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日本郵政(その6)上場を控えて [経済政策]

日本郵政については、前回は8月12日に取上げた。日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の異例の親子同時上場を来月に控え、売り出し価格も決まったところで、(その6)上場を控えて として取上げたい。

先ずは、9月25日付け日経ビジネスオンライン「郵政グループが「親子同時上場」を選んだワケ 矛盾の根源は改正郵政民営化法」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本郵政グループの民営化の中でも何かと問題視されるのが史上初の「親子同時上場」だ。日本郵政と株主である財務省が、この苦肉の策にも見える上場スキームを選んだ背景には、矛盾の根源となっている改正郵政民営化法がある
・「その時の政権の考え方次第で、民営化の方向性を簡単に変えられるようになっている。良く言えば芸術的、悪く言えば玉虫色の法律だ」。日本郵政の幹部は現在の民営化法についてそう指摘する
・2005年に小泉純一郎内閣で成立した当初の郵政民営化法は、金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の株式の完全売却に2017年9月末という期限を設け、これを最大の目的としていた
・同法では持ち株会社の日本郵政株も3分の1超を残して処分することとなっていたが、期限がないため実質的に後回しとしていた。まず金融2社を完全に切り離すことで日本郵便(当時は郵便事業会社と郵便局会社)へ入る業務委託手数料などのブラックボックスにメスを入れ、非効率な郵便局の経営を改善する狙いがあったからだ
・しかし、2009年の民主党への政権交代によって改革の流れが中断し、さらに東日本大震災の発生で郵政株の売却自体に新たな意味が生まれた。「官から民へ」という郵政民営化の本来の趣旨に、「復興財源の確保」というもう1つの目的が加わることとなった
▽幻の「親会社のみ上場」案
・こうして 2012年に成立した改正郵政民営化法は金融2社の売却期限を撤廃。日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命が順番、時期も含めて自由に上場することができるようになった。日本郵政の斎藤次郎社長(当時)が民主党政権末期の2012年10月にまとめた郵政グループの旧上場計画は、親会社の日本郵政だけが2015年秋に上場するというものだ。金融2社株の扱いについては、郵政株の売却が50%程度進んだ段階で民間株主を交えて検討する、として事実上、棚上げにした
・この計画はその後、自民党の政権返り咲きにより幻となったが、一定の合理性があった。一般的に親子上場は望ましくないとされる。親子で上場した場合、親会社が子会社の経営方針を自らの都合の良いものにするなどして、子会社の株主に不利な状況を作る可能性があるからだ。100%子会社のままなら、例えば業務委託手数料もあくまでグループ内での利益配分の話になるので幾らだろうと問題にはならない
・東京証券取引所も「グループの経営資源の概ね半分を超えるような中核的子会社の上場は慎重に判断する」との通達を過去に出している。グループ総資産の過半を占めるゆうちょ銀はまさに中核的子会社にあたる。こうした事情を踏まえれば、金融2社株を100%持った日本郵政だけが上場する方が話はシンプルで、投資家にも分かりやすいはずだった
・民営化の本来の趣旨からは外れるが、グループ各社の上場時期を自由にできる改正民営化法を基に、郵政グループの枠組みを維持しつつ、より民間企業に近い上場形態にしようとしていたと考えられる
▽法改正なく上場スキーム変更
・2012年末に政権に返り咲いた自民党は、金融2社の早期売却を再び目指した。実はそこでも”玉虫色”の改正民営化法が生きる。法改正しないままでも、上場スキームを抜本的に変えることが出来るからだ。自民党は民営化法の改正時に民主、公明と3党合意しており、自ら再改正に動きにくいという事情もあった。ただ、復興財源に充てることができるのは、あくまで政府が保有している日本郵政株で、こちらの上場を後回しにするワケにもいかない
・こうして様々な事情を折衷して、親子同時という史上初の上場スキームが決まり、東証もこれを承認した。関係省庁幹部は「法律自体が矛盾を抱えているから、それに基づいた上場計画が矛盾を抱えるのはある意味、必然だ」と声を潜める
・では、本当に金融2社株の完全売却は進むのか。郵政グループが昨年末に公表した新上場計画は、金融2社株の売却スケジュールについて「まずは50%程度となるまで段階的に売却する」と書いてある。現時点で旗を降ろせば法律違反になるため、将来的な完全売却方針は打ち出したままだ。しかし、「まずは50%」とわざわざ断った点を踏まえ、郵政グループが本当に虎の子の金融2社の完全売却を目指すのか疑問視する声もある
・郵政グループには永田町も含めて利害関係者が多く、明確な方向性を打ち出して物事を進めれば、必ず摩擦を生む。上場の順番や時期などを定めていない現在の民営化法は政権にとっては扱い易いが、それゆえに矛盾はいつまでも消えない
・民営化法の再改正について、誰も表立っては議論していない。だが、ある郵政関係者は「そう遠くない将来、真剣に議論しなければいけない時期は来る」と語る。こうした矛盾を抱えたまま11月4日に迫った上場は、ゴールではなく民営化のスタートに過ぎない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/092400036/092400001/?P=1

次に、10月20日付け東洋経済オンライン「ゆうちょ銀行と日本郵便、「相互依存」の矛盾 銀行株の売出価格は仮条件上限となったが・・・」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・10月19日、ゆうちょ銀行IPO(新規上場)株の売り出し価格が1450円で決定した。1250~1450円とされた仮条件価格の上限で決まった形だ。売り出し株式数は4億株強だが総需要株式数はこれを十分に上回り、しかも需要の相当数が上限価格だったことなどが勘案された。19日夕方以降、各証券会社でIPO株購入申込権の抽選結果が明らかになり、当選して購入を決めた人は23日までに申し込むことになる
・そのような、ゆうちょ銀行株の購入申込期限が迫りつつある10月15日、全国銀行協会の佐藤康博会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は、定例会見で、ゆうちょ銀行が抱えている本質的な問題を、記者からの質問に答える形であらためて指摘した
・「ゆうちょ銀行と日本郵便との取引にかかわる透明性を確保することが重要だ。両社の間の契約の内容あるいは今後のあり方が、しっかりと示される必要がある。その不透明感が残ることはありえない」
▽年間6000億円もの手数料を日本郵便に支払い
・というのも、ゆうちょ銀行は日本郵便に対して毎年6000億円強もの委託手数料を支払っている。ゆうちょ銀行の営業経費1兆円強の5割以上にのぼる最大経費だ。ゆうちょ銀行は、全国に2万4000カ所以上の店舗があるが、自ら構える本支店・営業所はわずか234カ所のみ。99%以上は日本郵便の郵便局に窓口業務を委託している。ゆうちょ銀行の実際の営業は郵便局員に依存しているのだ。そうした営業現場を担う日本郵便とゆうちょ銀行との間の契約内容や今後のあり方は、これまで十分に示されてこなかった
・目論見書など新規上場にかかわる資料では、ゆうちょ銀行が日本郵便に支払っている委託手数料の内訳と定義について、初めて明らかにされた。2015年3月期の委託手数料は6024億円。その内訳は、窓口基本手数料2509億円、貯金関連2202億円、送金等968億円、資産運用商品関連23億円、営業・事務報奨321億円だった
・このうち「貯金関連手数料」は、日本郵便が取り扱う郵便貯金の平均残高に料率を掛けたもの。料率は、ゆうちょ銀行直営店での業務コストをベースに算出される。「送金等手数料」や「資産運用商品関連手数料」も、日本郵便が取り扱う送金等件数や資産運用商品販売額に、ゆうちょ銀行直営店での業務コストをベースに算出された単価や料率を掛けて算出される。これら3つの手数料は、業務の量に応じた算定になっているので、ある程度の透明性はあると評価できる
・しかし、最大額を占める「窓口基本手数料」は、「当行の管理会計により毎年算出した単位業務コストに日本郵便での取り扱い実績を乗じた額を算出し、その中から、郵便局ネットワークの確保のために、郵便局維持にかかわるコスト(日本郵便の管理会計による当行委託業務配賦分)」として、支払っているのだという
・わかりにくい表現だが、要は郵便局を維持するためのコストの一部をゆうちょ銀行が負担しているということである
▽郵便局の維持コストを間接的に負担
・郵便局の大半を持っているのは日本郵便。その日本郵便には、ユニバーサルサービスの責務が課されている。あまねく全国において公平に、郵便や貯金、保険などのサービスを利用できるようにする責務があるのだ。利用者が極めて少ない過疎地であっても、サービスを提供しなければならない。採算だけに基づいて過疎地の郵便局を閉鎖するようなことはできない形になっている
・ゆうちょ銀行は、そうしたユニバーサルサービスの責務を課されていない。しかし、「窓口基本手数料」の定義からいえば、ゆうちょ銀行も、ユニバーサルサービスのコストの一部を間接的に負っていることになる
・日本郵便は主力の郵便・物流事業セグメントの営業損益が赤字。ゆうちょ銀行やかんぽ生命からの手数料収入で補って、トータルでは営業黒字を確保しているものの収益性は低い。今後、郵便物が一段と減少するなどして郵便・物流事業の収益性が悪化したとき、「郵便局維持」の名目で、ゆうちょ銀行が日本郵便に支払う手数料が引き上げられる可能性も否定できない
▽ゆうちょ銀行が合理化すると親会社の収益が悪化?!
・一方、ゆうちょ銀行が直営店での業務コストを削減すれば、ゆうちょ銀行は、支払う手数料を減らすことができる。しかし、その分、日本郵便がゆうちょ銀行から得る手数料収入は減少する
・日本郵便にとって、ゆうちょ銀行からの手数料収入は、かんぽ生命からの手数料収入を上回る重要な収益源。これが大きく減るようなことになると、日本郵便はますます厳しい業績に追い込まれる
・日本郵便の株式を100%保有するのは日本郵政。ゆうちょ銀行の筆頭株主も日本郵政。ゆうちょ銀行、日本郵政とも11月4日の株式上場を予定している。ゆうちょ銀行が直営店のコストを効率化すると、親会社である日本郵政の収益が悪化するというアンビバレントな関係の下で、ゆうちょ銀行はどこまで本気で業務コストの削減に取り組めるのか
・日本郵便への委託手数料次第で、収益性が大きく変わるゆうちょ銀行。その手数料は今後どうなるのか。両社の関係はどうなっていくのか。上場を前にした今も、不透明感は残ったままだ
http://toyokeizai.net/articles/-/88838

これだけ、ねじれにねじれた上場の経緯からは、どう見ても「筋が悪い」上場である。もっとも、個人投資家は配当利回りの高さに惹かれて応募に殺到したようだ。日経ビジネスオンラインが指摘するように、金融2社について、『「まずは50%」とわざわざ断った点を踏まえ、郵政グループが本当に虎の子の金融2社の完全売却を目指すのか疑問視する声もある』、しかも50%超を売却した段階で金融2社の新規業務は、認可制から届出制に移行し、基本的に自由になる。とすると、50%超を売却した段階で売却がストップし、完全民営化はなかなか進まないといった懸念も残る。
また、50%超を売却した段階でも、国の出資分は残るので、金融2社には国の信用力という大きなメリットも残ることとなる。本来、新規業務を認可制から届出制に移行するのは、完全民営化後とするべきであった。
さらに、不透明な窓口基本手数料が恣意的に決められる余地も否定できない。
そもそも、ゆうちょ銀行やかんぽ生命は、旧国鉄の民営化と異なり、地域分割を一切せずに、巨大な図体のまま民間の市場に出てくることとなり、競争条件が大きく歪むこととなる。
これほどの問題を抱えたままの、上場の強行には首を傾げざるを得ない。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
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