SSブログ

日本郵政(その9)ゆうちょ銀の限度額引き上げ問題2 引き上げを喜べないゆうちょ銀行 [経済政策]

日本郵政(その9)ゆうちょ銀の限度額引き上げ問題については、前回は昨年8月12日に取上げたが、その後の決着を踏まえ、ゆうちょ銀の限度額引き上げ問題2 引き上げに喜べないゆうちょ銀行 を取上げたい。

1月24日付け東洋経済オンライン「ゆうちょ銀が限度額の引き上げで背負う難題 貯金限度額1300万円への増額を喜べない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・政治に翻弄されるゆうちょ銀行に、また新たな宿題が課された。15年12月25日、郵政民営化委員会は、現行1000万円の貯金預入限度額を「300万円程度引き上げることが妥当」と発表。政令改定などを経て今年4月から1300万円になるとみられる。
・貯金限度額が引き上げられるのは、1991年以来、25年ぶりだ。前回は引き上げ後に貯金の伸びが加速し、民間預金の伸びを上回る時期が続いた。民間金融機関が猛反発したことで、再引き上げはタブー視されてきた。
・しかし、14年12月の衆議院議員選挙で勝利した自民党が、限度額見直しの検討を公約。15年6月には同年9月末までに2000万円、2年後に3000万円へ引き上げるべき、と提言した。
▽引き上げの背景に全国郵便局長会の政治力
・自民党がここまで動くのは、全国郵便局長会(旧全国特定郵便局長会、略称・全特)が、限度額引き上げを要望しているからだ。全特は全国約2.4万の郵便局の大半の局長が集う組織だ。 13年の参議院議員選挙では、全特前会長の柘植芳文氏を、自民党比例区トップの40万票超で当選させた組織力を持つ。7月に、参議院議員選挙が控える自民党や安倍政権にとって、重要な存在である。
・自民党の提言が15年6月に出るや、全国銀行協会や全国信用金庫協会など七つの民間金融機関団体は、共同声明を発表。「断じて容認できるものではない」と反対した。 だが政府は15年7月、民営化委に、「今後の郵政民営化の推進の在り方の調査審議」を要請。それに応える形で、民営化委が同12月25日に所見を公表し、限度額引き上げへの道筋をつけたのである。
・全特は引き上げ額が300万円では「大幅に不足」としつつも、引き上げの審議結果が示されたことは「評価する」とコメント。民営化委の増田寛也委員長が「次の段階の緩和の検討については、1〜2年ぐらいのイメージを持っている」と語り、さらなる引き上げの可能性を示している。
・一方、民間金融機関も、歩み寄りを示す。7団体の共同声明は、懸念を述べつつも、「私どもの強い懸念を一定程度共有いただいたものと理解している」と評価した。
・今回話がまとまったのは、引き上げ額が300万円に収まり、前回のようなゆうちょ銀行への資金シフトは起きないと考えられるからだ。
▽貯金限度額引き上げで、コスト負担も増加(前回の引き上げ時に資金シフトが起きたのは、民間金融機関よりゆうちょ銀行の金利が高かったことが大きい。
・現在、両者には金利格差はほとんどない。実際、ゆうちょ銀行の長門正貢社長も「限度額が300万円増えたからといって、金利上乗せなどの特別なキャンペーンはやらない」と明言する。
・それよりも長門社長は「4月以降、投資信託の販売にかかわるインセンティブ(報奨金)を、強力につける。投信の販売を担うフィナンシャルコンサルタントも、従来計画より100人増員して17年度1300人体制にする」と、投信販売に力を注ぐ計画だ。
・超低金利が続く中、貯金で集めたおカネを運用するよりも、投信販売で得る手数料のほうが収益性は高い。
・貯金の限度額引き上げはゆうちょ銀行にとって、むしろコスト増要因になりかねない。現在、限度額を超えた貯金は、利子のつかない振替貯金に入っている。 振替貯金残高11兆円の大半を占めるとみられ、利子のつく貯金に預け替えられるだけで、ゆうちょ銀行にとっては数十億円の利払い負担が増す。また大量の資金シフトが起きれば、再び「民業圧迫」の反発も呼びかねない。
・投信販売で手数料を稼ぎたいゆうちょ銀行にとり、悩ましいのは実際の営業を別会社の日本郵便に依存していること。 ゆうちょ銀行も直営233店を持つが、2.4万の郵便局の1%未満である。
・投信販売は直営233店のほか、郵便局では1300カ所程度しか販売体制が整っていない。 投信販売は商品説明などに手間がかかるために、人員の多い局でなければ、対応は難しく、拠点はそう簡単には増やせない。
▽営業は日本郵便頼みだが、体制は十分といえるか
・ゆうちょ銀行は日本郵便に対し、年6000億円以上もの窓口や貯金業務の委託手数料を支払っている。民営化委は貯金残高制御の一つの手段として、「日本郵便に対する委託手数料の変更も考えられる」と、わざわざ記した。
・15年11月に華々しく上場したゆうちょ銀行だが、貯金残高の制御と投信販売の伸び加速という、新たな宿題を背負うことになった。
http://toyokeizai.net/articles/-/100797

ゆうちょ銀行の本日の株価は、マイナス金利政策の銀行株に与える悪影響もあって、1329円と売出価格の1450円を下回る状態が続いている。
振替貯金に入っている限度額を超えた貯金、約11兆円から、300万円の引き上げで、どれだけが利子のつく貯金に振り替わるのかは不明だが、最大で数十億円の利払い負担増加も、経営陣にとっては頭が痛いことだろう。
現在はゆうちょ銀行も、経営的にみると、預金を集めるよりも、投信販売で手数料を稼ぎたいようだ。ただ、そうは言っても、投信販売は、手間がかかるとの上記記事の指摘の他にも、「証券外務員資格」を取得した職員しか販売出来ない。従って、殆どの郵便局(かつての特定郵便局)にとっては、投信販売は関係ない「高値の花」なので、全国郵便局長会としては、経営陣の思惑を外れたところで、貯金の限度額引き上げを持ち出し、これに自民党が乗っかったのが、今回の構図と思われる。
ただ、政府による株式保有という事実上の「政府保証」が残ったままで、限度額を引き上げることは、やはり問題が多い。金利が上がったり、民間金融機関の経営不安が生じるなどの状況になれば、民間金融機関からゆうちょ銀行に一挙に資金シフトが進むといった事態も生じ得る。本来は、「政府保証」が完全になくなる完全民営化された段階で、限度額を撤廃すべきだったのに、政治の力が歪めた悪例を残したことになろう。
明日、金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0