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国家主義的経済政策:官民対話 [経済政策]

昨日に続いて、国家主義的経済政策を取上げよう。今日は官民対話 についてである。

先ずは、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏が昨年10月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「政府から企業への口出しは日本を“社会主義化”させる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽民間投資の拡大を政府が「要請」 確かに企業には余力があるが…
・10月16日、安倍首相を筆頭とする政府首脳と、経済界の代表が対話する「官民対話」の会合が開かれた。この席で、安倍首相は、民間企業に対して設備、人材、研究などへの投資を拡大するように要請した。
・投資の意思決定は企業経営の根幹であり、強制力を伴うものではないとはいえ、政府が口を出すことに違和感を持つ向きが少なくなかった。
・現政権に好意的と思えるメディアである日本経済新聞社でさえ、10月18日付けの社説で「企業の意思決定に政府が介入しては困る」と題して批判を述べた。「政府の圧力を受ける形で、企業が無理をして投資を拡大すれば、肝心の競争力が低下する心配がある」「経営の意思決定は個々の企業が下し、国の圧力や統制は排除するのが自由主義経済の基本だ」と述べているが、正論である。
・ここのところ、経済は停滞気味であり、直接的な要因として民間企業の設備投資の低調があることは間違いない。設備投資の先行指標である機械受注は8月に対前年比マイナス3.5%と大きく落ち込んだ。景気の落ち込みを避けたい安倍政権として、企業に投資を拡大してほしいと考える気持ちは分からなくもない。しかも、日経は「無理をして投資を拡大すれば」と言うが、企業の手元資金は潤沢であり、投資の余力は十分ある。
・もっとも、政府としては強制力のない一般論を述べただけなので、この要請が深刻な批判の対象になるとは思っていないだろう。 筆者が気になったのは、「経済界の代表」として対話のメンバーに選ばれた企業と政権・政府との関係だ。
▽選ばれた企業が政府の「お友達」に 政治家・官僚・民間人が利用し合う
・官民対話の席上、あるIT企業の経営者は、「IT業界では、アメリカや中国の企業がロボット技術や人工知能の先端企業を各国で買収して日本の得意な分野を浸食してきている。IT企業の一員としてそうした企業の買収を進めたいが、巨大企業との買収合戦にはなかなか参戦できず、政府と力を合わせて、対抗できる仕組みを考えたい」と話していた。
・第三者の観点からは、企業買収に政府を関与させようと考えるとは何事かとも思うが、官民対話に出席して政府に調子を合わせて恩を売り、ついでにあわよくば政府を買収の資金調達にでも役立てようとするこの発言は、経営者として優秀。経営の時間を削ってまで、このような会議に出席した機会を有効に使っている。
一方、こうした機会を持たないことは、官民対話の場に呼ばれていない競合企業にとっては不利である。
・政府の「要請」は単なる希望であり、企業や経営者の行動に影響を与えないと考えるのは正しくない。
・たとえば、2013年に安倍政権が企業に賃金の引き上げを求めた時、ある小売企業の経営者はいち早く自社の給与引き上げを発表して、注目を浴びた。この経営者は、その後「発信力」を買われて、政府の重要な会議の民間委員に抜擢された。このケースでは、その企業にとって賃上げが適切だったし、政府の要請にいち早く応えたことがいい宣伝にもなった。この経営者も有能でありその行動に非はないが、政府の意向が企業・経営者の行動に影響を与えた例だ。
・純粋に経済的利益のロジックから考えると、そもそも、国や政府というもの自体が、自分(自企業)に都合良く利用すべき対象だ。公平な経済社会の運営のためには、政府と民間企業とが適切な距離を取るような、枠組みの設計が重要だ。
・官民対話に呼ばれるような「お友達」のメンバーが固定化されてくると、それらのお友達は少なくとも情報上有利になるし、政権との間に暗黙の協力関係が生まれる可能性が出てくる。
・民間企業を相手にした政策協力への要請を、政府の企業経営に対する介入だと批判する論調が多いが、筆者が心配するのは、政府と特定の企業や民間人とが暗黙の共依存関係を作り、政治家・官僚・民間人のそれぞれが、これを利用し始めるようになることだ。
▽強化される特定企業・個人と政府の関係 日本は社会主義化していくのか?
・アベノミクス初期の企業への賃上げ要請に始まって、先般は、携帯電話会社に対する料金引き下げの要請、そして今度は企業への投資拡大要請と、強制力は持っていないとしても、確かに政府が民間企業のやり方に口を出す機会が多い。
・また、民間企業の株式の所有を見ると、今や日本企業の筆頭株主はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)であり、2番手株主は日銀だ。平行して、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードを作ったが、これらは株主の企業経営関与を強化するルールだから、国の民間企業経営に対するグリップは明らかに強められる方向に動いている。
・当面、現政権が求めるのは、ROE向上を口実として企業自身が自社株を買って株価を上げ、これが景気浮揚、政権支持率向上に資することだろうが、政権と政権に近い企業・個人が、民間の企業や個人に影響力を持つ仕組みが少しずつ強化されていることは注意に値する。
・日本の経済は、しばしば「最も成功した社会主義経済だ」などと揶揄されるが、確かに、社会主義国的な国家・社会の運営が、何となく体質に合う面があるのかもしれない。
・一方、現実の社会主義国の運営は、メンバーが固定化した権力者の集団による独裁であることが通例だ。社会主義を標榜せずとも、政府が民間に指示をする形の社会運営は、特定の集団が自分たちに有利な形で政府という仕組みを利用することにつながりやすい。
・また、「政府」あるいは「政権」と呼ぶと、抽象的な役割に聞こえるが、これを実際に動かすのは、生身の個人であり、「政府」は関係者(政治家とは限らない)の利害や心情に大きく影響される。
・最近の安倍政権の動きをビジネスの側から見ると、世論の反対が多い原発を再稼働させ、武器輸出に道を開き、時には外遊の際に「トップセールス」的な協力を企業に対して行っている。「国益のためだ」という強弁は政権の側から常に可能だが、関係している企業や個人が、政府を都合良く利用して集中的に利益を得ている事実も忘れてはならない。
▽今の安倍首相のやり方は「美しくない国」への道
・現在の安倍首相が、「安倍国家主席」のように振る舞いたがっているとまでは思わないが、政・官・民の「お友達」を集めて方針を決め、政府が民間のすることに口を出すパターンを繰り返すことは、特定の個人や集団が政府を通じて不当な影響力を持つ「美しくない国」への道に通じているように思えてならない。
・近年、距離を置いている感じだが、安倍首相はかつて、小泉純一郎元首相を政治的な師と仰いでいた。か「美しくない国」への道
つての師の言葉である「民間でできることは、民間で」を思い出して、噛みしめてみるといいのではないか。
・企業に注文を付けるよりも、民間投資の拡大のためには、2017年の消費増税を早期に凍結するなどの、適切な経済政策を政府が行うことが一番の近道だ。
http://diamond.jp/articles/-/80275

次に、昨年12月4日付け日刊ゲンダイ「安倍官邸やりたい放題 国民の年金資金で企業にアメとムチ」を紹介しよう。
・サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、GPIFについて発言。「GPIFが機関投資家に運用委託をしているので、機関投資家に対して働きかけ、投資先が必要以上にキャッシュを持っているのであれば、例えば3年以内に設備投資するのか賃上げするのか、どうするか決めさせる。決めないのであれば、配当で戻させ、そして、別に成長するところにお金を回す。そうした具合にGPIFを活用するということも、大いに効果があるのではないか」
・要は、安倍政権の意向を聞く企業にはカネを出すが、言うことを聞かなければカネを引き揚げると言っているのだ。しかも、安定的に運用すべき年金を、このような乱暴な使い方をしていいわけがない。だいたい、GPIFが運用する年金資金は国民にとって、大事な老後の生活費だ。安倍政権のサイフにされてはたまらない。
・この新浪発言は3日行われた民主党の厚労部門会議でも大問題になったが、出席した厚労省の年金運用担当者は「(新浪氏が言うようなGPIFの運用の仕方がダメだとは)断言できません」とまるで他人事だ。
・民主党の山井和則衆院議員はこう言う。 「安倍官邸の『GPIFは俺らのカネなんだ』という発想からくるもので、国民の年金を自分たちの都合のいいように流用しているんです。その延長線上でこうしたエスカレートした発言が出てきた。経済財政諮問会議は“国の最高意思決定機関”です。思いつきの発言で済まされるものではありませんよ」
・GPIFといえば、2015年7~9月期の運用で約8兆円もの損失を出したことが明らかになったばかり。この巨額損失を反省するどころか、もっと利用してやろうなんて、絶対に許せない。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/171035/1

山崎氏が、「「経済界の代表」として対話のメンバーに選ばれた企業と政権・政府との関係」を問題視しているのは、その通りで、確かにこのままでは「「美しくない国」への道」を歩んでいるといえよう。
二番目の記事にある、安部首相の「お友達」、サントリーの新浪社長の発言も、GPIFの本来のあり方を超えて、特定の政策目的に使おうとするもので、新浪氏には失望した。ただ、この記事の終わりの部分にあるGPIFの7~9月期の運用損失については、本来の運用評価は、四半期ではなく、もっと長期間行うべきものなので、記者の無知をさらけ出しただけと思う。
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