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旭化成、東洋ゴム、VWなどでの企業不祥事の心理学 [社会]

昨日までのマンションデータ偽装問題に関連して、今日は旭化成、東洋ゴム、VWなどでの企業不祥事の心理学 を取上げたい。(昨日のブログでは、今日は企業経営論の立場からの見方を紹介すると予告したが、熟読したところ、紹介するほどでもないのでこれは止めた)

先ずは、精神科医の和田 秀樹氏が10月27日付けの日経Bpnetに寄稿した「旭化成、東洋ゴム、VW問題の深層を読み解く「企業不祥事の心理学」」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
▽企業不祥事をアドラーの心理学で分析
・企業不祥事にまつわる報道が相次いでいる。 今年の3月には大手メーカー東洋ゴムの免震ゴムのデータ改ざんが露見したが、続いて10月には防振ゴムでも不正があったことが発覚した
・今年の7月には日本を代表する電機メーカー東芝が、経営トップが関与する形で利益を水増しする不正会計を行ったことが明らかにされた
・9月にはアメリカの環境保護局が、ドイツのフォルックス・ワーゲン(VW)社が排ガス規制を逃れるために不正なソフトを搭載していたことを公表し、世界中で大騒ぎになっている
・さらに10月に騒動となった横浜の大型分譲マンションが傾いた問題では、基礎工事の下請けを引き受けた旭化成建材のくい打ちの甘さが原因とされ、そのデータに改ざんの疑いが浮上
・私も10年以上前に『企業不祥事の心理学』(PHP研究所)という本を出したように、この手のことに関心を持ち続けているのだが、最近、アドラーの心理学を学びだして(10月27日に、準専門書の『アドラーと精神分析』アルテ社刊・星雲社発売を出する予定だ)、多少別の見方をするようになった
・アドラーの心理学はフロイトの精神分析をはじめ、さまざまな旧来の心理学理論と一線を画するのだが、その中でもっともユニークだとされる点に目的論がある(実は、アドラーの活躍したのと同時代に日本でも同じ文脈でフロイト理論と論戦をした学者に森田正馬という人がいるのだが)
・これは、原因を究明したところで、相手の心や行動は変わらないから、その目的に注目すべきという考え方である
▽様々な問題の抑止には目的論のほうが有効
・たとえば、非行少年が非行行為を行うという場合、原因論(フロイトの精神分析など)の専門家であれば、本能的な攻撃性が強すぎるとか、生育環境のために非行に走ってしまうという見方をすることになる。そして、それをカウンセリングなどを行うことによって矯正していったり、愛情をかけることで心理的な育て直しをしたりしようとする
・これに対して、アドラーは、なぜ非行を行うのかという目的論のほうに注目する。たとえば、そのほうが目立つから非行を行うという場合、叱られても、その目的が達成されたことになるので、非行は治まらない。むしろ、どんなに悪いことをしても、相手にしないほうが、非行を抑えることになる
・現在、心理学のカウンセリング理論でもアドラーの影響を受けたとされるロジャーズ型のカウンセリングや認知行動療法が隆盛を誇っている。さらに自己啓発や企業トレーニングに大きな影響を与えたデール・カーネギーもアドラーの影響を強く受けたとされるわけだから、落ち目と言われるフロイト学派と比べて、こちらのほうが実用的なのだろう
・この考え方は、われわれに重要な警鐘を鳴らしてくれる。たとえば、いじめを苦にして自殺する子供の多くは、自分の恨みなどを書き残したりする。死ねば、それが注目されて、いじめた相手も批判されるというのが目的ならば、いじめ自殺の大報道は、むしろ同じような目的をもつ子供のいじめを誘発することになる。現に中野のS君、愛知県のO君のいじめが大報道された年は前後の年と比べて4割から倍以上も中学生の自殺が多かった。 いじめの原因を社会病理などと追及するより、目的に着目したほうが「いじめ自殺」を減らせるということだ
・実際、犯罪捜査でも、よほどの猟奇事件でなければ、近所の変質者をマークするより、動機のある人間が捜査対象になる。経験的に目的のほうが重要だとわかっているのだろう
▽株主資本主義が引き起こした犯罪
・前置きが長くなったが、このような事件について、動機や目的を究明していったほうが、今後の再発予防につながるということになる
・一連の企業による不祥事の動機は、利益追求ということになるのだろうが、それを否定してしまっては資本主義の考え方は成り立たない。 もちろん不正なやり方での利益追求というのはいつの時代でも許されるものではないし、原則的に社会的制裁も含めて処罰を受ける
・だから、不正を働いてまで利益を得るということは、かなり強い動機づけがあったと考えられる。それが過去と違うということであれば、それが現在、起こりやすくなっているという風に見ることができる
・私が見るところ、それは株主資本主義ともいうべきものなのではないだろうか?  株主が強くなり、かつてのような持合いも許されなくなると、単年度に極力多くの利益を出さないといけなくなる。もちろん、今回の不正でVW社の株価は下がり、課徴金などを払いきれるのかとさえ言われているわけだが、もし発覚しなければ、開発コストを大きく下げ、利益を生んでいたことも確かだ。 東芝の利益操作などは、それがもっと直接的な形で現れたと言ってよい
▽終身雇用の崩壊で会社存続のインセンティブが失われた
・株主資本主義と言われる前の時代であれば、間接金融が主であったので、むしろメーンバンクと言われる銀行は、利益獲得に焦って会社の存続が危うくなるより、会社の長期的な存続を願った。しかし、今は、目先の利益を出さないと株主の多くは納得しない
・逆に、それを出せていれば、経営者の座も安泰になる。  さらに終身雇用、年功序列の崩壊も大きいように思える。 終身雇用や年功序列というと、そのせいで社員が働かなくなると論じられて久しい。ただ、現実には、終身雇用、年功序列の時代の日本の従業員はよく働いた
・これも動機を考えてみると納得できる。終身雇用で雇用が保証されるのは、会社が長期間、定年のときまで存続した場合である。だから、会社が潰れるようなことを恐れ、また会社のイメージが悪くならないように努めるインセンティブが働く。成果主義のように自分のために働くのでなく、会社が潰れないために働くのである
・また、年功序列もやる気をそぐように言われるが、逆に若いころは安月給でがまんしている。つまり、会社に金を貸して、それが中高年以降に返ってくると言っていいシステムなので、やはり会社の存続のために働くインセンティブが強く働く
・さらに、少々のことでクビにならないという保証があれば、経営者が暴走しても諌める人間も出てきやすいだろう。クビのリスクのある職場では、経営者の暴走を抑える別のシステムが必要だ。 私自身の個人的印象だが、今の日本の会社というのは、目先の利益の追求に精いっぱいで、将来の存続を強く意識していないところが増えている気がする
▽会社の評判より単年度利益のほうが大事!?
・私は91年から94年までアメリカに留学していたが、当時の日本製品の信頼は格別だった。とにかく、アメリカ人がどんなに手荒い使い方をしても、家電品にしても、自動車にしても故障しないのだ。   ヨーロッパでも、その神話がさらに強いのだろうか、アメリカでは日本より日本製品は安かったが、パリでははるかに高いのに、みんなが日本製品を欲しがった
・そんなこともあって、私はスマホにせよ、PCにせよ、日本製品をなるべく使うようにしているのだが、常にその信頼は裏切られている。 文筆業だからネットでの調べ物が多いのは確かだが、ワードと、IEと、メールソフトしか使わないのに、フリーズはしょっちゅうだし、せっかく書いた文書が飛ぶことも珍しくない。そして、再起動すれば治ることが多いが、データが重いせいか、それにものすごく時間がかかる
・しかし、おそらくPCのメーカーは、使い方が悪い、Windowsが悪いということで通してしまうことだろう。 もちろん言い訳がいくらでもできることにあぐらをかいているのだろうが、いくら言い訳をされても、二度と同じメーカーのものは買わない。そういうことがわかって進言する従業員がいないことにあきれてしまう。あるいは、さんざん個人のブログでは、実名入りでそれらの製品の悪口を書き続けているが、一度としてメーカーの人間からレスポンスがあったこともない。自社製品がいろいろと書かれていて、それをチェックする部署もないのだろうか?
・こういう実情を体験すると、今の日本企業というのは、会社の評判(将来の生き残りにつながる)より、単年度の利益のほうを追及していることが痛感させられる。ならば、今、表に出ている会社でなくても、不祥事は続くのは当たり前だが、潰れるくらいのダメージを受ければ、多くの会社の幹部も考え直すかもしれない
▽負のインセンティブが働かない建築業界
・もう一つ、建築業界の不正だが、これについては、負のインセンティブ、つまり罰が働かなすぎるのではないだろうか?  笹子トンネルの崩落事件の際に、私の知る建築関係の人たちは、みんな手抜き工事のせいだろうと論じていた。実際、長いトンネルの中で、ある一部分だけ崩落したのだから、なんらかの手抜きがあったのは容易に想像できる
・しかし、その業者が調べ上げられるのではなく、工法上の問題と耐用年数のことばかりがやり玉に挙げられ、最終的に多くのトンネルで改修工事が行われた
・手抜きをすると罰せられるどころか、余計に仕事が増えるのだ。高速道路にしても、しょっちゅう同じ場所で工事をしているが、まじめな工事でこんなことが起こるのか検証されることがない。自動車の保有台数は、この10年くらいほとんど増えていないし(ドライバーの高齢化に伴い、公道を走る車は減っているという話もある)、道路の材質などの技術も多少は進歩しているはずだ
・もし、これが何らかの手抜きによるものだとしたら、手を抜いて、道路のコンディションが悪くなるほうが翌年も仕事が回ってくる状況が続く限り、このような手抜きが横行してしまう。業者を不当に儲けさせるだけならいいが、事故につながらないとは限らない
▽企業不祥事の対策は原因論より目的論で考える
・福島第一原発の事故の際も、ある雑誌で、アメリカの売れ残りの機種を押しつけられたという経緯を読んだ。要するにアメリカの国内の競争で、性能や安全性で劣るとされて負けた会社のものを使ったということだった。その会社は、巨額賠償に怯えたらしいが、福島第二原発も女川原発も無傷だったのに、比較が行われず、東電だけが悪いという話になって、また原発全部が危険だという話で終わってしまった
・笹子トンネルにしても福島第一原発にしても、まともな原因追求が行われず、親会社ばかりに責任を問う姿勢が続いている限り、下請けの手抜きに負のインセンティブが働くことはない
・終身雇用のころから、建設業界というのは、技術さえあれば、転職が比較的容易な業種であったようだ。会社が潰れても雇用が確保されるなら、利益を出せと言われたら手抜きに走ってしまうことは容易に想像できる
・原因を追及するより、目的を考えろというアドラーの考え方を援用すれば、会社の体質や個人の資質(もしそれだけの問題であれば、東芝のように三代も続けて行うということはまず考えられないだろう)という原因論でこの手の不祥事を考えるより、手を抜いているほうが儲かるだとか、建物が傾くというレベルの手抜きをやらないでばれない限りは、罰せられることはまずない、というようなインセンティブの問題を論じるほうが、はるかに有効な対策が考えられるのではないか?
・たとえば高速道路の場合、10年というような長期一括契約をして補修費用もその中に含むということになれば、手抜きをして何回も工事をすればするほど業者が損をすることになる
▽長期的な企業価値を見る投資家が増えれば不祥事は減少?
・今回の記事を書くためにインターネットをいろいろと検索したが、昔と比べ物にならないくらい、以前にやった不正事件が記録に残るという負のインセンティブはもう働いている(ある不正事件が起こると、過去にやった会社がすぐに思い出されるようになった)
・間接金融の時代は、メーンバンクはブランドイメージに煩かったという。直接金融の時代でも、ウォーレン・バフェット氏のような単年度利益より、長期的な企業価値をみる投資家が主流になれば、こういう事件が少し減るかもしれないというのは、心理屋の甘い観測なのだろうか?
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/306192/102600018/?P=1

次に、モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授の渡部 幹氏が、10月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「三井不動産、VW、東芝で商魂が良心に勝った心理とは」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
▽トップの責任逃れが目立つ昨今の企業不祥事
・本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説
・大企業の不祥事が続いている。東芝の不正会計問題、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題、そして三井不動産の横浜のマンション傾斜問題と、大きな不祥事が立て続けに起こっている。それ以外にも、食品関係企業の産地偽装問題は、相変わらず後を絶たない
・これらの不祥事が起こるたびに指摘されるのが、「バレたら会社の屋台骨を揺るがす事態になるのはわかっているのに、なぜ、そんなことをするのか」という点だ
・大抵の場合、その原因は「グローバル化によるライバルとの過熱競争」「大企業病」というレッテル貼りで終わってしまうことが多い。そして「本当に何が起こったのか」が検証されないまま問題は処理され、そして年月が経つと同じことが起こってしまう
・この「本当の原因」を調べるためには、当事者たちからの十分な聞き取りと精査が必要なのはいうまでもないが、大抵の場合はうまくいかない。当事者は、特に自分に非のある場合には、それを話したがらないし、自分の非を話そうとする者は、時に非合法な手段で口止めをされることもある。そのため、全貌はなかなか明らかにならない
・しかし、さまざま不祥事を比較し、そこに共通するファクターを洗い出すことで、こういった不祥事が「起こりやすい」土壌を特定することは、ある程度可能だろう。そして、ここ最近の不祥事に共通するファクターとして目立つのが「トップの責任逃れ」である
・VWの会長は不祥事発覚後、「これは一部の社員によるもの」と主張し、自身の関与を否定。だが、さまざまな状況証拠を見る限り、その主張はにわかには信じがたい。特に不正プログラムは、非常に入念に作られており、問題の起こった米国だけでなく、他の国でのテスト走行の「くせ」をも自動的に検出できるようにカスタマイズされている。これは、下請けのボッシュ社が納入しているが、これだけ精巧なものを「一部の社員の独断」でできるとは到底思えない
・VWが検出テストを不正にパスすることを目的として、発注したと考えるのが普通だろう。ボッシュがその目的を知っていたかどうかは不明とされているが、ボッシュ側はVW社宛に「このプログラムは不正使用が可能なので気を付けてください」との警告文を送っている。これにより、ボッシュ側は「不正の意図はなかった」と主張
・だが、第三者からみると、ボッシュはVWのせいにしようとし、VWはボッシュのせいにしようとし、CEOは一部の社員のせいにしようとする、という「責任のなすりあい」に思えてしまう
▽普通レベルのモラルでは過当競争のプレッシャーには勝てない
・最近の横浜のマンション傾斜・偽装問題については、まだ真相は解明中だが、すでに三井不動産側は旭化成建材のせいと主張。本当に100%、旭化成建材のせいなのか。三井不動産や、施工者である三井住友建設の責任はゼロなのか。まだ十分な調査がなされていない段階でのこうした言及は、真相がどうあれ、第三者からみると「責任の押し付け」に思えてしまう
・そして2011年の福島原発事故当時、東京電力と官邸は「責任のなすりあい」をしていた。このように、不祥事の後に当事者が責任を押し付けあうのは、文化や時代を問わず、常に起こり得ることだ
・こうした不祥事が発生する原因は何か。最もよく言われるものを述べてみよう。  ひとつは、コスト削減のプレッシャーとライバルとの競争によって、無理をしてでも売り上げを得なくてはならないという「経済圧力」による説明だ。VWの場合、トヨタをはじめとするライバル社たちとの熾烈な競争があったとされるし、デフレの進むなか、価格を低めに抑えつつ、一定のクオリティを保ったマンションを作らねばならないプレッシャーが、三井不動産や三井住友建設、旭化成建材にはあった
・そういった経済圧力のもとでは、モラル上、越えてはならない一線を踏み越えてしまいやすい、というのがひとつの原因である
・この論で考えるならば、悪いのは企業でもそこで働く人々でもない。過当競争、ひいては資本主義となる。働いている人々のモラルは、私たちとは変わりない「普通レベル」だ。そうした状況に置かれれば、たいていの人は不祥事に手を染めてしまう。ならば悪いのは「制度」のほうだ、という論になる
・したがって、解決法は過当競争をやめるしかない。そのための制度改革か、あるいは、「勝たなくてもいい会社」にするしかないのだ。 だが、ほとんどの場合、当事者がこの論を主張することはない。彼らはその制度の中でのゲームプレイヤーであり、過去には勝者だったこともあるからだ。そして何より、それを主張しても認められないからだ
▽他人は「欲望に屈した」と見るが 当事者の本音は「やらざるを得なかった」
・社会心理学の研究に「対応バイアス」というものがある。例えば、ある日本人が「竹島は韓国領土だ」という主張を無理やり「やらされている」とする。見ている人は無理やりやらされているのをわかっている。しかし、それにもかかわらず、多くの人が「その人は(ある程度)好きだからそう主張している」と考えがちになる、という現象だ
・一方で、やらされている本人だけは「仕方なくやっているだけで本意ではない」と理解している。つまり、人は他人が何かしていると「やりたくてやっている」と考え、自分のやっていることは「むしろ状況に応じて仕方なくやっている」と考えがちになるのだ。これを専門用語では、基本的帰属エラーと呼ぶ
・企業で不祥事が起こった場合、その不祥事を起こした本人は、そんなことをしたくはなかったのかもしれない。しかし、上司からのプレッシャーや脅しなど、さまざまな外的要因によって、「やらざるを得なく」なることもある。しかし、いったんやってしまったからには、周囲および第三者は「自分たちが甘い汁を吸いたいがためにやった」と考えがちになる
・このように、私たちには「他人が悪いことをするのは、それでいい思いをしようとするからだ」と考えるバイアスがある。企業の不祥事の場合、それが発動するので、当事者がどんなに外的要因を主張しても、いわゆる「世間」は納得せず、当事者の「欲望」「モラルの欠如」などを要因に挙げることになるのだ
・そもそも、人間誰もが少なくともある程度、自分の欲求を満たすべく行動しがちだ。ちょっと悪いことをすれば、お金が手に入る、地位が手に入る、といった「インセンティブ」があると、普通の人でも犯罪に手を染める可能性は高い
・そういった「インセンティブ」を振り切って、自らの信念とモラルに従う人は少ない
・しかし、だからこそ、今の組織に求められているのものは、そういった高いモラルを持った責任者、つまりリーダーだ。一線を越えればライバルに勝てる、ちょっと悪事に手を染めれば莫大な利益になる、といった誘惑をものともせず、組織のモラルとヴィジョンを打ち出せる人材である
▽ケースバイケースで決定が変わるようなトップでは不祥事は防げない
・実は人間のモラルというのは、ちょっとしたことで簡単に変わることがわかっている。 ニューロ倫理学という分野がある。そこで使われる2つの有名な倫理課題がある。ひとつは、「今あなたは、列車が猛スピードで走ってくる中、レールが2股にわかれる場所でレバーを握っています。あなたがレバーを押すか引くかで列車がどちらに行くかが決まります。レバーを押した場合、2股の先には5人の人が線路に括りつけられています。列車のスピードを考えたら、この5人は確実に死にます。レバーを引いた場合、2股の先には1人の人が線路に括りつけられています。この人も確実に死にます。もう列車を止める術はありません。あなたにできることは、レバーを操作することだけです」。 このとき、あなたはレバーを押して5人殺すか、引いて1人殺すかを決断しなくてならない、というものだ
・もうひとつの課題は、「いまあなたは列車が猛スピードで走ってくる中、橋の上で列車が通りすぎるのを待っています。橋をくぐった先には、5人の人が線路に括りつけられています。列車のスピードを考えたら、この5人は確実に死にます。ただし、いまあなたの目の前に1人の人がいて、ちょうど線路の真上、橋ぎりぎりのところに立っています。あなたがこの人の背中を押して橋から落とせば、列車はその人をはねて止まることがわかっています」。 このとき、あなたは目の前の人を突き落として1人殺すか、突き落とさないで5人殺すかの決断をしなくてはならない
・お気づきと思うが、この2つの問題の構造は同じである。5人殺すか1人殺すかである。だが、前者の問題では、多くの人が「1人殺す」と答えるのに対し、後者の問題では、「突き落とさずに5人殺す」と答えるのである
・その後の研究で分かったのは、後者の問題は、1人を殺すことに、より「責任を感じる」ようにできていることだった。人は、同じ倫理課題でも「自分の責任」であるかどうかによって、判断が違ってくるのだ
・不祥事を起こさないために必要なリーダーは、このような問題の出し方で決定が変わるような人ではなく、すばやく問題の構造を見抜く目をもって、どの場合でも「自分の取るべき責任」を認識できる人である
・残念ながら、研究の結果では、そういう人は多くない。だからこそ、そういう人をトップに据えらえるかどうかが重要となる。企業不祥事の問題は、経済制度、心理の問題だけではなく、人事の問題でもあるのだ
http://diamond.jp/articles/-/80686

両氏とも、原因追究の限界を指摘して、目的論やインセンティブを重視して分析すべきとしている。結論的には、和田氏は、「単年度利益より、長期的な企業価値をみる投資家が主流になれば」と「心理屋の甘い観測」で逃げてしまっている。渡部氏は、「高いモラルを持ったリーダー(トップ)」に答を求めている。
私は、原因追究に限界があることは事実だが、利害関係のない第三者が原因追究をすることには大きな意義があると考える。「高いモラルを持ったリーダー(トップ)」については、トップといえども競争圧力の強いプレッシャーを受けると、「高いモラル」を維持し続けられる人は「研究の結果では、そういう人は多くない」とすれば、やはり「ないものねだり」ではなかろうか。
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