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人民元国際化問題 [外交]

人民元については、切り下げ騒動を8月19日に取上げたが、今日は人民元国際化問題である。

国際決済システムの権威の元銀行員で、帝京大学教授の宿輪純一氏が10月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「TPPの中国牽制機能も後退?人民元国際化をめぐって中国支援に転換した日米」のポイントを紹介したい(▽は小見出し)。
▽人民元のSDR参加日本も賛成に方針転換
・10月に入って、麻生太郎財務相は、中国が国際通貨基金(IMF)の準備通貨SDR(Special Drawing Rights)の構成通貨に人民元を採用するように求めていることについて「決して悪いことではない」と賛成の見方を示しました。これは大きな方向転換です
・IMFは11月に理事会を開いて、人民元のSDR採用の是非を判断します。IMFのラガルド専務理事は「近く技術的な評価作業を終える」と述べています。SDRに採用されるためには国際通貨としての「貿易の量」と「通貨取引の自由度」という量と質の2つの大きな基準を満たす必要があります。すでに、輸出量や資金決済に占める通貨別シェア量として、人民元は条件を満たしているとIMFは判断しています
・一方、「通貨取引の自由度」については固定的な相場管理や人民元と外貨の両替の制限などが残っています。8月の人民元切下げが相場を市場実勢に合わせる改革の一環ともいわれています。しかし、その後、中国政府は大量に市場に介入を行っていましたが
・中国は人民元のSDR入りを今年の国際金融上の重要施策としていました。また、中国は2016年のG20議長国であり、国際金融面での発言力を増したいとの予想もあります
・このような動きについて、本連載でも、人民元のSDR構成通貨への採用に関しては、日本は米国とカナダと一緒に反対票を投じる動きをしていたことは解説しました
・欧州、特に英国が、米国を裏切るような形で、AIIB(アジアインフラ投資銀行)に真っ先に参加したのは記憶に新しいものがあります。欧州はこのAIIBに参加することとのバーターで、IMFでの人民元SDR採用には賛成するような動きです
・アジアのインフラのニーズは高いものがあります。特にインドネシアはそのニーズが大きく、先日の新幹線の入札も中国が落札しましたが、その支援は今後、AIIBに移っていく可能性もあります。欧州勢もそのインフラ開発に参加したいということです。もちろん、中国本体との経済的深化も狙っているのでしょう
▽中国が仕掛ける人民元国際化政策と日本はずし
・特に民間サイドの人民元国際化政策には以下の3つがあります。資金や証券の分野で、「認可・設置」という国家主導の政策が進められています
・その認可では、明らかに日本と米国外しが進んでいます。基本的には、アジアと欧州の親密国にしか、認可・設置がされていないのです。この構図は、かなりAIIBを取り巻く関係と近似したものになっています。  経済は貿易と金融に大別できますが、このままでは、日本は金融面で規制され、半身での商売になってしまいます。結果的に、欧州が目論んでいる「そうはいっても人口13億人の大国で、7%弱の高い経済成長率」の取り込みが困難になってしまっているのです
・(1)人民元決済銀行の設置 中国と親しい国々には「人民元決済銀行(クリアリングバンク)」を設置し、人民元取引の拠点となっています。具体的には、香港、マカオ、台湾、韓国、シンガポール、英国、ドイツ、フランス、ルクセンブルク、マレーシア、カナダ11ヵ国・地域に広がっています。 人民元の決済銀行が設置されれば、人民元の利用が拡大し、しかも効率的になるため、貿易面での拡大が見込まれて民間にとっても便益が高い。さらに、金融面でも取引量の拡大につながります
・(2)オフショア人民元建て債券の発行   「資金」だけではなく、「証券」でも人民元の拡大が続いています。2012年以降、ロンドン、台湾、シンガポール等でもオフショア人民元建て債券が発行されています。2014年に入り、中国の積極的な人民証券発行についての条件も欧州勢への認可が進んでいます。日本の当局(財務省)も人民元債券の発行を重ねて申し入れていましたが、認可が下りませんでした
・(3)RQFII枠の付与  証券分野では「機関投資家」の認可も重要なポイントでした。人民元適格外国機関投資家(RQFII : Renminbi Qualified Foreign Institutional Investor)」が認められれば、機関投資家が中国本土以外で流通する人民元を使って、中国市場の元建て株式や債券に投資できるようになります。香港、台湾、シンガポール、英国、フランス、韓国、ドイツ、カナダ、オーストラリア、カタールの10ヵ国・地域とRQFII協定を結んでいます
・このような日本外しの中での人民元取引の拡大を象徴する2つの事柄がおこりました
・(1)人民元建て国債海外初発行 中国が人民元建て国債をロンドンで発行する準備を進めていることが明らかになりました。中国が進める人民元の国際化の一環で、海外での国債発行は初となります。習近平国家主席が今週、英国を公式訪問する際に計画を発表する可能性があります。中国の海外での国債発行をめぐっては欧米の有力国が名乗りを上げていましたが、中国は世界的な投資家が集うロンドンを選んだと考えられます。しかし、本当は、欧州勢で一番に、しかも米国を裏切るような形でAIIBに参加したことに対するものともいわれています
・(2)クロスボーダー人民元決済システムの稼働8日にリリースされた「クロスボーダー人民元決済システムCIPS (Cross-border Interbank Payment System)」には日本の銀行の直接参加が許されませんでした。中国系が12行と外資系が8行の様で、邦銀はありません
▽政治よりも経済中国にすり寄る日本
・このような動きは、AIIBにあった「政治」的な動きよりは、「経済」を優先した動きとも言えます。麻生財務相は中国に、中国国外で人民元決済銀行を日本国内に設置するよう要請しました。これによって伸びている人民元建ての貿易や金融取引の取り込みが可能になります
・日中間の貿易や投資、金融取引を促進するとともに、国際金融センターとして東京の地位向上を図るのが狙いです。中国が国別に指定する人民元適格外国機関投資家(RQFII)枠の開設も要請しました
・実は今年になって、政府の中でも、東京における人民元ビジネスへの参加が検討されていました。日本経済の改革が進まないため、やはり伸びゆく経済との関係強化が、経済成長のためには必要なのです。しかも、安倍晋三首相は経済成長に関して、日本の現在のGDP(国内総生産)500兆円を将来的に600兆円に伸ばすという、経済成長ドライブを掛けざる得ない状況ですから、「政治(外交)よりも経済を」重視するのはやむを得ない状況との判断でしょう
▽日米の人民元のSDR賛成で弱まるTPPの中国牽制機能
・国際金融政策は相手のあることだけに、経済学的な分析だけでは進まず、政治(外交)的な性質を持っています。 人民元のSDR認定については、IMFは11月の理事会で決定する予定です。欧州フランス出身のラガルドIMF専務理事はすでに「時間の問題」だと習国家主席に伝えていますし、欧州勢は支持しています
・実は、オバマ政権は、人民元の変動幅拡大、切下げ抑制(米国は切上げを要請してきた)と金融の更なる自由化を条件に認める方向に転換した可能性が高いようです。つまり、人民元決済銀行等が米国にも設置・認可される可能性すらもあるのです
・このような状況であるからこそ、麻生財務相が米国も参加しているIMF/世界銀行総会の開催時に中国に依頼をしたのでしょう
・しかし、日本のみならず、米国まで、中国にすり寄る形になると、中国への対抗目的を持つ“TPP”による中国牽制機能も弱まることになります。この国際金融・政治の微妙な動きからは当面、目が離せません
http://diamond.jp/articles/-/80273

周国家主席の訪英が大成功したことで、日本は残念ながらほぞをかむ他なかった(これについては後日、別途取上げる予定)。それにも増してこの記事には私は大きなショックを受けた。宿輪純一氏の専門的な指摘はさすがである。IMFのSDRに組み入れられるだけであれば、単なる「計算単位」だけの話だが、人民元の国際化がここまでビジネス上の広がりを持っていたとは・・・。
AIIB参加問題では、日本政府は偉そうな態度を装っていたが、ここまで日米外しが進んでいるとは驚くほかない。日米とも今になって、あわてて中国にすり寄ろうとしているらしいが、「TPP大筋合意で中国を牽制」などとマスコミ向けにPRしていたのは国内向けの「負け惜しみ」だったのだろうか。
昨日、中国は預金金利も自由化したが、これで人民元国際化の障害の1つがなくなったことになる。為替管理の問題は残っているが、IMFによる人民元のSDR参加の承認はもはや時間の問題でしかないだろう。
日本の新聞も「大本営発表」だけに頼ることなく、独自取材で、人民元国際化問題を正面から取上げて欲しいところだ。
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