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TPP問題(5)大筋合意をどうみるか [外交]

TPP問題については、前回は9月10日に取上げたが、今日は大筋合意をどうみるか である。

先ずは、10月8日付けダイヤモンド・オンライン「TPPは日本経済にどんな影響を与えるのか」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・「風向きが変わった」。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉をウオッチし続けてきたある専門家は開口一番、こうつぶやいた
・3ヵ月前にハワイで開かれた閣僚会合では、甘利明TPP担当相が「これが最後の交渉になる」と威勢よく発言していたものの、交渉はまとまらず、肩透かしを食らった。その時点で、TPPは漂流するのではないかとの見方も少なくなかった
・今回の閣僚会合も、当初2日間の日程では交渉が合意に至らず、もはや漂流は避けられないかに見えた。しかし、前回とは風向きが変わっていた。交渉は4日間も延長され、5年に及ぶTPP交渉は大筋合意にこぎのポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
着けた
・風向きが変わった背景には、カナダ、米国、日本それぞれの国内政治事情があった
・まず、10月19日に迫ったカナダの総選挙だ。与党の保守党が苦戦しており、単独での政権樹立は難しいといわれている。政権交代が起これば、交渉は振り出しに戻る可能性が濃厚だった
・オバマ米大統領にとっても、来年2月の大統領予備選挙が始まる前に決着させなければ、選挙戦でTPPどころではなくなる。自分の代でTPPをまとめるというレジェンド(歴史に名を残すこと)を残すには今しかなかった
・日本は来年7月に参議院選挙を控える。TPPをできるだけ早くまとめた上で、農家に対策費を投じて票を確保し、安全保障問題で逆風が予想される選挙を乗り切るというのが自民党のシナリオだ
・尻に火が付いているカナダ、米国、日本の3国にとっては、今回が交渉をまとめる最後のチャンスであり、それ以外の参加国もそのことを十分承知していたのだろう。徹夜の駆け引きを繰り広げながら、交渉6日目に大筋合意に至った。会見に臨んだ各国首脳は、一様に安堵の表情を浮かべていた
▽自動車・食品は追い風  農業・畜産業には逆風 見えにくいメリット
・今後、TPPは日本経済にどのような影響を及ぼすのか。  最大のメリットは、世界のGDPの約4割を占める経済圏が誕生する素地が整ったことにある。それにより、三つのプラス効果が期待できる
・一つ目は、農産品や工業製品にかけられる関税の大半が一定の期間を経て撤廃されることによる効果だ。企業にとってはTPPを活用した調達でコストダウンが可能になるとともに、TPP加盟国に自社製品を販売しやすくなる。市場の拡大で、日本経済の活性化につながる。特に恩恵を受ける産業が自動車と食品だ。自動車メーカーにとっては、日本から米国への自動車部品の関税が撤廃されることで価格競争力が増す。食品メーカーにとっては、関税の引き下げで原料のコストダウンにつながる
・二つ目のプラス効果は、TPPによって、サービスや投資の規制緩和が進むことだ。表のように、小売業の規制緩和や政府調達の規制緩和で、外資が参入しやすくなる。国内市場が飽和気味のコンビニエンスストアなどの海外進出、日本企業のインフラ事業への参加が加速する可能性がある。(ただし、規制緩和の時期など詳細は決まっていない)
・三つ目の効果は、中国や欧州連合(EU)などとのメガFTA(自由貿易協定)構想の前進につながることだ。日本はTPP以外に、日中韓FTA、EUとの経済連携協定(EPA)、東南アジア諸国などとの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉も進めている。今回の大筋合意で、通商交渉の人材をこれらに振り向けることができ、TPPの基準をこれら交渉の際に参考として提示することもできる
・他方、TPPでは三つの問題点が指摘されている。第1は国内農業へのダメージ、第2はTPPの効果そのものが小さいのではないかという懸念、第3はTPP法案の議会承認が未知数であることだ
・安倍政権が2013年にTPP交渉参加を決めた際、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖といった「重要5項目」の関税を維持することを掲げ、「オバマ大統領との会談で、“聖域”が守られることが確認できたから」と国会で説明している
・今回の合意内容を見ると、関税撤廃こそ少ないが、関税率引き下げや輸入枠の拡大といった譲歩を余儀なくされている。特にダメージを受けるのが豚肉だ。ソーセージ向けなどの豚肉は、現在の1kg当たり482円の関税が125円に、10年目以降は50円にまで引き下げられることになった。しかも、一定の輸入量を超えたときに発動できるセーフガードも12年目から撤廃されることになっている
・ソーセージの原料では差別化が難しく、安価な輸入品に国内勢は太刀打ちできない。TPP大筋合意の翌日の10月6日には、午前9時前から、60を超える畜産団体の幹部が続々と農水省に集まり、口々に不満を漏らした
・交渉関係者によれば、交渉終盤に、米国に譲歩を迫られ、重要5項目の加工品を含む関税引き下げに応じたのだという
・牛肉でも関税率が削減され、畜産農家は戦々恐々としている。他方、卸業者からは「中国の需要増加で、牛肉の国際市況が上がっている。関税引き下げでも、円安と市況の高騰で、大幅に安くはならない」という見方も出ている
・第2の問題がTPPの効果が薄いのではないかという懸念だ。例えば、米国向け自動車の関税撤廃は25年後と、効果が出るのは遠い将来のこと。自動車産業を守りたい米国に配慮した結果だ
・コメについても、米国とオーストラリアの輸入枠こそ増やすものの、このコメと同数量のコメを備蓄用として政府が買い上げて隔離する。輸入米の増加による競争でコメ農家の構造改革が進むわけではないし、消費者にとっても安く買えるといった恩恵がない。安倍政権は、国内農家には、「関税を撤廃することなく聖域を守った」と胸を張る一方、米国には輸入を増やすことで、双方に“いい顔”をしただけなのだ
▽議会承認のハードル 米国の審議次第で宙に浮く可能性も
・第3の、そして最大の問題は、TPPが各国の議会で承認されるかどうかである。TPPが発効するには、各国の議会承認を得なければならないのだ
・米国では、貿易促進権限(TPA)に沿って、合意から90日以後でないと大統領は署名できない。審議が始まるのは来春以降になる。 大統領選挙に向け与野党対立が強まる中、民主党の支持基盤である労働組合が反対するTPPが議会で審議されるのかどうかは不透明だ。先延ばしされれば、オバマ政権での成立は不可能になる
・日本も、米国のめどが立たなければ国会審議に入れない。一部では、来年1月からの通常国会には間に合わないのではないかとの見方もある。日米の議会から承認が得られなければ、今回の大筋合意は何ら実効性を持たない。その意味で、TPPはゴールどころか、まだスタート地点にすら立っていない
http://diamond.jp/articles/-/79633

次に、10月7日付け闇株新聞「大筋合意したTPPは国益に叶うのか?」のポイントを紹介しよう。
・TPP12か国のGDP合計が3100兆円と全世界の36%をこえる世界最大の自由貿易圏が誕生すると喧噪されています
・ただ欧州の地域型統合体であるEUと比べても、何となく太平洋の周りにあるというだけで身近でもない国を寄せ集めただけの「さあ、これから一致団結していこう!」とは誰も考えない違和感だけあるものです
・それもそのはずでTPPとは、もともと2006年に発効したシンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイの4ヶ国FTA(自由貿易協定)だったところへ、2010年3月に大国の米国がオーストラリアなどと共に割り込んだため各国の思惑が大変に複雑化し、結局そこから大筋合意まで5年半もかかってしまいました
・日本は2013年7月から交渉に加わったのですが、そもそも2010年当時は与党だった民主党がTPP参加に積極的で、野党だった自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」と主張していたはずです。確か2012年末の衆議院選挙でも「交渉参加反対」を公約に掲げていたはずです
・それが安倍政権の発足直後に明確な説明なしに突然方向転換してしまい、2013年7月の交渉参加となりました。それでも「コメなど重要5項目の死守」と主張していたはずですが、今回の大筋合意内容を見ても死守していたようには見えません
・それでは本誌はTPPに賛成なのか、反対なのか?ですが、無条件賛成だった安保関連法案ほど明確な意見がありません。日本にとって総合的にプラスなのかマイナスなのかが良くわからないからですが、直感的には「プラスではない」いや「プラスのはずがない」と考えます
・だいたい参加各国が(というより米国が)ある程度満足して合意した交渉とは、多国間でも2国間でも日本にとってプラスであるはずがないことは、過去の通商交渉など長い外交史から「断言」できるからです
・とくに最近の米国では、1年以上も任期を残すオバマ大統領が内政では議会に全く相手にされず、辛うじて外交面で実績を残そうとするもののイラン核合意やシリア問題など迷走が続いており、このTPP交渉も何とか合意して自らの実績に加えたいと焦るオバマ大統領に乗じてあらゆる業界団体が「これでもか」と無理難題を押しつけたものにしか見えません
・その米国でも野党共和党が支配する議会だけでなく、米国民にも「オバマの安直な人気取り」と批判されているようで、少なくともオバマ大統領任期中には議会の批准は不可能で、新大統領によってはそのまま雲散霧消してしまう可能性もあります
・日本に話を戻しますが、報道の中心である関税撤廃だけを見ても、確かに関税が撤廃されることは少なくとも国民生活にはプラスですが、その対極にある国内の生産業者(特に農業)に与えるマイナスをすべて勘案すると、とても報道されている合意内容だけでは全貌が把握できません
・ましてや薬品の特許保護期間、知的財産権、環境保護、投資・金融、さらにはISD条項(なぜか報道がほとんどない)などに日本の国益が反映されていることはまず考えられず、やはり何で日本までこんなに焦って米国の(一部ニュージーランドやメキシコの)ゴリ押しに大筋合意してしまったのか?との印象は残ります
・まあややこじつけ的にプラス面を探せば、先日成立した安保関連法案とあわせて中国に「ある程度のプレッシャー」と、何かと反日の韓国経済界に「それなりのプレッシャー」を与えることができる(かもしれない)ことくらいです
・一夜明けた本日(10月6日)付け日経新聞の社説では(本誌は日刊紙では日経新聞と日刊ゲンダイしか読んでいません)、「TPPテコに世界経済の活性化を」と勇ましいのですが、読んでも空虚さだけが残ります。  官邸の目もあるので反対はできないまでも、せめて経済問題にはもう少し国民目線に立ち、また何よりも日本の国益から見た「生きた社説」を書いて欲しいと感じました
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1548.html

TPPに関する日本の新聞やテレビの報道は、「大本営発表」そのもの。闇株新聞が指摘するように、自民党が野党時代に反対していたTPPに、「安倍政権の発足直後に明確な説明なしに突然方向転換」し、その前提条件である「コメなど重要5項目の死守」についても、冒頭の記事にあるように「関税率引き下げや輸入枠の拡大といった譲歩を余儀なくされている」といった安部政権にとって不都合な事実は、伏せられているようだ。
しかも、日本にとってのメリットの筈だった自動車の関税撤廃については、「米国向け自動車の関税撤廃は25年後と、効果が出るのは遠い将来のこと。自動車産業を守りたい米国に配慮した結果」と、当面はデメリットが先行する形になりそうだ。
また、米企業の乱用が懸念されるISD条項(損害を受けた米企業が、米国が支配する国際投資紛争処理センターに提訴できる)については、何故か一切、報道されてない。
野党は、国会の特別委員会での審議を要求し、生々堂々と与党に対峙してもらいたいものだ。
タグ:身近でもない国を寄せ集めただけ 大筋合意したTPPは国益に叶うのか? 闇株新聞 ISD条項 国内の生産業者(特に農業)に与えるマイナス 新大統領によってはそのまま雲散霧消してしまう可能性も オバマ大統領任期中には議会の批准は不可能 業界団体が「これでもか」と無理難題を押しつけた 焦るオバマ大統領に乗じて 「プラスのはずがない」と考えます 死守していたようには見えません 「コメなど重要5項目の死守」と主張 明確な説明なしに突然方向転換 安倍政権の発足直後 自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」と主張 誰も考えない違和感 一致団結 まだスタート地点にすら立っていない 米国の審議次第で宙に浮く可能性も 同数量のコメを備蓄用として政府が買い上げて隔離 米国とオーストラリアの輸入枠こそ増やす コメ 自動車産業を守りたい米国に配慮 米国向け自動車の関税撤廃は25年後 TPPの効果が薄いのではないかという懸念 関税率引き下げや輸入枠の拡大といった譲歩を余儀なくされている 重要5項目 国内農業へのダメージ 中国や欧州連合(EU)などとのメガFTA(自由貿易協定)構想の前進につながることだ サービスや投資の規制緩和 関税の大半が一定の期間を経て撤廃 カナダ、米国、日本それぞれの国内政治事情 風向きが変わった背景 TPPは日本経済にどんな影響を与えるのか ダイヤモンド・オンライン (5)大筋合意をどうみるか TPP問題
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