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アベノミクス(その6)河野龍太郎氏による2016年の日本経済、20の疑問 [経済]

あけましておめでとうございます。
本年もブログでの発信に努めるつもりですので、よろしくお願いいたします。

アベノミクスについては、前回11月10日に取上げたが、今日は新年にふさわしい (その6)河野龍太郎氏による2016年の日本経済、20の疑問 である。BNPパリバ証券の経済調査本部長の河野龍太郎氏が、12月21日、22日付けのロイターに寄稿した「視点:2016年の日本経済、20の疑問」を紹介しよう。
(上)
・2015年度前半、日本経済は全く回復しなかった。潜在成長率がゼロ近傍にあるのだから、当然と考える人もいるかもしれない。だが、現実には安倍政権がスタートして、実に11四半期中4四半期がマイナス成長である。
・アグレッシブな金融緩和で株価が上昇するとしても、それは金融的現象であり、実体経済の成長は全く期待できないとした3年前の筆者の予想通りの結果となっている。  14年秋以降の原油価格急落を新興国・資源バブル崩壊の証左と考えていた筆者は当初、15年度の成長率を1%程度と慎重に予想していた。現時点での見通しも0.9%である。
・では、16年はどうなるのか。以下、筆者がよく尋ねられる疑問に答える形で、上下2回に分けて、日本経済の見通しを考察したい。パート1は、低成長の理由、円安・原油安効果の実態、設備投資や賃上げの行方について探る。
<国内マクロ経済編>
Q1)アベノミクス下でマイナス成長が散見されるのはなぜか。  アベノミクス下で高成長を実現したのは13年度だけだ。もちろん、14年度は消費増税が影響。15年度は中国など新興国経済の低迷も影響した。だが、低成長の大きな理由は供給サイドにもある。  まずアベノミクス開始時点では、マイナス2%程度の需給ギャップが存在していた。第1の矢と第2の矢の合わせ技によるヘリコプターマネーによって、13年は高い成長が可能となったが、その結果、14年年初には、経済のスラック(弛み)はほぼ解消していた。すでに潜在成長率は0.3%とゼロ近傍まで低下しているから、スラックが解消された後、補正予算を編成しても金融緩和で円安に誘導しても高い成長の継続は難しくなっていたのだ。
Q2)円安に対し否定的な見方が増えている理由は。  アベノミクスの最大の誤算は、大幅な円安にもかかわらず、輸出数量が全く増えなかったことだ。円安で輸出企業の業績は著しく改善したが、輸出数量が全く増えていないため、雇用者所得の改善は限定的なものにとどまっている。  近年、個人消費が弱いのは消費増税の影響もあるが、円安で輸入物価が上昇し家計の実質購買力が抑制されている点も影響している。円安は、家計から輸出企業に所得移転をもたらすだけに終わっている。
Q3)輸出数量が増えないのは中国など新興国経済減速の影響では。  確かに、その影響は相当に大きい。ただ、輸出数量が増えていない最大の理由は供給サイドにある。 通貨が大幅に減価した際、理論上、輸出企業には2つの選択肢がある。現地通貨ベースの価格を引き下げ、輸出数量・国内生産を拡大する戦略と、現地通貨ベースの価格を据え置き、利益率改善を図る戦略だ。過去3年間、円は対ドルで4割近く減価したが、輸送機械工業や一般機械工業は現地通貨ベースの価格を全く引き下げていない。輸出企業は円安に対し、輸出数量や国内生産の拡大ではなく、利益率引き上げで対応した。
Q4)大幅円安でも企業が国内生産拡大を狙わないのはなぜか。  理由は3つある。まず構造的要因だが、生産年齢人口、労働力は1997年にピークを打ち、減少傾向を続けている。輸出企業にとり、特に若年雇用の安定確保が国内で困難になっているため、生産拠点を海外にシフトする動きが続いている。これに循環的要因が加わった。14年初めに経済が完全雇用に入り、人手不足傾向が強まった。失業率はすでに3%台前半で定着している。  3つ目は構造的要因だが、11年の東日本大震災の際、サプライチェーン寸断に直面した加工組立業は生産拠点のグローバル分散の重要性を認識し、その動きを加速させた。これらの3つの要因が大幅円安の効果を相殺したのだ。
Q5)15年度の高い投資計画は実行されないのか。 日銀短観によると、大企業・製造業は前年比15%程度の設備投資計画を打ち出しているが、設備投資は4―6月に減少した後、7―9月も冴えない。設備投資の先行指標となる機械受注統計も7―9月は大きく落ち込んだ。減少には14年度補正予算による中小企業向け設備投資補助金の効果剥落も影響しているが、加えて新興国バブル崩壊の影響で企業が設備投資の執行を先送りし始めたのだ。 問題はこれが一時的現象で終わらない可能性だ。中国など新興国の潜在成長率低下に対応し、日本企業の成長期待が低下、資本蓄積を一段と抑えるならば、16年も設備投資は控えられ、更新投資中心の緩慢な回復にとどまる。 幸いにして、大幅円安でも積極投資が行われなかったことから、国内に過剰ストックは積み上がっていない。新興国に対する成長期待の低下もあり、潤沢なキャッシュフローの下で控えめな設備投資が継続、あるいは成長期待の低下に伴い16年中にストック調整が訪れるだろうか。
Q6)統計が示す以上に設備投資は増えているのか。  ここ数年、日本企業が注力してきたのは、海外での生産能力増強や販売能力強化のための投資だが、国内では研究開発投資だ。研究開発投資はリーマン危機後、一時落ち込んでいたが、13年から回復してきた。  ただ、1993年に国連が勧告した国際基準(1993 SNA)に基づく現行の国内総生産(GDP)統計では、研究開発投資は中間投入として扱われ、GDPにはカウントされない。16年に、研究開発投資を設備投資にカウントする08年版国民経済計算体系(2008 SNA)の導入が始まれば設備投資が15兆円程度膨らむが、実態が変わるわけではない。多くの人が考える以上に、設備投資は国内ですでに行われていたということだ。
Q7)さらに円安が進めば輸出数量や設備投資は増えるのでは。  実質円安がさらに進めば、生産拠点の国内回帰が多少は生じ、輸出数量も増えるだろう。現に一部白物家電では国内回帰がみられる。だが、経済が完全雇用の領域にあるため、経済全体のパイはそれほど変わらず、非製造業の経済活動に支障をきたすだけだろう。 仮に国内生産の利益率の改善を背景に、製造業が生産増のために必要な雇用を国内で増やすと、それは非製造業から奪うことになる。すでに多くの産業でフルタイム労働の採用が困難であり、企業は高齢者や主婦の採用で対応している。輸出企業を利することは非製造業からの成長分野の出現を阻害することになり、同部門の資本蓄積が遅れる。輸出企業でも収益性の低い資本ストックを増やすだけとなる。経済が完全雇用にある中で円安を促す追加緩和を行っても、資源配分や所得分配を大きく歪めるだけで、経済的メリットは小さい。
Q8)原油安が消費喚起につながらない理由は。 原油安で7兆円程度の交易利得が発生したと推計される。名目GDPの1.4ポイントを超えるオーダーであり、これが家計に向かえば、消費を大きく刺激するはずだが、実際には多くの部分が企業に利益として滞留、賃金上昇は限られ、家計には恩恵の一部しか流れていない。 ガソリン安など家計が直接メリットを受けたものもあるが、円安による輸入物価上昇によって、エネルギー価格下落の恩恵はかなり相殺された。輸出数量が全く増えていないため、円安は非輸出部門への課税を原資とした輸出企業への補助金と化している。 それでも非製造業からの円安に対する不満が抑えられている理由の1つは、エネルギー価格下落による交易利得の改善を非製造業も享受しているためだ。労働分配率は90年以来の低水準にある。原油安による交易利得の改善は、その多くを企業が享受しているため、消費喚起につながっていないのだ。
Q9)16年も賃金回復が遅れるのか。 14年年初に日本経済は完全雇用の領域に入ったが、その後は需給ギャップ改善が止まった。需給ギャップ改善が始まれば、賃金上昇は進むはずだ。潜在成長率が0.3%と低いため、それほど高くはない成長率の下でも需給ギャップ改善が可能となる。16年末までには3%前後の失業率が定着する可能性がある。 ただ、日本の賃金統計は月給ベースであり、賃金回復が遅れて見える可能性はある。14年年初以降、人手不足からフルタイム労働の採用が困難となっているが、その代替として企業は労働時間の短い高齢者や主婦の採用を増やしている。このため平均賃金の上昇が抑えられている。 一方で労働者の頭数は増えているため、雇用者報酬は回復傾向にあり、実質ベースで見ても消費増税前の水準まで回復しつつある。業界統計を見ると、経済が完全雇用の領域に近づいた13年末以降、例えば派遣スタッフの平均時給は伸びが加速したが、その後、需給ギャップの改善が止まり、伸び率は高まっていない。
Q10)16年もベアは引き上げられるか。 ベアは14年の0.4%に続き、15年も0.6%引き上げられた。だが一方で15年の夏季賞与は減少した。後知恵で考えると、財界は賃金上昇を要請する安倍首相の顔を立てる形でベアを2年連続引き上げ、一方で総人件費コントロールの観点から賞与支給を引き下げたということだ。  実際、15年4―9月の所定内給与の伸び率は0.3%だが、賞与を含む現金給与総額の同期間の前年比は0.1%減と増えていない。多くの大企業にとり、資本市場からのプレッシャーが強い中で、3年連続のベア引き上げは容易ではないが、官邸の強い要請もあるため、ベアは15年と同程度か多少のプラスアルファで妥結されるかもしれない。しかし、賞与を含む現金給与総額で見ると、わずかな上昇にとどまるだろう。足元の景気減速も抑制要因となる。
Q11)雇用者報酬の回復に比べ、消費回復は鈍くはないか。 実質雇用者報酬は消費増税前の水準まで戻りつつあるが、一方で消費水準は増税後の落ち込みからほとんど回復していない。理屈上、考えられるのは、円安や資源安で業績が改善した企業で平均賃金が多少は改善し、勤労者世帯の実質購買力が回復する一方、高齢者世帯では企業業績改善の恩恵を全く受けないことがある。この結果、円安による輸入物価上昇の悪影響を相殺できない。  もう1つの仮説は、所得税が回復しているだけでなく、消費税収も上振れが続いていることを考えると、消費関連の基礎統計が実態を過小評価している可能性が高いことだ。
Q12)16年の成長加速は期待できないのか。  中国経済の足踏みが続くことなどから、16年も輸出の強い回復は全く期待できない。さらに新興国の低迷は、日系企業の成長期待に少なからず悪影響を与え、国内設備投資も更新投資の範囲にとどまる。超円安環境が続いても設備投資の加速は予想されない。外部環境が不透明なため、企業は賃金上昇も抑える。統計が示すほど悪くはないにせよ、16年も個人消費は冴えない。効果のほどは疑わしいが、3兆円超の15年度補正予算編成は数字の上ではGDPを押し上げる。 これらの結果、15年度後半は0.3%の潜在成長率並みの成長が続くと考えられる。ただ、16年第4四半期以降、17年4月の消費増税前の駆け込み需要が発生し、16年度は1%程度の成長になる。駆け込み需要による成長率押し上げは翌年度の需要先食いに過ぎないため、暦年の成長率を見ると、16年は0.6%と15年の0.6%と変わらない。15年と同様、潜在成長率をわずかに上回る緩慢な成長が続くということである。
http://jp.reuters.com/article/view-ryutaro-kono-idJPKBN0U11KE20151221 

(下)
・パート2は、日銀の金融政策と、日本経済の外部環境であるグローバル経済の行方を取り上げる。
<金融政策編>
Q13)2%インフレは再び先送りか。 10月のコアインフレ(生鮮食品を除く消費者物価)は前年比マイナス0.1%だったが、コアコアインフレ(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価)は1.2%だった。  需給ギャップの物価へのタイムラグは2四半期程度だが、今後、円安による物価押し上げ効果も剥落することなどから、2015年第4四半期から需給ギャップの改善が再開しても、コアコアは16年第3四半期まで1.2%程度で足踏みする。その後、緩やかに上昇が再開、16年第4四半期は1.3%、17年第1四半期は1.5%まで上昇する。  コアインフレは、原油安のベース効果から15年第4四半期までゼロ近傍で推移する。その後、原油安効果の剥落が始まるが、今夏の原油安効果も残存するため、16年第1四半期は0.4%、第2四半期は0.4%、第3四半期は0.8%の上昇にとどまり、原油安効果が完全に剥落する16年第4四半期に1.1%と、ようやく1%を超える。 17年第1四半期は1.6%とインフレ率が加速するが、これは消費増税前の駆け込み需要によって、需給ギャップが改善、便乗値上げも行われるためだ。増税後、その反動から物価上昇はしばらく足踏みする。これらの結果、消費増税の影響を除くと、17年度中も日銀が目標とする2%インフレには到達できない。
Q14)2%インフレに到達しないのなら、日銀は追加緩和に動くか。 日銀は10月末に2%インフレの達成時期を「16年度前半頃」から「16年度後半頃」に修正したが、追加緩和に動かなかった。4月にも先送りしたが動かなかった。16年度後半も2%インフレ達成の見込みは薄く、再度の先送りは必至だが、もはや2%インフレの達成が遅れることを理由に、追加緩和に動くことはないと思われる。 日銀の政策反応関数はすでに大きく変化しており、事実上の「フレキシブル・インフレーション・ターゲット」に移行、コアコアが1%程度を超えていれば、コアインフレが早期に2%に到達しなくても、大きな問題はないというスタンスに変わってしまった。次に日銀が動くとすれば、コアコアが継続的に低下を続けることが懸念される場合であり、それは大幅な円高が進むケースか、需給ギャップの大幅な悪化の継続が予想されるケースではないだろうか。
・Q15)なぜ日銀の政策反応関数は変わったのか。 まず、追加緩和のメリットが小さくなっていることがある。前述した通り、追加緩和で円安が進んでも、輸出数量が増えず経済全体のパイが一定の中で、円安は輸出企業の業績を押し上げるものの、家計の実質購買力を抑制し、家計から輸出企業への単なる所得移転となっている。輸出企業の業績改善による株高とそれがもたらす資産効果、インバウンド消費の改善まで加えれば全体ではプラスだが、いずれにせよ効果は相当小さい。 一方で、追加緩和は出口の際のコストを高める。すでに国債の市中発行額の9割を日銀は購入しているが、今後、スムーズな購入を続けるには、より残存期間の長い国債を購入する必要がある。18日の金融政策決定会合で長期国債購入の平均残存期間を拡大したのも、現行のネットで年80兆円ペースでの購入がスムーズに続けられなくなるからだが、それは、出口の際、バランスシートを圧縮するまでに相当長い期間を要することを意味する。 また、利上げを開始した際、付利の支払いが膨らむ一方、保有する長期国債の利回りが低いため、日銀の損失が膨らむ。政策のメリットが小さく、一方でコストが大きくなっているため、簡単に政策は発動されない。 さらに重要なことだが、17年4月の消費増税を控える中、16年夏の参議院選挙が近づいており、いくら株価にプラスになるとはいえ、これ以上、家計部門に負担増を強いる円安及び円安をもたらす追加緩和を政府は望ましいとは考えていない。支持率が40%程度まで低下しているため、政治的にも追加緩和は微妙である。18日の会合で新たな指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れ枠の設定が打ち出されたのも、国債購入の増額が難しくなっていることだけでなく、円安をもたらす政策をできるだけ回避したいという思いの表れだろう。
Q16)追加緩和の可能性は全く無いのか。  現段階で、さらなる円安をもたらすための追加緩和は予想されないが、大幅な円高が訪れる際には、追加緩和はあり得る。例えば中国経済がハードランディングする場合、米連邦準備理事会(FRB)の利上げは中断され、大幅な円高が訪れるリスクが高まる。 実質円レートは1973年以来の超円安水準まで低下しているため、いったん調整が始まると大幅な円高となるリスクがある。この時、輸出数量が落ち込むだけでなく、国内でも企業が設備投資や人件費を圧縮するため、日本経済は単に国内総生産(GDP)統計上マイナス成長になるだけでなく、需給ギャップが明確に悪化するという意味で、不況に陥る可能性が高い。円高を回避することのメリットが高まるため、政策発動のコストが大きいとしても、追加緩和は正当化され得る。 ただ、追加緩和が行われる場合、前述した出口の際のコストが上昇することやオペレーション上の問題から、長期国債の購入を中心とした量的ターゲットの拡大ではなく、付利引き下げを中心とした金利ターゲットへの移行になると見られる。また、こうした環境となれば、当然にして、消費増税も再度、先送りされる可能性が高い。現段階における消費増税の先送り確率は30%程度である。
<グローバル経済編>
Q17)世界経済は回復が続くか。  米欧の内需が堅調であることから、世界経済は回復が続くというのが基本シナリオだが、新興国バブル・資源バブル崩壊の後遺症が残るため、16年に世界経済の成長ペースは加速しない、むしろ鈍化する可能性が強い。  中国経済は下げ止まりつつあるが、少なくとも16年半ばまでは底ばい傾向が続く。これまでも米国の金融緩和期に資金が向かった先の新興国でブームが醸成され、米国が金融引き締めに転じると、資金流出によって新興国のブームが崩壊することは何度も観測された。  ただ、80年代、90年代は、金融面だけでなく、実物面でも世界経済を規定していたのが米国であったため、米国が最初の利上げを始める時期には、むしろ米国の内需が加速、新興国が多少ふらついても世界経済全体の成長ペースは高まっていた。しかし、今回は事態が大きく異なる。まず、米国のアグレッシブな金融緩和によって、相当大きな新興国・資源バブルが醸成され、それが現在、崩壊過程に入っている。  さらに、この点が重要だが、世界で2番目の経済規模にまで拡大した中国経済が、潜在成長率の下方屈折問題や過剰ストック問題、ドルペッグに伴う人民高問題を抱え、足踏みを続けている。先進国の回復で新興国の減速がスムーズに吸収されるというより、新興国の減速で先進国の回復ペースが鈍化する可能性が高い。
Q18)2000年代の高成長は再現されないのか。 日本のみならず、米欧も労働力の伸びの鈍化によって、2000年代は潜在成長率が大きく低下した。2000年代に米欧で大規模バブルが生じたのは、潜在成長率の低下に伴い、収益性の高い実物投資の機会が枯渇する中、緩和マネーが株や不動産に向かったためである。  しかし、米欧の潜在成長率の低下にもかかわらず、世界経済が高い成長を遂げたのは、経済規模の大きくなった中国が高度成長を続け、世界経済をけん引したためである。中国では速いペースでの資本蓄積が続き、先進国・新興国は中国向けに輸出を増やすことができた。しかし、11年には中国の高成長も終焉、世界経済が享受した輸出の時代はすでに終わっている。 かつての中国に代わるような経済規模が大きく高い成長が可能な新興国が出現しないため、2010年代後半も世界経済は高い成長が期待できない。多くの人がフロンティアと考えていた新興国と資源のバブルが崩壊を迎え、世界経済に対する成長期待の低下から、16年は15年に続いて各国で実物投資が弱含む可能性が高い。
Q19)原油価格の低迷は続くのか。  2000年代に原油高が続いたのも、基本的には、高度成長の続いた中国の旺盛な需要が主因だ。中国の高度成長の終焉とともに、原油高の時代も終わった。本来なら、中国の高成長が終了した11年に原油安が訪れても不思議ではなかったが、その後もFRBのアグレッシブな金融緩和が生み出す過剰流動性によって、14年10月まで原油価格は高値で張り付いていた。 さらに高値が続くという思惑から、「イージーマネー」によるファイナンスによって世界中で資源開発が続けられ、過剰ストックが積み上げられてしまった。このため、地政学リスクが急激に高まらない限り、しばらく原油価格の戻りは限られたものになると思われる。 資源国は過剰ストック、過剰債務問題を抱え、苦境が続くが、さらにFRBの利上げに伴う資本コストの上昇も加わる。中国需要が高まる前の2000―04年頃の平均30ドル強を実質的な均衡レートと考えると、物価調整した場合、現状では41ドル程度の水準に対応する。原油高の時代の終焉はすべてを輸入に頼る日本にとって交易条件の改善を意味する。輸出に頼れないとしても交易条件の改善が大きなサポートとなるはずだが、前回述べた通り、問題はその大部分が企業に滞留していることである。
Q20)2016年の世界経済のリスクは、アップサイドかダウンサイドか。  明らかにリスクは、ダウンサイドに偏っている。下げ止まり傾向が観測されるといっても、中国経済はなお、下振れリスクを抱えている。2000年代の終盤に、農業部門の余剰労働力が工業化の過程で底をつく「ルイスの転換点」を迎え、潜在成長率が大きく下方屈折したが、当時、リーマンショックが低成長の原因と中国政府は誤認し、大規模財政を発動したため、それが過剰ストック問題をもたらした。 さらに、ドルに対し事実上のペッグ制を続けているため、実体経済に比して割高な人民元が景気回復の足を引っ張る。90年代の日本の置かれた状況と共通する。中国政府は財政政策で景気を下支えすると考えられるが、財政の規模を追求すれば、それは新たな過剰ストックを生む。こうした中、米国の内需が回復すれば、それはそれで望ましいのだが、それに伴いFRBの継続的な利上げ観測からドル高が進み、人民元実効レート上昇が中国経済の足を引っ張る恐れがある。 このほか、懸念されるのは、リーマンショック後に強化された金融規制がFRBの金融引き締め効果を増幅することである。前述した通り、低利のドル資金を元手に資源開発を続けた経済主体はバブルの残骸を抱え、利上げ開始によってますます困難な状況となる。現在、米国で好調なのは住宅販売や自動車販売で、いずれも低金利環境によって支えられているものであり、前提も揺るがす。 世界で2番目に大きくなった中国経済が減速局面にある中で、FRBの利上げが、新興国バブル・資源バブル崩壊後の世界経済のダウンサイドリスクを高める。
http://jp.reuters.com/article/view-ryutaro-kono-parttwo-idJPKBN0U50D620151222?pageNumber=1

私はかつて景気予測を商売にしていたこともあり、予測は実際には殆ど当たらないと思っている。そこで、このブログでも殆ど取上げてこなかった。ただ、今日は、新年でもあり、今年の経済に筋道を整理しておくこともそれなりに意味があると思い、取上げた次第である。
マーケット・エコノミストのなかには、政府の審議会などに呼ばれるのを期待して政府にゴマを擦る人間も多いが、河野龍太郎氏はそうした連中とは一線を画して、筋を通すとして私が信頼しているエコノミストの1人である。Q14で「日銀の政策反応関数」が変わり、「事実上の「フレキシブル・インフレーション・ターゲット」に移行」との指摘は、私には新鮮だった。
ただ、このシナリオはあくまでも標準型であって、中国経済のダウンサイドリスクが大きく振れるようなことはない、との期待が前提になっている点に留意が必要だ。
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