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杭データ偽装(傾斜マンション)(その4)指摘されていた工法の弱点 [社会]

傾斜マンション問題については、前回は11月12日に取上げた。この問題は、マンションだけでなく、学校などの一般建築物にも広がっているので、タイトルは「杭データ偽装(傾斜マンション)」とした。今日は、(その4)指摘されていた工法の弱点 である。

以前も引用した建築ジャーナリストの細野透氏が11月16日付けSAFETY JAPANに寄稿した「ゼネコンは「大臣認定杭」の弱点を知っていた──データ偽装の闇深し」を紹介したい(▽は小見出し)。
▽杭工事業界シェア25%のジャパンパイル
・杭工事業界でシェア2%の旭化成建材に続いて、シェア25%という大手のジャパンパイルでも、施工データの偽装が発覚。まさに“底なし”の展開を見せてきました。これら杭施工トラブルに関して、意外に知られていないのが、「国土交通大臣も責任を問われる立場にある」という事実です
・旭化成建材は傾斜したマンション「パークシティLaLa横浜」の杭工事にDYNAWING(ダイナウィング)工法を採用しました。これは建築基準法が定めた審査に合格して、「国交大臣認定」というお墨付きを得た工法です。ジャパンパイルもHyper-MEGA(ハイパー・メガ)工法など、やはり大臣認定を得た工法を有しています
・もう一つ知られていないのが、主なゼネコンで構成される「日本建設業連合会(日建連)」の地盤基礎専門部会が、旭化成建材やジャパンパイルの杭工法を含む大臣認定杭に、弱点があることを知っていたという事実です。話が複雑に入り組んでいますので、順を追って説明することにします
・初めに、構造設計者の団体である、日本建築構造技術者協会の「杭基礎工法データ集」に掲載されている、DYNAWING工法の概要(PDFファイル)を眺めてみましょう(図は「データ集」から引用)(リンク先を参照)
・資料の末尾を見ると、まず2004年3月に大臣認定を初取得しています。また技術改良に伴って、2008年と2010年にも大臣認定を取得しています
・旭化成建材はこれを受けて、2006年4月に「DYNAWINGの本格展開について」とするプレスリリースを発表。特に「安定した高品質の施工」について強調しました。「DYNAWINGは、施工管理装置を用いて、安定した根固め液の管理を行い、先端羽根部と根固め部とが一体になることにより、高品質の根固め球根を築造します」
・しかし、傾斜したマンション「パークシティLaLa横浜」では、DYNAWINGの本格展開の直前に当たる2005年12月から翌2006年2月まで、「手抜き工事」なのか「手抜かり工事」なのかが判然としない欠陥工事が行われていたのですから、開いた口がふさがりません。ちなみに、故意に行われたのが「手抜き工事」で、不注意で行われたのが「手抜かり工事」になります
▽「施工の方法が適切に定められているか」
・次に国交大臣による認定の中身を紹介しましょう。日本建築センターの「基礎工法・基礎ぐいの構造安全性審査」のページには、以下の3点が強調されています
 一. 適用範囲の適正さについて評価を行う
 二. 地盤の許容支持力の適正さについて評価を行う
 三. 施工の方法が適切に定められているかについて評価を行う
・ここで問題になるのが、三の「施工の方法が適切に定められているか」という項目です。国交大臣は「適切に定められている」と判断したからこそ、認定書を発行したはずです
・実際のところ、「LaLa横浜」の現場では、施工の方法は以下の「施工体制図」のようになっていました(図は旭化成のプレスリリースPDFファイルから引用)。 これによれば、「LaLa横浜」の現場は三井住友建設の施工管理者、日立ハイテクノロジーの施工管理者、旭化成建材の施工管理者(主任技術者)、1号機と2号機の現場代理人という4重の体制だったことになります
・このうち3人の管理者はきちんと現場に詰めていたのでしょうか、それとも手抜きか手抜かりをしていたのでしょうか。三井住友建設と日立ハイテクノロジーが不自然な沈黙を続けているのに加えて、杭工事報告書が公表されていないため、まだ真相は分かりません
・しかしながら、すでに8本の杭が支持層に届いていない事実と、70本の杭でデータが改ざんされた事実が判明しています。またDYNAWING工法だけでも、全国にある266件の建物でデータの偽装が判明しています。さらに全国紙は「旭化成建材以外の業者の杭工事に関しても、3府県が独自調査を始め、少なくとも1 1府県が準備を進めている」と報じています
・つまり、国交大臣が下した「施工の方法が適切に定められている」という判断は、適切ではなかったことになるのです。 それにしても、三井住友建設はなぜ、杭工事報告書を公表しないのでしょうか。何か隠しておきたい事情があるのでしょうか
▽日建連が把握していた「大臣認定杭」の弱点
・ところで、「施工方法の適切化」に関しては、主要なゼネコンで構成される日本建設業連合会(日建連)の地盤基礎専門部会が、2013年4月に「高支持力埋込み杭の根固め部の施工管理方法の提案―─より良い杭を実現するために」(PDFファイル)とする注目すべきレポートをまとめています
・このうち高支持力埋込み杭とは、旭化成建材のDYNAWING工法やジャパンパイルのHyper-MEGA工法を含む、「国交大臣認定杭」を意味しています。レポートは大臣認定杭の施工管理方法には弱点があるので、次の4つの課題を解決しなければならないと指摘しています(図は日建連のレポートから引用)
・図に示された4つの課題と「LaLa横浜」の杭工事を比較してみましょう
 一. 杭の先端は地盤に所定量入っているか → 杭8本が十分に入っていない
 二. 根固め部の形状・所定の径及び長さが確保されているか → 杭8本の長さが確保されていない
 三. 根固め部の強度・所定強度が確保されているか → 杭45本でセメントミルク量のデータが偽装されている。そのため強度が確保されているかどうかは不明
 四. 根固め部への定着・根固め部への杭の根入れ長さは適切か → 杭38本で支持層の位置データが偽装されている。そのため根入れ長さが適切かどうかは不明
・皆さんも感じたかもしれませんが、日建連のレポートはあたかも、「LaLa横浜」の杭欠陥工事に焦点を合わせたかのような内容になっているのです
▽国交大臣による認定プロセスの問題点
・その上で日建連は、国交大臣が杭基礎工法を認定するに際して掲げている、「施工方法の適切化」に関して4つの提案をしています
 一. DYNAWING工法やHyper-MEGA工法を含む高支持力埋込み杭は、個別に国交大臣認定を取得している
 二. 認定の内容には、製品仕様、施工方法とともに品質管理方法が含まれる
 三. 品質管理とはいっても、実際には杭メーカーの現場担当者が主体となるため、建設会社の施工管理者は受け入れだけとなり、ややもすれば杭メーカー任せとなる懸念がある
 四. 一般に杭の品質管理は、それが地中にあって直接見ることができないため、特に高度な管理手法が必要である
・国交省に遠慮した表現なので分かりにくいのですが、要するに、国交大臣による杭基礎工法の認定プロセスには「問題がある」と指摘しているのです。日建連の結論は以下の図に示されています
・この品質管理フローでは、まず地盤をしっかり調査し、きちんとした施工管理のもとで慎重に施工するように主張。また杭を施工し終わった後には、念には念を入れて強度を確認するように求めているのです。そのためには詳細な施工報告書が欠かせないことはいうまでもありません
・ちなみに日建連の地盤基礎専門部会の委員には、三井住友建設の技術スタッフも名を連ね、調査には旭化成建材やジャパンパイルも協力しています
・日建連の提言を受け入れるかどうかは、国交省が設置した「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」の役割かと思われます。「対策委員会」の皆さん。ゼネコンや杭工事業界だけに責任を押しつけるのではなく、国交省自体への責任追及もお忘れなく
▽地盤工学会編『杭基礎のトラブルとその対策』
・慎重を期す意味で、地盤工学会編『杭基礎のトラブルとその対策』(2015年発行)を調べてみましょう。  「LaLa横浜」で使われた杭工法は、専門用語を使うと「既製コンクリート杭 → 埋込み工法 → プレボーリング工法 → プレボーリング拡大根固め工法」、という分類になります。同書から表「プレボーリング工法のトラブルの種類とその要因」を引用します
・表に示されたプレボーリング工法のほとんどは「国交大臣認定杭」です。杭の施工トラブルが表面化するケースは極めて少ないのですが、それでも56件ものトラブルが収集、分析されています
・また「LaLa横浜」の杭欠陥工事は、表のトラブル要因のうち、5「不十分な支持層調査」、6「不十分な杭建込時の施工管理」、7「不十分な根固め部の施工管理」、9「その他(不十分な杭工事報告書、あるいはその握りつぶし)」という4つの要因に当てはまります。極めていい加減な施工管理だったことが分かります。   日建連の地盤基礎専門部会は、このようなトラブルを心配して、「高支持力埋込み杭の根固め部の施工管理方法の提案」をまとめたと思われます
・地盤工学会は杭基礎に詳しい学会です。『杭基礎のトラブルとその対策』の出版企画委員会名簿には理事、委員長、幹事長、幹事、委員が名前を連ねているのですが、このうち上から3番目の幹事長には旭化成建材の技術スタッフの名前があります。 また編集委員会名簿の上から3番目の幹事長には、ジャパンパイルの技術スタッフの名前があります。何か複雑な気持ちになります
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/111600029/?P=1

専門家ならではの驚くべき内容である。今回の問題では、報道を見る限り、関係者の口が異常なほど重いので違和感を感じていたが、その背景には、上記のような「闇」があったようだ。
日本建設業連合会(日建連)が国交大臣による認定プロセスの問題点を把握し、指摘していながら、国交省がこれにどう対応したのかは検証していく必要があるが、国交省は当然逃げ、業者に責任を押し付けることで決着を図ろうとするだろう。
追及すべき国会は、安部首相が野党からの開会要求を、どうでもいい外遊日程を口実に拒否するという憲法違反が公然とまかり通っているなかでは、期待できない。
マスコミも、記者クラブの発表ものに過度に依存しており、本質的には余り多くは期待できない。とはいえ、これから、各種の調査が発表され、問題の広がりと深さが事実として報道されるにつれ、記者諸君も勉強して問題の本質に迫ってもらいたいものだ。
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