SSブログ

アベノミクス(その8)安倍首相のヤジと情報源 [国内政治]

アベノミクスについては、前回は3月19日に取上げた。今日は、経済政策とはやや離れるが、政治姿勢を中心に、(その8)安倍首相のヤジと情報源 である。

頻繁に引用しているコラムニストの小田嶋隆氏が、2月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「ヤジよりも遺憾なこと」を紹介しよう。
・安倍晋三首相のヤジは、不適切だった。 とはいえ、既にご本人が非を認めて遺憾の意を表明している。 これで一件落着ということになると思う。
・「安倍さんが表明したのは遺憾の意であって謝罪ではない。これでは納得できない」 と息巻いている向きもあるが、一国の首相たる者が「遺憾の意」を表明したことは、やはり重く受けとめるべきだ。なかなかできることではない。
・ついでなので、「遺憾」という言葉について前々から思っていたことを明らかにしておきたい。 「遺憾」は、不思議な言葉だ。
・いまから17年前の1998年、私は自分のホームページ上に公開していた日記(9月1日記述分)の中で、この「遺憾」という言葉について触れている。以下、引用する。 《ミサイルが飛んできた。 官房長官のコメントは例によって「極めて遺憾」というものだ。 奇妙な言葉だ。 何かこちら側に不始末があった場合も「遺憾」と言うし、逆に相手側に問題があった場合にも「遺憾」が使われる。 つまり、「遺憾」は、「謝罪」にも「非難」にも使われるわけだ。 足を踏まれても遺憾、足を踏んでも遺憾。 何だろう?》
・「遺憾」という言葉がはらんでいる矛盾の様相は、17年後の現在でも、基本的には変わっていない。 いわゆる「遺憾の意」は、今回の安倍さんのヤジのケースのように、自分の側に何らかの不始末があった場合に、非をある程度認めて、現今の事態を招いてしまったことへの「残念」な気持ちをあらわす言葉として用いられる。 陳謝、謝罪、お詫びというほど重くないが、一定の責任を認めた言い方だ。 ここまではわかる。
・不思議なのは、「遺憾の意」という同じ言い回しが、自分の側にではなくて、相手の側に問題があった場合にも同じように用いられていることだ。 たとえば、北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射したようなケースでは、官房長官あたりが「遺憾の意」を表明して対応するのが通例になっている。
・この場合、「遺憾の意」は、「非難」ほど強力でなく、「不快感」ほど明確でないものの、現状についての「残念」な気持ちを伝えることで、先方に向けて一定量の懸念のニュアンスを伝えている。
・要するに、「遺憾」は、こっちが間違いを犯したケースでも用いられるし、先方に失礼があった場合にも使われているわけで、この言葉はどうやら「非難」と「謝罪」という正反対の場面で使用できる、魔法の外交用語なのである。
・英語では、“regrettable”と言うらしい。 実に味わい深い言葉だ。 「遺憾」の面白いところは、ニュアンスとしては「非難」や「謝罪」を匂わせているものの、実態としては「非難」も「謝罪」もしていないところだ。 先方に非があった場合の「遺憾」は、イエローカードの一歩手前の「注意」ぐらいのニュアンスで使われる。
・外交の世界で、一方がいったん「非難」を発動してしまうと、禍根が残る。 たとえば、国家なり政治家なりが、公式の立場で相手を非難すると、なりゆきからして、経済制裁なり外交チャンネルの一時的な閉鎖なりといった「カタチ」を見せなければならない。と、それはそれで窮屈な展開になる。
・だから、単に「遺憾」としておいて、先方に軽い不快感を伝えつつも、実際には形式上の警告にとどめる。それぐらいの力加減だ。  こちらに失策があった場合の「遺憾」も、公式な「謝罪」ではない。一定の地位に就いている人間や、外交関係を持っている国家が、「謝罪」や「陳謝」を言葉として発信してしまうと、当然、その謝罪に見合った賠償や埋め合わせのための実利を提供しなければならなくなる。
・それをしたくない時に、「遺憾の意」という言葉で、軽くアタマを下げておく。そういう感じだ。
・確認のために振り返っておく。 安倍総理の「ヤジ」は以下のようなものだった。
 《--略--発端は19日の衆院予算委。民主党の玉木雄一郎氏が西川氏の政党支部への献金問題を取り上げていたさなか、首相は「日教組はやっている」と答弁席からやじを飛ばした。自民党の大島理森予算委員長が「静かに」と制止しても、首相は「日教組はどうするのか」と言葉を重ねた。さらに翌20日の予算委で民主党の前原誠司氏から謝罪を求められると、「日教組が(国から)補助金をもらい、(日本)教育会館から献金をもらっている民主党議員がいる」と主張した。 首相は23日の予算委でも日教組出身の民主党の神本美恵子参院議員の実名を挙げ、文部科学政務官時代に「教育会館という隠れみのではなく、日教組からダイレクトに献金をもらっていた」「日教組からパーティー券(購入)を受けていた」と批判した。--略--しかし、首相のやじや国会答弁には事実関係に誤りがあり、かえって民主党に付け入る隙(すき)を与えた格好になった。同党は(1)日教組は補助金をもらっていない(2)日本教育会館は献金していない(3)神本氏は政務官時代に政治資金パーティーを開催していない--と反論している。--略--》
・以上の経過を経て、最終的に、首相は「遺憾の意」を表明して、発言を撤回した。 野党議員が答弁をしている最中にヤジを飛ばすことが、首相としての品格を欠いた態度であることも、ヤジの内容が根拠を欠いていた点も、新聞各紙や民放各局のテレビ番組がさんざん指摘していた通りだ。 私が付け加えることは何もない。
・安倍さんの国会でのマナーは、たしかに模範的ではなかった。 が、対抗する野党の議員さんたちが、素晴らしく上品なマナーで論戦に臨んでいるわけでもないことは、誰もが知っているところだ。 そう思えば、ヤジは、「お互いさま」の範囲内の話だ。
・なので、この問題は、首相が撤回して陳謝(公式な陳謝ではないが)した以上、カタがついた話として水に流してしまって差し支えないと思う。なあに、たいした問題ではない。
・私がむしろ問題を感じるのは、安倍さんのニュースソースについてだ。 何の話をしているのかというと、私は、安倍さんが個人的にネットサーフィンをしているんではなかろうかと思っていて、そのことを心配しているのである。
・総理大臣は、大変な権限を持っている。 その権限には、強力な情報収集能力が含まれている。 私たちのような一般市民は、基本的にマスメディア経由で提供されるニュース報道と、あとは、口コミとネット経由のうわさ話ぐらいしか情報源を持っていない。 独自に取材を展開しているフリーのジャーナリストのような人もいるにはいるが、彼らにしたところで、自分の足と目で集められる情報は限られている。
・その点、首相は、非常に多彩な情報にアクセスする権限とチャンネルを持っている。 総理大臣は、すべてのお役所の一番優秀なトップ官僚の口から、各分野の最新情報について、直接のブリーフィングを受けることができる。 これは、大変な情報源だ。
・そのほか、外交や警察情報について、国家の最高機密を随時知ることができるし、党の人間の行動や政敵の立ち回り先についても、公私を問わず、内閣調査室や党のそれなりのポジションの人間から、相当に踏み込んだ情報を入手できるはずだ。
・マスコミ発の情報に関しても、われわれが記事として読んでいるものよりもう一歩深いものを入手できるチャンネルをおさえているかもしれない。
・いずれにせよ、安倍さんは、魔法の杖みたいに自在な情報源を持った、日本一の情報通なのである。 にもかかわらず、安倍さんは、「日教組が補助金を受けていて、それを民主党の議員に献金している」という、デマを信じていた。 そして、その、ド素人のオダジマでもまずひっかからないような出来の悪いデマを、国会という日本で一番目立つ場所で拡散してしまった。
・さらに、その世にもチンケなデマを、不規則発言として口走ったのみならず、公式な答弁の中で「日教組が(国から)補助金をもらい、(日本)教育会館から献金をもらっている民主党議員がいる」と堂々主張してしまった。
・こういう偉業は、見込みと考えと見通しとピントとワキのすべてが甘くないと達成できない。 それほど、見事なひっかかり方だった。
・私は、個人的には、安倍さんが、ヤジを飛ばしたことそのものは、たいした問題ではないと思っている。  しょせんはマナーの問題だからだ。 首相のマナーなのだからして、上品である方が望ましいことはたしかだ。が、アタマに来た時や興奮した時に、口のききかたがぞんざいになってしまうことは、人間である以上、ある程度は避けがたいなりゆきだ。私自身、しょっちゅうその種の失態を犯している。だから、安倍さんのマナーの悪さや情緒の不安定さを、ことさらに責めようとは思わない。
・ただ、「日教組が補助金を受けていて、それを民主党の議員に献金している」みたいなデマにひっかかっていたことは、大きな問題を示唆していると思う。
・デマにひっかかること自体は、そんなに珍しいことではない。 私自身、キース・リチャーズが死んだというバカなデマにまんまとひっかかって、のみならず、それを大得意で拡散した過去を持っている。 みっともない話だ。反省している。バカだったと思っている。
・が、安倍さんのミスは、もう少したちが悪い。 デマにひっかかるのは、必ずしもアタマが悪いからではない。 デマを信じるのは、その人間が、あらかじめ偏見を持っているからだ。
・私がキース・リチャーズ死亡説をいきなり鵜呑みにしたのは、内心で「キースのオヤジはそろそろお陀仏になる頃だろうな」と、常々そう思っていたからだ。 だからこそ、ツイッターで死亡説が流れて来るや 「キタ━(゜∀゜)━!」 と、ばかりに、ウラも取らずに信じこんで、リツイートしてしまったわけなのだ。
・おそらく、安倍さんの中には、あらかじめ日教組についてのネガティブな思い込みがあったのだと思う。  安倍さんでなくても、人は、嫌いなものについての否定的な情報には、飛びつきがちなものだ。 リテラシーだとか情報感度だとか、そういう小難しい問題ではない。
・偏見を抱いている人間は、信ずるに足る証拠を備えた話よりも、偏見(自分では「信念」ぐらいに思っている)を補強する情報に飛びつくという、それだけの話だ。
・もうひとつ心配なのは、情報の出どころだ。 「日教組は補助金を受けていて、それを民主党の議員に献金している」というこのお話の信憑性は、与太話のレベルだ。 だから、この程度の話は、活字のソースには載らない。
・それなりの人たちが居酒屋のカウンターでしゃべって広めているか、でなければ、ネット上の掲示板やまとめサイト経由で拡散されるのがせいぜいだ。 ということはつまり、安倍さんは、ヤジの元ネタになった情報を、ネット保守(←手加減した言い方をしています)の皆さんが集まる、まとめサイトから拾ってきたと考えないわけにはいかなくなる。
・だって、そうでなければ、いったいどこであんなデマを仕入れてきたというのだ? 普段からあの種のデマを広めるタイプの人たちと親しく行き来しているから、ああいうデマがアタマの中に入って来たという線も考えられるが、そっちだとさらにマズい。 どっちにしても、とてもよろしくない。
・思い出してみれば、小学4年生なりすまし事件が発覚した折、安倍首相のフェイスブックアカウントが、この事件を伝える「保守速報というまとめサイトを紹介していた」ことが話題になったことがある。首相のアカウントは、当該記事について「いいね」を押している。(※編注:この記事の公開後、「保守速報という…」のリンク先が削除されました) 
・とすれば、首相が、この種の噂話のサイトを情報源にしているケースは、考えられない話ではない。 「保守速報」について、詳しい解説はあえてしない。 興味のある向きは検索して見に行ってみてください。 30秒ほど閲覧すれば、おおよその雰囲気はつかめると思う。 そういうサイトです。 少なくとも、日本で一番優秀な情報源を持っている人間がわざわざ見に行くようなページではない。
・というよりも、万が一、ああいうサイトを情報源のひとつにしている人間が国政を担っていたらと思うと……どう言えば良いのでしょうかね、適切な言葉が見つかりません。 事態の深刻さを考えれば、側近の誰かが、スマホと執務室のパソコンにアクセス制限をかけるぐらいのことはしてもバチは当たらない状況だと思う。  あるいは、首相には、専用に作りこんだパラレルワールドのWi-Fi電波をあてがって、その架空世界のインターネットを閲覧していただくのが良いのかもしれない。
・いや、むしろ、お母さんに手紙を書くのが一番効果的なのかもしれない。 息子さんがネットで有害なページを見てますよ、とか。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20150226/278018/

いつもながら舌鋒鋭く、斬り込んだコラムだ。「遺憾」が「謝罪」にも「非難」にも使える便利な言葉で、英語でも同様なことは気づいていたが、特に外交の世界では有用であることは初めて知った。安倍首相が予算委員長が制止してもヤジを止めなかったということ自体は、「アッパレ」である。ただ、小田嶋氏が指摘するように、デマに簡単に引っかかったことを、「こういう偉業は、見込みと考えと見通しとピントとワキのすべてが甘くないと達成できない」と揶揄されたり、「偏見を抱いている」からだというのは、その通りだろう。「お母さんに手紙を書くのが一番効果的」には笑ってしまった。
いずれにしろ、安倍首相だけでなく、閣僚や自民党議員の最近の暴言・失言は、多数派の気の緩みを現わしているといえよう。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0