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三菱重工はどうしたのか?(その1)MRJ(国産初の小型ジェット旅客機)問題 [企業経営]

今日は、三菱重工はどうしたのか?(その1)MRJ(国産初の小型ジェット旅客機)問題 を取上げよう。

先ずは、12月26日付け東洋経済オンライン「MRJが4度目の納入延期、今回の理由は何か 三菱重工業、開発費3000億円の回収に暗雲」を紹介しよう (▽は小見出し)。
・初飛行の感動からわずか1カ月半で、三菱重工業の小型旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)が再びピンチに立たされた。最新状況を踏まえて今後の開発スケジュールを再検討した結果、実施すべき試験項目の追加・見直しなどが必要となり、初号機の納期が守れなくなったからだ。
・これまで2017年4~6月の納入開始を目標にしていたが、2018年半ばへと約1年ずれ込む。最初の顧客であるANA(全日本空輸)、2番目の米トランス・ステーツ航空への納入に支障が出る。飛行試験の開始で開発の進捗を世界にアピールし、受注に弾みが付くと期待された矢先だけに、「残念としか言いようがない」と関係者らも落胆を隠せない。
▽「想定した計画に甘さがあった」
・MRJは三菱重工が傘下の三菱航空機(本社:愛知県豊山町)を通じて開発を進める、70~90席クラスの小型ジェット旅客機。1965年に就航したプロペラ式の「YSー11」以来となる、半世紀ぶりの国産旅客機として大きな注目を集めている。その開発は難航を極め、2008年の開発正式着手から7年半の年月を経て、ようやく11月11日に初飛行へこぎ着けたばかりだった。
・「(三菱重工が開発・製造の中心的役割を果たしたYSー11以来)50年ぶりの旅客機開発で知見が足りず、想定したスケジュールに甘さがあった面は否めない」ーー。12月24日に愛知県で開いた記者会見の席上、開発責任者である三菱航空機の岸信夫副社長はこう認めざるを得なかった。
・同社によると、強度・耐久性や落雷などの地上試験内容を拡充するため、想定していたよりも、地上実機試験に多くの時間がかかるという。「機体の完成度と信頼性をより高めるには、(飛行試験と並行して行う)地上での試験をもっと増やしたほうがいいと判断した」(岸副社長)。また、飛行試験が一定段階まで進んだ時点で試験結果を設計にフィードバックし、機体改修を集中的に実施する計画だが、そのための期間も従来より長めに設定し直した。
・三菱は空港離発着や飛行空域の制限が少ない米国シアトルをメイン拠点として飛行試験を進める予定で、飛行データ解析や設計修正を担当する米国開発拠点を2015年8月に開設。現地で採用した旅客機開発の知見を有する外国人エンジニアなどからの指摘を踏まえ、全体の作業工程を見直したという。
・納期の先送りは今回で4度目。設計変更や安全認証に向けた準備作業の遅れから、これまでも度重なるスケジュール延期を余儀なくされてきた。三菱の正式な延期発表を受け、ANAは「非常に残念だが、安全を第一に万全なる準備のうえ、完成度の高い機体が納入されることを願っている」との公式コメントを出した。
・今回の納入延期を巡っては、主翼の強度不足などを理由とする報道が先行したが、岸副社長は「3回の飛行試験で、何らかの深刻な問題点が見付かって日程を変更したわけでは決してない」と強く否定。強度で改善すべき点があり、現在、飛行試験機の主翼付け根部分や胴体部品の補強改修を行っていることは事実だが、「この程度の改修は珍しいことではなく、1月中には飛行試験を再開する」と説明した。
▽強敵エンブラエルとの受注競争で厳しい立場に
・三菱にとって、開発がさらに長期化してしまったことは大きな誤算だ。まず第一に経済的損失。現在、MRJ事業には開発・販売を担う三菱航空機、生産を担当する重工本体の合計で約2300人が関わっており、年間の人件費だけで200億円近い。開発期間がさらに長引くことで、そうした固定費負担が重くのし掛かる。また、納期遅延の影響を被るANA、トランス・ステーツへの違約金問題も避けられない。
・それ以上に懸念されるのが、今後の受注への悪影響だ。MRJと同じリージョナルジェット旅客機のメーカーは、エンブラエル(ブラジル)、ボンバルディア(カナダ)、スホーイ(ロシア)、COMAC(中国)の4社。このうち、最大の強敵はエンブラエルだが、MRJの開発長期化により、三菱は受注競争でより厳しい立場に立たされる。
・エンブラエルはリージョナル機の老舗かつ最大手。現行機「Eジェット」(2004年就航)は累計受注が1400機を超えるベストセラー機で、世界で約70のエアラインが導入している。さらに同社は現在、高い燃費性能を謳ったMRJに対抗するため、Eジェットの改良型後継機となる「E2」シリーズを開発中だ。
・現行のEジェットは搭載エンジンが旧世代のもので、燃費性能が最大の弱点だった。MRJと同じ米プラット&ホイットニー社の最新鋭エンジンの採用により、後継機E2の燃費性能はMRJに数%差まで肉薄する見込み。まず2018年前半に97~106席の「190ーE2」、翌年に118席~132席の「195ーE2」、2020年に80席~90席の「175ーE2」の機体引き渡しが始まる計画だ。
・このうち、MRJと機体サイズが完全に競合する「175ーE2」で言うと、エンブラエルがE2の開発着手を正式表明した2013年6月当時、MRJは納入開始時期で5年のアドバンテージがあった。それが2013年夏と今回の度重なるスケジュール延期によって、2年の差にまで縮まってしまった。
・ただでさえ、エンブラエルには実績と顧客基盤があり、トラブル時の対応や交換部品供給などエアラインに対するサポート体制のインフラも確立している。MRJの最大の武器だった機体性能の優位性が薄まり、かつ、市場投入時期もさほど大きな差がなくなれば、新規参入の三菱がエンブラエルとの販売競争に勝つのは一段と難しくなる。
・最悪のシナリオは、2018年半ばの納入開始も難しくなった場合だ。なにしろ、肝心の飛行試験はまだ始まったばかり。延べ1500回、累計2500時間に及ぶ飛行試験を行い、それらの膨大なデータによって機体の安全性を客観的に証明し、国から設計の安全認証(型式証明)を得てようやく開発作業が完了する。この認証取得こそが、旅客機開発における最大の難関だ。
・飛行試験には大小さまざまなトラブルがつきもので、経験豊富な米ボーイングや欧州エアバスでも、最新鋭機では初飛行から納入開始まで20カ月前後を要している。同じリージョナル機に新規参入した中国COMACに至っては、2008年の初飛行から7年かかった。
▽さらに納期が遅れるリスクも
・新たな納入開始目標として設定した2018年半ばまで2年半。従来の約1年半から伸びたとは言え、三菱にとってハードルが高いことは変わらない。三菱航空機の森本浩通社長自身、「いろんなリスクを織り込んで日程を見直したが、旅客機開発には予見しづらい部分も多い。2018年半ばの納入開始を確約できるかというと、正直、断言は難しい」と、さらに納期が遅れるリスクを否定しなかった。
・MRJ事業は、三菱重工のまさに威信と社運をかけた一大プロジェクトである。開発の長期化で、総開発費は3000億円規模にまで膨張。さらに設備投資や運転資金も含めると、納入開始までの先行投資額(投下資本)は軽く4000億円を超える。巨額の投資回収と累積事業赤字の解消には最低でも1000機近い販売が必要と見られ、そのためにもこれ以上の大幅な遅延は絶対に許されない。
・果たして、すべての開発作業を期間内に終え、今度こそは2018年の納入開始スケジュールを守れるかーー。半世紀ぶりの国産旅客機となるMRJを真に“離陸”させるため、三菱の産みの苦しみと長く厳しい挑戦が続く。
http://toyokeizai.net/articles/-/98401

次に、同じ26日付け週刊東洋経済の「ミスターWHOの少数異見」、「「清水の舞台」をもう一度 MRJ初飛行 次の一手」を紹介しよう。
・ホンダジェットでは初飛行から米連邦航空局の型式証明取得まで12年。MRJでこんなにかかれば、注文は消滅。新たなライバル、中国のARJが16.2から商業運航開始。さらに158席のC919開発に着手、18に商業運航の予定。
・ただ、思わぬ僥倖がカナダのボンバルディアの経営危機。54億$を注いで1クラス上のCシリーズ(100-149席)に挑戦、9割方終わったところで資金繰りに窮した。支援求められたエアバスは結局断る。ボンバルディアはケベック州に泣きつきCシリーズの持分49.5%を10億$を譲渡し一息つく。
・日本の出番。Cシリーズに10億$新規出資できれば、1/3の経営権が手に入る。1200億円でボンバルディアの世界的サポート網と1クラス「上」への見取り図を一挙に掌中に。こんな安い買い物はない。

三菱重工といえば、池井戸潤原作のTVドラマ「下町ロケット」では帝国重工として登場した日本の「ものづくり」の頂点に立つ企業である。MRJ開発遅延の体たらくは、いくらYSー11以降のブランクがあったとはいえ、がっかりさせられた。現在では、「脱自前主義」路線で、MRJも部品の国産化率は3割程度といわれる。それでも、エンブラエルのE2を開発で先行する期間が、5年から2年に縮まってしまったようだ。飛行試験の本格化前に、「主翼付け根部分や胴体部品の補強改修」が必要になるとは、理解に苦しむ。
三菱重工については、この他にも米国での原発建設を巡るトラブル、大型客船の引渡し延期などで、巨額の損害賠償請求に直面している。これについては、後日、(その2)で取上げる予定である。
2番目の記事のカナダのボンバルディアのCシリーズの苦戦は、小型機市場でのエアバス320、ボーイング737の厚い壁に阻まれて受注が伸びないことも一因とされるので、三菱重工が出資したところで、苦境が改善する訳ではない上、座席数70~90のMRJとは既存の機種で競合してしまう。まして、MRJ以外にも多くの難問を抱える三菱重工にはもはや出資する余力など残っていない筈だ。「こんな安い買い物はない」との「ミスターWHO」の判断には首を傾げざるを得ない。
タグ:三菱重工 三菱重工はどうしたのか? MRJ (国産初の小型ジェット旅客機)問題 東洋経済オンライン MRJが4度目の納入延期、今回の理由は何か 三菱重工業、開発費3000億円の回収に暗雲 4度目の納入延期 70~90席クラスの小型ジェット旅客機 2008年の開発正式着手 7年半の年月を経て、ようやく11月11日に初飛行 主翼付け根部分や胴体部品の補強改修 強敵エンブラエルとの受注競争で厳しい立場に 納入開始時期で5年のアドバンテージ 2年の差にまで縮まってしまった エンブラエルには実績と顧客基盤 トラブル時の対応や交換部品供給などエアラインに対するサポート体制のインフラも確立 最悪のシナリオ 2018年半ばの納入開始も難しくなった場合 累計2500時間に及ぶ飛行試験 安全認証(型式証明) さらに納期が遅れるリスクも 総開発費は3000億円規模 先行投資額(投下資本)は軽く4000億円を超える 最低でも1000機近い販売が必要 週刊東洋経済 ミスターWHOの少数異見 「清水の舞台」をもう一度 MRJ初飛行 次の一手 中国のARJが16.2から商業運航開始 ボンバルディアの経営危機 Cシリーズ(100-149席) 9割方終わったところで資金繰りに窮した ケベック州 持分49.5%を10億$を譲渡し一息つく Cシリーズに10億$新規出資できれば、1/3の経営権が手に入る 下町ロケット 日本の「ものづくり」の頂点に立つ企業 MRJ開発遅延の体たらく 米国での原発建設を巡るトラブル 大型客船の引渡し延期 巨額の損害賠償請求に直面 既存の機種で競合
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