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老人ホーム虐待(連続死)問題 [社会]

今日は、老人ホーム虐待(連続死)問題を取上げよう。このブログ5月14日の「「事件化」を嫌う警察とそのミスを報道しないマスコミ」のいわば続報版である。

先ずは、11月19日付け現代ビジネス「報告書入手!老人ホーム連続転落死はこうして殺人ではなく「事故」で片づけられた」を紹介したい(▽は小見出し)。
▽警察も行政も業者も、何もやらなかった
・やるべき事をやらなかった「不作為」は、責められてしかるべきだが、やるべき事をあえてやらない「不作為の作為」は、もっと悪質で罪が重い。
・神奈川県川崎市で発生した老人ホーム連続転落死事件の「事故報告書」を入手した。何度も読むうちにつくづく感じたのは、この事件は、警察も行政も業者も、「おかしい」と思いつつも、結局は何事もなさなかったという意味で、「不作為の作為」がもたらしたのではあるまいか、ということだった。
・転落事件の現場は、ジャスダックに上場するメッセージ(岡山市)傘下の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」である。昨年11月から12月にかけて、立て続けに起きたこの事件は、今年9月に入って各メディアで大きく報じられた。
・「Sアミーユ川崎幸町」が川崎市に提出した「事故報告書」をもとに、再度、振り返ってみよう。
・最初の転落死は11月4日である。要介護度「3」と認定された85歳の男性で、4階の401号室に入居していた。「3」は、「立ち上がりなどが自分でできずに歩行も困難。食事や排泄や入浴に介助が必要」な状況で、「1」から「5」に分類される要介護認定の真ん中である。
・事故報告書に次のように書かれているが、「死亡」を類型的に処理している事例なので、「黒塗り」部分を除いて全文を記したい。 「1:40分頃、介護スタッフが、目配り援助の為、訪室したところ、ベランダの窓が空いており、カーテンも空いている状態で、ご本人様は居室にいらっしゃらない様子。館内を捜索したがご本人様が見当たらない為、他スタッフに内線にて状況報告し、転落の可能性を考え、○×様の居室ベランダから直下1階裏庭確認。 人らしき姿を発見したため、スタッフ2名で1階裏庭に行き確認。左側臥位で倒れられている○×様を発見する。発見時に出血は認められなかったものの、呼びかけ、○○を確認」
・直後、管理者に連絡、救急車を要請。2:00には救急車が到着。3:10分に病院に到着したものの死亡が確認された。警察による現場検証の結果、「事故による転落が原因」とされたという。
▽本当に「事故による転落」なのか?
・次の転落死は12月9日である。 要介護「2」と認定された86歳の女性。「2」は「3」よりは軽いものの、「立ち上がりなどに支えが必要で、食事や排泄や入浴などに一部、または多くの介助が必要な状態」である。この女性も、「3」の男性と同じく、高さ1メートル20センチのベランダの手すりを乗り越えられるような状況にはない。
・しかも部屋は、転落死した男性と同じ401号室。事故報告書の内容はほとんど同じ。「目配り援助の為に訪室したところ、ベランダの窓が開いており、カーテンも開いている状態」だった。裏庭を確認したら人らしき姿を発見。そして、「左側臥位で倒れられている○×様を発見した」という。発見は4:10頃で、すぐに救急車を要請。病院に搬送されたものの死亡が確認された。
・この報告書には警察対応も記されており、「9:30警察の方が施設に到着し現場検証を実施。11時頃終了。16:20警察より連絡入り、現場検証の結果『事故』であるという検証結果となった旨連絡受ける」
・同じ部屋から同じような要介護老人が同じように転落死をして、警察は疑わず、事故報告書を受け取った市役所も、施設管理者も会社(メッセージ)も、誰も疑わなかったことになる。
・そのために第三の転落死が起きた。 要介護「3」と認定された96歳の女性。歩行の困難な96歳の女性が、601号室まで移動のうえ、そこの入居者が眠っている間に、ベランダを開け、手すりを乗り越えて転落したことになっている。
・発見したスタッフは、「2:06分頃、(601号室)ベランダの下を確認したところ、人らしき姿を発見したため、スタッフ2名で1階裏庭に行き、確認。左側臥位で倒れられている○×様を発見」したという。
・深夜、ベランダを開け、手すりを乗り越えて転落、いずれも裏庭に「左側臥位」で倒れていた。わずか2ヶ月の間に3件の事故が起きたのだから、少なくともプロの警察は疑うべきだろうが、この時も事故処理で、報告書には「警察による現場検証の結果、事故による転落が原因となり」と書かれていた。
▽なぜ「不可解な連続死」に向き合わないのか?
・事故死としての処理なので、現場検証はおざなりで物証はほとんど残っておらず、司法解剖も行われず、遺体は火葬された。防犯カメラはほとんど設置されていないため、「疑わしき人物」が映っていることもない。
・ただ、3件の転落事件の際、常に夜勤をしていた23歳の男性職員がいて、マスコミでは被疑者扱いされている。当初は囲み取材を受け、「A氏」という形で報じられ、それなりに弁明もしていたのだが、今年5月に施設内での窃盗事件で逮捕、件数は19件にも及び、被害額は200万円以上となっている。 そうしたマイナス材料を抱えていることもあり、A氏は取材を受けなくなった。
・捜査にも取材に対しても本人は容疑を否認。物証もほとんどない状況のなか、警察が事件を解決するのはかなり難しい。
・神奈川県警を通じて、捜査にあたっている川崎市の幸警察署に①現在は「転落死」から「不審死」に切り替わっているのか、②転落死が3回も続いたのに事故処理したのはなぜか、③鑑識出動がなく遺体解剖もしていないのは事実か、という3点を質したものの、「捜査中の案件であり、お答えできません」(幸警察署)ということだった。
・警察はもちろん、行政にも施設(メッセージ)にも、事故を疑った人はいなかった。3件目の処理が終わってしばらくして、ようやく「おかしい」となった。
・「不作為の作為」がまかり通るのは、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームといった介護度の高い施設の入居者に対する見方が、少し冷たいからではあるまいか。生活に介護の必要な老人のなかには、認知症を患い、徘徊を繰り返す人もいる。
・「何があってもおかしくない人たち」というイメージが、不可解な連続死にまともに向き合わない姿勢につながったのではないか。
・厚生労働省は、11月13日、Sアミーユを運営する積和サポートシステム、及び親会社のメッセージに、情報共有の不徹底、職員研修の不十分、業務管理体制の不備などがあるとして、業務改善勧告を出した。全国で300施設以上を展開、従業員約1万8000人を擁して約790億円を売り上げる介護業界3位のメッセージの体質そのものが問われたわけである。
・東京北部ユニオンに所属するアミーユ支部関係者が、メッセージの労働環境を教えてくれた。アミーユ支部は都内練馬区にある4階建て63室の「アミーユ光が丘」の職員で構成されている。
・「まず介護職員の数です。これが圧倒的に足りない。調理職員の数を介護職員に入れて、介護職員1名に対して入居者3名という国の基準を満たしていますが、目が回るような忙しさで、入居者様の世話が追いつかない。 その忙しさに比して賃金は圧倒的に安い。多くの介護職員が、月に4~5回の夜勤を入れて手取り20万円にいかない。この安さが、離職率を高め、スキルを落とし、現場を荒廃させています」。
▽「介護の世界の闇」が見えた
・人手不足と安い給与――。  介護業界全体が抱える問題ではあるが、業務改善勧告を受けたメッセージは、施設での虐待行為の数々も指摘されており、労働環境の悪さを裏付ける結果となっている。
・国は、介護職の給与の安さを憂慮、月に2万7000円の処遇改善加算金を予算化しているが、これが「介護職員に行き渡っておらず、それも不満の種になっている」(前出アミーユ支部関係者)という。
・2015年度のメッセージの処遇改善加算金は約12億8000万円。アミーユ支部は介護職員への一律2万7000円の支給を求めているものの、会社側は「キャリアアップ制度のなかで支給している」(経営企画部)といい、一律を認めない。 給与の単純な補填ではなく、スキルアップと離職防止の道具として使っているわけだが、「誰にどう渡されているかわからない」という意味で、せっかくの加算制度が、逆に「会社は、なぜ自分に加算してくれないのか」と、ストレスを生む結果につながっている。
・もちろん、息をつく暇もない忙しさに比して報われない報酬だからといって、虐待が認められるわけではない。連続殺人の可能性も排除しきれないアミーユ川崎幸町の一件は、「不作為の作為」への反省を込めて、警察に是非とも解決してもらわなければならない。
・一方で、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に、介護保険の給付金が現在の10兆円から倍増するという現状のなかで、「質の高い介護」を維持しつつ、「介護現場の労働環境を改善する」ことが、どれだけ容易でないかは理解できる。
・しかし、今取り組まなければ、目を覆うばかりの荒廃した介護現場が待ち受ける。もしも3連続殺人であるならば許しがたい罪だが、事件が与えた警告には、真摯に耳を傾けるべきだろう。
(報告書の拡大版はリンク先を参照。画像データが2MB程度)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46452

次に、12月19日付け日経新聞は「損保ジャパンがメッセージ買収 260億円以上、介護を強化」と伝えたので、そのポイントを紹介しよう。
・損保ジャパン日本興亜ホールディングス(HD)は、介護事業大手のメッセージを買収。TOBを実施し、出資比率を現在の3.5%から51%以上に引き上げ子会社に。取得額は少なくとも260億円以上。
・10月に発表した居酒屋大手「ワタミの介護」に続く介護事業者の買収で、ニチイ学館に次ぐ業界2位に浮上。TOBは2段階で実施。まず、今月21日から創業家と資産管理会社が持つ34.69%の全株式を1株あたり2500円で買い付ける。来年1月29日から実施する一般株主向けの買い付け価格は1株3500円で、17日終値に約49%上乗せ。TOBの結果によっては買収額が300億~400億円規模に膨らみそうだ。来年3月中に連結子会社にしたうえで、6月以降に会社名を「SOMPOケアメッセージ」に改める。ジャスダック市場への上場は維持し、取締役10人のうち3人を損保ジャパン日本興亜HDから送り込む予定。

なお、本日付けの日経新聞は、「川崎市、転落死のホームに介護報酬請求3カ月停止処分」を報じた。

警察のまたもや杜撰な対応にはあきれはてるばかりだ。要介護の老人たちが高さ1メートル20センチのベランダの手すりを乗り越えるという謎を、誰も検証しようとしないのは不可解そのもの。
また、現代ビジネスの記事にある介護職員の不足を隠蔽するための水増し報告、賃金の安さ、さらには不審な事故の続発については、親会社のメッセージにも何らかの報告があった筈である。報告がなく、親会社が知らなかったとすれば、親会社としての内部統制が全く出来てないばかりか、取締役の善管注意義務違反となるのではなかろうか。
こうした会社を「あわてた」ように高値買収する損保ジャパン日本興亜HDの行動も、理解に苦しむ。どうせ買収するなら、もっと時間が経って問題点などが詳しく報道され、株価が安くなるのを待ってもよかったのではなかろうか。
いずれにしても、これで「幕引き」となるようでは、介護をめぐる闇は解明されず、急速な高齢化進展の前途はますます暗くならざるを得ない。マスコミは何をしているのだろう。
なお、損保ジャパン日本興亜HDは海外M&Aで手痛い失敗をしたようだが、これについては後日、取上げるつもりである。
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