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VW(フォルクスワーゲン)排ガス試験不正問題(その3)「欧州産業史上、最悪のスキャンダルがもたらす余波」(後編) [企業経営]

今日は、昨日の続きとして、在ドイツのジャーナリストの熊谷徹氏が、日経ビジネスオンラインに3回にわたり連載した「欧州産業史上、最悪のスキャンダルがもたらす余波」の後編、10月8日付けの「独の環境団体「VW不正は氷山の一角」と主張 欧州産業史上、最悪のスキャンダルがもたらす余波(後編)」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・VWは、1937年にナチスが「国民車」を製造させるために設立した国営企業だった。第二次世界大戦中には、航空機のエンジンや軍用車を製造することによって、ナチス体制を支援した
▽行政にも重大な責任
・現在でもニーダーザクセン州政府が株式の12.7%を保有し、同州の首相が監査役会のメンバーとなっている。その意味では、純粋な民間企業ではなく、公営企業の性格を持った巨大企業である。さらに、同社はドイツの歴代の政権とも極めて太いパイプを持ち、政治的な影響力が最も大きい企業だ。たとえばゲアハルト・シュレーダー氏もニーダーザクセン州の首相だった時、VWの監査役を務めたことがある。その意味で、今回のスキャンダルをめぐって監査役会に入っているニーダーザクセン州政府の責任も問われるに違いない
・ドイツでは、野党や環境団体から「連邦交通省や陸運局は何をしていたのか」という批判が高まっている。 環境政党・緑の党のベアベル・ヘーン議員は、「ドイツ連邦政府は、排気ガス規制について自動車業界を擁護することによって、市民が健康を害するのを傍観してきた」とメルケル政権の態度を批判
・消費者保護団体であるドイツ消費者センター連合会(VZBV)会長のクラウス・ミュラー氏は、「行政当局が、排ガス規制が守られているかどうかを点検せず、環境と市民の健康に被害を与えていたことは、大問題だ」と指摘する。彼によると、消費者は今回の不正によって二重の詐欺被害にあっている。まず消費者は、「環境への悪影響が少ない車を買おう」と思って、クリーン・ディーゼルの車を選んだのに、期待を裏切られた。さらに、ドイツの車の品質は高いと信じて、お金を払っているのに、その期待も裏切られたというわけだ
▽環境団体は「氷山の一角」と批判
・排ガス不正のもう1つの焦点は、VW以外のメーカーに飛び火するか否かである。ドイツの環境団体は、数年前から「ドイツの自動車の中には、窒素酸化物の実測値が規制値を大幅に上回る物がある」と主張。ベルリンの環境団体「ドイツ環境援助機関(DUH)で代表を務めるユルゲン・レッシュ氏は、9月24日に発表した声明の中で、「VW以外のドイツの自動車メーカーも、排ガスに関するデータを操作している可能性がある」と述べ、これらの会社に対し、9月25日の午後3時までに排気ガスの値を試験の際に低く抑える処理を行っている車のリストを公開するよう要求した
・これに対して他の自動車メーカーは、「当社では排ガスデータ捏造の事実は一切ない」と疑惑を全面的に否定。「DUHが、当社でもデータの捏造が行われているかのような印象を与える情報を公開し続ける場合には、法的措置も辞さない」という声明を発表
・現時点では、VWグループに属する企業以外のメーカーが不正ソフトを使用していたという事実は、確認されていない
・DUHは、すでに半年前に、自動車メーカーが排ガス規制を実際に守っているかどうかを点検するよう連邦政府に要求していた。DUH代表のレッシュ氏は、「フォルクスワーゲンの不正は氷山の一角にすぎない。ドイツの行政当局は、走行時の有害物質の排出量が、車検した時の排出量を大幅に上回っていることを、知っていたはずだ」と主張
・DUHは、自動車メーカーの社員に対し、走行時の窒素酸化物の排出量と規制当局によるテスト時の排出量の違いについて、内部告発を行うよう呼びかけている。環境政党・緑の党のオリバー・クリシャー議員も、「ドイツ政府は、この問題を知っていた」と訴える
・またエコロジーを重視する交通政策を求めるNGOであるドイツ交通クラブ(VCD)は、ドイツ政府に対し、「走行時に車が排出する有害物質の量も、国が定めた規制値未満になるように、検査体制を改革するべきだ」と要求した
・かつて連邦環境庁の課長で、現在は環境NGOで働くアクセル・フリードリッヒ氏も、「有害物質の排出量に関するメーカーによる技術的な不正は、日常茶飯事だ」と主張する。彼は、米独の環境NGOの連携プレーによって、ICCTがフォルクスワーゲンの不正を見破るきっかけを作った人物の一人だ
・独交通大臣のドブリント氏は、「9月19日にドイツの新聞がこの問題を掲載するまで、フォルクスワーゲンの不正については全く知らなかった」と反論
▽国民経済にも悪影響
・ドイツ経済への影響も無視できない。フランクフルトのINGディバ銀行の主任エコノミストであるカルステン・ブルゼスキ氏は、「VWグループに属するすべてのメーカーと、自動車部品供給会社の売上高を合わせると、ドイツの国内総生産(GDP)の2~3%に相当する。このため排ガス不正の今後の展開によっては、ドイツの景気に悪い影響を与える可能性がある」と指摘する
・VW本社があるヴォルフスブルク市とアウディの本社があるインゴルシュタット市は、今回の不祥事のために両社の売上高が減って、税収に悪影響が出る可能性があるとして、歳出抑制を決定した。VWとアウディだけでも、ドイツで約14万人の従業員を雇用している。VWグループがスキャンダルを理由に、人員削減に踏み切った場合、雇用市場にも悪影響が出るだろう
・さらに、今回のスキャンダルをきっかけとして、ドイツをはじめとする欧州各国が排ガス規制を強化することは確実。各国政府は車検などの際の有害物質の排出量ではなく、実際に走行する際の有害物質の排出量を、排ガス規制の基準として使うようになるだろう。これは、排ガス基準の強化を意味する。自動車メーカーにとっては、基準値を達成するために多額の追加コストの支出を迫られることになるだろう
・ドイツの自動車業界は、ダメージを最小限にしようと懸命だ。VWのデータ捏造問題は、ドイツのフランクフルトで国際自動車見本市(IAA)が開かれていた真っ最中に浮上した。ドイツ自動車工業会(VDA)会長のマティアス・ヴィスマン氏は「ソフトウエアの操作による排ガスデータの捏造は違法であり、絶対に許すことができない」とVWの不正行為を強く批判
・加えて、「IAAの期間中にこのような問題が持ち上がったのは残念だ」としながらも、「EUの地球温暖化防止の目標を達成するには、クリーン・ディーゼル技術は不可欠。ドイツのメーカーは、有害物質の排出量を最小限に抑える技術を開発した。特定の個人が違法行為を行ったとしても、ドイツのディーゼル技術の重要性には変わりがない」と強調した。ヴィスマン会長は、「一部の社員が行った違法行為のために、VW全体、同社で働く60万人の従業員、そしてドイツの自動車業界全体、さらに『メイド・イン・ジャーマニー』全体が批判されることは、おかしい」と主張した
▽コンプライアンスの重視を!
・VWの排ガス不正で私が興味深く思うのは、これだけ大規模な不正がVW社員による内部告発によって明らかになったのではなく、環境NGOの地道な調査で明らかになったことだ。なぜVWの内部から、NSA(国家安全保障局)の電子盗聴問題を告発したエドワード・スノーデンのようなホイッスル・ブロワー(内部告発者)が出なかったのか
・近年、ドイツや他の欧州諸国では大手企業などのスキャンダルが時折発覚している。その大半は、米国の規制当局が摘発した。たとえばドイツ銀行の金利操作問題、FIFAの腐敗問題も、摘発したのは欧州ではなく米国だ。欧州には、米国のような自浄作用が少ないのかもしれない。米国の大学助教授が行った手弁当に近い調査が、欧州最大の自動車メーカーのCEO辞任につながった。ダビデが巨人ゴリアテを倒した逸話を思い出す。私は、ここに米国社会のダイナミズムを感じる
・さらに、今回の事件は、グローバル化した今日の世界では、順風満帆の巨大企業も、大規模な法令違反が明るみに出れば、一瞬のうちに株式時価総額がほぼ半減し、奈落の底に突き落とされる可能性があることをはっきり示した。コンプライアンスや、企業の社会的責任は、現代の企業にとって益々重要になっている。ドイツの自動車専門家からは、「フォルクスワーゲンは、急成長を実現するために法令順守を犠牲にした。同社が信頼を回復するには、10年近くかかるかもしれない」という意見が出ている
・日本企業にとっても、VWの転落は、決して対岸の火事ではない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/219486/100500008/?P=1

VWが、「歴代の政権とも極めて太いパイプを持ち、政治的な影響力が最も大きい企業」で、「公営企業の性格を持つ」以上、ドイツ政府やEUの責任問題への波及にも注目したい。
「VW不正は氷山の一角」であるとしたら、問題はどれだけ広がるのだろうか。ドイツのベンツやBMWは価格が高いのでdefeat deviceのような不正手段に頼る必要はない可能性が高いが、問題はフランスやイタリアなどのディーゼル乗用車ではなかろうか。
問題とは直接の関係はないが、VWやアウディの本社がある自治体が、税収への悪影響に備えて、歳出抑制を決めたとのことであるが、その早手回し振りには、財政規律に厳格なドイツとはいえ、ここまでするのかと感心させられた。
VWだけでなく、欧州の大手企業・組織での問題発覚が、内部告発によってではなく、大半は、米国の規制当局が摘発したいう指摘は興味深い。
いずれにしろ、この問題が今後本格的に解明され、再発防止のための各種の枠組みが整備されて欲しいものだ。
明日は都合により更新休むので、火曜日をお楽しみに。
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