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日銀の異次元緩和政策(その13)マイナス金利5 金融法委員会見解、海外勢の見方など [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、2月15日に取上げたが、今日は (その13)マイナス金利5 金融法委員会見解、海外勢の見方など である。

先ずは、2月20日付けロイター「貸出・預金のマイナス金利、合理的でない=金融法委員会」を紹介しよう。
・金融取引の実務に精通した弁護士や学者でつくる金融法委員会(事務局・日銀)は19日、日銀が導入したマイナス金利によって発生しうる事態について検討し、現行の多くの貸出や社債、預金などの取引で、実際にマイナス金利を適用することは合理的ではないとの見解をまとめた。
・日銀のマイナス金利導入以降、国債市場を中心に市場金利が軒並みマイナス圏で取引され、貸出や預金の金利の取り扱いをどうするべきか、実務者の中でも見方が分かれていた。今回、弁護士や学者などが法的な観点から見解をまとめたことで、銀行業界の対応にも影響が出る可能性がある。
・金融法委によると、金銭貸借の利息については「その性質上、借入人が貸付人に支払うべきもの」とし、「貸付人が借入人に支払うべき旨の合意を認定すべき特段の事情がない限り、貸付人の支払い義務は発生しないと考えられる」と指摘した。
・東京銀行間取引金利(TIBOR)など基準金利の変動で適用金利がマイナスとなった場合は、金利をゼロ%とすることに「合理性が認められる」としている。
・こうした解釈は、社債にも当てはまるとの見解も打ち出した。社債の利息は「発行会社が社債権者に支払うべきもの」とし、元本からマイナス金利分を差し引くのは「その旨の定めがない以上困難」としている。
・預金についても「通常は、金融機関が預金者に支払うべきもの」であり、約款上も「預金者からの支払いは予定されていない」と説明した。
・預金口座を通じたサービスの対価を「徴収する余地はある」としながらも、普通預金や変動金利定期預金などの店頭表示金利をマイナスに設定して預金残高から差し引くことは「預金当事者の合理的な意思解釈によれば、できないと考えられる」との見方を示した。
http://jp.reuters.com/article/japan-bank-rates-idJPKCN0VT070

次に、JPモルガンチェース銀行市場調査本部長の佐々木融氏が、2月29日付けロイターに寄稿した「コラム:海外勢が見た日銀マイナス金利の功罪=佐々木融氏」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・筆者はここ1週間ほど、ニューヨークとロンドンを訪問し、ヘッジファンドを中心に計23社とミーティングを行った。訪問先の数は2012年秋のアベノミクス開始直後の出張時ほど多くないが、それに次ぐ程度あり、マイナス金利政策導入後の日本に対する海外勢の関心の高さがうかがえた。
・今回のミーティングを通じて最も印象深かったのは、訪問先のほとんどがマイナス金利政策に対して批判的だった点だ。日銀のマイナス金利政策に対してだけでなく、マイナス金利政策そのものに批判的な意見が多かったのだ。
・周知の通り、欧州中央銀行(ECB)は日銀よりも前にマイナス金利を導入しているが、その後の経済や市場の動きから、同政策の効果に対して懐疑的な見方が少しずつ広がっていたようだ。そこに、日銀のマイナス金利政策導入をきっかけに、日本の株価が下落し、円が上昇した事実が加わって、懐疑的な見方がさらに強まった模様だ。
・ある大手マクロヘッジファンドのポートフォリオマネージャーは、「最初からマイナス金利に懐疑的だったわけではないが、マイナス金利を導入した国々の市場の反応を見ていると、結局、誰かに罰を与える(銀行にマイナス金利を課す)政策では、景気を刺激することはできないのだろう」と述べていた。
・この他、「もう量的緩和・マイナス金利を拡大しても、市場へのポジティブな影響は期待できない。他にできるとしたら、何ができるのか」との質問も多かった一方、「世界的にインフレ率が低下している中、日銀はなぜ2%のインフレ率にこだわるのか」との声も聞かれた。また、ニューヨークでは「日本は自動車やゼロ金利政策、量的緩和政策など、いろいろなものを米国に輸出しているが、マイナス金利だけは輸出しないで欲しい」と苦笑いする人もいた。
・ちなみに、ミーティングの中でしばしば聞かれたのは、「今回のマイナス金利政策導入の結果が、ヘリコプターマネーにつながるリスクはないのか」という質問だ。つまり、金融政策の限界が見え始める中、政府が自ら景気を刺激するため、日銀を財布として利用し、財政支出を極端に拡大する可能性はないのか、ということである。
▽1930年代の日銀国債引き受けの顛末を気にする投資家も
・では、為替相場に対する欧米勢の見方はどうか。今回の訪問先の過半(6―7割程度)は、今後も円高が進むとの筆者の見通しに賛同しており、実際に円ロングポジションを保有している先も多少あるように見受けられた。また、円高予想ではなく、ドル安予想を背景に、円ロングポジションを取っていると話すところもあった。こうした短期的なポジションの巻き戻しが、26日にドル円が114円台まで反発したことの背景だったのかもしれない。
・むろん、円売り介入に対する期待も一定程度あり、どのレベル、ないしはどのようなタイミングで介入が実行されると思うかとの質問も多かったことから、全体としては、まだそれほど円ロングポジションは大きくなってはいないのだろう。
・ただ一方で「日本は円売り介入などできるのか」との意見もあった。「米大統領選の民主党有力候補であるヒラリー・クリントン氏は新聞への寄稿で日本の為替操作を批判し、ジェイコブ・ルー米財務長官はG20において通貨押し下げで景気浮揚を図ることがないよう一段と強力なコミットを求めている。これは明らかに日本の円売り介入に対する警告」というわけだ。
・この他、「今回の急激な円高は市場参加者のリスク回避志向が高まったことが主因であり、今後再びリスクオンの環境になったら、円は弱い通貨になるのではないか」との予想も複数の訪問先で聞かれた。また、個人預金にマイナス金利が課されたら、日本の個人投資家は海外証券投資を増やすと思うか、との質問も比較的多かった。
・さらに、結局、ヘリコプターマネーが通貨価値を下落させ(=インフレ率を引き上げ)、長期的に見れば極端な円安になるのではないかとの見方もあった。1930年代の日銀による国債引き受けの顛末について、詳しく教えて欲しいとの質問すら受けた。
・最後に株式相場について補足すれば、銀行株に対して楽観的な見方が多かったのはやや気になった点だ。マイナス金利政策が銀行収益に与えるインパクトは、日銀当座預金に課されるマイナス金利だけだと考えているわけである(当社は、その部分から発生するマイナスの影響は小さく、貸出金利の低下、日本国債への再投資、マイナスコストの元になる預金の増加からくる影響が大きいと予想している)。
・また、銀行が企業預金に対して手数料を課す可能性があるとの一部報道を事実として捉えていて、銀行に対するマイナスの影響は避けられると考えている人も比較的多かったと思う。
・預金に手数料を課されれば、企業は潤沢な資金を自社株買いに使うのではないか、との期待も聞かれた。「米国の投資家は、自国の経験から自社株買いに対してはかなりポジティブなイメージを持っている。したがって、日本企業が自社株買いを今後増加させていくとのメッセージが伝われば、米国投資家は再び日本株買いに向かうのではないか」というわけだ。
・円高に沿って一段と日経平均株価が下がる可能性を認めつつも、日本株に対してやや強気の見方もあるようだった。足元のドル円相場と日経平均の相関が弱まり、ドル円が下がっても日経平均はあまり下がっていないことが背景にあるのだろう。 もっとも、当社は最近、グローバルポートフォリオにおける日本株のオーバーウェイト推奨を数年ぶりに中立に引き下げている。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-tohru-sasaki-idJPKCN0W006Z?pageNumber=1

第三に、 第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミストの熊野英生氏が、3月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「タンス預金」急増はマイナス金利のせい? 国民の不安な深層心理を読む」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・タンス預金が急増している。2016年1月末時点での銀行券発行残高は92.5兆円。筆者の試算ではその中の44%に相当する41.7兆円がタンス預金になっていると推定する(図表1、2参照)。
・タンス預金とは、家計などが金融機関には預けずに、自分で保管している現金のことである。タンスに入れて保蔵するから「タンス預金」なのだ。実際は、金庫の中にしまっていることが多く、最近は家庭用金庫の販売が活況を呈しているらしい。盗難リスクに備えて、ざわざわ高額の金庫を買ってまで、利息のつかない現金を抱え込む行動は奇異に見える。
▽相続税強化とマイナンバーに続き マイナス金利への不安も影響か?
・過去、タンス預金が急増したのは1997年から2003年頃までの時期であった。金融不安によって、自分の預貯金がどうなるかわからないという不安の時代に、タンス預金が増えた。2000年代後半のタンス預金残高は、平均26.6兆円だった。
・その後しばらくは、タンス預金は増えずに横ばいだった。それが2015年初くらいから目立って伸びている。現在の41.7兆円は、金融不安時の1.5倍以上に膨らんでいる計算だ。今は金融不安でもないのに、なぜ人々はタンス預金に走るのだろうか。
・1つの理由は、相続税強化に対する反応だろう。2015年1月から相続税課税が強化された。基礎控除が一気に4割も縮小されて、今まで課題対象ではなかった人が不安になった。すると、自分の資産が将来の課税対象になるのではないかと感じる人が多くなり、その中で資産の一部を現金で持とうとする人が増えたということだろう。
・さらに、2016年1月からマイナンバー制度が運用開始となる。前年に相続税が強化され、すぐにマイナンバーが始まったことは、大口の資産家に警戒心を与えたのだろう。現金保有の増加は、自分で資産を管理したいという気持ちを抱く人が急増したことを反映している。
・巷では、マイナス金利を日本銀行が導入したことで、一段とタンス預金が増えるのではないかという観測がある。まだ、銀行券の統計データで十分な裏付けは行われていないが、銀行券発行残高(平均残高)の前年比は、2016年1月は6.2%、そして2月は6.6%と若干ながら伸び率を高めている。マイナス金利の導入が1月29日だったので、2月の伸び率の高まりには、マイナス金利を意識した現金保有増加がいくらか確認されるという見方もできる。
▽マイナス金利が現金の保有動機を高めている主因ではない
・一方、筆者は、日銀のマイナス金利政策が、現金の保有動機を高めることを合理的には説明できないと思う。教科書的な説明をすると、個人の預貯金金利がマイナスになることは考えにくいからだ。そもそも、預貯金には基本的に元本保証がある。手数料はともかく、1年ごとにマイナスの利息が預金元本に適用されて、元本まで目減りするのは、元本保証に反するように思える。
・筆者は、仮にマイナス金利導入が多くの国民に不安を与えたと考えるのならば、それが掟破りだったところにあるのではないかと思う。今までゼロ%よりも下がらないと信じられていた金利水準が、マイナスにされてしまうというのは、多くの国民には奇想天外に見えただろう。日銀自身がサプライズを演出しているので、驚きが不安心理に結び付いたとしてもおかしくない。
・深く考えると、マイナス金利は、資金運用をする側から、資金調達をする側への所得移転である。わが国の財政再建は厳しい状態にあるから、国債の利回りをマイナスに変えてまで、債務膨張の勢いに歯止めをかけなくてはいけない。財政再建が厳しくなると、金融機関にダメージがあるかもしれないマイナス金利政策を、唐突に採用するような出来事も起こるという不安が想起された。筆者は、裏側にわが国の財政不安があるから、先の読めない金融政策が行われると、国民の間にある防衛意識を刺激するのではないかと考える。
▽財政再建に霧がかかっていることの裏返しとしてのタンス預金
・日銀のマイナス金利は、安全資産の代表格である国債の立場を脅かすものである。国債の利回りがマイナスになることは、国債で運用する金融機関の収益にもダメージを与える。間接的に、預貯金の安全性にも悪影響を与えかねない。
・問題は、国債の利回りをマイナスにするほど、財政再建が厳しくなっていることである。最近まで景気拡大が進んで税収が増えたことが、財政再建の展望を明るくしていたはずなのに、ここにきて2017年4月の消費税率10%を予定通りに実行するかどうかを、条件付きで吟味しようという話題が出てきている。これは、財政再建への信頼感を揺さぶる話である。
・結局、消費税を増税しないで、巨大な政府債務を支払うことになるのは誰なのだろうかと考えるときに、最も不安を感じるのが大口の資産家なのである。さらに、相続税のような資産課税が強化されるのではないかとか、マイナス金利政策以外にも想定外の施策が実施されてその影響を受けるのではないか、と心配する。
・むろん、自分自身で金庫に現金を入れて、タンス預金をすることが、資産の安全性を万全にするわけではない。ただ、自分自身で資産を管理できることが、不安の緩和になると思っている人は少なからずいるのであろう。
・従来は、財政再建が行き詰ると、インフレが来るとか、長期金利が上昇するといった危機説が唱えられてきた。しかし、今は物価上昇率は2%にはほど遠く、長期金利は日銀ががっちりとコントロールしている。ただし、想定された危機シナリオを封印する対処が行われても、やはり完璧な危機管理はできないのではないか、という不安心理を拭い去ることはできない。
・「地道に消費税率を上げて、歳出抑制を我慢強くするしかない」という真っ当な財政再建のシナリオへの信認が揺らいでいることが、多くの人に不安を感じさせ、タンス預金に走る人が増えているという深層心理があるのではないか。
http://diamond.jp/articles/-/87203

金融法委員会の見解は、金融実務、法務を踏まえた妥当な見解である。
佐々木氏によれば、海外勢はマイナス金利に批判的なようだ。様々な難点があるなかで、あえて導入に踏み切った黒田総裁や日銀執行部の責任は重大だ。
熊野氏が指摘する「タンス預金」急増は、相続税強化やマイナンバー制度などを反映した面だけでなく、「財政再建に霧がかかっていることの裏返し」といった面もあるのだろう。「タンス預金」急増は、金融機関を通じる金融仲介機能の根底を揺るがしかねないだけに、今後の動向を注視してゆく必要がある。
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