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東芝不正会計問題(その16)郷原信郎氏が見る新日本監査法人処分 [企業経営]

昨日に続いて、東芝不正会計問題である。今日は(その16)郷原信郎氏が見る新日本監査法人処分 を取上げたい。同氏のブログ2つを紹介するため、長目になるが、同氏ならではの重要な指摘が満載なので、最後までお読み頂きたい。

先ずは、このブログでたびたび引用している東京地検特捜部検事出身で弁護士の郷原信郎氏が、12月24日付けの同氏のブログで発表した「新日本監査行政処分から見えてくる「東芝会計不正の深い闇」」を紹介しよう。
・東芝の会計不正で会計監査人としての責任が問題にされていた新日本有限責任監査法人(以下、「新日本」)に対して、金融庁は、12月22日に、公認会計士法に基づき、21億円の課徴金納付命令・3カ月間の新規契約受注業務の停止・業務改善命令という行政処分を行った。また、東芝の監査を担当してきた7人の公認会計士に対しても、それぞれ6カ月から1カ月の業務停止処分が出された。
・当ブログ【トップの無為無策で窮地に追い込まれた新日本監査法人】で指摘した同法人のトップである英理事長も、来年1月末で引責辞任することになった。 しかし、東芝不正会計問題と、それに関する監査法人の責任問題が、今回の行政処分で決着すると考えるのは大きな間違いである。
・今回の行政処分で明らかにされた事実から、東芝と新日本をめぐる「深い闇」が見えてくる。その「闇」を明らかにしない限り、今回の会計不正問題は終わらない。
・注目すべきは、金融庁が行政処分の公表文に記載した「東芝の財務書類に対する虚偽証明」の内容である。 パソコン事業、半導体事業に関する不正についても、工事進行基準の問題についても、新日本が、不正のリスクを認識すべき「4半期末月の利益や原価の異常値」や「原価差額の減額」などを認識しながら、勝手に思い込んだり、東芝側の説明を鵜呑みにしたりして、理由を十分に確認しなかったとされている。
・この通りの事実だったとすると、新日本による東芝の会計監査は、あまりにお粗末であり、職務上の義務を果たしたとは到底言えないものだったことになる。
・一方で、この行政処分の認定事実を前提にすると、次の二つの点に重大な疑問が生じることになる。
・第一に、今回業務停止処分を受けた7人の公認会計士が、それ程までに無能であったのか、という点である。 以前、オリンパスの「損失隠し」に関して、会計監査人の責任が問題とされた際、私は、新日本監査法人の「オリンパス監査検証委員会」の委員として調査を総括した。その時の経験からすると、新日本監査法人の主要顧客企業だった東芝の会計監査を担当する公認会計士が、上記のような指摘を受けるほど無能であったとは考えられない。
・しかも、この7人の中には、2010年の東芝の会計監査において、相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明したことを理由に1か月の業務停止処分を受けたU氏が含まれている。同氏は、私が社外監査役を務めるIHIの監査チームの「主査」を務めていた。私には、これまで接した公認会計士の中で、最も信頼できる有能な公認会計士と評価していたU氏が、今回のような極めて低レベルの不正会計を見過ごすなどということは、全く信じられない。
・東芝の会計不正の問題は、業務停止の行政処分を受けた7人の公認会計士が、東芝側の虚偽の説明を受けたために不正に気づかなかったというような単純な問題とは思えない。
・むしろ、東芝側と新日本側との間に、主要顧客である東芝との長年の関係の中で、東芝執行部の意向を尊重し、その会計処理を容認するという暗黙の合意があったのではないか。会計監査を担当していた公認会計士は、そのような暗黙の合意を前提に、敢えて問題意識を希薄化させて監査に臨まざるを得なかったのではなかろうか。
・第二の疑問は、前記の認定事実からすると、新日本が会計監査人として責任を問われるべきであることは明白であるのに、東芝側が、その責任を追及しようとしないどころか、監査法人の責任問題を意図的に回避するという不自然な対応をしてきたのは、なぜなのかという点であるが、東芝側と新日本側との間に、上記のような「暗黙の合意」があったとすれば、東芝側の対応も合理的だったと言える。
・東芝の第三者委員会報告書は、会計監査人の監査の妥当性の評価は東芝からの委嘱事項に含まれておらず、調査の目的外だとして評価判断を回避していながら、会計監査人に責任を問うことが困難であることについて、以下のように、長々と記述をしている。 “問題となった処理の多くは、会社内部における会計処理の意図的な操作であり、会計監査人の気づきにくい方法を用い、かつ会計監査人からの質問や資料要請に対しては事実を隠蔽したり、事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示して説明するなど、外部の証拠により事実を確認することが困難な状況を巧みに利用した組織的に行われた不適切な会計処理であった”  「会計監査人の監査に関わる問題は委嘱事項ではない」としながら、東芝側の隠ぺいが巧妙で組織的なものであったことを強調し、会計監査人である監査法人が問題を指摘できなかったことはやむを得ないかのように述べているのは、明らかに不自然である。
・私は、報告書を最初に読んだ時点から、この点について疑問を持ち、ただちに、ブログ【監査法人に大甘な東芝「不適切会計」第三者委員会報告書】や日経ビジネスオンライン(NBO)のインタビュー記事【東芝は「社長のクビ」より「監査法人」を守った】で、第三者委員会報告書からは、監査法人との関係という問題の核心部分が調査の対象から除外され、不正会計の実態が全く明らかになっていないことを指摘し、その後も、東芝第三者委員会に関する問題と監査法人に関する問題を指摘し続け、『世界』9月号、『プレジデントオンライン』への寄稿や、9月外国特派員協会での講演でも、その点を指摘した。
・そして、その疑問に関して、決定的な事実が明らかになったのが、NBOのスクープ記事【東芝、室町社長にも送られた謀議メール 巨額減損問題、第三者委の調査は“出来レース”だった】である。 この記事に掲載された第三者委員会設置の時点での東芝執行部間のメールのやり取りによって、第三者委員会が、実は「第三者」では全くなく、東芝側の指示によって動く「見せかけだけの存在」であったことが明らかなった。
・しかも、そのメールのやり取りの中には、米国原発子会社の減損の問題を第三者委員会の調査の対象とするのか否か、委員の松井秀樹弁護士が会社側の意向を確認してきているとの法務部長のメールに対して、田中社長が、メールで「今回の課題は、原子力事業の工事進行案件と初物案件(ETCなど)であって、それ以外は特に問題ないという論理の組み立てが必要だ。そうでなければ会社の体質、組織的な問題に発展する」と述べているという「決定的な事実」が含まれているのである。
・この記事を前提にすると、東芝の組織の体質など根幹に関わる「米国原発子会社の減損問題を調査対象から除外して隠ぺいする」というのが、当時の東芝の経営トップの意向であり、第三者委員会は、その意向にしたがい、東芝が設定したストーリーのとおりに報告書を作成したということになる。
・それと同様に、第三者委員会報告書が、上記のように、会計監査の問題は委嘱の範囲外だとしながらその責任を否定するという、明らかに不自然な記述を行ったのも、「監査法人の責任が問われることを回避すること」が、その時点での東芝執行部にとっての至上命題だったのであれば、第三者委員会が、その意向に忠実にしたがったものと理解できる。
・では、なぜ、その時点での東芝執行部が、監査法人の責任が問われることを避けようとしたのか。
・それによって、米国原発子会社の減損問題を含む東芝問題の本質が明らかになることを恐れたからだとの推測が可能である。 一方の新日本側も、東芝側が設定した「第三者委員会のストーリー」をうまく使って、会計監査人としての責任を免れようと画策していたように思える。
・第三者委員会報告書公表直後から、監査法人問題を厳しく指摘する私に接触し、東芝問題に関して説明をしてきた新日本の幹部が、品質管理本部長のM氏だった。 M氏の説明は、「東芝側はトップが関与して、会計監査人に巧妙に虚偽説明をし、虚偽の資料を提出していたので、会計監査人として不正を見抜くことは困難だった」というものだった。
・第三者委員会の報告書の中で、「パソコン事業における部品取引」の問題に関して、会計処理方法を悪用して見かけ上の当期利益を嵩上げしていたことが指摘され、報告書末尾に、毎四半期末月に損益が異常に良くなっていることを示すグラフが資料として添付されており、これを見ると、監査法人が不正に気付かないことはあり得ないように思えた。これに関して、M氏は、「このグラフに書かれていることは、新日本側には全く知らされておらず、巧妙に隠されていました。それなのに、グラフを報告書に添付して、あたかも新日本側が知っていたかのような印象を世の中に与える第三者委員会のやり方はひどいと思います。」と言った。「そういうことなら、東芝側に抗議したらいいじゃないですか」と私が言うと、「東芝側は、第三者委員会報告書は委員会が作成したもので、その内容には東芝は関知しない、と言うんです。第三者委員会は、既に解散しているので、抗議のしようがありません」と言った。私が、「東芝側の虚偽説明について新日本側で言い分があるのであれば、それを堂々と表に出して反論すればいいじゃないですか。」と言うと、「守秘義務の問題がありますが、何とかできないか検討します。室町氏は、今回の不正を知らなかったとは到底言えない。社長の椅子にとどまっているのは考えられない。」などと、この問題について本音を語っているように思えるM氏が言うことに、大きなウソはないものと思っていた。
・しかし、この点について、今回の金融庁の行政処分では、 “監査の担当者は、毎四半期末月の製造利益が他月に比べ大きくなっている状況や、四半期末月の製造原価がマイナスとなる異常値を認識するとともに、その理由を東芝に確認し、「部品メーカーからの多額のキャッシュバック」があったためとの回答を受けていたが、監査調書に記載するのみで、それ以上にチーム内で情報共有をしていなかった。” と明確に認定されている。
・M氏は、私がブログ【トップの無為無策によって窮地に追い込まれた新日本監査法人】を出した2日後の12月18日夜、私に電話をかけてきて、「ようやく、東芝側の新日本への隠ぺいの決定的な事実を表に出して反論を本格的にやることになりました。もう、新聞、テレビなどのメディアの仕掛けもしています。来週から、どんどんやっていきます」と言ってきた。その際、「守秘義務の問題についてはどうお考えでしょうか。」と聞いてきたので、私が、「第三者委員会を使って世間を騙そうとした東芝に新日本の守秘義務を問題にする資格はありません。」と言うと、「安心しました。」と言っていた。
・ところが、「東芝への反撃」をするどころか、12月22日に金融庁の行政処分が出た後も、新日本側は、記者会見すら開かず、全くの「音なし」である。M氏からその後、何の連絡もない。
・このようなM氏の言動を振り返ってみると、M氏は、その場、その場で言うことを使い分けながら、法人内部や関係先で、適当な説明を繰り返していたのではないかと思える。前のブログで指摘した「トップの無為無策」も、M氏の画策と無関係とは思えない。 M氏の不誠実な言動からすると、現在の新日本の執行部の問題は、「無為無策の理事長」だけではないように思える。
・IHIの監査役を務める私も含め、現在、新日本が会計監査人となっている上場企業の監査役は、来期の監査契約を行うかどうかを判断する重要な責務を担うことになる。 山口利明弁護士も、ブログで指摘しているように(【監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否】)改正会社法で会計監査人の選任・解任権限を持つことになった監査役(会)としては、課徴金納付命令を受けた新日本の再任の可否について判断を適切に行わなければ、善管注意義務違反に問われることになる。
・その判断は、担当公認会計士個人の能力や姿勢の問題ではなく、新日本という組織の監査品質の問題である。今回の行政処分においては、12月15日の公認会計士・監査審査会の勧告をそのまま引用し、「品質管理本部は、問題のみられる一部の地区事務所への改善指導を実施しているものの、前回の審査会検査で検証した地区事務所が担当する監査業務において、今回の検査においても重要な監査手続の不備が認められている。監査での品質改善業務を担っている各事業部等は、品質管理本部の方針を踏まえて監査チームに監査の品質を改善させるための取組を徹底させていない。」と述べて、新日本の「品質管理本部」と「事業部」の問題を指摘しているのであるから、新日本がこの指摘をどのように受け止め、従来のやり方についてどのように反省し、どのような改革を行おうとしているのかが重要である。
・特に重要なのは、金融庁の業務改善命令で「今回、東芝に対する監査において虚偽証明が行われたことに加え、これまでの審査会の検査等での指摘事項に係る改善策が有効に機能してこなかったこと等を踏まえ、経営に関与する責任者たる社員を含め、責任を明確化すること。」とされていることを踏まえ、「品質管理本部」や「事業部」の責任者について、組織内で責任の所在が明らかにされているかどうかであり、その点は、新日本が東芝の会計不正について真摯に反省し、抜本的な出直しを行おうとしているかを見極める上での重要な判断要素だと言えよう。
・今回の問題を、7人の公認会計士個人だけが厳しい制裁を受けることで終わらせてはならない。 東芝と新日本の関係に見られるような監査法人と主要顧客企業との長年の関係に基づく「深い闇」の実態を明らかにし、解消していかなければ、日本の会計監査制度に対する信頼の確立はあり得ない。
https://nobuogohara.wordpress.com/2015/12/24/%e6%96%b0%e6%97%a5%e6%9c%ac%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e8%a1%8c%e6%94%bf%e5%87%a6%e5%88%86%e3%81%8b%e3%82%89%e8%a6%8b%e3%81%88%e3%81%a6%e3%81%8f%e3%82%8b%e3%80%8c%e6%9d%b1%e8%8a%9d%e4%bc%9a%e8%a8%88%e4%b8%8d/

次に、本年1月2日付けの「年明け早々から重大な危機に直面している新日本監査」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2016年を迎えた日本の経済社会において、当面大きな話題となるのは、東芝不正会計の問題に関して、会計監査人としての厳しい責任を問われている新日本有限責任監査法人(以下、「新日本」)の問題だ。  昨年末、金融庁から課徴金納付命令を含む厳しい行政処分を受けた新日本が、信頼回復に向けてどのような対応を行うのか、そして、それを新日本の顧客企業がどのように評価し、次年度の会計監査人に新日本を再任するか否かをどう判断するのかは、日本企業のガバナンスにも関わる重要な問題である。
・そして、日本最大の監査法人が危機的事態に直面している現状は、我が国の会計監査制度自体にも関わる重大な局面だと言える。
・この問題について、私なりに考え方を整理しようとしていた昨年末、私の事務所宛に、「新日本に所属する一会計士」からの手紙が届いた。
・“郷原先生、一刻も早く助けてください。新日本監査法人所属の一会計士です。 新日本監査法人執行部が腐りきっています。ペンの力で是正をお願いいたします。” との書き出しで始まるその手紙は、年末に出したブログ【新日本監査行政処分から見えてくる「東芝会計不正の深い闇」】で私が、新日本で行うべき対応として述べていることを踏まえ、理事長の辞任と理事の報酬減額で「責任の明確化」は終了したとして理事長退任後の椅子の取り合いに奔走している経営執行部の現状や、顧客企業を納得させられるものになっていない改革案などについて指摘し、「相変わらず危機感がなく無為無策の現執行部に委ねておいたのでは新日本は解散の道をたどってしまう」との危機感を露わにする内容であった。
・手紙の主は匿名であるが、内容からして同法人の内部者であることは間違いないように思われることに加え、新日本の組織の現状と東芝の会計不正と新日本の監査対応の問題の本質についての重要な指摘が含まれている。
・そこで、新日本の執行部宛てに手紙の写しを送付し、新日本の内部者を語ったものと考えられるか否か、書かれていることに事実に反する内容があるか否かの確認を求めたところ、英理事長からの回答があった。 そこで、手紙の内容と理事長の回答を踏まえ、新日本の現状と執行部が行うべき事項について、私の見解を述べることとしたい。
▽新日本の新体制人事の行方
・手紙では、新日本の現状について、 “現在の経営執行部の面々は、別紙【弊法人の責任の明確化】(ホームページに掲載)にある理事長の退任と理事の報酬減額をもって責任の明確化は既に終了したかのように、英理事長退任後の経営執行部の椅子の取りあいに奔走している始末。職員への今回の金融庁からの業務改善命令についての説明会の席で、説明者の事業部長から、「私が次の品質管理部長になる予定です。・・・」「次の理事長は着々と決まりつつあります。ご安心を。」などという発言が出る始末です。密室で経営執行部の人選が現経営陣の中で進められている状況です。経営執行部の刷新の動きがまるで見えず、相も変わらず現経営陣の中で名札の付替えを企んでいる状況です。 少なくとも、リスク対応責任者であり今回の金融庁対応を一手に行ったM氏(今回処分を受けた谷渕氏を金融庁に出向させようと画策もした)や審査委員長のS氏(審査機能の不十分性を指摘された)、各事業部長、ほとんど機能していない2名の副理事長や経営専務理事を一刻も早く免職とすべきであるというのが大多数の社員の意見であるにも係わらず、相変わらず反省もなく、密室で不透明かつ甘い人事が画策されています。 一方の監査現場では、経営執行部からの適切な指示もないまま、クライアントからの厳しいお叱りを受けながら、お詫びと説明に四苦八苦しながら飛び回っている状況です。経営執行部が作成の別紙【弊法人の改革案】(ホームページに掲載)では、あまりに抽象的かつ幼稚な改善案であり、今回の事態を招いた原因分析等も全くなされていない表面的なものでは、当然にクライアントに納得していただけるわけもなく、新日本への不信感は募るばかりの状況です。その状況をフィードバックしても、現経営陣に危機感が無く、相変わらず無為無策です。このままでは新日本は本当に解散の道をたどってしまいます。“  と述べている(手紙では個人名が書かれているが、イニシャル表示にした)。
・手紙の主が新日本の内部者だと断定はできないが、少なくとも、後半部分に書かれている「お詫びと説明に四苦八苦しながら飛び回っている監査現場の状況」は、私の認識と符合する。
・私が社外監査役を務めるIHIの監査チームの筆頭の公認会計士は、東芝の会計監査に関与していたことで金融庁の業務停止処分を受けて退社したため、若手の二人の会計士が今回の行政処分について説明に訪れた。会計年度の途中で筆頭の業務執行社員が業務停止を受けて交代せざるを得なくなり、それまでの会計監査にも重大な疑念が生じたことで、クライアントのIHIに重大な迷惑をかけている。それにもかかわらず、行政処分の説明を若手の会計士に行わせるだけで、法人のトップが謝罪にすら来ない新日本の姿勢に対して、私以外の監査役からも厳しい指摘が行われていた。
・他のクライアント企業でも同様の状況であろうと推察され、この手紙で書かれている「監査現場の惨状」は、現実のことだと思われる。
・問題は、前半部分の「理事長の退任と理事の報酬減額をもって責任の明確化は既に終了したかのように、英理事長退任後の経営執行部の椅子の取りあいに奔走している」という、理事長辞任後の体制についての法人執行部の言動である。
・これが事実だとすれば、新日本の執行部は、金融庁の業務改善命令において「今回、東芝に対する監査において虚偽証明が行われたことに加え、これまでの審査会の検査等での指摘事項に係る改善策が有効に機能してこなかったこと等を踏まえ、経営に関与する責任者たる社員を含め、責任を明確化すること。」とされているのを、ほとんど無視しているに等しい。そのような状況で危機的な事態を乗り切れるとは考えられないのであり、「このままでは新日本は本当に解散の道をたどってしまいます」との手紙の主の危機感も、決して杞憂ではないように思える。
・株式会社などの企業組織であれば、このような形で組織が致命的な打撃を受けることがないようにするためにガバナンス体制が設けられている。手紙に書かれているとおりであるとすると、新日本という監査法人の組織には、一般的な組織のガバナンスが根本的に欠落しているということになる。 今回の行政処分を受け、新日本の新体制に向けての人事がどのようなものになるのかに、注目すべきであろう。
▽東芝会計不正の本質と新日本の対応の根本的な問題
・そして、手紙の後半には、東芝の会計不正の本質について、以下のような指摘が書かれていた。 “そもそも、先生もご指摘のように経営陣の無為無策は目を覆うものがあり、挙句の果ては金融庁を本気で怒らせたとしか思えないような処分です。このような結論になる前に、オリンパス事件の時に先生が主導されたような「外部者による検証委員会」のようなものを立ち上げ、監査の実態を調査の上、世の中に監査制度の改善に向けた将来のための提言のようなものを発信ができなかったのか、非常に悔やまれてなりません。現場感覚から申し上げると、今回の不正会計と監査見落としの根本原因は、「東芝と監査人の現場での不適切な関係」にあることは間違いないのです。東芝側の監査人をリスペクトもしない一業者としての扱いの中で、果たして会計士監査が十分に機能発揮できる現場環境下にそもそもあったのかどうか、そこが最大のポイントです。  現状、金融庁の指摘は、リスクアプローチや会計上の見積もりの監査における懐疑心の保持、分析的実証手続き等々監査手続き上の不十分性ということになっています。当然、これは真摯に受け止めて深く反省し改善対応しますが、実は今回の東芝事件の本質はここではありません。もっと大きな問題がありながら、監査の手法に話がすり替えられてしまっています。クライアントと会計監査人の関係(まさに先生のおっしゃる「深い闇」です)にメスを入れて、将来の会計監査制度の信頼確立のための提言に繋げるチャンスを新日本は自ら放棄してしまったと同時に本質からずれた形で手続き上のあまりにも厳しい改善命令が出され、社会の信頼を失ってしまいました。ここに至るまでの無為無策は全く大きな罪であり、経営陣の総退陣は必須であると考えます。“ 
・前ブログでも、「東芝の会計不正の問題は、業務停止の行政処分を受けた7人の公認会計士が、東芝側の虚偽の説明を受けたために不正に気づかなかったというような単純な問題とは思えない。むしろ、東芝側と新日本側との間に、主要顧客である東芝との長年の関係の中で、東芝執行部の意向を尊重し、その会計処理を容認するという暗黙の合意があったのではないか。会計監査を担当していた公認会計士は、そのような暗黙の合意を前提に、敢えて問題意識を希薄化させて監査に臨まざるを得なかったのではなかろうか。」という見方を述べたが、手紙では、監査現場の認識に基づいて、不正会計と監査見落としの根本原因は、「東芝と監査人の現場での不適切な関係」であり、東芝側の監査人をリスペクトもしない一業者としての扱いの中では、会計士監査が十分に機能発揮できる現場環境下にそもそもなかったのではないかとの指摘が行われている。
・この指摘が正しいとすれば、東芝の会計不正の本質は、私が指摘したように、会計監査を担当していた会計士個人の問題ではなく、東芝と新日本の長年にわたる関係そのものの問題だったことになる。
▽新日本執行部への確認と回答内容
・今回の匿名の手紙については、上記のとおり、新日本執行部に確認を求めたところ、新日本の英理事長の回答は、以下のとおりであった。  “この手紙は新日本監査法人の職員が作成したものであるかどうか確認できませんのでこの手紙についてコメントは控えさせていただきます。ただ当法人といたしましては今回の事態を極めて重く受け止めており、現在具体的な問題点と改善策について真剣に協議しているところであります。したがってこの手紙がいずれの者によって作成されたか否かにかかわらず、経営陣が無為無策であるとか、改善のために真剣に取り組んでいないかのように指摘する点については事実に反するものと考えております。当法人としましては、今後速やかに具体的な改善策を打ち出し、これを内外共にお伝えすることによって、関係各方面の信頼を回復していくべく努力してまいる所存です。どうかご理解を賜り、今後の当法人の歩みをお見守りいただければ幸甚です。“ というものであった。
・行政処分を受けて公表された【弊法人の改革案】が全く評価に値しないものであることは、手紙の主が指摘するとおりであり、私も全く同意見であるが、英理事長は、「具体的な問題点と改善策についての真剣に協議している」とのことであるので、その協議の結果、打ち出される改善策の内容によって、手紙に書かれているように、「現経営陣に危機感が無く、相変わらず無為無策」であるか否かを判断すべきであろう。
・その改善策に関して注目すべきは、今回のような組織の不祥事を起こした当事者の組織として当然行うべきことが行われるのかどうかである。 それは、不祥事の事実関係を具体的に明らかにし、その原因を究明することだ。
・この二つが十分に行われない限り、まともな不祥事対応とは言えないし、不祥事を起こした組織の信頼回復はあり得ない。
・これまでブログ等で繰り返し指摘しているように、今回の東芝会計不正に対する新日本の会計監査の問題に関しては、不祥事の中身が何であったか、どのような事実であったのかは具体的に明らかにされていないし、それがいかなる原因によって生じたものなのかは全く不明である。
・このような状況のまま、今回の問題の収拾を図ろうとしても、社会の理解も、顧客企業側の納得も得られるはずはないし、手紙に書かれているように「新日本が解散への道をたどる」という最悪の結果も、現実のものとなりかねない。
・新日本のパートナー会計士で構成される評議会が、執行部の改善策が上記のような観点から十分なものかをしっかり見極めたうえで、法人としての意思決定を行う必要があろう。
▽新日本の不祥事対応を阻む東芝側からの「守秘義務」による圧力
・この事実関係の解明と原因の究明に関して、これまでそれを阻んできた最大の要因は、前ブログでも述べたように、新日本のM氏が口にしていた「東芝との間の守秘義務」の問題であろう。 確かに、一般的には、東芝の会計監査人である新日本には、監査の内容やそれに至る判断の経過等に関して東芝に守秘義務を負っている。
・しかし、今回の会計不正については、東芝の第三者委員会の報告書が公表され、そこで、「会計監査人の監査に関わる問題は委嘱事項ではない」としながらも、新日本の会計監査に関わる事実が多数指摘されている。今回、金融庁の行政処分を受けることになったのも、東芝の第三者委員会報告書が発端である。
・しかも、この第三者委委員会は、「日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠したもの」とされていたにもかかわらず、実際には、実は「第三者」では全くなく、東芝側の指示によって動く「見せかけだけの存在」であったことが日経ビジネスのスクープ報道で明らかになっており、東芝側は、これに対して何らの反論も抗議もした形跡はない。
・第三者委員会報告書がそのように東芝執行部の意向に従ったものだとすれば、その報告書に記載された事実に関連する事項に関して、新日本側が調査し、事実関係を明らかにすることを、東芝側が守秘義務を盾にとって妨げることなど社会的に許容される余地はない。
・新日本は、この点に関して、東芝側に守秘義務の解除を強く求めるべきであるが、果たして、これまで新日本側から東芝側にそれを要求したのであろうか。この点について、新日本は十分な検討を行ったのであろうか。
・今回の新日本及び会計士個人に対する行政処分で指摘されている事実は、会計監査としてあまりにお粗末であり、この程度の監査しかできなかったことに関して、何らの弁解も説明もできないのであれば、監査法人として信頼を失うのは当然である。
・それによって、新日本にとって、大量の顧客企業を失って解散の危機に瀕するおそれがある。その場合、新日本は、東芝の会計監査が凡そ大手監査法人の監査とは言い難いお粗末なものであったために解散に追い込まれた最低の監査法人だったことになり、その所属会計士も、そのような監査法人に所属していた不名誉を免れることができないことになる。
・当事務所に寄せられた「新日本所属の一会計士」の悲痛な訴えを、私は重く受け止め、今後の対応を行っていくこととしたい。
https://nobuogohara.wordpress.com/2016/01/02/%e5%b9%b4%e6%98%8e%e3%81%91%e6%97%a9%e3%80%85%e3%81%8b%e3%82%89%e9%87%8d%e5%a4%a7%e3%81%aa%e5%8d%b1%e6%a9%9f%e3%81%ab%e7%9b%b4%e9%9d%a2%e3%81%97%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b%e6%96%b0%e6%97%a5%e6%9c%ac/

さすが、郷原氏ならではの驚くべき指摘である。「東芝と新日本をめぐる「深い闇」」が鋭くえぐり出されている。同氏が社外監査役を務めるIHIの監査チームの「主査」を務め、有能だった新日本のU氏が「今回のような極めて低レベルの不正会計を見過ごすなどということは、全く信じられない」とあるように、処分は表面的なところでお茶を濁そうとしているようだ。
「東芝の会計不正の問題は、業務停止の行政処分を受けた7人の公認会計士が、東芝側の虚偽の説明を受けたために不正に気づかなかったというような単純な問題とは思えない。むしろ、東芝側と新日本側との間に、主要顧客である東芝との長年の関係の中で、東芝執行部の意向を尊重し、その会計処理を容認するという暗黙の合意があったのではないか」とは本質を突く指摘だ。
また、新日本の品質管理本部長M氏が、同氏に接触してきたことは、個々の会計士や理事長の問題というより、むしろ新日本の組織的問題の深さを物語っているようだ。
第二のブログに関しても、新日本の会計士からの手紙にあるように、「理事長退任後の椅子の取り合いに奔走している経営執行部」には驚かされた。上層部の危機感のなさはまさに危機的である。本来であれば、中堅クラスが造反を起こしてもよさようだが、会計士の世界では考え難いのだろうか。
手紙にある「今回の不正会計と監査見落としの根本原因は、「東芝と監査人の現場での不適切な関係」にあることは間違いないのです。東芝側の監査人をリスペクトもしない一業者としての扱いの中で、果たして会計士監査が十分に機能発揮できる現場環境下にそもそもあったのかどうか、そこが最大のポイントです」も驚くべき率直な指摘である。特に、「一業者としての扱い」には心底驚いた。
新日本側が仮に本格調査をしようとした場合、東芝側が守秘義務を盾にとって妨げることに関しては、問題ない旨を既に郷原氏がM氏を通じていることからすれば、新日本側が何を恐れて主体的調査をしないのだろうか。
これでは本当に「解散」への道を進んでいるようにしか思えない。
タグ:東芝不正会計問題 郷原信郎 新日本監査法人処分 新日本監査行政処分から見えてくる「東芝会計不正の深い闇」 21億円の課徴金納付命令 3カ月間の新規契約受注業務の停止・業務改善命令 行政処分 7人の公認会計士に対しても、それぞれ6カ月から1カ月の業務停止処分 英理事長 1月末で引責辞任 金融庁 東芝の財務書類に対する虚偽証明 この通りの事実だったとすると 新日本による東芝の会計監査は、あまりにお粗末であり、職務上の義務を果たしたとは到底言えないものだったことになる 二つの点に重大な疑問 7人の公認会計士が、それ程までに無能であったのか IHIの監査チームの「主査」 U氏が、今回のような極めて低レベルの不正会計を見過ごすなどということは、全く信じられない 東芝との長年の関係の中で、東芝執行部の意向を尊重し、その会計処理を容認するという暗黙の合意 東芝側が、その責任を追及しようとしないどころか、監査法人の責任問題を意図的に回避するという不自然な対応をしてきたのなぜなのかは 第三者委員会が、実は「第三者」では全くなく、東芝側の指示によって動く「見せかけだけの存在」 第三者委員会は、その意向にしたがい、東芝が設定したストーリーのとおりに報告書を作成 品質管理本部長のM氏 新日本側は、記者会見すら開かず、全くの「音なし」 M氏の不誠実な言動 新日本の執行部の問題は、「無為無策の理事長」だけではないように思える 「品質管理本部」や「事業部」の責任者について、組織内で責任の所在が明らかにされているかどうか 年明け早々から重大な危機に直面している新日本監査 「新日本に所属する一会計士」からの手紙 英理事長退任後の経営執行部の椅子の取りあいに奔走 密室で不透明かつ甘い人事が画策 監査現場 経営執行部からの適切な指示もないまま、クライアントからの厳しいお叱りを受けながら、お詫びと説明に四苦八苦 金融庁の業務改善命令 ほとんど無視しているに等しい このままでは新日本は本当に解散の道をたどってしまいます 組織のガバナンスが根本的に欠落 東芝と監査人の現場での不適切な関係」にある 東芝側の監査人をリスペクトもしない一業者としての扱いの中で 果たして会計士監査が十分に機能発揮できる現場環境下にそもそもあったのかどうか 本質からずれた形で手続き上のあまりにも厳しい改善命令 英理事長の回答 新日本の不祥事対応を阻む東芝側からの「守秘義務」による圧力
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