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習近平主席訪英(その2) [外交]

昨日に続いて習近平主席訪英(その2)を取上げよう。

首脳会談で合意したあと1つのヒンクリー・ポイント原発について、10月30日付け日経ビジネスオンラインが英国The Economist誌を転載した「仏EDF、中国企業と共同で英国に原発を建設」のポイントを紹介したい(▽は小見出し)
・中国の習近平国家主席が訪英している最中、仏電力大手EDFは、英国のヒンクリー・ポイントの新原発を中国国有企業と共同で建設することで合意したと発表した。だが、予定されている欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設は、これまで数々の困難に見舞われ、ほかのプロジェクトでも計画が遅れ続けている。EDFの財務状況も苦しい。コスト高の新型炉が作り出す割高な電力を、英国の消費者は受け入れるだろうか
・フランス北西岸、フラマンビルの村に1軒のスポーツバーがある。プラスチックのテーブルが並び、画面のぎらつくテレビが1台だけ置かれた小さな店内にいる3人は、原子力発電所のすぐ脇で暮らしていることなど少しも気に掛けていないようだ
・ここで18年営業している店主は(名前を尋ねると、「ジャック、ただのジャックだ」と答えた)、ドアの脇で寝そべっている毛の抜けた犬と同じくらい、原発事故の不安とは無縁な様子だ。 フラマンビルの住民はみな、同様の態度を示す。窓に花を飾った石造りの家が並ぶこの村には、1980年代半ばに原発が建設された。それ以来、2基の原子炉が稼働する この原発で4000人の従業員や請負業者が働いているのだ
▽困難に見舞われ続けるEPR原子炉
・しかし今、この原発で建設中の大型の3号機が、世界中の注目を浴びようとしている。これと同じ欧州加圧水型原子炉(EPR)が、海峡を挟んだ英国に近く建設されることが決まったからだ
・世界最大の電力会社であるフランス電力会社(EDF)は10月21日、中国の国有企業、中国広核集団(CGN)と、英国南西部サマセット州のヒンクリー・ポイントCに、フラマンビルと同じEPR型の原子炉2基を建設することで合意した。EDFは、フランス政府が株式の大半を保有する、ほぼ国有企業だ。EDFはこの原発の3分の2を、CGNは3分の1を所有する。この原発は2025年の運転開始を目指しており、建設費は245億ポンド(約4兆5300億円)を見込む
・2007年に建設が始まったフラマンビル3号機の歴史を振り返ると、ヒンクリー・ポイントC原発の建設がいかに困難な事業かが見えてくる。フラマンビル3号機は5年で完成する計画だった。しかし、EDFはこの10月に、完成予定をさらに2020年まで延長するよう政府に正式に申し入れた。当初は33億ユーロ(約4400億円)だった予算は、今では3倍以上の105億ユーロ(約1兆4000億円)に膨れ上がっている
・新型のEPR原子炉を営業運転まで持っていくのが予想以上に困難であることは、既にはっきりしている。問題の1つは、原子炉設備を供給する仏原子力大手アレバが業績不振に陥っていることだ(こちらもほぼ国有)
・アレバは、2015年3月期決算で50億ユーロ(約6700億円)近い損失を報告した。原因は高騰するコストと、フィンランドで建設中のオルキルオト3号機の工期の大幅な遅れだ。同機は欧州で唯一建設中の別のEPR炉である。2005年に着工したが、運転開始は早くとも2018年になると見られる
・フラマンビル3号機の主な技術的問題は、原子炉において重要な役割を果たす圧力容器の材料の鋼鉄が含む炭素量が多く、強度不足の疑いがあることだ。容器はすでに新しい炉のドーム内に収められており、査察官が強度不足と認定した場合、取り替えに莫大なコストがかかる。また、EDFは6月に、安全弁の働きを再検査していると発表した
▽EDFの負担は増加の一途
・EDFのジャン=ベルナール・レビCEO(最高経営責任者)は、大胆にも「フラマンビルで得た経験は、ヒンクリー・ポイントのようなほかのEPRプロジェクトに大いに役立つ」と述べた。EDFによると、主要工事の98%は完成しているという。だが、ほかの問題が残っている限り、それを言ってもほぼ無意味だ
・EDFの側に立つパリのある銀行家は、フラマンビルの問題を、先頃ラグビーのワールドカップでフランス代表チームが味わった敗北に例え、「失敗は次の奮起につながる」と述べた
・その一方で、EDFの財務的負担は増している。同社は世界全体で730億ユーロ(約9兆7000億円)を売り上げているものの、現在3つの障害に直面している
・第1は同社の主要市場であるフランス国内の電力需要が伸び悩んでいることだ。政府は発電に占める原子力の割合を、2025年までに50%に削減しようとしている。現在は75%だ
・第2に、詳細はまだ詰められていないものの、問題を抱えるアレバの原子炉事業を吸収合併することになる
・そして最後に、EDFは老朽化が進むフランスの多数の原子炉を建て替え、あるいは少なくとも維持していかなければならない。レビCEOは10月18日にフランスのラジオ番組で、既存原発の建て替えまたは維持だけで、約500億ユーロ(約6兆7000億円)の資本支出が必要だと述べた
・当然のことながら、格付け会社がEDFの財務見通しを安全と見なしているのは、政府の支援があるからに過ぎない。同社のバランスシートが拡大しているように見える主な原因は、将来の原子炉解体のために多額の引当金を積んでいるからだ。このため、英国で原子炉建設計画を進めるための資金を捻出し、負債を圧縮するために、恐らくイタリアなどにあるほかの資産を100億ユーロ(約1兆3000億円)ほど売却することになるだろう。買い手を見つけることができればの話だが
▽英政府の政治的判断に国民は納得するか?
・EDFをはじめとする、あらゆる原子力発電企業の将来見通しは、政治家が、原子力の専門技術と雇用を国内に維持しておこうと考え、原発企業を支援するかどうかにかかっている
・ヒンクリー・ポイントのプロジェクトは、2つの条件が揃って初めて実現が可能になった。1つは、この原発が発電する電気に、1メガワット時当たり92.50ポンド(約1万7100円)の料金を英国の消費者が支払うことに英政府が同意したこと。これは現状よりかなり割高な料金である
・もう1つは中国がカネを出そうとしていることだ。今のところ、ほかに手を挙げる者はいない。EDFは、英国のほかの2カ所でEPR炉を建設し、中国の提携先との協力を強める戦略的計画を立てている
・フラマンビルのバーでリキュールを2杯飲み干した後でなら、この賭けは間違っていないように思える。だが、昼間のどんよりと曇った空の下で考え直すと、英国の納税者と消費者がこの巨額のツケを支払うことに同意するか、疑問に思えてくる
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/102700039/?P=1&rt=nocnt

次に、本日付けの日経新聞は「中国、仏アレバに出資 首脳会談 原発市場を共同開拓」と題して、概ね以下のように報じた。
・中国の習近平国家主席は、北京を訪問中のオランド仏大統領と会談し、原子力や環境分野を中心に経済協力を拡大することで合意。仏原発大手のアレバに中国国有大手が出資し、海外の原発市場を共同開拓
・(一部省略)首脳外交で多くの経済協力を取り付けた英独などと同様に、フランスも「中国頼み」を強めている。(一部省略)。仏電力公社(EDF)やアレバなど約40社の企業トップらも同行。首脳会談で合意した経済協力の柱が、原子力分野での協力拡大だ。経営再建中のアレバに対し、中国核工業集団が出資。出資金額や出資比率は明らかになっておらず、年内に詳細を詰める
・アレバを巡っては、三菱重工業がアレバ子会社への出資交渉について年明けの合意を目指しているほか、アレバ本体への出資にも前向きな姿勢。仏側は習氏が主導する「一帯一路(新シルクロード)」構想を後押しするため、中央アジアや中東などでの共同受注に向けて連携を強める狙いだ
・(一部省略)欧州の「ライバル国」がトップ外交で相次ぎ大きな経済協力を取り付けるなか、オランド氏も目に見える形で中国との関係強化を果たしたかった。一方、欧州と接近する中国の狙いも明確だ。年内には人民元がIMFのSDRに採用される見通しなうえ、AIIBも始動。経済力を武器に、南シナ海などで鋭く対立する米国と欧州とを分断したいとの思惑

ヒンクリー・ポイント原発については、その原型である仏のフラマンビル3号機の建設が難航していることからみても、同様に難航すると予想される。資金面の問題は、中国企業がEDFやアレバに出資することで、解決されるだろうが、技術面の問題は残ったままである。
中国主導で建設されるブラッドウェル原発については(昨日のブログ参照)、工事遅延や工事費膨張のリスクは中国側が負うとしても、割高になる発電コストや安全性のリスクは英国や周辺の欧州諸国が負うことになる。
アレバを巡っては三菱重工業の出資交渉が、今回の中国の出資により、どうなるのかも注目点だ。
中国は、ドイツのメルケル首相が訪中した10月29日に、ドイツに元建て取引所を来月に開設することで、 中独首脳が合意。英国、仏、独の3か国を手玉に取る中国外交の手際は、「あっぱれ」という他なさそうだ。
タグ:習近平主席 訪英 日経ビジネスオンライン The Economist誌 仏EDF、中国企業と共同で英国に原発を建設 ヒンクリー・ポイント 新原発 中国国有企業と共同で建設 欧州加圧水型原子炉(EPR) 数々の困難に見舞われ ほかのプロジェクトでも計画が遅れ続けている EDFの財務状況も苦しい コスト高の新型炉 割高な電力 フラマンビル 原発で建設中の大型の3号機 EDFはこの原発の3分の2 CGNは3分の1を所有 建設費は245億ポンド(約4兆5300億円) フラマンビル3号機 5年で完成する計画 完成予定をさらに2020年まで延長 当初は33億ユーロ(約4400億円)だった予算 倍以上の105億ユーロ(約1兆4000億円)に膨れ上がっている アレバが業績不振 技術的問題 圧力容器の材料の鋼鉄が含む炭素量が多く、強度不足の疑いがあることだ 取り替えに莫大なコスト 安全弁の働きを再検査 EDF 3つの障害に直面 英政府の政治的判断に国民は納得するか メガワット時当たり92.50ポンド(約1万7100円)の料金 日経新聞 中国、仏アレバに出資 首脳会談 原発市場を共同開拓 オランド仏大統領と会談 原子力や環境分野を中心に経済協力を拡大することで合意 仏原発大手のアレバに中国国有大手が出資 海外の原発市場を共同開拓 三菱重工業 アレバ子会社への出資交渉 一帯一路 新シルクロード 構想を後押し 米国と欧州とを分断したいとの思惑 中国外交の手際 英国、仏、独の3か国を手玉に取る
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