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東芝不正会計問題(その8) [企業経営]

東芝不正会計問題については、前回は8月7日に取上げた。二度にわたり遅れた決算発表も終わったところで、今日は(その8)である。

先ずは、8月11日付け日経ビジネスオンライン「東芝、不正会計の次に来る“銀行管理” 有価証券報告書から呻き声が聞こえる」のポイントを紹介したい(▽は小見出し)。
▽財務制限条項が見せる東芝の恐怖
・財務制限条項が突然、登場してくるのは2009年3月期から。言うまでもなく、前年秋にリーマンショックが起き、東芝はこの期、約3436億円の最終赤字に沈んでいる。しかもこれによって自己資本比率は前期の17.2%から一気に8.2%に急落。元々、売上高(2008年3月期)7兆2088億円の規模の会社にしては低い比率だったが、もはや、債務超過すれすれという水準に落ち込んだのである
・財務制限条項の中身は明らかにされていないが、有報を点検すると、「連結純資産」「連結営業損益」「格付」か、その比率と見られる。これらが、銀行と取り決めた数値を下回れば、元々長期返済の予定だった約9545億円の社債・長期借入金(2008年3月期末)を一気に返済しなければならなくなる。それは黒字倒産すら思わせる激震である
・この時の有報の記述には、「2008年度の連結財政状態により、財務制限条項に抵触する懸念がありましたが、同決算の確定前に金融機関との間で財務制限条項の修正を合意し…」。 恐らく、期末に近づいたところで財務制限条項に触れる可能性が高いと判断し、銀行と交渉して条件を緩めて貰ったのだろう。日本を代表する大企業も実はそれ程に内実は苦しかったのである
▽大幅増資はもう出来ない
・やや不思議に思えるのは、東芝は2009年3月期直後に約3100億円の増資と約1800億円の劣後債発行を行い、計4900億円を調達。翌2010年3月期には、自己資本比率を14.6%に急回復させているのに、財務制限条項はその後も続いていることだ。 自己資本比率自体が回復したとはいえ、2012年3月期までなお15~16%台を続け、大した上昇を見なかったことがその要因だろう
・しかも、約4900億円の資本調達で、事実上次の増強はほぼ難しい。無理な増資をすれば、株式数激増→1株当たり利益減少→株価下落をもたらし、既存株主の大ひんしゅくを買うからだ。 もはや、自前の稼ぐ力で自己資本を積み上げられなければ、信用力は回復できない。リーマンショック以後の東芝経営陣を覆っていたのは、その重圧だったのだろう
・東芝は昨年6月、劣後ローンと呼ばれる新たな“借り入れ”を1800億円実施。これによって、2009年に発行した劣後債を償還した。危機のどん底で借りた劣後債の金利は年7.5%で、劣後ローンが約2%と言われ、利払いを年間100億円以上減らせるのを狙ったのだ
▽決算修正は1500億円で終わるのか
・ある大手証券会社の営業員が、不安げな表情。不正会計が明らかになり、東芝の財務体質が大幅に変わる事が明らかになった今、状況は一変した。営業員は、ローンの引き受け手などからの訴訟リスクを恐れているという。 「減損」や「繰延税金資産取り崩し」を修正決算に考慮せざるを得なくなれば、東芝の財務体質は、さらに悪化する。となれば、一段と強い財務制限条項が必要になるはずだ。それが意味するのは、実質的な銀行管理
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/081000044/?P=1

日経ビジネスは8月31日号で、特集記事「東芝 腐食の原点~社員が本誌に決死の告発~」を掲載した。以下の8月28日付け日経ビジネスオンライン「引責辞任した3社長が東芝社内を闊歩 本格的な調査はこれから始まる」はその取材の生々しい内幕ものである。そのポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・8月27日、東芝特集取材班は刷り上がったばかりの「日経ビジネス」8月31日号を携えて、東京・浜松町の東芝本社を訪れた。「東芝 腐食の原点~社員が本誌に決死の告発~」の表紙を見た東芝の広報・IR担当者は顔をしかめ、3ページ目の「編集長の視点」から始まる東芝の関連記事を丹念に読み始めた。広報担当者はときどき首を傾げ、「うーん」とうなり、前のページに戻り、15分ほどで特集を読み終えた。本を閉じると視線を上げて、こう言った。「社内から、いろいろな情報がそちらに寄せられている、ということですね」
・日経ビジネスは東芝が不正会計に走らざるを得なかった理由を探るため、広く情報を求めた。500人近くから情報が集まった。グループ会社や退職したOB・OGを含め、多数の東芝関係者からも話を聞いた。そうした現場から噴出する「悲鳴」を聞くにつれ、東芝の病巣の深さに戦慄さえ覚えたほどだ
・「くれぐれも社内で犯人探しはしないでほしい」と取材班は念を押し、会議室を後にした。固い空気のままエレベーターホールに進み、下りのボタンを押す。ドアが開き、互いに会釈をして別れた
▽エレベーターですれ違ったのは…
・1階でエレベーターを降りた直後、取材班メンバーの目が一人の人物に釘付けとなった。どこかで見た人物が、エレベーターに乗り込もうとしている。メンバーはその人物が着用していたネームカードを何度も読み返した。カードにはこう記されていた。「久保誠」
・2011年6月から財務担当役員を3年間務め、その後監査委員長を今年7月まで務めていた。7月21日付で退任したはずの前監査委員長、元財務担当取締役である。不正会計の責任を取って辞任してから、すでに1カ月以上が経過しているのに、まだ引継ぎがあるのだろうか
・広報に真偽を質すと「監査法人によるヒアリングを受けるため、出社していました」という答えが返ってきた。ならば社外の人間として東芝を訪れたことになるが、社外の人間がネームカードを身に着けるのだろうか
・久保氏だけではない。9月3日号の「週刊新潮」は、東芝の社用車で「出勤」する前相談役、西田厚聰の写真を掲載。西田とともに引責辞任した元社長の佐々木則夫、前社長の田中久雄も「出勤」している
・「急な辞任だったので、お引き受けしていた東芝以外での役職も含め、引継ぎや残務整理があり、出社しています。監査法人のヒアリングを受けることもあります。便宜的にこれまでの秘書を使うこともあり得ます」  引責辞任したはずの3社長が今も出勤していることについて質すと、広報部門はこう答えた。そして、「一時的なことであり、いつまでも続くものではないと思います。これからは回数が減るはずですが…」と小さな声で付け加えた
・7月21日に第三者委員会の調査報告書が公表され、歴代3社長が辞任した。世間には「これにて一件落着」の空気が流れている。だが、ちょっと待ってほしい
▽公的機関が動くのはこれから
・第三者委員会の調査により、東芝では1500億円超の利益水増しが発覚。歴代3社長が辞任に追い込まれため、「膿を出し切った」ように見える。だが、その第三者委員会は東芝が委員の弁護士や会計士を選び、東芝が金を払い、東芝が調査してくれと頼んだ部分を調べたに過ぎない
・冷静に考えれば、ここまでは東芝の「自作自演」と言える。「こんなもんじゃない」 
・本誌が8月31日号を作り終えた後も、取材班のもとには第三者委員会の報告書を読んで憤った東芝関係者や取引先からの告発が続々と寄せられている。おそらく彼らは我々だけでなく、証券取引等監視委員会や東京証券取引所、金融庁、東京地検特捜部といった公的機関にも情報を送っているはずだ
・この特集号が発売される8月31日、東芝は不正部分を修正した有価証券報告書を発表する。公的機関が動き出すのはそこからだろう
・もちろん我々、取材班も追及の手を緩めるつもりはない。東芝の不正の根幹を正さなければ、日本市場の透明性は取り戻せないと考えるからだ
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/082700031/082700001/?P=1

第三に、このブログでは6月30日に紹介した闇株新聞である。6月12日段階で「東芝の「不適切会計問題」は出来レースだった」といち早く見抜いた洞察力には定評がある。9月9日付け「ようやく決算発表した東芝は事件化しないのか?」のポイントを紹介しよう。
・連結最終損益で見ると、2015年3月期は黒字予想から赤字へ、過去7年の決算も累計で黒字から赤字へ、それぞれ修正されており、それなりに重大な修正
・また過去7年分の最終損益修正額は合計1552億円となり、これはオリンパスの最大修正額1178億円より大きくなる。あれだけ大騒ぎされて刑事事件化したオリンパスは、2008年3月期連結決算を1178億円修正したのですが、実はその後の期で減損処理を繰り返して修正額は年々少なくなっていました
・それに比べて東芝は2015年3月期に至るまで修正が必要とされた数字を延々と積み上げ続けており、「オリンパス事件より金額も大きく、はるかに悪質な粉飾決算である」と感じます
・しかし東芝については、なぜか問題が発覚した本年5月頃から「不適切会計」という犯罪性の薄い表現で報道されており、あたかも第三者委員会の調査報告書が出て過去の「不適切会計」さえ修正すれば、何事もなかったように終結するものと感じられました
・しかしここまでくると、そういう風向きでもなくなってきました
・「不適切」でも「粉飾」でも、とにかく事実と大きく違う内容が記載された有価証券報告書を延々と受け取っていた金融庁(関東財務局)や、それをチェックすべき証券取引等監視委員会も、何かしらの処分を下さないと格好がつかなくなってしまいます
・ルールでは証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(開示書類の虚偽記載)に当たるかどうかを精査し、違反と判断すれば課徴金を科すように金融庁に勧告することになっています。また悪質な事例は刑事事件化する(つまり逮捕者を出す)こともあります
・過去には(いわゆる粉飾決算に限ると)2004年のカネボウ、2006年のライブドア、2011年のオリンパス、2013年のインデックスが刑事事件化しています。つまり逮捕者が出ました。 これに対して2006年の日興コーディアル、2007年のIHI、2008年のアーバンコーポレーションは刑事事件化せず課徴金処分で済んでいます。詳しく書く紙面がありませんが、明らかに公正さを欠いた事例も含まれています
・それでは東芝はどうなるのでしょう? 決算発表を受けて証券取引等監視委員会は「開示書類の虚偽記載に当たると見なし、行政処分として課徴金を科すよう金融庁に勧告する方針である」と日本経済新聞が報じています
・つまり「不適切決算」ではなく「開示書類の虚偽記載」に該当するが(粉飾決算とも少しニュアンスが違うようです)、刑事事件化することはなく課徴金処分にすると発表しているようなものです。ただ課徴金は史上最大の84億円になるようで、東芝は2015年3月期決算で計上
・つまり東芝が刑事事件化する可能性は「ほぼ」なくなりました。「ほぼ」と書いているのは、証券取引等監視委員会とタッグを組む東京地検特捜部が「どうしても事件にする!」と主張すればその限りでありませんが、そんな雰囲気でもなさそうです
・これを受けて東証も、東芝を内部管理体制に問題がある「特設注意市場銘柄」に指定するようです。これは原則1年たっても内部管理体制に改善が見られないと上場廃止にできますが、東芝は臨時株主総会で社外取締役を「どっさり」選任し、少なくとも内部管理体制「だけ」は申し分なくなります。つまり東芝が上場廃止になることもありません
・かくして「何事もなかったように」とは行きませんでしたが、東芝についてはこれで終結となりそうです
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1524.html

決算発表では「繰延税金資産取り崩し」までは求められなかったようだ。
日経ビジネスが大々的に特集記事で取上げたが、その割にはたいした波乱もなく終結しそうだ。いくら大々的な特集といっても、「違法性」を疑わせるような記事は掲載される筈もないから、当然といえば当然の結末だ。公的機関にゲタを預けた形で記事は終わっている。
闇株新聞が指摘するように「オリンパス事件より金額も大きく、はるかに悪質な粉飾決算」なのに、課徴金だけで済まそうとするのはやはり釈然としない。海外の物笑いの種にならなければと思う。
明日は、今後の経営再建の方向性を取上げる予定。
タグ:(その8) 東芝不正会計問題 日経ビジネスオンライン 東芝、不正会計の次に来る“銀行管理” 有価証券報告書から呻き声が聞こえる 財務制限条項が見せる東芝の恐怖 登場してくるのは2009年3月期から 銀行と交渉して条件を緩めて貰ったのだろう 2009年3月期直後に約3100億円の増資と約1800億円の劣後債発行 事実上次の増強はほぼ難しい 東芝経営陣を覆っていたのは、その重圧 昨年6月、劣後ローンと呼ばれる新たな“借り入れ”を1800億円実施 日経ビジネス 特集記事「東芝 腐食の原点~社員が本誌に決死の告発~」 引責辞任した3社長が東芝社内を闊歩 本格的な調査はこれから始まる 東芝特集取材班 500人近くから情報が集まった 現場から噴出する「悲鳴」を聞くにつれ、東芝の病巣の深さに戦慄さえ覚えた 引責辞任したはずの3社長が今も出勤 東芝の「自作自演」 公的機関が動き出す 闇株新聞 ようやく決算発表した東芝は事件化しないのか? それなりに重大な修正 過去7年分の最終損益修正額は合計1552億円 オリンパスの最大修正額1178億円より大きくなる 刑事事件化 オリンパス事件より金額も大きく、はるかに悪質な粉飾決算 事実と大きく違う内容が記載された有価証券報告書 延々と受け取っていた金融庁(関東財務局)や、それをチェックすべき証券取引等監視委員会 何かしらの処分を下さないと格好がつかなくなってしまいます 「不適切決算」ではなく「開示書類の虚偽記載」に該当 刑事事件化することはなく課徴金処分にすると発表しているようなものです 「特設注意市場銘柄」に指定
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