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消費税軽減率制度(その3)本来のあり方、新聞の自殺 [経済政策]

消費税軽減率制度については、前回は9月19日に消費税軽減(還付)制度(その2)簡単な軽減方式ではなく、還付方式でないとダメなのか を取上げたが、与党の税制改革大綱が決定され、還付方式は撤回されたので、今日は消費税軽減率制度(その3)本来のあり方、新聞の自殺 として取上げたい。

先ずは、与党内で話し合いが行われている段階ではあるが、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が、11月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「不毛な軽減税率批判より消費増税凍結、インボイスと歳入庁が先」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽軽減税率をめぐって自民党・財務省vs.官邸の暗闘
・軽減税率の是非についてはいまだに紛糾中だ。軽減税率をめぐる自民党と公明党の議論が迷走していて、端から見ていると、きわめて興味深い。
・まず、自民党の背後には財務省、公明党の背後には官邸がいる。この組み合わせを押さえておきたい。
・そして、財務省の望みは2017年4月から10%への消費再増税を行うことであり、官邸は消費再増税をできれば回避、それができないなら悪影響がないようにしたいと思っている。
・また、表では決して言わないが、財務省は、選挙で政権を潰してでも消費再増税をしたいと思っているだろう。官邸は、選挙で負ければ政治家はただの人になるので、是が非でも勝ちたい。そのためには、国民生活に影響のある消費再増税に慎重になるわけだ。
・官邸のスタンスをポピュリズムであるとは言い切れない。経済に打撃を与える経済政策は何のためであるかさっぱりわからない、財務省の増税至上主義は、経済を無視した間違った経済政策であるとも言える。  実際、2014年4月からの8%への消費増税は、経済を失墜させたという意味で失敗であった。しかも、消費増税に賛成した多くのエコノミストや経済学者は財務省の言いなりで、その影響は軽微であると経済見通しをまったく誤ってしまった。これではエコノミストや経済学者として失格で、もはや誰も信用していない。
・こうした背景から、自民党・財務省にとって2017年4月の消費再増税は当然の前提であり、軽減税率での減収額をできるだけ少なく、つまり、再増税での予定税収を高くしたい。公明党・官邸は、その逆で軽減税率での減収額は大きくなってもいい。
・そこで、自民党・財務省は、エコノミストや経済学者の応援を再び求めているようだ。
▽軽減税率が望ましくないのは確か それなら消費再増税をやめればよい
・まず、軽減税率の一般論である。欧州では導入されているが、経済学理論として見れば、軽減税率はそもそも対象品を購入する豊かな者へも恩恵があり、弱者対策に特化できない。その上、実務上は軽減税率が適用される対象と非対象の区分けが難しいし、税務官僚に裁量の余地が大きすぎるので、弱者への負担軽減策としては、給付金(給付付き税額控除)のほうが望ましい。
・これは、経済理論としては正しい。このため、欧州でも軽減税率の見直し議論もあるくらいだ。こうしたことを根拠にして、軽減税率の不合理を言うエコノミストや経済学者もちらほら出てきている。このダイヤモンド・オンラインでも、そうした主張を見ることができる。
・しかし、もし日本でもほとんどの人が確定申告を行っていて、給付金・還付金をもらう人が多くいれば、軽減税率でなく給付金を確定申告時にもらう方法が人々の支持を得て、そもそも軽減税率は政治課題にならなかっただろう。
・多くの人が源泉徴収制度によって、税金事務を会社に代行してもらっている現状では、給付金・還付金をもらうのは煩瑣であり、筋違いでも軽減税率を求める気持ちもわからなくはない。源泉徴収制度の上で、あぐらをかいてきたのは他ならぬ財務省であるので、ある意味で自業自得とも言える。
・しかも、こうした経済理論の考え方が人々の共感を呼ばないのは、多くのエコノミストや経済学者が、2017年4月からの10%への消費再増税に賛成しているからだ。
・本当に軽減税率がまずい制度なら、2017年4月からの消費再増税をやめるのが、これを導入しない最善策だ。なにしろ消費再増税がなければ、軽減税率も不要だ。しかし、エコノミストや経済学者で、消費再増税に反対する者はあまりいない。軽減税率に批判的でも、所詮、消費再増税されるなら目をつぶるという程度であるので、迫力がない。
・いずれにしても、税制は政治で決めざるを得ないとすれば、経済理論より実務上の庶民感情が優先されるのも仕方ない。
▽軽減税率の不条理をあげつらうより インボイスを早く整備する方が得策
・ここは、軽減税率の不条理をあげつらいながら消費再増税に必死になるより、その導入のために必要なインボイスの利点を確認して、これを早く整備する方が、財務省としても得策であろう。
・世界で導入されている消費税では、課税の累積を防ぐため、前段階の仕入税額を控除するようにしている。ただし、仕入税額控除の方法について、今の日本では納税者の仕入れ書類や帳簿の保存に基づく「請求書等保存方式」であるが、EUなどは、課税業者の発行するインボイスに記載された税額のみとする「インボイス方式」である。簡単に言えば、取引相手の請求による帳簿に基づくか、取引相手が出す税額の明記された領収書に基づくか、どちらを使って、消費税納税額を決めるかの違いだ。
・消費税を導入しているEUのほか、アジアでも韓国、タイなどはインボイス方式である。日本だけが例外となっている。その日本でも、輸出入における関税では、インボイス方式となっている。日本だけ作成が難しい事情があると言われるが、ちょっと考えにくい。
・今の方式においても、請求書に税額の記入を義務付ければ、領収書に税額の記入を義務付けるのと同じになる。こうなると、インボイス方式を否定することもないだろう。税務申告では、証拠書類として領収書を用いているのであるから、領収書を使うことは、国民の抵抗も少ないだろう。
・しかも、現行の「請求書等保存方式」(実質、帳簿方式)は、中小事業者にとってみなし仕入率を採用できるため、「益税」が発生して、事実上補助金になっている。これは、その分、消費者の払った諸費税が国ではなく中小事業者の懐に入っているという意味で、増税に苦しむ消費者と、その一部をもらえて儲ける事業者の間で不公平である。他の国では、インボイス方式なのでこのような不合理はない。同方式に変更すれば、益税の部分は増収になるはずだ。
・もちろん、こうしたインボイスを完全に導入するには時間がかかるので、当面は簡易なものしかできない。それでも、インボイスに納税番号を付与すれば、税務行政は格段にやりやすくなり、消費脱税がやりにくくなって、その意味でも増収になる。
▽世界で常識の歳入庁も創設すべき 消費増税はできることをやってから
・ここまで来ると、税制改正ではなく税務執行の問題であるが、やはり歳入庁にも言及したい。社会保険料は、法的性格は税と同じであり、社会保険料と税は同じ機関で徴収するのが、行革にもなるし、徴収効率が増すので、世界の常識になっている。これが「歳入庁」だ。
・海外では、米国、カナダ、アイルランド、イギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、アイスランド、ノルウェーが、歳入庁で税と社会保険料の徴収の一元化を行っている。東ヨーロッパの国々でも傾向は同じで、歳入庁による徴収一元化は世界の潮流と言ってよい。
・しかし、この常識は財務省には通用しない。国税庁の人事が財務省の裁量で自由にできなくなるからだ。かつて筆者が大蔵省にいたとき、1998年ごろのイギリスで、従来の社会保険料徴収機関と国税徴収機関がバラバラであったのが、まさに「歳入庁」としてあっという間に統合された。あまりに見事な手法だったので、経緯を当時の大蔵省にレポートしたら、その事実を口外しないように言われて驚いたものだ。
・社会保険料の徴収漏れは巨額で、ある試算では年間10兆円にもなるという。もちろん、政府はこの試算を否定するが、社会保険料と国税の徴収が二本立てでいいはずはない。何もやらずに否定だけは懸命なのはおかしい。
・マイナンバー制、インボイス、そして歳入庁と、税制改正ではなく、税務執行のところでできるだけやって、その後に、消費増税を含む税制改革をすべきである。財務省は筆者の出身官庁であるが、あえて苦言を呈すれば、やるべき順番を間違えて、国民の信頼を失っていると言わざるを得ない。
http://diamond.jp/articles/-/81097

次に、ジャーナリストの池田信夫氏が、12月17日付けJBPressに寄稿した「軽減税率というポピュリズムが政治を汚染する 200億円で新聞を「買収」した安倍政権」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・自民党の税制調査会は12月16日、消費税の10%への引き上げにともなう軽減税率を正式決定した。酒類と外食を除く食品を8%に据え置くというのは、公明党案の丸のみに近い。これで約1兆円の財源が消えるが、その具体策は決まっていない。
・おまけに「宅配の新聞」がこっそり軽減対象にまぎれこんだ。新聞協会は「EU(欧州連合)でも軽減対象になっている」と主張しているが、EUでは水道も電気もガスも軽減対象だ。日本では水道代さえ10%なのに、なぜ新聞が8%なのか。
▽新聞の自殺
・朝日新聞は16日の社説で「軽減税率について、消費税率が10%を超えた時の検討課題にするよう提案してきた」と軽減税率への反対論を繰り返す一方で、適用対象になったことについては「社会が報道機関に求める使命を強く自覚したい」という。
・軽減税率が望ましくないというのは、経済学者のほぼ100%のコンセンサスである。朝日もそう考えるなら、軽減税率を返上してはどうだろうか。そうすれば政党交付金に反対する共産党がそれを返上しているのと同じく、朝日の主張は強い説得力をもつだろう。
・新聞の軽減額はたいしたものではない。全国の日刊紙を合計しても200億円ぐらいで、政府が新聞を「買収」するコストとしては安いものだ。2016年1月からの通常国会では野党が、矛盾だらけの軽減税率について激しく批判するだろうが、「賄賂」をもらった新聞は政府を批判できない。何しろ最も理屈に合わない軽減対象が新聞なのだから。
・2012年に朝日新聞の若宮啓文主筆(当時)は、『文芸春秋』1975年2月号の「日本の自殺」という論文を引用して「古代ギリシャもローマ帝国も自らの繁栄に甘えて滅んだ」と指摘し、「国の借金が瀬戸際までふくれたいま、『日本の自殺』がかつてなく現実味を帯びて感じられる」と警告した。
・しかし軽減税率を強く要求したのは、新聞協会の会長社である読売新聞社の渡辺恒雄主筆だといわれる。今回の軽減措置は、読売が一貫して安倍政権を支持してきたことへのご褒美かもしれない。いずれにせよ、新聞が政府に補助金を要求するのは、自殺行為である。
▽田中角栄型ポピュリズムを受け継ぐ公明党
・軽減税率が決まる過程も、異例だった。まず自民党税調の審議の途中で、軽減税率に慎重だった野田毅会長が更迭され、首相官邸の言うことを聞く宮沢洋一氏に交代した。公明党の税調は、外食も含む全面的な軽減措置を求めたが、財務省は低所得者対策は給付金でやるべきだと反論した。
・軽減税率が低所得者対策になるという根拠はない。EUの付加価値税で軽減税率が設けられたのは、各国でバラバラだった物品税を統一するためで、低所得者対策ではなかった。しかし選挙で公約した公明党は、軽減税率を強硬に主張した。この背景には、創価学会婦人部の意向があったといわれる。
・これを受けて菅官房長官が「公明党の意向を尊重する」という方針を表明し、税調の頭越しに官邸主導で軽減税率の既成事実をつくった。その背景には、来年の参議院選挙で、公明党との選挙協力なしでは安定多数が取れない事情がある。
・自公両党は衆議院で3分の2の議席を取っているが、絶対得票率(得票率×投票率)でみると、自民党は17%で、かつての半分以下だ。特に大都市では10%を切るので、都市に固い支持層をもつ公明党との選挙協力なしには、政権は維持できないのだ。
・特に安倍首相の念願である憲法改正を実現するためには、来年夏に予定されている参議院選挙と同時に衆議院選挙をやり、両院の3分の2を自公(および改憲勢力)で取る必要がある。そのためには参議院で今の自公の議席に30議席近くも上積みする必要がある。安保法制で公明党に大幅に譲歩したのも、このためだ。
・しかし改憲勢力で両院の3分の2を取っても、安倍首相の念願とする第9条の改正ができる見通しはない。公明党は9条改正に反対であり、自民党の中にも反対派がかなりいるからだ。できるとすれば「環境権」などの人畜無害な改正だけだろう。
▽デモクラシーの本質はポピュリズム
・アメリカ大統領選挙の共和党の候補として、「イスラム教徒の入国を禁止しろ」など過激な発言を繰り返すドナルド・トランプ氏がトップを走っている。フランスの地方選挙でも「イスラム移民を排除しろ」と主張するマリーヌ・ルペン党首の率いる国民戦線が、第1回投票では得票率第1位になった。
・安倍首相は右派だが、こうした極右の排外主義とは違う。むしろ彼の経済政策は、バラマキ型の超リベラルなポピュリズムで、高所得者への大幅増税などを主張するイギリス労働党のジェレミー・コービン党首に近い。
・このようにポピュリズムが世界的に勢いを増しているのは偶然ではない。2008年以降の金融危機で先進国の成長率は低下し、企業業績も労働者の賃金も上がらない長期停滞の様相をみせている。かつては経済全体が成長したので所得分配はあまり争点にならなかったが、経済のパイが拡大しないと、その取り分をめぐる争いが激化する。
・その1つは、EUの移民問題である。特にイスラム系の移民が高い失業率の原因になっているという不満が強く、それがテロをきっかけに爆発した。これを目先で解決する簡単な政策は、軽減税率のようなバラマキだ。しかしこれはゼロサム・ゲームなので、軽減される現在世代の負担は、将来世代の負担になる。
・今回の消費増税は「社会保障と税の一体改革」で使い道が決まっているので、財源が1兆円も欠けると、代わりの財源が必要になる。それはとりあえず国債で埋め、日銀の財政ファイナンスでもたせれば来年の同日選挙は乗り切れる――というのが安倍首相の戦略だとすれば、政治的には合理的だ。
・しかしこんな綱渡りをいつまでも続けることはできない。そのうち国債が国内で消化できなくなって外債を募集すると金利が上昇し、国債が暴落する。そういう破局が起こらないとしても、将来世代は生涯所得で1億円近い社会保障のコストを負う。
・民主政治(デモクラシー)がポピュリズムに近づいてきたのは、デモクラシーの本質的な問題である。これは正確に訳すと大衆による支配であり、「衆愚政治」とも訳せるので、その意味はポピュリズムとほとんど違わない。
・世界の政治は、メディアを通じて多くの大衆が政治参加するようになり、本来の意味でのデモクラシー=ポピュリズムに近づいてきたのかもしれない。それは悪いことばかりでもない。その結果、テロが激化しても財政が破綻しても「われわれの選択の結果だ」とあきらめることができるからだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45572

消費税還付方式から軽減方式、その範囲をめぐる論議などを経て、消費税増税自体はすっかり「既定路線」になってしまったようだ。財務省は仕掛けたレールに沿って論議が進んだことに高笑いしていることだろう。
高橋洋一氏が財務省時代に、イギリスの歳入庁をレポートしたら、その事実を口外しないように言われたというのは、さもありなんである。というのも、接待問題などで、金融行政は金融庁に分離された旧大蔵省にとって、税務行政には政治家や財界人、マシコミ人などの脱税を摘発できる権限があるだけに、是非とも死守したい分野だからだ。今の社会保険庁の体たらくを見ていると、歳入庁は実現すべき課題だが、財務省の抵抗で困難だろう。
池田信夫氏の「新聞の自殺」は、まさにその通りで、こんなことで政権に尻尾を振るようでは言論人の名がすたるというものだ。「デモクラシーの本質はポピュリズム」については、私としてはデモクラシーにもう少し夢を抱きたい気持ちが残るが、現在の状況を的確に表している。私としては、この問題はさらにじっくり考えてみたい。
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