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VW(フォルクスワーゲン)排ガス試験不正問題 [企業経営]

今日は世界を驚かせたVW(フォルクスワーゲン)排ガス試験不正問題を取上げよう。

先ずは、今日付けのJBPress(Financial Times)「VWの不祥事で傷つけられたドイツ国民の誇り 排ガス試験不正、高品質を象徴する「メード・イン・ジャーマニー」に打撃」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「メード・イン・ジャーマニー」に対する世界の評価
・ドイツのメディアはほぼ結束して、VWが長年、米国の排ガス試験で不正を働いてきたという事実の露呈が「メード・イン・ジャーマニー」――特に製造業におけるドイツの品質の評判――に対する世界の評価に影響しかねないと警鐘を鳴らしている
・ドイツで最大の発行部数を誇るタブロイド紙のビルトは9月下旬の社説で、「ドイツを偉大にしたのは我々のエンジニアリングのスキルであり、機械工業に対する信頼だ・・・信頼が今、直接的にリスクにさらされている」と書いた
・政界の指導者はアンゲラ・メルケル首相以下、特に他のドイツ企業の名声を守るために、迅速な是正措置を講じるようVWに求めた。 ジグマール・ガブリエル経済相は「ドイツの自動車産業、そして特にVWが誇る正当な名声が苦しめられていることを我々は懸念している」と述べた
・一部のマーケティング専門家は、スキャンダルのダメージは社長が23日に辞任したVWにとどまらず、たやすく大きく広がってしまう可能性があるとの見方に同意する。やはりドイツのエンジニアリングの旗手であるBMWとダイムラーも、スキャンダルの渦中にあるディーゼルエンジン搭載車を生産している
・ベルリン自由大学のマーケティングの教授、ドリーン・ピック氏は確固たる悲観論者の1人だ。「これは『メード・イン・ジャーマニー』のイメージをひどく損なうと思う。VWはドイツで最高のもの、つまり誠実さ、信頼性、効率性の同義語になっているからだ」   教授はさらに言う。「本当に重要なのは、自分がVWの車を所有しているから、あるいは、ここの環境が汚染されたと考えているからという理由で、ドイツ人が個人的に影響を受けたと思うかどうか、だ」
・だが、不正を暴いた米国の当局からの強烈な法的攻撃はドイツ人を「ちょっとした愛国的・防衛的」反応に追い込む可能性があると同氏は指摘する。「人々は、環境などあまり気にしない米国人がなぜドイツの機関を攻撃するのかと問うだろう」
・一方で、歴史は、適切に対応すれば企業は最大のスキャンダルをも乗り切れることを示しており、問題の企業の枠を越えて風評被害が広がることはめったにないと主張する向きもある
▽国のイメージは永続的なもの
・「このスキャンダルはVWにダメージをもたらすが、『メード・イン・ジャーマニー』を損ねることは全くない。国のイメージというものは、非常に永続的なものだ。人々はまだドイツを、メルケルだけでなくヒトラーと関連付ける。イメージを変えるのに、どれほど長い時間がかかるか分かるだろう」。スイスのザンクトガレン大学のマーケティング研究所長を務めるスベン・ライネケ氏はこう言う。同氏はさらに、「VW自体について言えば、このスキャンダルにどう対処するかによって決まる。手際が悪ければ、ブランドを台無しにするだろうが、うまくやれば、そうはならない」と付け加える
・危機が起き、経営陣が一掃された後に投資家と顧客の信頼を再構築することができたドイツ企業の例はたくさんある
・化学大手のバイエルは2001年、超大型薬の高コレステロール血症治療薬「リポバイ」に深刻な副作用があることが判明した時に大揺れした。 同社は3000件近い訴訟を和解に持ち込むために11億ドル支払い、経営陣を刷新し、事業を包括的に再編成し、今では株式時価総額でドイツ最大の企業になっている
・電機大手のシーメンスは、契約を勝ち取るための賄賂の支払いに裏金が使われたことが2006年に露呈した後、罰金と顧問料に20億ドル支払わねばならなかった。その結果行われた調査は会社を芯まで揺さぶり、数十人の上層幹部の退職とコンプライアンス制度の全面見直しにつながった
・2010年には、ダイムラーが諸外国で政府関係者に組織的に賄賂を支払ったという米国の告発を解決するために、2億ドル近い制裁金を支払った。同社はこれに対応し、「会社の品位と法的問題」を担当するために取締役会にドイツの元判事を任命した
▽過去にもスキャンダルを乗り越えたが・・・
・VWは自社の過去の経験から、スキャンダルがいかに企業を傷つけるかを知っている。2008年、同社の労組代表が贈収賄スキャンダルで有罪判決を受けた後に投獄された。この人物は、VWの労組幹部らのために、売春婦と休暇の支払いに会社のお金が使われたことも明らかになった捜査の後、2000万ユーロ近い違法なボーナスを受け取ったことで有罪判決を受けた
・この事件があっても、VWはトヨタ自動車を抜いて世界最大の自動車メーカーになろうとする取り組みをやめなかった。だが、最新のスキャンダルは、それよりはるかに深刻だ。何百万人もの顧客に直接影響を及ぼすからだ
・ベルリンにあるドイツ経済研究所(DIW)のマルティン・ゴルニヒ氏は「VWが状況を明らかにすることができれば、まだダメージを制限することができる」と話している
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44855

次に、9月25日付け日経ビジネスオンライン「日本ではVWディーゼル車は"無罪"?複雑化する技術と規制が生んだ産業史上最大のスキャンダル」ののポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・VWは今後、米当局より最大で約2兆円もの制裁金を科せられる可能性があるほか、当該車種のオーナーなどから代表訴訟を起こされるリスクを抱える。そのため、既に2015年7-9月期に65億ユーロの対策費用を計上
・日本への影響も出始めている。全売上高のうちVWグループ向けが約1割を占めるアイシン精機や、欧州市場に強いサンデンホールディングスなどの株価が大きく下落。欧州メーカーやマツダなどが相次いで低燃費のディーゼル車を投入したことで、「ディーゼル=低燃費」というイメージが定着しつつある日本市場でも、消費者の印象が悪化する可能性もある
・では、今回のVWの問題と同じことが日本で起こったらどうなるか。答えは、“無罪”だ。もちろん、問題になれば消費者からの信頼を失い、対象車種を自主回収せざるを得なくなるかもしれない。それでも、巨額の罰金や制裁金を課される可能性は低い
▽日本でも2011年に議論が盛んに
・今回の問題でクローズアップされた「Defeat Device(ディフィート・デバイス)」について、日本ではその利用の禁止を明言した法律が存在しない。ディフィート・デバイスとは、公的機関による環境性能のテスト時以外、つまりドライバーが運転している時などで、排気ガスの浄化装置の機能を停止させるプログラムのことを指す
・「無効化機能」と訳されることが多いこのディフィート・デバイスが、日本でも問題になったことがあった。  きっかけは、石原都政下でディーゼル車の規制を強化していた東京都の調査だ。2011年、市場に出回る自動車を無作為に抽出する独自調査の結果、排ガス規制の適合試験では正常値だったいすゞ自動車のトラック「フォワード」のNOx(窒素酸化物)排出量が、実走行時では3倍以上になることを発見したのだ。東京都はその結果を公表し、自動車メーカーや国土交通省にディフィート・デバイス対策を求めた
・ディフィート・デバイスは一般的に、エンジンに大きな負荷がかかる場面やトラブル発生時などに作動させ、故障を防ぐ役割がある。そのすべてが環境規制を”騙してクリア”することを目的としていたわけではない。ただ、それを利用してもいい条件などが曖昧だったため、「見せかけ」の環境性能を高めるためにも使われるおそれがある
・東京都からの指摘を受け、国土交通相はディフィート・デバイスを機能させていい条件を明文化。ただその対象は、車両総重量が3.5トン超のディーゼル車、つまり大型のトラックやバスだけ。「現状では規制の対象に一般乗用車は含まれていない」(国土交通省)
・米国では1990年から、EUでは2001年にディフィート・デバイスの禁止が法律で明文化された。その中で日本だけが規制の対象としてこなかったのは、こうした問題が浮上したタイミングで、国内にディーゼル乗用車がほとんど皆無だったという事情もあるだろう
・ある国では2兆円の制裁金で、ある国では無罪。この事実が示すのは、国や地域ごとに、環境規制の中身やその細かなルールがいかにバラバラかということだ。 各国の環境規制はその国で主流となっている技術や産業政策、エネルギー事情などによってその内容や運用方法が違う。加えて、最近ではガソリン車からディーゼル車、ハイブリッド車、電気自動車などさまざまな動力源が存在し、環境規制も複雑化している
・VWのようにエンジンやプラットフォームをグループ内で共有する自動車メーカーにとっては、各国の規制に対応するにはソフトウェアによる制御によって「走り方」を最適化するのが合理的だ。しかし今回、その程度が行き過ぎ、取り返しの付かないダメージを負うこととなった
・VWがどのような意図で今回の不正に至ったのか。それは今後、同社が設置する特別委員会や米国での公聴会、司法当局の捜査を通じて明らかになるはずだ。その中身がどうなるにせよ、各国の規制のあり方や自動車メーカーの技術戦略に少なからぬインパクトを与えることは間違いない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/092400089/?P=1

私にとって、初めの頃は、何故このような「不正」がほかでもないVWで生じたのか、皆目見当がつかなかったが、日経ビジネスオンラインのディフィート・デバイスが使われた背景についての説明で、それなりに納得できた。ただ、記事の通り、米、EUでは既に使用が禁止されているのが事実とすれば、今回のような事件が生じる余地はない筈。「禁止」が一律ではなく、条件付きなのを、記者が見逃していたり、表現が不適切である可能性もある。結果的に不完全な記事を紹介したことになるが、趣旨はあくまでディフィート・デバイスについての「それなり」の解説のためと、ご理解頂きたい。
初めのJBPress(Financial Times)の記事は、ドイツで過去にもあったスキャンダルと比べる形で、冷静に分析しており、参考になった。「米国の当局からの強烈な法的攻撃はドイツ人を「ちょっとした愛国的・防衛的」反応に追い込む可能性がある」との指摘も面白い。
今回の不明点、その後の進展などを今後も適宜、取上げていきたい。
タグ:VW フォルクスワーゲン VWの不祥事で傷つけられたドイツ国民の誇り 排ガス試験不正、高品質を象徴する「メード・イン・ジャーマニー」に打撃 JBPress(Financial Times) 排ガス試験不正 「メード・イン・ジャーマニー」 世界の評価に影響 ドイツ企業の名声を守る ディーゼルエンジン搭載車 BMWとダイムラー VWはドイツで最高のもの、つまり誠実さ、信頼性、効率性の同義語 米国の当局からの強烈な法的攻撃 愛国的・防衛的」反応に追い込む可能性 適切に対応すれば企業は最大のスキャンダルをも乗り切れる 歴史 イメージを変えるのに、どれほど長い時間がかかるか分かるだろう 投資家と顧客の信頼を再構築することができたドイツ企業の例 バイエル シーメンス ダイムラー 労組代表が贈収賄スキャンダルで有罪判決 日経ビジネスオンライン 日本ではVWディーゼル車は"無罪"?複雑化する技術と規制が生んだ産業史上最大のスキャンダル 米当局より最大で約2兆円もの制裁金を科せられる可能性 ディーゼル=低燃費 消費者の印象が悪化する可能性 ディフィート・デバイス 無効化機能 日本でも問題になったことがあった ディーゼル車の規制を強化していた東京都の調査 いすゞ自動車のトラック「フォワード」 NOx(窒素酸化物)排出量 国土交通相はディフィート・デバイスを機能させていい条件を明文化 大型のトラックやバス 米国では1990年から、EUでは2001年にディフィート・デバイスの禁止 国内にディーゼル乗用車がほとんど皆無だったという事情 環境規制も複雑化 各国の規制に対応 ソフトウェアによる制御によって「走り方」を最適化するのが合理的 程度が行き過ぎ、取り返しの付かないダメージを負うこととなった
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