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マンションデータ偽装問題(その2)法律家の立場から [社会]

昨日に続いて、マンションデータ偽装問題をその2として法律家の立場からの見方を取上げたい。

このブログでたびたび引用している、元東京地検検事で弁護士の郷原信郎氏が10月19日付けの同氏のブログに掲載した「姉歯事件」より深刻・重大な「マンションデータ偽装問題」のポイントを紹介しよう。
・横浜市内の大型マンションが傾いた問題で、建設時の杭打ち工事で、建物の基礎となっている複数の杭が強固な地盤に届いておらず、杭打ちのデータに別の工事のデータが転用されていたことに加え、セメント注入量まで偽装されていたことが明らかになった
・デベロッパーは三井不動産レジデンシャル、元請け施工が三井住友建設、下請けが日立ハイテクノロジーズ、杭打ち工事を行った孫請けが旭化成建材と、いずれも日本を代表する企業ないし子会社であり、日本の企業のコンプライアンスが問われる事態に発展
・同じようにマンション等の建築をめぐって発生した問題に、2005年11月に表面化した姉歯元一級建築士による耐震強度構造計算書偽装事件(「姉歯事件」)がある。この問題は、日本社会全体を巻き込む大きな問題となったが、その多くは、建築基準法に対する無理解、建物の耐震性についての誤解によるものだった
・姉歯事件と比較すると、基礎となる杭が地盤に届いていないという現実的な瑕疵の問題であり、少なくとも「建物の傾斜」という実害が発生している点において、「計算上の耐震強度」の問題で、建物の実害も発生しなかった姉歯事件より重大かつ深刻である
・むしろ、設計段階の問題であった姉歯事件をめぐる騒ぎの中で、施工段階における真の問題が見過ごされてきたことが、今回の問題の背景となったとみることもできる。改めて姉歯事件をめぐる問題を振り返りつつ、今回の問題を考えてみることとしたい
・姉歯事件では、国交省が問題を公表した後、建築基準法に定められた耐震基準を満たさないマンションやホテルなどが全国各地で建設されていた事実が次々と明らかになった。国交省が、耐震強度が大幅に偽装された建物の使用を禁止したことで、住民がマンションからの退去を余儀なくされるなど、大きな社会問題となった
・この事件では、構造計算書を偽装して耐震強度を実際より高く見せかけようとした姉歯元一級建築士のほかに、構造計算書の偽装を見抜けなかった指定確認検査機関、姉歯氏の構造計算によって多数の低価格マンションを建設・販売して急成長した不動産業者、建築施工業者など関連する業者の責任が次々と問題にされ、これらの関係者の多くが、刑事処罰まで受けた
・この事件を受けて、国交省は、耐震強度偽装の再発防止のための建築基準法の改正を行い、建築確認について厳格かつ煩雑な手続を規定した。そのため、建築確認申請の手控えや審査手続きの大幅な遅延につながり、マンションや住宅などの建築が一時的にストップし、住宅着工件数が激減、建築・不動産をはじめ関連業界は大変なダメージを受けた。法改正後の建築件数の大幅な減少の影響を受けて倒産する企業も出て、日本の建築業界は、リーマンショックの前から深刻な不況に見舞われた
・このように、社会的にも、経済的にも、かつてない程の重大な問題に発展した耐震強度偽装事件だったが、実は、この問題に対しては大きな誤謬があり、まさにこの問題に関して社会が「思考停止状態」であったことを、拙著「思考停止社会~遵守に蝕まれる日本」(講談社現代新書:2009年)で指摘した。 若干長文になるが、拙著の該当部分をそのまま引用(紹介を省略するので、リンク先を参照)
・要するに、姉歯事件は、「建築物の敷地・構造・設備・・用途に関する最低の基準を定める」という建築基準法という法律の性格が理解されず、その法律によって定められた「耐震強度」によって、建物の安全性が確保されているように誤解され、それに、国交省側の「震度5強で倒壊の恐れ」という無神経な発言があって、マンションの使用禁止等の事態に発展し、日本社会に重大な影響を与えた
・しかし、その後発生した東日本大震災においても、強度が偽装された建物が倒壊したという話は全く聞かない。結局、姉歯事件で問題にされた「耐震強度」は実際の地震における安全性には直結しないものだった
・一方、今回の問題では、「大規模な構造物の基礎は強固な地盤で固定されなければならない」という、建築物の敷地・構造・設備・・用途に関する「最低の基準」に関する問題で、「建物が傾く」という実害が発生しているのに、姉歯事件のような建物の使用禁止等の措置はとられていない
・「改めて構造計算を行ったところ、耐震性には問題はなかった」とされているが、セメント注入量の偽装が発覚する前のことである。しかも、マンションの販売担当者は、廊下の手すりの高さに差があるとの当初の住民の指摘に対して、「東日本大震災でズレた」と説明していたのである。耐震性に問題がないとの説明も額面どおり受け止めることはできないように思える
・他方、両者に共通しているのは、問題の背景や構造に目を向けることなく、「偽装」という個別の行為に問題が限局されようとしていることだ。  姉歯事件で、「耐震強度偽装」という違法行為を行った者や、その行為に関わった者の処罰と偽装の再発防止措置をとることに社会の関心が集中したのと同様に、今回の問題についても、「データ偽装」という不正行為にばかり焦点があたっているように思える
・それを象徴するのが、データ偽装が明らかになった直後の証券市場での関連する会社の株価の動きだ。報道初日は、元請の三井住友建設の株価がストップ安の暴落となったが、翌日、データ偽装が、孫請の旭化成建材の社員による行為であることが明らかになるや、同社の親会社の旭化成の株価が暴落、逆に、三井住友建設の株価は大幅に値を上げた
・「データ偽装」を行った会社がすべての責任を負担することを前提にしているかのような株価の動きの一方で、マスコミ報道でも、「改ざん(偽装)を行ったのは、すべて一人の現場代理人であること」が強調されている
・確かに、現場代理人は、工事の品質に絶対的な責任を負うべき立場の技術者であって、その立場の人物が、建物の基礎に関わる工事のデータを意図的に偽装するということは凡そ考えられないことだ。  しかし、今回の問題は、単に、データの管理の問題ではない。杭が強固な地盤に未達だったことからデータ偽装が行われたことは明らかであり、その事実を隠蔽しようとする意図があったとしか考えられない
・「杭の地盤への未達」の事実を知りながら、それを是正しようとせず、データを偽装するという行為が、いかなる動機で行われたのか、そこにどのような事情があったのか(「杭の地盤への未達」未達を明らかにすることが、当該現場代理人又はその会社にとって、どのような不利益があったのか)を解明することがまず必要だ
・杭打ち工事を孫請けした企業だけではなく、建築工事全体を施工した元請建設会社等の施工管理上の問題、或いは、デベロッパーによるマンション建設の事業計画自体に問題があった可能性もある
・そもそも、建築工事・土木工事においては、当初想定していた条件とは異なった施工条件が施工の段階で判明することは避けられない。その対応に大きなコストがかかるものであった場合に、追加費用を誰がどのように負担するのかについて明確なルール・基準が設定され、適切な対応ができる予算上の余裕が設定されていなければならない。そうでなければ、立場の弱い下請け企業に負担が押し付けられ、その負担を逃れるために、不正が行われるということになりかねない
・前掲拙著で述べたように、姉歯事件では、耐震強度偽装にばかり関心が向けられ、「手抜き工事・粗漏工事が横行し、耐震性が不十分な建築が野放しになっている実態」には目が向けられることはなかった。そのような状態が継続していたところに、その後の建築業界をめぐる極端な人手不足・工事採算の悪化が加わり、状況が一層深刻化したことが今回の問題発生の背景になった可能性もある
・いずれにしても、まずは、「データ偽装」を行った現場代理人の動機や事情を徹底解明し、その背景を幅広く深く調査し、真の原因を究明する必要がある
・多数の企業、官公庁等の組織に関係する問題だけに、当事者企業の内部調査だけでは十分な事実解明や原因究明は期待できない。 国交省が、第三者も含めた調査体制を構築することも含めて、主体的に調査に関わることが不可欠である。
https://nobuogohara.wordpress.com/2015/10/19/%e3%80%8c%e5%a7%89%e6%ad%af%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%80%8d%e3%82%88%e3%82%8a%e9%87%8d%e5%a4%a7%e3%83%bb%e6%b7%b1%e5%88%bb%e3%81%aa%e3%80%8c%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%87%e3%83%bc/

今日の午後のニュースでは、国交省が近く有識者委員会を立ち上げ、問題点を検証することを決めたようである。ただ、これまでの報道は、郷原氏が指摘するように、姉歯事件と同様に、「問題の背景や構造に目を向けることなく、「偽装」という個別の行為に問題が限局されようとしている」。有識者委員会が、問題をより深く幅広く調査して、真の原因究明や、実効性ある再発防止策につなげていくかどうか、今後も注視したい。
明日は、(その3)企業経営論の立場から を取上げる予定。
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