日本企業の海外M&Aブーム(その2) 損保ジャパン日本興亜、キリンの大失敗、LIXILのその後 [企業経営]
日本企業の海外M&Aブームについては、8月11日に野村證券、第一三共、LIXILの失敗例を取上げた。今日は、(その2) 損保ジャパン日本興亜、キリンの大失敗、LIXILのその後 である。
先ずは、昨年12月18日付け東洋経済オンライン「損保ジャパン日本興亜、海外M&Aで大失態 世界5位再保険会社の持分会社化を断念」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・12月11日、損保ジャパン日本興亜(SOMPO)ホールディングス(HD)は、フランスの再保険会社スコールを持分法適用会社にすることを見送る、と正式に発表。今回、あえなく坐礁してしまったSOMPOのM&Aプロジェクト。
▽発表後わずか9カ月で撤回
・スコールの持分会社化計画をSOMPOがぶち上げたのが15年3月6日。スコールの筆頭株主であるスイスの投資会社パティネックス社から議決権の8.1%に当たる株式を取得した後に、市場からの追加取得も行って15%以上の株式を獲得し、あわせて取締役1名を派遣。買収額は約1100億円で、同社の海外M&Aとしては2014.5の英ロイズ損保大手キャノピアス買収(約1000億円)に続く大型のM&A。
・この投資によってスコールの純益の15%相当の100億円程度を取り込めば、SOMPOの海外事業の利益は一気に300億円台に乗せ、ライバルのMS&ADが射程に。
・断念の理由も「投資の経済合理性およびその後の環境変化などを総合的に検討し決定した」と具体性に欠ける。発表当初から、この構想に対しては業界他社から「なぞのM&A」といぶかる声。まず、その狙いがよくわからない。15%程度のマイナー出資では経営への関与は限定的なレベル。投資に対するリターンは4%台。その程度ならROE10%超の海外の優良損保の買収にカネを振り向けたほうがよい。
▽スコール側は望んでいなかった
・実現性にも当初から懸念。両社間には利害対立との指摘。投資の出口を探していたパティネックスに代わって、SOMPOが安定株主となることは許容範囲かもしれないが、SOMPOの持ち分会社となることは、認めがたい。世界中の保険会社と長期取引をするグローバル再保険会社にとっては、顧客たる保険会社とは等距離外交を保つことが得策。特定の保険会社の色がつくことは営業戦略上マイナス。
・ミュンヘン再保険、スイス再保険などトップクラスの再保険会社で損保会社のグループ会社になっているところはない。海外の報道は「スコールが拒否している」など両者間の交渉難航を伝えていた。スコールの意向を無視して敵対的買収に打って出たのでは、スコールの経営陣や内部人材の流出、顧客の離散などで、価値は失われ、元も子もない。
・実態はSOMPOが甘い見通しの結果として、「白旗をあげた」ということだろう。M&Aでは当然に必要な、首脳同士の会談すらなかったようだ
▽ライバル損保は海外M&Aで成果挙げる
・2005年にMS&ADインシュアランスグループHDは英アヴィヴァの東南アジア損保事業を買収。東京海上HDも2008年の英ロイズ損保大手キルンに始まり、米損保フィラデルフィア、米生損保併営デルファイまで活発な買収。両グループのM&Aは海外事業の拡大をもたらし、成功を収めた。
・さらに今年、東京海上は米損保HCCを9400億円で、MS&ADが英ロイズ損保2位のアムリンを6400億円で買収すると発表。事後処理が残っている。
・SOMPOはすでにパティネックス社が持つ8.1%相当に加え、市場からの購入などもあわせ9%相当、日本円で約700億円分のスコール株を取得済み。この株をスコールが買い取ることは考えられず、市場での売却がSOMPOの基本方針。3月の発表後に株価が上昇したのとは逆の理由で今度は9%もの大量売却となれば、株価には下落圧力。損失が出れば、焦って失敗に終わった今回の投資判断について、経営陣は株主から責任を問われることになるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/97289
次に本年1月9日付け東洋経済オンライン「キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴" 減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「こんなにいい案件はめったにない」。5年前の買収発表会見でそう語っていた、キリンホールディングスの三宅占二前社長。代表権のない会長に退いた今、自身が買収を決断したブラジル事業の大失速を、どんな心境で見ているだろうか。
・キリンは2015年12月21日、不振が続くブラジル子会社の企業価値を見直し、のれんの減損損失を計上すると発表した。約1140億円の特損が発生することから、580億円の黒字としていた同年12月期の純損益予想を560億円の赤字に修正。1949年の上場以来、初の最終赤字となる見通しだ。
・今回の発表について、野村証券の藤原悟史アナリストは「思い切って減損したことは評価できるが、これはあくまで会計上の問題。大切なのはブラジル事業を今後どうしていくかだ」と指摘する。
▽減損の裏に3つの誤算
・そもそもブラジル事業は、なぜ巨額の減損計上に至ったのか。それには5年前の3つの誤算が尾を引いている。
・2011年8月、キリンはブラジルのビール大手、スキンカリオールの株式50.45%を約2000億円で取得した。 が、残り49.55%を保有する株主に訴訟を起こされ、最終的に全株を取得することになった。買収金額は合計約3000億円に膨れ上がった。
・買収価格の割高・割安を測る指標であるEV/EBITDA倍率は約16倍。ある外資系証券会社によると、直近15年間にビール業界で行われた買収事例は平均約12倍で、割高感は否めなかった。それでも買収を決断したのは、日本市場が停滞する折、新市場開拓が不可欠だったからだ。
・しかし、その後も、キリンの読み違いは続いた。最大の誤算は下位メーカーにシェアを奪われたことだ。 英調査会社ユーロモニターによると、2011年当時のスキンカリオールのブラジル国内シェアは15%だった。 同6割を超すアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)との差は歴然だったものの、3位の地元メーカー・ペトロポリスを5ポイントほど上回っていた。だが、同社がスキンカリオールの地盤だったブラジル北東部に進出すると、形勢は一変した。 「2015年に入ってからシェアを逆転された。4位のハイネケン(オランダ)の足音も聞こえてきている」(溝内良輔・常務執行役員)
・買収以降、現地通貨レアルの価値が下がり続けたことも、想定外だった。2011年8月時点で1レアル=約50円だったが、足元では30円前後まで下落。麦芽や缶など原料・資材の多くを国外からの輸入に依存しているため、レアル安はコスト増につながり、業績悪化に拍車をかけた。
▽注目は2月発表の新中期計画
・今回の減損の前提は、ブラジル事業が2019年12月期に黒字化することだ。溝内常務は、コスト削減や販売戦略見直しを進めることで、黒字化を1年前倒しで目指すとした。ただその一方で、ブラジルからの撤退も否定しなかった。
・日本市場が縮小の一途をたどり、海外事業の拡大を迫られる中、競合に先んじて海を渡ったキリン。その牽引役が岐路に立たされている。前社長時代の負の遺産にどう向き合うか。今年2月に発表する新中期経営計画での磯崎功典社長の発言が見ものだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/98406
第三に、昨年12月23日付け東洋経済オンライン「LIXIL「プロ経営者」、不可解な退任劇の裏側 辞めたのか、辞めさせられたのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「コンフォタブル(快適)な状態になったら辞める。それがプロ経営者というもの。私はプロとしての信念とプライドで(引退を)決めた」。住宅設備最大手・LIXILグループの藤森義明社長兼CEO(64)が12月21日、自身の引退を電撃発表した。2016年6月の株主総会における承認を経て、代表権のない相談役に退く。後任には工具通販のMonotaRO(モノタロウ)の瀬戸欣哉会長(55)が就く見込みだ。
・社長交代に先駆けて、1月1日からは藤森氏が現職のまま、瀬戸氏を代表執行役兼COOに迎える暫定体制を敷く。冒頭の言葉は、退任発表会見を終えた藤森社長が笑顔で語ったものだが、状況はそれほど”快適”ではなかったのではないか。
▽プロ経営者の華やかな足跡
・藤森氏は、日商岩井(現・双日)から米ゼネラル・エレクトリック(GE)に転じ、46歳の若さで上席副社長に上りつめた。GEの経営中枢に入った初のアジア人だ。その経歴と手腕に、LIXILの経営を託したのが、創業家二代目の潮田洋一郎氏。当時は会長兼CEOだったが、藤森社長を経営トップに抜擢、自らは取締役会議長に退いた。
・2011年8月の就任から、藤森氏が矢継ぎ早に手がけたのは、投資総額5000億円に迫る大型M&Aだ。衛生陶器の米アメリカン・スタンダード、水栓金具の独グローエなど、業界の世界的名門を次々と買収。結果として、LIXILの売上高は1.5倍に拡大し、海外売上高比率も1割以下だったのが3割に伸びた(2011年3月期実績と2016年3月期予想の比較)。
・また経営幹部などの要職に、GEやソニーといった企業から人材を集めたほか、既存社員の中からも若手や女性を抜擢。泥臭さが否めなかった社風と対外的イメージを一変させた。これらは経営のプロと呼ぶにふさわしい、手腕のたまものと評価できるだろう。
・だが一方で、買収戦略の中では蹉跌も生じた。最大の失敗は、グローエ買収に伴って傘下に収めた、中国の水栓金具メーカー・ジョウユウの粉飾決算だ。創業者の蔡親子によるとされる巨額の簿外債務が発覚、上場していたドイツで2015年5月に破産処理を行い、LIXILは関連して660億円もの損失を被った。
・さらには前代未聞にも、ジョウユウは「ドイツにおける破産処理は中国での経営に影響しない」と、一方的に宣言。創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けている。LIXILは債権約360億円の回収に乗り出しているものの、もはや糸の切れた凧である、ジョウユウと創業者親子が経営資源や個人資産から返済額を捻出するとは、期待しにくいのが現状だ。
▽目利き力の問題
・M&Aによる失敗は、通常、収益向上策が計画通りにはいかなかったという、買収後の経営力不足によるもの。だがジョウユウの場合、そもそもが負債まみれの”まがい物”であり、現地経営陣も意思疎通が困難な曲者である。つまり、本来買うべきでない企業を傘下に収めてしまったという、目利き力の問題なのだ。
・にもかかわらず、M&A担当の筒井高志取締役や、買収前からジョウユウの監査役会メンバーで経営実態を把握できたグローエのデイビッド・ヘインズCEOは、マネジメントの資質と進退を問われることなく、3カ月間の報酬削減を受けただけである。
・このつまずき以前から株式市場は、藤森氏の戦略と手腕を手放しで評価していたわけではなかった。 藤森氏の就任後、LIXILの時価総額は1.3倍になったが、この上昇は、株式市場全体の好影響を受けた程度というのが実情。同じ期間に3倍以上に膨らんだ同業2位のTOTOと比べると、どちらがより投資家に評価されたかは一目瞭然だろう。TOTOは買収に一切頼らず、高付加価値製品を地道に海外に売り込む経営戦略で、売上高こそLIXILの3分の1ながら、より高い収益力を誇っている。
▽潮田氏が「潮時」と判断したか
・結局、藤森氏の経営成果を誰よりもシビアに見定めたのは、経営を委ねた当人であり、取締役会議長として企業統治役に徹してきた、潮田氏なのかもしれない。委員会設置会社であるLIXILでは、潮田氏が數土文夫・東京電力会長らと構成する指名委員会で、取締役候補が選ばれる。藤森氏の退任も、この指名委員会を経て、12月21日の取締役会で決議された。
・潮田氏は近年、メディアの取材をほとんど受けていないが、2014年春に小誌に対し、次のように答えている。「自分の寿命が尽きる、さらに先の時代まで、この会社が繁栄できるような枠組みを設けることが私の役割」。ジョウユウ問題の引責を求めたかはもう一つ定かでないが、LIXILのさらなる発展にとって、これ以上、藤森氏は適任ではないだろう――そう潮田氏が冷静に判断したといえそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/97856
損保ジャパン日本興亜が再保険会社スコールを買収しようとしたのは、記事にもある通り、不可解である。利害対立の問題がありながら、何故買収いようとしたのか、経営陣はきちんと総括する必要があろう。買収発表時、或いはその直後に、この点を問いたださなかった記者もふがいないの一言に尽きる。
キリンの買収価格EV/EBITDA倍率は約16倍(平均約12倍)と割高だったのもさることながら、「下位メーカーにシェアを奪われた」とは情けない限りだ。おそらく、現地のビール業界に詳しい人材が社内におらず、現地経営陣に任せ切りにしていたためかも知れない。
LIXILの藤森社長兼CEOの交代は、これだけ大失敗をした以上、当然である。ただ、これが「プロ経営者」全般の限界なのか、藤森氏個人の問題なのかは、もっと詳細な分析が必要だろう。それにしても、ジョウユウが創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けているとは驚きだ。それに手をこまねいているLIXILも情けない。
いずれにしろ、国内市場の飽和に直面して、海外企業を漁る日本企業は、海外からは「おいしいカモ」に見えているようで、残念でならない。
先ずは、昨年12月18日付け東洋経済オンライン「損保ジャパン日本興亜、海外M&Aで大失態 世界5位再保険会社の持分会社化を断念」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・12月11日、損保ジャパン日本興亜(SOMPO)ホールディングス(HD)は、フランスの再保険会社スコールを持分法適用会社にすることを見送る、と正式に発表。今回、あえなく坐礁してしまったSOMPOのM&Aプロジェクト。
▽発表後わずか9カ月で撤回
・スコールの持分会社化計画をSOMPOがぶち上げたのが15年3月6日。スコールの筆頭株主であるスイスの投資会社パティネックス社から議決権の8.1%に当たる株式を取得した後に、市場からの追加取得も行って15%以上の株式を獲得し、あわせて取締役1名を派遣。買収額は約1100億円で、同社の海外M&Aとしては2014.5の英ロイズ損保大手キャノピアス買収(約1000億円)に続く大型のM&A。
・この投資によってスコールの純益の15%相当の100億円程度を取り込めば、SOMPOの海外事業の利益は一気に300億円台に乗せ、ライバルのMS&ADが射程に。
・断念の理由も「投資の経済合理性およびその後の環境変化などを総合的に検討し決定した」と具体性に欠ける。発表当初から、この構想に対しては業界他社から「なぞのM&A」といぶかる声。まず、その狙いがよくわからない。15%程度のマイナー出資では経営への関与は限定的なレベル。投資に対するリターンは4%台。その程度ならROE10%超の海外の優良損保の買収にカネを振り向けたほうがよい。
▽スコール側は望んでいなかった
・実現性にも当初から懸念。両社間には利害対立との指摘。投資の出口を探していたパティネックスに代わって、SOMPOが安定株主となることは許容範囲かもしれないが、SOMPOの持ち分会社となることは、認めがたい。世界中の保険会社と長期取引をするグローバル再保険会社にとっては、顧客たる保険会社とは等距離外交を保つことが得策。特定の保険会社の色がつくことは営業戦略上マイナス。
・ミュンヘン再保険、スイス再保険などトップクラスの再保険会社で損保会社のグループ会社になっているところはない。海外の報道は「スコールが拒否している」など両者間の交渉難航を伝えていた。スコールの意向を無視して敵対的買収に打って出たのでは、スコールの経営陣や内部人材の流出、顧客の離散などで、価値は失われ、元も子もない。
・実態はSOMPOが甘い見通しの結果として、「白旗をあげた」ということだろう。M&Aでは当然に必要な、首脳同士の会談すらなかったようだ
▽ライバル損保は海外M&Aで成果挙げる
・2005年にMS&ADインシュアランスグループHDは英アヴィヴァの東南アジア損保事業を買収。東京海上HDも2008年の英ロイズ損保大手キルンに始まり、米損保フィラデルフィア、米生損保併営デルファイまで活発な買収。両グループのM&Aは海外事業の拡大をもたらし、成功を収めた。
・さらに今年、東京海上は米損保HCCを9400億円で、MS&ADが英ロイズ損保2位のアムリンを6400億円で買収すると発表。事後処理が残っている。
・SOMPOはすでにパティネックス社が持つ8.1%相当に加え、市場からの購入などもあわせ9%相当、日本円で約700億円分のスコール株を取得済み。この株をスコールが買い取ることは考えられず、市場での売却がSOMPOの基本方針。3月の発表後に株価が上昇したのとは逆の理由で今度は9%もの大量売却となれば、株価には下落圧力。損失が出れば、焦って失敗に終わった今回の投資判断について、経営陣は株主から責任を問われることになるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/97289
次に本年1月9日付け東洋経済オンライン「キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴" 減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「こんなにいい案件はめったにない」。5年前の買収発表会見でそう語っていた、キリンホールディングスの三宅占二前社長。代表権のない会長に退いた今、自身が買収を決断したブラジル事業の大失速を、どんな心境で見ているだろうか。
・キリンは2015年12月21日、不振が続くブラジル子会社の企業価値を見直し、のれんの減損損失を計上すると発表した。約1140億円の特損が発生することから、580億円の黒字としていた同年12月期の純損益予想を560億円の赤字に修正。1949年の上場以来、初の最終赤字となる見通しだ。
・今回の発表について、野村証券の藤原悟史アナリストは「思い切って減損したことは評価できるが、これはあくまで会計上の問題。大切なのはブラジル事業を今後どうしていくかだ」と指摘する。
▽減損の裏に3つの誤算
・そもそもブラジル事業は、なぜ巨額の減損計上に至ったのか。それには5年前の3つの誤算が尾を引いている。
・2011年8月、キリンはブラジルのビール大手、スキンカリオールの株式50.45%を約2000億円で取得した。 が、残り49.55%を保有する株主に訴訟を起こされ、最終的に全株を取得することになった。買収金額は合計約3000億円に膨れ上がった。
・買収価格の割高・割安を測る指標であるEV/EBITDA倍率は約16倍。ある外資系証券会社によると、直近15年間にビール業界で行われた買収事例は平均約12倍で、割高感は否めなかった。それでも買収を決断したのは、日本市場が停滞する折、新市場開拓が不可欠だったからだ。
・しかし、その後も、キリンの読み違いは続いた。最大の誤算は下位メーカーにシェアを奪われたことだ。 英調査会社ユーロモニターによると、2011年当時のスキンカリオールのブラジル国内シェアは15%だった。 同6割を超すアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)との差は歴然だったものの、3位の地元メーカー・ペトロポリスを5ポイントほど上回っていた。だが、同社がスキンカリオールの地盤だったブラジル北東部に進出すると、形勢は一変した。 「2015年に入ってからシェアを逆転された。4位のハイネケン(オランダ)の足音も聞こえてきている」(溝内良輔・常務執行役員)
・買収以降、現地通貨レアルの価値が下がり続けたことも、想定外だった。2011年8月時点で1レアル=約50円だったが、足元では30円前後まで下落。麦芽や缶など原料・資材の多くを国外からの輸入に依存しているため、レアル安はコスト増につながり、業績悪化に拍車をかけた。
▽注目は2月発表の新中期計画
・今回の減損の前提は、ブラジル事業が2019年12月期に黒字化することだ。溝内常務は、コスト削減や販売戦略見直しを進めることで、黒字化を1年前倒しで目指すとした。ただその一方で、ブラジルからの撤退も否定しなかった。
・日本市場が縮小の一途をたどり、海外事業の拡大を迫られる中、競合に先んじて海を渡ったキリン。その牽引役が岐路に立たされている。前社長時代の負の遺産にどう向き合うか。今年2月に発表する新中期経営計画での磯崎功典社長の発言が見ものだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/98406
第三に、昨年12月23日付け東洋経済オンライン「LIXIL「プロ経営者」、不可解な退任劇の裏側 辞めたのか、辞めさせられたのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「コンフォタブル(快適)な状態になったら辞める。それがプロ経営者というもの。私はプロとしての信念とプライドで(引退を)決めた」。住宅設備最大手・LIXILグループの藤森義明社長兼CEO(64)が12月21日、自身の引退を電撃発表した。2016年6月の株主総会における承認を経て、代表権のない相談役に退く。後任には工具通販のMonotaRO(モノタロウ)の瀬戸欣哉会長(55)が就く見込みだ。
・社長交代に先駆けて、1月1日からは藤森氏が現職のまま、瀬戸氏を代表執行役兼COOに迎える暫定体制を敷く。冒頭の言葉は、退任発表会見を終えた藤森社長が笑顔で語ったものだが、状況はそれほど”快適”ではなかったのではないか。
▽プロ経営者の華やかな足跡
・藤森氏は、日商岩井(現・双日)から米ゼネラル・エレクトリック(GE)に転じ、46歳の若さで上席副社長に上りつめた。GEの経営中枢に入った初のアジア人だ。その経歴と手腕に、LIXILの経営を託したのが、創業家二代目の潮田洋一郎氏。当時は会長兼CEOだったが、藤森社長を経営トップに抜擢、自らは取締役会議長に退いた。
・2011年8月の就任から、藤森氏が矢継ぎ早に手がけたのは、投資総額5000億円に迫る大型M&Aだ。衛生陶器の米アメリカン・スタンダード、水栓金具の独グローエなど、業界の世界的名門を次々と買収。結果として、LIXILの売上高は1.5倍に拡大し、海外売上高比率も1割以下だったのが3割に伸びた(2011年3月期実績と2016年3月期予想の比較)。
・また経営幹部などの要職に、GEやソニーといった企業から人材を集めたほか、既存社員の中からも若手や女性を抜擢。泥臭さが否めなかった社風と対外的イメージを一変させた。これらは経営のプロと呼ぶにふさわしい、手腕のたまものと評価できるだろう。
・だが一方で、買収戦略の中では蹉跌も生じた。最大の失敗は、グローエ買収に伴って傘下に収めた、中国の水栓金具メーカー・ジョウユウの粉飾決算だ。創業者の蔡親子によるとされる巨額の簿外債務が発覚、上場していたドイツで2015年5月に破産処理を行い、LIXILは関連して660億円もの損失を被った。
・さらには前代未聞にも、ジョウユウは「ドイツにおける破産処理は中国での経営に影響しない」と、一方的に宣言。創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けている。LIXILは債権約360億円の回収に乗り出しているものの、もはや糸の切れた凧である、ジョウユウと創業者親子が経営資源や個人資産から返済額を捻出するとは、期待しにくいのが現状だ。
▽目利き力の問題
・M&Aによる失敗は、通常、収益向上策が計画通りにはいかなかったという、買収後の経営力不足によるもの。だがジョウユウの場合、そもそもが負債まみれの”まがい物”であり、現地経営陣も意思疎通が困難な曲者である。つまり、本来買うべきでない企業を傘下に収めてしまったという、目利き力の問題なのだ。
・にもかかわらず、M&A担当の筒井高志取締役や、買収前からジョウユウの監査役会メンバーで経営実態を把握できたグローエのデイビッド・ヘインズCEOは、マネジメントの資質と進退を問われることなく、3カ月間の報酬削減を受けただけである。
・このつまずき以前から株式市場は、藤森氏の戦略と手腕を手放しで評価していたわけではなかった。 藤森氏の就任後、LIXILの時価総額は1.3倍になったが、この上昇は、株式市場全体の好影響を受けた程度というのが実情。同じ期間に3倍以上に膨らんだ同業2位のTOTOと比べると、どちらがより投資家に評価されたかは一目瞭然だろう。TOTOは買収に一切頼らず、高付加価値製品を地道に海外に売り込む経営戦略で、売上高こそLIXILの3分の1ながら、より高い収益力を誇っている。
▽潮田氏が「潮時」と判断したか
・結局、藤森氏の経営成果を誰よりもシビアに見定めたのは、経営を委ねた当人であり、取締役会議長として企業統治役に徹してきた、潮田氏なのかもしれない。委員会設置会社であるLIXILでは、潮田氏が數土文夫・東京電力会長らと構成する指名委員会で、取締役候補が選ばれる。藤森氏の退任も、この指名委員会を経て、12月21日の取締役会で決議された。
・潮田氏は近年、メディアの取材をほとんど受けていないが、2014年春に小誌に対し、次のように答えている。「自分の寿命が尽きる、さらに先の時代まで、この会社が繁栄できるような枠組みを設けることが私の役割」。ジョウユウ問題の引責を求めたかはもう一つ定かでないが、LIXILのさらなる発展にとって、これ以上、藤森氏は適任ではないだろう――そう潮田氏が冷静に判断したといえそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/97856
損保ジャパン日本興亜が再保険会社スコールを買収しようとしたのは、記事にもある通り、不可解である。利害対立の問題がありながら、何故買収いようとしたのか、経営陣はきちんと総括する必要があろう。買収発表時、或いはその直後に、この点を問いたださなかった記者もふがいないの一言に尽きる。
キリンの買収価格EV/EBITDA倍率は約16倍(平均約12倍)と割高だったのもさることながら、「下位メーカーにシェアを奪われた」とは情けない限りだ。おそらく、現地のビール業界に詳しい人材が社内におらず、現地経営陣に任せ切りにしていたためかも知れない。
LIXILの藤森社長兼CEOの交代は、これだけ大失敗をした以上、当然である。ただ、これが「プロ経営者」全般の限界なのか、藤森氏個人の問題なのかは、もっと詳細な分析が必要だろう。それにしても、ジョウユウが創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けているとは驚きだ。それに手をこまねいているLIXILも情けない。
いずれにしろ、国内市場の飽和に直面して、海外企業を漁る日本企業は、海外からは「おいしいカモ」に見えているようで、残念でならない。
タグ:損保ジャパン日本興亜 首脳同士の会談すらなかったようだ 利害対立 EV/EBITDA倍率は約16倍 特定の保険会社の色がつくことは営業戦略上マイナス 顧客たる保険会社とは等距離外交を保つことが得策 創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けている グローバル再保険会社 最終的に全株を取得 スコール側は望んでいなかった スキンカリオール 15%程度のマイナー出資では経営への関与は限定的 最大の誤算は下位メーカーにシェアを奪われたことだ 東洋経済オンライン 初の最終赤字となる見通しだ メーカー・ジョウユウの粉飾決算 (その2) 損保ジャパン日本興亜、キリンの大失敗、LIXILのその後 平均約12倍で、割高感は否めなかった 後任には工具通販のMonotaRO(モノタロウ)の瀬戸欣哉会長(55)が就く見込みだ 損保ジャパン日本興亜、海外M&Aで大失態 世界5位再保険会社の持分会社化を断念 業界他社から「なぞのM&A」といぶかる声 引退 約1140億円の特損が発生 3000億円 買収額は約1100億円 ブラジル子会社の企業価値を見直し、のれんの減損損失を計上 発表後わずか9カ月で撤回 藤森義明社長兼CEO LIXIL「プロ経営者」、不可解な退任劇の裏側 辞めたのか、辞めさせられたのか レアルの価値が下がり続けたことも、想定外 キリンが南米でハマった、3つの"落とし穴" 減損計上で1949年の上場来初の最終赤字に 持分法適用会社にすることを見送る スコール 日本企業の海外M&Aブーム 再保険会社
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