落の引き金になることも懸念される
・重要なポイントは、今後数年の間に、“チャイナリスク”が顕在化し、それに米国やユーロ圏経済の落ち込みが重なると、そのインパクトはかなり大きくなる可能性が高いことだ。市場関係者の一部には、「中国・欧米の経済が一度に下落すると、世界恐慌のような最悪のシナリオの可能性も否定できない」との悲観的な見方もある
・2008年のリーマンショックの時には、世界的な不動産バブルの後だったこともあり、多くの主要国経済はそれなりにパワーが残っていた。金融・財政政策にも一定の発動余地があった
・ところが足元の状況を見ると、わが国や欧米諸国に関しては、金融・財政政策にほとんどのりしろが残っていない。言ってみれば、主要国の政策当局は、政策発動の余地が限られた、ほとんど丸腰の状態で景気の落ち込みに対峙しなければならない。それは容易なことではない
・残念だが、その最悪のリスクシナリオが実現する可能性を完全に払拭することはできない
http://diamond.jp/articles/-/77643

次に、9月4日付けロイター「コラム:世界株安の教訓、次の過大評価は何か=熊野英生氏」のポイントを紹介しよう。
・8月上旬から始まった世界連鎖株安は、まだ楽観してはいけない段階にある。過去、株価が下落したときには、背後に実体面での変化が隠れていて、株価はそれを先取りするかたちで反応していることが多かった
・背後にある悪材料は、株価下落の局面ごとにその素顔が異なっていて、一様ではない。そのため、「今回は過去とは違ってみえるから、大丈夫」という楽観のバイアスに常に流されてしまう
・上記の議論は実例を示した方が、話が早い。代表的な株価下落は2008年のリーマンショックである。このときは、手前にサブプライムローン問題があって、時間をおいて同年9月にリーマン・ブラザーズの破綻があった。隠れたレバレッジと証券化商品の損失拡大がこれほど広範囲に隠れていたとは、その6カ月前のベアー・スターンズ救済時には十分に認識されていなかった
・直近では2013年5月のバーナンキショックがある。あのときは、金融緩和の終了を示唆しただけで、新興国通貨の下落が誘発された。事前に、ドルの過剰流動性がそこまで新興国通貨の買われ過ぎを生じさせていたことが認識されていなかった
・2000年のITバブルの崩壊は、米国の新興企業の株価上昇が行き過ぎていることが十分理解されていなかった
・1997年のアジア通貨危機は、アジアの新興国の経済成長力を見誤っていた
・それぞれの局面における株価・通貨下落に共通するのは、実体面で何らかの過大評価が起こっていたという点である。局面ごとに材料視される対象は変わるが、共通点は、その対象を事前には過大評価していて、それが何かの弾みで暗転することだ
・過大評価が是正されるときには、金融市場の予想が悲観に大きく振れて、マーケットにおける売られ過ぎを引き起こす。実体の変化に対して、期待形成の振れが大きくなるから株価などの振れがより大きくなるわけだ
・とはいえ、何が過大評価だったのかは、後講釈で語るのは易しい。反対に、現在や未来に対して、何が過大評価であり、何が将来の過大評価になるのかを特定することは甚だしく困難である。問題の核心はまさにそこにあるにもかかわらず、である
・今、株価下落の背後にあるものは何に対する過大評価なのだろうか。上海株の下落と、日米欧の株価下落が連鎖することは、資金移動では説明できない。人によっては、上海株の下落は、本当は関係ないとみえるかもしれない。筆者は、上海株の下落は、中国経済への楽観や中国政府の管理能力への過度の期待がはがれ落ちたものだとみている
・今、考えると、「新常態(ニューノーマル)」は、景気悪化を安定成長と読み替えるレトリックだった。新常態という言葉が、評価を偽装するものだったように思える。すると、個別企業の中国関連ビジネスの採算性もどうなるかわからない。中国関連ビジネスの悪化は、これから先進国企業の収益に表れてくるだろう
・もしかすると、筆者自身でさえ、まだまだ中国の経済成長に楽観している部分があるかもしれない。今後、中国経済に対する不都合な事実が判明すると、現時点の楽観が修正されて、金融市場の波乱を生じさせる可能性がある
▽日米にもある過大評価の芽
・思考実験として、中国経済以外に、何が過大評価されているかを問いたい。まず卑近な例では、来日する中国人観光客の旺盛な消費、いわゆる「爆買い」だろう。その勢いが継続するという期待感は、やや過大評価されている代表例ではないか。「爆買いがなくなる」というのは明らかに言葉の誤用だが、訪日外国人の消費ペースが普通の需要ペースに落ちることは十分に考えられる
・ほかには、日本企業の収益力への期待感である。今年は「株主資本利益率(ROE)を高める」というのが合言葉のようになっていた。上場企業のROEは8%で、今後も高まっていくとみられているが、世界経済が不安定化すれば、グローバル化している日本企業も無傷ではいられないはずだ
・さらに、米国経済の成長力である。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ予想は、基本的に米経済の強さに依拠している。筆者自身も現時点では、中国発の景気下押し圧力が働いても、米経済のけん引力が勝って、世界経済が先行きは浮揚していくとみている。こうした見方は、現在は疑われにくいが、そこに過大評価が潜んでいるリスクがあるかもしれない
・最後に、もっと先々の過大評価にも言及しておきたい。日本においては、2020年の東京五輪は、政治的テーマとして人々の楽観を生み出しやすい。筆者は、新国立競技場の費用が高すぎるのではないかという批判があることや、「東京五輪は最後の宴」と揶揄する庶民の声があることは、むしろ健全なことだと考える。そうした冷ややかな見方が小さくなって、東京五輪で日本経済が飛躍するという見解が大勢を占めるとき、危惧される過大評価が生じていることになろう
・現在のように株価が下落して、きな臭い状態が予感される局面だからこそ、甘い将来展望に注意を払い、現時点で隠れているリスクに気を配ることが有意義になる
http://jp.reuters.com/article/2015/09/04/column-hideokumano-idJPKCN0R40AF20150904?pageNumber=1

“10年周期説”は興味深い考え方で、これだと次は確かに2017となるが、私には今回は既に調整が始まっているようにも思える。今後、2017にかけさらに調整が深刻化するという「悲観的シナリオ」も否定できない。特に、「金融・財政政策にほとんどのりしろが残っていない」状況下では、考えるだけでも恐ろしい事態である。真壁氏のいうこういう「最悪シナリオ」もあり得ることを頭の片隅に置き、熊野氏のいう「現時点で隠れているリスクに気を配り」つつ、日々の生活は楽観的に送りたいものだ。
タグ:世界同時株安 今日の日経平均株価 1343円高 21年7か月ぶりの上げ幅 空売りの買戻し 一時的側面も強い 長い目でみたレポート 真壁昭夫 ダイヤモンド・オンライン 次の金融恐慌は2017年か!?“10年周期説”の信憑性 投資家の買い戻し 金融市場は安定した展開を取り戻すだろう 長い目で見ると 中国経済が抱える問題 経済や政治体制などの問題点が表面化する可能性は高い 中国政府の慌てぶり 強引な株価押し上げ策 突然の為替レートの実質的な切り下げ 政策当局のコントロールの限界 中国政府が制御できる範囲はかなり限定的 中国の問題が顕在化した場合 今回の世界同時株安を上回る混乱が発生 中国の経済問題と欧米経済の減速などが運悪くタイミングが重なると 主要国の経済政策ののりしろが限られている 世界恐慌のような厳しい状況 ロイター コラム:世界株安の教訓、次の過大評価は何か=熊野英生氏 背後に実体面での変化が隠れていて、株価はそれを先取りするかたちで反応 今回は過去とは違ってみえるから、大丈夫 楽観のバイアスに常に流されてしまう リーマンショック 手前にサブプライムローン問題 隠れたレバレッジと証券化商品の損失拡大 バーナンキショック 金融緩和の終了を示唆 新興国通貨の下落が誘発 ドルの過剰流動性がそこまで新興国通貨の買われ過ぎを生じさせていた ITバブルの崩壊 アジア通貨危機 アジアの新興国の経済成長力を見誤っていた 実体面で何らかの過大評価が起こっていた 過大評価が是正 金融市場の予想が悲観に大きく振れて マーケットにおける売られ過ぎ 何が過大評価であり、何が将来の過大評価になるのかを特定することは甚だしく困難 上海株の下落 中国経済への楽観や中国政府の管理能力への過度の期待がはがれ落ちたもの 新常態(ニューノーマル) 景気悪化を安定成長と読み替えるレトリック 中国経済に対する不都合な事実が判明 現時点の楽観が修正 金融市場の波乱 日米にもある過大評価の芽 爆買い その勢いが継続するという期待感は、やや過大評価されている代表例 世界経済が不安定化すれば、グローバル化している日本企業も無傷ではいられないはずだ 米経済の強さ 過大評価が潜んでいるリスク もっと先々の過大評価 2020年の東京五輪 東京五輪は最後の宴
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