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日銀の異次元緩和政策(その6) IMFにも限界説 [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、前回は11月17日に取上げたが、今日は(その6) IMFにも限界説 である。かなり理論的なので、読み難い面もあるが、極めて重要なことなので、お付き合い頂きたい。

11月18日付けの日経新聞経済教室では、元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏による「日銀の量的・質的金融緩和 継続可能はあと2年 マイナス金利採用を」が掲載された。そのうちの限界説に関連する部分のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
▽QQE(質的量的緩和、異次元緩和)は17年半ばにも量的限界に達する
・IMFは8月公表のワーキングペーパーで、民間金融機関が18年末までに売却可能な国債保有額は220兆円程度と推計し、QQEは17年ないし18年に量的な限界に達すると論じた。この分析は、ゆうちょ銀行を含め民間銀行が担保として必要な国債を総資産の5%分保有するとの前提
・だが、民間銀行の担保繰りと公的年金の運用資産見直しによる国債売却などを考慮すると、日銀が銀行、生損保、公的年金などから購入可能な国債はIMF推計の7割弱程度(150兆円程度)。従ってQQEは、IMFが想定するより早く、17年半ばにも量的限界に達する可能性が高い。日銀が国債の買い入れを増やせば、継続可能期間はさらに短くなる
・国債購入に関する量的限界は、日銀が購入する国債価格の水準にも依存。国債の流通利回りがマイナスとなる高い価格を提示すれば、日銀はさらに買い進めることが可能だからだ。2年物の国債利回りは14年末から15年初めにかけてマイナスになった。この時、日銀は損失覚悟で国債を購入。株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)にも同様の限界
・そもそも民間資産の購入については、緊急事態の場合を除くと、資産価格が正常化した後も政府・日銀の下支えが長期化することは決して望ましいとはいえない。日銀は今後、選択肢としてマイナス金利政策を検討すべき
▽マイナス金利で現金逃避招かぬ仕組みを
・欧州中央銀行(ECB)およびスイス、スウェーデン、デンマークの中央銀行は、預金勘定へのマイナス金利を実施
・デンマークでは民間の住宅ローンにもマイナス金利が発生。銀行準備にマイナス金利が付され、それが現金通貨のキャリーコスト(保有コスト)を下回ると現金通貨への逃避が発生すると予想。スウェーデンでは中央銀行の預金勘定に11月時点で1.1%のマイナス金利が付されているが、現金通貨への逃避は生じていないようだ。これは、現金通貨のキャリーコストは1~2%程度であることを意味
・ECBはマイナス金利で国債を購入し損失を被っても、他方でマイナスの預金金利賦課により収入増が期待できるため損失を相殺することが可能だ。もちろん、このマイナス金利にも限界。無利子の現金通貨が存在するからだ。量的緩和政策の枠組みからマイナス金利を含む金利政策の枠組みに復帰するのであれば、ゼロ金利制約そのものを打破し、名目金利をマイナスにすることが求められる
・経済学の世界ではより踏み込んだ議論。ゼロ金利制約を打破する方法には、(1)現金通貨に税を課す(2)現金通貨を電子通貨に置き換える(3)銀行準備を計算単位として残し、現金通貨との交換比率を変動可能なものにする――がある。(3)では、現金通貨は銀行準備に対して一定の率で減価
・筆者には、85年に米経済学者のジェームズ・トービンが提唱した「現金通貨の預金通貨化」提案が魅力的だ。金融機関のみならず個人や企業も中央銀行に預金勘定を設置することを認めれば、あらゆる資金決済がこの預金勘定を通じてなされる。現金通貨は消失し、中央銀行は銀行準備と同様に預金勘定にマイナス金利を付すことも可能になる
・ニューヨーク連銀は最近、このトービン構想を再評価。中央銀行にとって、膨大な超過準備を抱えたまま、市場金利をコントロールすることは決して容易でない。ニューヨーク連銀の提案は、民間銀行を通じて中央銀行に預金勘定を置くのを投資家らにも広く認めることで、短期金融市場(フェデラルファンド市場)への事実上の参加を可能にするというもの
・参加者が増えることで市場は競争的になり、金融政策の波及経路がより有効なものになると期待。主要先進国は、ニューノーマルの下での有効な金融政策について、検討を深めるべきである
(下記のリンクは日経の有料会員限定)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO94104500X11C15A1KE8000/

IMFだけでなく、岩田一政氏までが限界説を主張し始めたのは深刻な事態である。しかも、「現金通貨を預金通貨化」し、「マイナス金利を付す」ということは、量的・質的金融緩和自体は効果がなく、名目金利をマイナスにすることで、実質金利のマイナス幅を広げ、金利を通じて経済を活発化させようという以外に選択肢がないことを意味する。
市場には追加緩和期待がまだ強いようだが、そのような「甘い期待」を抱けるような状況には全くない。
また、「現金通貨の預金通貨化」は理論的にはあり得ても、関連法を改正して実施しようとすれば、国民は猛烈に反対し、安部政権など軽く吹っ飛ぶような大騒ぎになることが必至であり、とうてい現実的な政策提言とは思えない。
しかし、元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏が、こうした激烈な主張を始めた意味は極めて重大である。もはやこれ以外に選択肢がないところにまで、日本が追い込まれているとすれば、量的・質的金融緩和政策を推進した安部首相と黒田総裁の罪は万死に値するだろう。
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