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中台首脳会談 [世界情勢]

今日は約1か月前に行われた歴史的な中台首脳会談を取上げよう。

中国問題の若手専門家の加藤嘉一氏が、11月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「習近平・馬英九会談実現の背景にある動機と懸念」を紹介したい(▽は小見出し)。
▽中国と台湾のトップ会談が実現 両岸が極秘で進めた“習馬会”
・「我々も公表される直前まで知り得なかった。両岸がそれだけ極秘扱いで準備を進めてきたのが今回の“習馬会”ということだ」 11月7日夜(北京時間)、中国共産党元老に親族を持つ“紅二代”の1人が北京で私にこう語った
・“習馬会”とは習近平・馬英九会談を指す。台湾では通常“馬習会”と称される
・11月7日15時、中華人民共和国が建国された1949年以来、中国と台湾のトップ会談が初めて挙行された。上記の“紅二代”もサプライズを示したように、“中台首脳会談”の開催がオーソライズされたのは直前だった。台湾総統府が11月3日深夜に、中国国務院台湾弁公室主任・張志軍が11月4日午前に公表した
・会場はシンガポールのシャングリラホテル。1993年4月、中国側の対台湾窓口機関の1つである海峡両岸関係協会と台湾側の対中国窓口機関の1つである海峡交流基金会それぞれのトップである汪道涵・辜振甫両氏が、中台双方初の“ハイレベル民間対話”を行ったのもシンガポールだった。この“汪辜会談”が歴史的契機となり、その後、中台間における多角的な関係構築や交流促進につながっている。2014年2月には、中台事務方トップ会談が初めて挙行され、中国国務院台湾弁公室の張志軍主任と台湾行政院大陸委員会の王郁[\(^o^)/]主任委員が南京の地で“合流”した
・ 「“習馬会”はシンガポールだからこそ開催できた。リー・クアンユーは天国で微笑んでいるに違いない」 冒頭の“紅二代”はこう述べる
・新華社《参考消息》によれば(“〓小平がリー・クアンユーを通じて蒋経国に送った伝言”、2012年8月15日)、1985年9月20日、中国を訪問中のシンガポール建国の父リー・クアンユーは〓小平との会談中に台湾問題の解決をめぐって話し合った。その際、〓からリーに対して“両岸の指導者が面会し、台湾問題の解決をめぐって意見交換できる場を手配していただけないか”という懇願をしたという。当時、中華人民共和国とシンガポールの間では国交は存在しなかった
・1990年、中国と国交を結び、台湾と断交してからも、シンガポールは中台双方の狭間で“独自外交”を展開した。台湾行政院長をシンガポールに招待し、中国に強硬的で、“台湾独立”を公に主張した民進党が与党として君臨した2000~2008年の間にも、リー・クアンユーは台湾を二度訪問している。2004年7月、リー・シェンロン首相も実父の路線を継承する形で訪台し、陳水扁総統と公に会談している。2016年1月に開催予定の総統選挙における有力候補でもある蔡英文行政院大陸委員会主任(当時)とも会談している
・国交のない首脳同士が表立って会談するなど(それも第三国における国際会議を活用したやり方ではなく、相手側を訪問する形で)通常は考えられないが、シンガポールだから“許されてきた”のかもしれない
・中国共産党にとって、“華人中心の社会”であり、国家建設や人材育成という観点から大いに学んできた参照国家であり、何より習近平自身も“尊敬に値する長者”として慕い、付き合ってきた故リー・クアンユーが率いてきたシンガポールという存在は特別であり続けた(過去記事参照:習近平が尊敬するリー・クアンユーが10年前に指摘した中国社会の“病巣”、中国がシンガポールから学ぶべき内的措置 愛国主義とナショナリズムの“分離”)
・結果的に、分断後初の“中台首脳会談”がシンガポールという第三国で行われた事実は、中台関係という側面だけでなく、東アジアの地政学的情勢を眺めていく上でも、1つの重要なケーススタディとなるであろう。“第三国外交と地政学”という観点からすれば、私は台湾海峡以外に、朝鮮半島の動向にも注目している
▽政治的配慮によって決められた“両岸領導人”という会談の名義
・さて、ここからは“馬習会”そのものをレビューしていきたい。 同会談を公式発表した張志軍は、今回、習近平・馬英九両首脳が“両岸領導人”(筆者注:領導人は“リーダー”“指導者”の意)という身分および名義で会談する旨を説明した。「双方で相談した結果、両岸政治関係における矛盾や摩擦が未解決な状況下において、1つの中国という原則に基づいて手配したものである」(張志軍)
・また、11月4~6日にかけて、中国世論では、習・馬両氏がお互いを“馬先生”“習先生”と呼び合う見込みが大々的に報道・議論されていた(筆者注:先生は“さん”“氏”の意)。ここにも、お互いを「習近平国家主席」「馬英九総統」と呼び合うのは政治的に適切ではないという中台双方からの考慮が働いている
・同時間・同空間で初めて向き合った習さんと馬さん。前者が微妙に早く手を差し伸べると、両者は右手で、約80秒間握り合い、その後25秒間共に手を振りながら、世に向き合った。「(握手の際は)2人とも拳に力を入れていた」(馬英九総統)
・その後行われた会談では、“九二共識”(筆者注:共識は“コンセンサス”の意)という政治的基礎の下、平和的に相互交流を深め、中華民族としての発展を掲げていく旨が謳われた。馬英九から双方の事務方間で緊急かつ重要な問題を処理するためのホットラインを設立してはどうかという提案がなされ、習近平が「早急に対応する」と返答した。そんな習近平の印象を、馬英九は会談後の記者会見にて、「プラグマティックで、融通が利き、率直な方だと感じた」と表現している
・経済や青少年交流をはじめ、多角的に関係や交流を促進していくことが議論されたが、私が個人的に最も注目したのは中台が“分断状態”にあり、かつ双方が異なる政治体制を要するが故に生じている、生じ得る問題を両首脳がどのように描写し、落とし所を模索していくかであった
▽中台間の微妙な駆け引きを象徴する「3つの文脈」
・本稿では、中台間の微妙な駆け引きを象徴する3つの文脈を取り上げる
・1つ目は経済関係である。習近平は“中台経済”について次のように語っている。 「我々は台湾の同胞と共に中国大陸の発展機会を享受したいと思っている。両岸はマクロ政策に関する意思疎通を強化し、各自のアドバンテージを活かし、経済協力の空間を開拓し、共通利益のパイを大きくしていける。そこから両岸の同胞間の受益面と獲得感を増やしていける。貨物貿易、商工会相互設立などに関しては話し合いを通じて、1日も早く合意できるだろう。我々は台湾の同胞が“一帯一路”建設に積極的に参加すること、適切な方式でアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加入することを歓迎する」
・台湾では近年、中国との関係が深まるに連れて自らの経済が中国に呑み込まれるだけでなく、雇用の流出や物価の上昇、さらには法やルールといった分野にまで悪影響が出るのではないかという懸念が高まっている。習近平の発言からは、経済の交流だけでなく、政策決定過程を通じて、また自らが主導するAIIBへの加入を歓迎することによって、中台関係の“一体化”を深めていこうという共産党指導部の戦略的意図がうかがえる
・2つ目が、安全保障と台湾の“国際空間”に関してである。馬英九は台湾の人々が自らの安全と尊厳の問題に大いなる関心を抱いていることに、習近平・中国サイドからの理解を求めたいと提起した
・「台湾の多くの民衆は大陸の台湾に対する軍事措置に関心を持っている。たとえば朱日和基地とミサイルだ。習さんは“関連措置は台湾に向けたものではない”と言っていた」(会談後の記者会見にて)  首脳会談にて、馬英九が「我々の民衆がNGOに参加しようとしても往々にして挫折してしまう。我々政府が地域経済一体化や国際活動に参加しようとしても邪魔が入ってしまう。これらの分野に関して敵意と対立を減らしていかなければならないと希望している」と現状に対する不満を口にしたのに対し、習近平は次のように答えている
・「60年以上の間、両岸は異なる発展の道を歩み、異なる社会制度を実行してきた。進路と制度の効果に関しては、歴史によって検証され、人民によって評価されるべきだ。両岸はそれぞれの発展進路と社会制度に関する選択を尊重し、これらのギャップが両岸交流・協力を妨げたり、同胞の感情を傷つけないようにすべきだ」  「我々は台湾の同胞が国際活動問題に参加したいという考えと思いを理解・重視し、実際に多くの関連する問題の解決を推進してきた。“二つの中国”・“一中一台”という局面を生まないのであれば、両岸は実利的協商を通じて実情に即した合理的措置を取ることが可能だ」
・台湾はこれまでも“国際空間の拡大”、すなわち国際機関・活動への主体的コミットメントを“国策”として掲げてきたが、習近平の発言は、中国側のボトムライン(中国語で“底線”)である“1つの中国”という枠組みの中でなら台湾側の望みを可能な限り尊重していく用意があることを示している。蔡英文主席率いる民進党の躍進が予想されてきた2016年の総統選挙を睨み、経済的妥協をしてでも政治的底線を締めておきたいという共産党指導部の懸念がにじみ出ている
▽中国側が最も譲歩したのは中国と台湾の「歴史認識」
・3つ目が、中台間の歴史認識問題に関してである。 習近平の次の発言に注目したい。 「今年は全民族抗日戦争勝利70周年であり、これは巨大な民族的犠牲によって得られた勝利である。両岸は双方の史学界が手を携え、史料を共有し、史書を共同執筆し、共に抗戦の精神を掲げ、民族の尊厳と栄誉を死守することを支持・奨励すべきである」
・私は今年9月3日に北京で開催された“中国人民抗日戦争兼反ファシズム戦争勝利70周年記念式典”兼軍事パレードを扱ったコラム「中国『抗日軍事パレード』から透けて見える6つの問題点」にて、中国と台湾、共産党と国民党の間で、当時の“抗日戦争”をどちらが主導したのか、両党はどのように闘ったのかを巡って深い溝と立場の摩擦が存在してきたこと、そして中国共産党が昨今の対内外プロバガンダにおいて「抗日戦争の勝利は中国共産党による正しい領導によってもたらされた」(中国中央電視台CCTVなど)と宣伝されていることに、台湾サイドが不満や抗議を露わにしている現状を描写した
・「習近平は抗日戦争の歴史認識をめぐって、台湾・国民党側の主張や立場を考慮し、ある程度尊重しようとしている。“共産党が正しく主導した”などという事実からかけ離れた主張を続ける限り、国民党との距離は縮まらないことを知っているからだ」  その生い立ちから習近平を昔から知る共産党関係者は私にこう語ると同時に、「今回の習馬会で中国側が最も譲歩したのはこの歴史の部分だ」と主張する
▽トップ会談の最大の目的は来年1月の台湾総統選挙か
・以上、3つの文脈から“中台首脳会談”に体現された両岸の駆け引きを洗い出してみたが、シンガポールに場の提供を委ねる形で実現した歴史的会談をプッシュした最大の動機は、共産党・国民党、もっと言えば習近平・馬英九双方の緊急を要するニーズであり、鍵はやはり来年1月に予定されている台湾総統選挙だったと私は捉えている
・習近平からすれば、この選挙で対中強硬的な民進党が与党に躍進し、蔡英文が総統になることを阻止すべく(蔡英文が陳水扁のように“台湾独立”を公約し、掲げていくことは考えにくいが)、国民党に勝たせるために今回の歴史的会談に踏み切ったという要素が濃いのではないか
・「習近平にとって、馬英九との会談は来年1月の台湾総統選挙対策だ。目的は、民進党に対岸の与党を譲らせないためだ」(冒頭の紅二代)
・馬英九からすれば、残り数ヵ月となった任期のなかでレガシー(伝説)を残し、かつ国民党が明らかに劣勢に立たされている選挙キャンペーンの流れをひっくり返すには、たとえ荒削りだったとしても、歴史的会談に踏み切るしかなかった、という側面が強いのではないか。「国務院台湾弁公室として台湾の選挙に介入するつもりはない」(張志軍、“習馬会”後のブリーフィングにて)
・“馬習会”が歴史的であったことは疑いなく、ホットラインの開設や上記3つの分野におけるやり取りを含め、中台関係をこれまでよりも安定的にマネージしていくという意味では未来志向型の会談であった。一方で、双方の思惑が主に“2016年1月”に置かれていたことを考えると、この会談が若干投機的であった側面も否めないと私は捉えている
・とりわけ、“習馬会”実現に必要不可欠であった九二共識に関しては、中国側は“一個中国”をその核心的認識に据えるのに対し、台湾側は“一個中国、一中各表”に据えている。中国側は「中国は1つであり、台湾は中国の一部である」というタテの帰属性を強調してきたのに対し、台湾側は「中国は1つである」ことを承認しつつも、その中身については「各自がそれぞれに述べ合うこと」というヨコの並列性を強調してきた。“中身”とは言うまでもなく中華民国を指し、それは決して中華人民共和国に帰属しているわけではないことを示している
・このギャップはまだまだ埋まらない。ギャップを棚上げした形で実現したのが今回の“習馬会”である。会談を通じて1つ言えることは、中台間で共有できている概念は“一個中国”であり、“一中各表”の4文字は新華社通信やCCTVを含めた中国共産党の宣伝機関が配信する記事に見られないという事実に考えを及ぼせば、少なくとも“九二共識”という「共同の政治的基礎」(習近平)に対する認識とその上に立った行動という意味では、台湾側が譲歩した点は否めないと言える
・今後の中台関係を考える上で、短期的な焦点は総統選挙であろうが、中国側は引き続き、非政治的分野(特に経済)における可能な限りの譲歩を繰り出し、積み重ねつつ、特に国民党と民進党の間で揺れている浮動票を国民党側に取り込むべく策を練り、仕掛けていくに違いない
・そしてより長いスパンで考えた場合に肝心なファクターとなり得るのが、蔡英文率いる民進党が“九二共識”とどう向き合っていくかどうかである。蔡英文の近年の言動を俯瞰する限り、同コンセンサスの“内容を認めない”“存在を否定する”から、“承認もせず・否定もしない”の流れにシフトしていっていると私は認識している。陳水扁とは異なり“台湾独立”を政策に掲げなくなった経緯からも、民進党自体がこれまでよりも“中国寄り”になっている趨勢は明らかである
▽総統選挙で蔡英文が勝利したら“九二共識”をどう扱うだろうか
・仮に来たる総統選挙において、蔡英文が勝利した場合、同氏は“九二共識”に関してどのような立場を持ち、説明をしていくのだろうか。“習馬会”を受けて、蔡英文は馬英九が習近平と会談したことに遺憾の意を示し、「私はこれから台湾人民と共により民主的なやり方で“馬習会”がつくり出した傷害の穴埋めをしていくつもりだ」と宣言した
・蔡英文の今後の実質的動作を占う上で、カギを握るのはやはり“後ろ盾”である米国であろう。同氏およびその周辺は米国と協調しながら対中政策を策定していくであろうし、この構造を誰よりも切実に認識している中国は、逆に対米関係を安定・発展させつつ、対米レバレッジを不断に高めることを通じて、台湾の対中政治的譲歩を引き出していくに違いない
・“馬習会”の実現を前に、米国務院は次のような声明を発表している。 「両岸指導者の会談と近年両岸関係の間に見られる歴史的な改善を歓迎する。双方が尊厳と尊重の基礎の下、関係の構築、緊張的局面の緩和、安定的方向性の促進において一層の進展を図っていくことを奨励する」
http://diamond.jp/articles/-/81344

中台首脳会談(“馬習会”)については、取上げるのを迷ったが、やはり来月の台湾総統選挙を前に、取上げることにした次第である。中国側の“一個中国”、台湾側の“一個中国、一中各表“、さすが漢字発祥の国だけあって、絶妙なキャッチフレーズである。
当面は台湾総統選挙の行方が注目される。
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