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ドイツ銀行はどうしたのか? [世界経済]

今日は、ドイツ銀行はどうしたのか? を取上げたい。

今日の日経新聞は、「ドイツ銀、信用回復に苦慮 巨額赤字で債券利払い不安 市場、リストラ効果注視」と題して、「ドイツ最大の銀行、ドイツ銀行の経営悪化が世界の金融市場を揺さぶっている。2月に入って同行の債券の利払いが滞るとの臆測が金融市場で台頭し、株価も急落。2015年決算で過去最大の赤字を計上したことが背景。「欧州最強の銀行」の突然の信用不安に地元ドイツは困惑」 と伝えた。

先ず、問題の債券については、2月10日付けロイター「コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債」を紹介しよう。
・ドイツ銀行の利払いをめぐる騒ぎを機に、金融規制の看板娘だったはずの新型ハイブリッド債が、一転して問題児に姿を変えようとしている。
・ドイツ銀は8日、「CoCo債(偶発転換社債)」の一種であるAT1債(その他Tier1債)の利払いが遅れるという懸念の火消しに努めた。同行がこうしたハイブリッド債の利払いを中止したとしても、本来なら一大事ではないはずだ。同行は昨年秋、普通株の配当支払いを2年間中止すると発表しているし、AT1債はそもそも、同行が健全性を保ちながら損失を吸収するために設計されたものだ。2008年に世を騒がせたようなハイブリット証券との違いはここにある。ところが、新型ハイブリッド債の損失吸収機能が発動(トリガー)される可能性があると知って、市場のボラティリティは抑えられるどころか、かえって高まっているのだ。
・銀行株は経済成長への懸念を背景に下落し続けてきた。その波がついに、AT1債にまで及び始めた格好だ。ドイツ銀は収益率が低く、資本が比較的薄い上、ドイツのAT1債会計の特殊性がもたらす不透明感も加わり、とりわけ売られやすい状態にある。
・ドイツ銀の永久債(AT1債)は表面利率が6%だ。1月初め、同債の予想償還期限は2022年で、利回りは7%前後だった。しかし株価が下がると、投資家はAT1債に株式並みの利回りを要求するようになり、価格は下がった。利回りが上がると、ドイツ銀が2022年にこの債券を償還(コール)しない可能性が高まるので、予想償還期限は伸び、投資家の損失は大きくなった。そして最後に利払い停止の懸念が再燃し、短期的なキャッシュフローが減っているのではないかとの懸念が広がった。最初は比較的短期の債券であるかに見えた証券が、長期のゼロクーポン商品に変化する恐れが出てきたわけだ。年初に額面の93%だった価格は、8日には72%まで下がった。
・規制当局、投資家の双方にとって問題なのは、こうした一切合財が無限ループを生み出していることだ。AT1債の価格が下がったとき、投資家は売る先がほとんど見つからない。銀行は、仲間の銀行が発行した低落した債券のマーケットメークなど行いたくないし、ハイブリッド債の大口の買い手であるアジアのプライベートバンクは、8日は春節で休みに入っていた。投資家は仕方なくクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を取引した。この結果ドイツ銀のシニアCDSスプレッドは270ベーシスポイント(bp)超と、ユーロ圏債務危機以来の水準に上昇した。とはいえ、ドイツ銀が破綻する可能性はまず考えられない。同行の有形資産の簿価は530億ユーロと、2011年に比べて40%も増えている。
・AT1債の死のスパイラルは、現在の市場の激動に鑑みれば小さな構成要素に過ぎない。しかしこの一件は、株式を債券であるかのように装うことのリスクを浮き彫りにした。規制当局は、新顔のハイブリッド証券が危機前のそれよりも損失吸収に役立つと期待した。確かに証券自体の損失吸収能力は高まったが、市場はそうではない。
http://jp.reuters.com/article/column-deutsche-bank-hybrids-idJPKCN0VJ04M?pageNumber=1

次に、もともとのドイツ銀行の問題については、昨年7月7日付けZAKZAKに、ジャーナリストのベンジャミン・フルフォード氏が寄稿した「ドイツ銀行、ギリシャと共倒れ危機 衝撃的な格下げ 欧州崩壊待ったなし」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽CEO辞任と衝撃の格下げ!ドイツ銀行破綻で欧州崩壊
・EUの優等生であるドイツ最大の同行は、ドイツのGDPの20倍に及ぶ54.7兆ユーロものデリバティブ(金融派生商品)取引をしており、その経営は実にハイリスク。そのなかには、ギリシャの債務支払いを債権者に担保するような内容のものがかなり含まれている。
・ギリシャの経済危機以降、同国はゴールドマン・サックスをはじめとする世界の金融機関から融資を受け、借金によって借金を返済する自転車操業を続けてきた。そしてドイツ銀行はデリバティブ取引により、ギリシャの借金の事実上の保証人となってきた。そのため、ギリシャがデフォルトに陥った場合、同行は無限の損失を被ることになる。
・こうした状況を前に、6月9日、米格付会社S&Pは、同行の格付けを2段階引き下げ、「BBB+」に。破綻直前のリーマン・ブラザーズですら「AA-」だったことを考えても、これはかなり衝撃的な評価だ。格下げ発表の直前、同行の共同CEOの2人は、沈みゆく船の船長よろしく、辞任を表明。
▽旧約聖書にある通り、バベルの塔は崩壊する
・ドイツの検察当局が、同行のフランクフルト市内にある複数の拠点を家宅捜索。個人顧客の脱税に関与した容疑といわれているが、辞任した2人のCEOをはじめ、危険な運用を続けた経営陣の責任を問うための捜査と見る向きも。総資産約2兆ユーロのドイツ銀行が破綻すれば、同行を後ろ盾にしていたEU内の複数の銀行も、ドミノ式に潰れていくだろう。
・就任以降、頻繁に中国詣でを行ってきた独メルケル首相だが、危機に備えるための資金の提供を中国に頼み込んだところ、断られたという情報も。また、ドイツはユーロ崩壊を見据え、数百億ユーロ分のマルク紙幣を印刷しているという話も。国際金融市場も世界恐慌を覚悟しはじめている。米個人投資調査協会によると、個人投資家の資産に占める株式の割合は、5月に67・9%から57・8%に下落。ストラスブールにあるEUの本会議場は、以前からその外観がバベルの塔に似ていると言われてきたが、皮肉なことに旧約聖書に記されたとおりの結末を迎えようとしているようだ。)
▽ギリシャ経済破綻危機のなか独銀CEO辞任(6月7日、脱税疑惑や顧客との訴訟合戦などのスキャンダルの責任を取り、辞任を発表した2人の共同CEO。アンシュー・ジェイン氏とユルゲン・フィッチェン氏。事実上のギリシャの“保証人”である同行の異変に注目が集まる。)
http://www.zakzak.co.jp/zakspa/news/20150707/zsp1507071130001-n1.htm

第三に、同行の惨状について、選択2015年9月号「名門「ドイツ銀行」がまさかの経営危機 「第二のリーマンか」との憶測も」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
▽投資部門が逆噴射
・1998にデリバティブに強いバンカーズ・トラストを買収してから、デリバを買いまくり、最盛期には純益の7割をたたき出した。旧バントラ部隊は「向う傷を恐れぬ」ことで悪評が高く、リーマン・ショック直前の強引な取引で訴訟が続出。
・4月にはLIBOR不正操作で大手行中最大の25億€の制裁金。48歳でCEOになったインド出身のアンシュ・ジェインは退任。和解金・制裁金は合計90億€超(1.2兆円)。4月にはECBからTier1を13億€増やすよう求められた。S&PはAAからBBB+に格下げ。後任CEOは、UBSを立て直した英国人ジョン・クライン。
▽「どこかが倒産することになる」
・マーク・プリス米ブラウン大教授は、フォーリン・アフェアーズ8月号「なぜ危機の責任はギリシャにないのか」で、危機のルーツは欧州の金融システムにあった。ユーロ導入後の10年で、欧州銀行資産は急拡大。ギリシャがデフォルトに陥れば大損失が発生するので、トロイカ(EU、IMF、ECB)で支援。ギリシャ救済資金2300億€の90%が、ギリシャを経由して、主にドイツ、フランスの大手銀行の支払いや資本増強に使われた。
・ドイツ銀行の火遊びは、この他にギリシャ関連のCDS。ギリシャ国債残高3173億$、CDSはその5倍の1.5兆$、デフォルトし債務削減60%とすれば、9000億$もの保険を支払う必要。どこかが倒産することに。

昨年9月段階での報道は、他からの報道があまりなかったので、「まさか」と思い静観してきたが、これが、今年に入ってからの世界の金融市場大波乱の要因の1つにまでなるとは、と正直、驚いた次第である。
ドイツ銀行は、ドイツではダントツのトップバンクで、「欧州最強の銀行」として長いこと君臨してきた。それが、ギリシャへ巨額の融資をしただけでなく、他行がギリシャ向け融資で焦げ付けば、保険を支払うCDS取引まで行った結果、ギリシャ向けのエクスポージャー(リスクにさらされる金額)が巨大となっていたとは、信じられないようなリスク管理、経営管理の失敗である。
こうしてみると、ギリシャ支援で、IMFは債務減免が必要と主張したが、ドイツの意向を受けたEUがこれに応じず、トロイカ体制が崩れ、EUによる通常の救済融資だけで済ませた背景がようやく分かった気がする。ドイツとしては、債務減免に応じることは、ドイツ銀行に巨額の損失を被らせることになるだけに、何としてでも回避したかった訳だ。メルケル首相の厳しい姿勢の裏にこんな事情が隠されていたとは・・・(なお、ギリシャ問題そのものについては、昨年7月25日のブログ参照)
AT1債も、規制当局が考えもしない副作用をもたらしたようだ。これは、金融危機の反省を踏まえて、システム上重要な金融機関(G-SIFIs)が経営危機に陥った際に、まずは債権者(投資家)にも損失を負担してもらうという「ベイルイン」手法を持ち込んだものだ。これにより、公的資金投入を不要としたいとの考えがあった。つまり、破綻に陥る手前で、一定の条件で発動(トリガー)され、普通株などに強制的に転換することで、健全性を回復させようとするのが、本来の狙いであった。しかし、「先読み」をしがちな市場は、発動が近いと予想しただけで、これは一大事とばかりに「暴走」したのが、今回の出来事だったのではなかろうか。こうしてみると、金融監督手法の設計に当たっては、市場心理のアヤまで織り込む必要がありそうだ。
ギリシャでは、EUの指示通りに年金支払を削減しようとするチプラス政権に対する抗議運動が高まり、国債の10年もの利回りは、現在11.35%と年初来の最高値を更新。今後の行方は予断を許さない。
今回は、かなり専門的な内容になってしまったが、事態の重大性に鑑みてお許し頂きたい。
タグ:利払いが遅れるという懸念 AT1債 coco債 コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債 ロイター 突然の信用不安 欧州最強の銀行 ドイツ銀、信用回復に苦慮 巨額赤字で債券利払い不安 市場、リストラ効果注視 日経新聞 ドイツ銀行 ドイツ銀行はどうしたのか? 普通株の配当支払いを2年間中止 AT1債はそもそも、同行が健全性を保ちながら損失を吸収するために設計 損失吸収機能が発動(トリガー)される可能性があると知って、市場のボラティリティは抑えられるどころか、かえって高まっているのだ 年初に額面の93%だった価格は、8日には72% ドイツ銀のシニアCDSスプレッド 270ベーシスポイント(bp)超 ドイツ銀が破綻する可能性はまず考えられない ZAKZAK ベンジャミン・フルフォード ドイツ銀行、ギリシャと共倒れ危機 衝撃的な格下げ 欧州崩壊待ったなし 54.7兆ユーロものデリバティブ 経営は実にハイリスク ギリシャの債務支払いを債権者に担保するような内容のものがかなり含まれている ギリシャ 自転車操業 ドイツ銀行はデリバティブ取引により、ギリシャの借金の事実上の保証人となってきた S&P 同行の格付けを2段階引き下げ、「BBB+」に 共同CEOの2人は、沈みゆく船の船長よろしく、辞任 バベルの塔は崩壊する 選択2015年9月号 名門「ドイツ銀行」がまさかの経営危機 「第二のリーマンか」との憶測も 投資部門が逆噴射 バンカーズ・トラストを買収 「向う傷を恐れぬ」ことで悪評が高く 訴訟が続出 LIBOR不正操作 大手行中最大の25億€の制裁金 和解金・制裁金は合計90億€超(1.2兆円) ECB Tier1を13億€増やすよう求められた ギリシャ救済資金2300億€の90%が、ギリシャを経由して、主にドイツ、フランスの大手銀行の支払いや資本増強に使われた ギリシャ関連のCDS デフォルトし債務削減60%とすれば、9000億$もの保険を支払う必要 国債の10年もの利回りは 11.35% 年初来の最高値を更新
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