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「保育園落ちた」(待機児童)問題(その2)実態と解決の方向 [社会]

「保育園落ちた」(待機児童)問題については、3月17日に取上げたが、今日は (その2)実態と解決の方向 である。

先ずは、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が3月29日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「保育園落ちた」の打開策“幼保一元化”はなぜ進まないか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログの文章が大きな話題となっている。安倍晋三政権が打ち出した「一億総活躍社会」で女性活躍の推進が提唱されながら、「待機児童問題」がなかなか解消しない現状に対する不満を訴えた内容だった。それは、2月半ばにネット上で評判になり始め、多くの同じ境遇の人たちの共感を集めた。メディアがこの問題を取り上げて議論が沸き起こり、国会前では、子育てママが「落ちたのは私だ」と訴えるデモが行われた。野党は、「待機児童問題」を安倍政権に対する攻撃材料に使い始めた。
・7月に参院選を控え、危機感を強めた安倍政権は、待機児童解消に向けた対策作りを急ぎ始めた。「保育園落ちた日本死ね!!!」によって、これまで遅々として進まなかった「待機児童問題」は大規模な政治的ムーブメントとなった。
・しかし、今回は「待機児童問題」に対する政治への批判とは一線を画したい。この問題が遅々として解決しない理由の1つである「幼保一元化」が進まないことに焦点を絞る。そして、英国との比較を通して、政治家のこの問題に対する認識不足・不作為以前に、制度的な問題で政治がリーダーシップを発揮できない現状を指摘する。
▽誰が考えても合理的な「幼保一元化」を阻む文科省と厚労省の「縦割り行政」
・「幼保一元化」とは、異なる歴史的経緯により設立されて所管官庁が異なる幼稚園と保育園を一元化することで、教育水準の均等化とサービスの効率化を図り、少子化の進行によるさまざまな問題の解決を目指す政策である。
・保育園の待機児童が深刻な問題となっている一方で、幼稚園の多くで定員割れが起きている。3歳児から5歳児を預かる公立幼稚園の9割以上、私立幼稚園の8割が定員割れしている現状を指摘する調査結果もある(NHK生活情報ブログ「幼稚園の定員割れ深刻」)。
・もっとも、首都圏や近畿圏では、入園が激戦となる人気の幼稚園もある。事は単純ではないということだが、これも突き詰めれば、「預かり保育」を実施している幼稚園が人気を集めているのだ。結局、専業主婦が減少し、働く母親が増えることで、保育園の需要が多くなり、逆の幼稚園の需要は激減しているということだ。幼稚園は「預かり保育」など、保育園と同じ機能を持たなければ幼児を集められなくなっているのである。
・この現実に鑑みて、「待機児童問題」を解決するために考えられたのが、幼稚園と保育園機能を一体化させる「幼保一元化」だ。ところが、幼保一元化の議論は10年以上前から続いているにもかかわらず、一向に進展していないのである。その大きな理由は、幼稚園の所管が文部科学省、保育園が厚生労働省と「縦割り行政」になっていることだ。
・文部科学省が所管する幼稚園は、「学校教育法」を根拠法令としており、「幼児(3~5歳)の心身の発達を助長すること」を目的としている。これに対し、厚生労働省が所管する保育園は、「児童福祉法」を根拠法令とし、「日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児又は幼児(0歳~5歳)を保育すること」を目的とする。
・法律の違いはわかりづらいが、端的にいうならば、幼稚園には読み書きを教えたりする「教育」があるが、保育園には基本的に教育の時間はない。逆に、保育園にあって幼稚園にない代表的なものは、「昼寝」である。 そして、一日の教育・保育時間の違いがある。幼稚園が「幼稚園教育要領」により最大4時間と規定されているのに対し、保育園は原則8時間、最長11時間である。働く女性が子どもを幼稚園に預けられないのは、この規定が存在するからである。
・更に、それぞれの官庁が管轄する「免許制度」の違いがある。要するに、幼稚園教諭の免許で保育所に保育士として勤務できず、保育士の資格で幼稚園に幼稚園教諭として勤務できないのである。
・前述の通り、幼稚園が幼児獲得のために「預かり保育」を行ったりすることは増えているし、一方で保育園でも、小学校入学時の幼稚園との「学力格差」を少なくするため、読み書きなどの「教育」を行うようになっている。それぞれの制度は、一部柔軟に運用されているのが現実であり、幼保一元化の制度改革は可能なように思われるのだが、現実には非常に難しい。「認定こども園」という保育園と似たものができたものの、多くの幼稚園はこども園への移行を拒んでいるのが現状だ。
・なぜ、誰が考えても合理的と思われる「幼保一元化」が実現できないのか。それは、文科省と厚労省の「縦割り行政」の調整ができないためである。
▽内閣の総合調整機能強化だけでは、「縦割り行政」の弊害は解決できない
・「縦割り行政」の弊害として、政治・行政制度にそれを調整する機能が欠如していることが問題視されてきた。そのため、日本の行政改革では、内閣の総合調整機能強化が重要な課題であった。橋本龍太郎政権の省庁再編では、内閣府が設置され、省庁間の縦割りを超えた調整が必要な案件は、内閣府内に会議体を設置して協議できるようになった。
・しかし、内閣府に設置された会議体では、各省庁から派遣された役人が、省庁側の意向に沿って縄張り争いを行うことが常である。また、省庁間で直接調整できないさまざまな案件が内閣府に持ち込まれるため、会議体が乱立してしまっている。それを担当する大臣が必要になるが、閣僚の人数に制限があるため、加藤勝信一億総活躍相のように、7つの政策担当大臣を兼務するようなことも起こる(第122回・2p)。結局、政策は妥協の産物となり、ツギハギだらけで、総花的と批判されることになる。省庁の枠を超えた政策が実現することは、非常に難しいのが現実である。
▽「政府の構造を変更する権限」を首相が持っていないことが問題
・本稿は、従来の日本の「縦割り行政」の弊害を解消する議論に欠けた論点を提示したい。それは、日本の首相には「政府の構造を変更する権限」がないということである。
・日本の国家行政組織は、「国家行政組織法」と各省庁の「設置法」で規定されている。国家行政組織法によって、行政機関は設置法によって定められることになっており、設置法は各省庁の任務・所管業務を細かく決めている。
・各省庁は、設置法に基づいて業務を行い、それを超えることはできない。幼保一元化がなぜできないかは、端的には、文部科学省の任務・所管業務である「教育」が、厚生労働省の任務・所管業務ではないからだ。設置法を超える任務・所管業務を行うとなると、法改正が必要となる。また、新しい任務・所管業務を行う役所を新設するとなると、新しい設置法を制定する必要がある。言うまでもなく、これらは各省庁や族議員の激しい抵抗を受けてしまうことになる。設置法の改正は、日本政治では常に、極めてハードルが高い、困難な政治課題の1つである。
・ところで、日本では省庁の任務・所管業務を変えたり、新しい省庁を設置したりするのに、国会審議を経ての法律改正が必要なことに、疑問を持つ人はいないと思う。ところが、そうではない国がある。英国である。  英国政治の特徴の1つは、省庁の設置、分割、統廃合が首相の専権事項だということなのである。首相は政策目的の達成のために、柔軟に省庁の機構変更を行う。官僚機構の形は頻繁に変更されるのだ。
・例えば、キャメロン政権発足時には、中央政府の予算制度が変更された。予算に関わる透明性と信頼性を高めるために政策の基礎となる経済見通しの作成を行う予算責任庁(Office for Budget Responsibility:OBR)を設置し、ジョージ・オズボーン(George Osborne)財務大臣を委員長とし、各省庁の政策経費の歳出限度額を削減させるために、閣僚で構成される「歳出委員会」(Appropriations Committee)を新設した。
・キャメロン政権は、財政政権を公約として発足し、5年間の任期でそれを達成したが(第106回)、それには、新しい予算制度を設立する権限を首相が持っていたことが大きかったといえるのだ。
▽英国では政策課題解決のため行政組織を改編 日本では行政組織防衛のために政策を立案
・英国でも、もちろん財務省や内務省、外務省など重要な省庁が簡単に改廃されることはない。しかし、例えば財政改革を断行する際に、財務省だけでは対応しきれない部分については、OBRなどの補完的な組織を即座に、国会審議なく首相の権限で柔軟に作れるのである。これを日本の幼保一元化問題に当てはめると、首相権限で「幼保一元化省」や「こども園庁」という名の新しい省庁を、設置法の縛りなく即座に作れるということになる。
・また、英国の中央省庁では、いわゆる「年功序列」「終身雇用」の日本型雇用システムのような人事制度がないのも特徴である。以前論じたように、英国の企業や官庁などの組織では、ポジションごと、外部にオープンな公募で人材を集める慣行がある。必要ならば、英国人に限らず、世界中から人材を集めることもある(第19回)。つまり、首相は政策課題ごとに、柔軟に行政組織を改編し、それぞれの政策のスペシャリストを集めることができるのである。
・一方、日本では、政策課題の解決よりも組織が重要視されるといえるのではないだろうか。組織とその任務・所管業務が法律で決められているため、各省庁では、決められた業務の範囲内で政策を考えることになる。それを超える解決策が出てきても、さまざまな論理をひねり出して、それを排除しようとするようになる。
・ましてや、他省庁に権限を譲らなければならないような事態は、絶対に避けようとする。更に、年功序列・終身雇用の人事システムで、政策のスペシャリストを中途採用で雇用することも難しい。要は、政策課題を解決するにはなにがベストかという発想はそこにはない。まず、組織防衛ありきなのである。
▽日本でも、省庁の設置、分割、統廃合を柔軟に行えるシステムを導入すべきだ
・安倍首相は、「独裁」と批判されるほど強力な権力を行使しているというイメージが強い。しかし筆者はこの見方には与してこなかった。実際、首相は財政再建や構造改革のための「国民に痛みを強いる政策」を完全に避け続けてきた(第58回・2p)。「アベノミクス」とは、指導力も政治力も必要ない、政策全体へ配慮する知恵も必要ない、誰も反対しない政策の羅列でしかないと言い続けてきた(第52回)。
・安倍首相が「安保法制」を国会通過させる際に、強力な権力行使を行ったではないかという反論があるかもしれない。しかし、安保法制は「国民に痛みを強いる」訳ではない。安保法制で誰も飢え死にしない。そもそも、すぐに戦争になるという実感を誰も持つこともない。「誰も反対しないアベノミクス」を続けてさえいれば、支持率が落ちることはない。
・要するに、安保法制は強い指導力を必要とする政治課題ではなかったのだ。国会審議の際、安倍首相は衆参両院でそれぞれ100時間以上、野党の批判に耐えていたが、精神的に追い込まれていたわけでは全くない。
・だが、その一方で強い指導力を必要とする成長戦略、財政再建、社会保障費の削減などは、ほとんど手付かずである。安倍首相が難しい課題に指導力を発揮できないのは、本人の資質の問題ではある。しかし、それとともに、痛みを伴う改革の実行に抵抗する官僚組織が、国家行政組織法・設置法でガチガチに守られていて、それに手を出すのは極めて難しいという側面もあるように思う。日本でも、英国のような政策課題に合わせて省庁の設置、分割、統廃合を柔軟に行えるようなシステムを導入することも、今後の検討課題としてあり得るのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/88641

次に、前・日本経済新聞社編集委員で福祉ジャーナリストの浅川澄一氏が、3月30日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「保育園問題、介護問題…なぜ政治家は、社会保障の「需給のズレ」を認識できないのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽待機児童問題、火消しに大わらわの政府
・「保育園落ちた日本死ね!!!どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか――」。  たったひとつのブログが政府を動かした。安倍首相は、当初「匿名なので確かめようがない」と国会答弁し、素っ気ない姿勢を見せたが、親たちの怒りを買う。保育園増設求める署名がたちどころに約2万7000人分も集まる。「保育園落ちたのは私だ」のプラカードを持つ母親が国会前に揃った。
・驚いた政府は、保育園に入れない待機児童の緊急対策に乗り出している。 ゼロ歳児から2歳児までが入園できる既存の小規模保育所の定員を20人以上から増やしたり、一時預かりの拡大など基準を緩める方向で検討に入った。保育園自体を増やすには時間がかかるため規制緩和で乗り切ろうという策だ。夏の参院選の焦点になることを恐れて、火消しに大わらわだ。
・安倍政権は「1億総活躍」「女性が活躍する社会」を打ち出し、新施策「新3本の矢」でも「希望出生率1.8の実現」を目標としてきた。保育園への入園児を2017年度末までに50万人分増やす方針も出した。
・ところが、現場では保育園対策に親たちは振り回されている。母親が実家に引っ越してその地域の保育園に子どもを入れるため夫婦別居を強いられることも。やむなく育児休業の延長を会社に申請したり、退職に追い込まれる家庭も多い。
・保育園の絶対的な不足に施策が追い付いていない。社会保障制度の枠内でのサービス供給が需要を満たしきれない現象は、実は、高齢者ケアの施設不足と全く同じである。制度の限界とも言えそうだ。
・しかし、政策当事者や政治家にはこの「需給のズレ」がなかなか認識されていない。なぜなのか。 答えは明白である。全国的な現象ではないためだ。首都圏を中心とした大都会地域だけが抱える問題だから。人口の集中がなお進む首都圏などと急激な人口減に見舞われている地方では、採るべき社会保障政策は異ならざるを得ない時代を迎えているようだ。
▽地方では「待機児童と言われてもピンとこない」
・東京圏(東京都、神奈川、千葉、埼玉各県)は2014年に11万人近い転入超過になった。11年連続の転入増である。東京への一極集中は止まない。 人口増が高齢者の急増と歩調を合わせる。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、東京圏では2010年から25年までの15年間で、65歳以上の高齢者は223万人増える。特別養護老人ホームをはじめとする高齢者施設の不足が指摘されるのも当然だろう。
・一方で流入人口が増えていても、15~64歳の生産年齢人口は195万人減っていく。高齢化と共に少子化も急ピッチで進むからだ。東京の合計特殊出生率は2014年で全国最低の1.15。この状態は続くと見られている。子育ての環境が地方に比べて著しく悪いためだ。
・出生率は低いが、出産した母親はそれまでの仕事を続けたいと思う。このため保育園不足を招く。「少子化が続くのだから、保育園不足は解消する」と言うのは、母親の気持ちを斟酌できない誤解である。
・地方では「待機児童と言われてもピンとこない」と言う声をよく聞く。青森、新潟、長野、富山、石川、福井、山梨、宮崎などの各県では待機児童はゼロの状態が続いている。少子化の定着で子どもの数が激減。園児が少なくなったため公立保育園と公立幼稚園の統合が急がれ、各地で実現している。保育園に入れない待機児問題が起こりようもない。
・それに対して、大都市部では全く逆の状況である。大都市部で2015年4月時点での待機児童数を見ると、東京都が7800人、千葉県が1600人、埼玉県が1000人、大阪府が1300人に達している。全国合計で2万3000人と発表されており、その半分近くは東京圏に集中しており、後は大阪圏、福岡圏などである。 最も待機児童が多い市区町村は、この3年連続して東京都の世田谷区で、板橋区、大田区など都内に自治体が目を引く(表1)。 と言っても、この待機児の集計数字が相当に「眉唾」ものである。
▽待機児童の集計数字の実態
・塩崎厚労相が3月18日の衆院厚労委員会で、「隠れ待機児童」が4万9000人いると表明した。 待機児童数は、自治体に保育利用を申し込んだ数から、認可保育園に入園できた数を引いて計算する。
・この子どもたちのほかに、希望した認可園に入れない児童などを「隠れ待機児童」と言う。特定の認可園だけを希望し空きがあっても別園に入らなかった児童と認可園に入れず自治体の独自助成の認可外園に入った児童のことである。それぞれ3万2100人、1万7000人と厚労相が打ち明けた。
・実は、厚労省は今の「隠れ待機児童」をかつては待機児童として集計していた。とりわけ、「自治体の独自助成の認可外園」については、「自治体が国の基準を緩めて勝手に作った」と厚労省は非難し、「保育園として認められない」と断じてきた。 東京都の認証保育園、横浜市の横浜保育室などである。「認可園に通っていないのだから、認可園への待機状態だ」という考えだった。
・それが、待機児童数が年々増え、失政と言われかねないと恐れたのだろうか、ある日突然、手のひらを返すように、「保育園児として認める」として待機児童から引きずり込んでしまった。そのため、翌年から厚労省が発表する待機児童数が急減した。
・待機児童の定義を狭め、現場の声をかき消した。政府の統計数字は条件が一定でないと経年変化が分からなくなる。どこかの専制国家並みに、統計数値を都合よく操作してしまったのである。 そのかつての基準に合わせた数字を初めて同委員会で公表せざるを得なかった。つまり、従来の基準で集計すると、待機児数は2万3000人+4万9000人で7万2000人に上る。
・さらに言えば、認可園に入れずに育児休業を延長すると待機児童に含めない市町村自治体もあり、実態はもっと膨らむ。ところが、さらにさらに、事態は深刻なのである。
▽保育の需要を待機児童数だけで測ることが間違い
・そもそも最初から、勤務時間が夜間に及ぶなどで自治体に認可園への保育希望の申請をしても入園が無理と判断して、申請しない親も多い。高所得者や自営業者、祖父母同居者など認可園への入園ハードルが高い親なども申請を諦めている。自治体に申請していなので、厚労省の待機児童数には含まれない。「隠れ」のさらに水面下に「潜在待機児童」がいるのだ。
・そのため「前年の待機児童数を上回る定員の保育園を整備したのに、まだ待機児童が解消できない」と関係者が嘆く事態が続出している。自治体に入園申請していないが、自宅近くに保育園が開設されたので、子どもを入園させる親が多数いるからだ。潜在待機児童が浮上して姿を現したのである。
・こうした事実が浮き彫りにするのは、政府の待機児童数がいかにあてにならないかということだ。現実から遊離した「架空」の数字に過ぎない。
・首都圏など都会部に住む子育て世代の女性は就業意欲が高い。子どもが入園できる保育園が目の前に現れれば、何らかの仕事に就きたいと思っている。とりわけ、小泉改革以来の新自由主義の浸透で労働環境の規制撤廃が進むとともに、非正規社員が増えて来た。目先の利益に拘る企業が正規社員比率を下げ、人件費の圧縮に乗り出したからだ。
・雇用の不安定状態の高まりが共働きの背を押す。「夫婦で働き、育児も共に」という男女平等の考え方だけでなく、家計維持の面からも共働きが普遍化しつつある。
・保育の需要を待機児童数だけで測ることが間違いなのである。子育て世代の女性の総数から保育需要を割り出さねばならない。 最近の年間出生数は110万人弱だから、未就学児童の総数は約660万人弱。その母親たちの就業意欲からすると、少なくみても6割ほど、約400万人分の保育園が必要である。現在の保育園の総定員約260万人は少なすぎる。約140万人分足らない。かつて十数年前に経産省が算出した待機児童数は80万人上っていたことがある。
・国は1994年に「エンゼルプラン」を打ち出し、本格的に少子化対策に取り組み出した。以来20年間、出生率は下がり続け、成果は全くあがっていない。母親が、育児か離職かの選択を迫られる状況は一向に変わらない。保育園は増え、園児も増加し続けているものの、「働きたい」母親の絶定数に追いつかないままである。これでは、家族は第2子の出産をあきらめてしまう。
▽保育問題と高齢者介護問題の共通点
・地域差が大きい保育問題は、近い将来の高齢者ケアにもそのまま当てはまる。1947年から3年間に生まれた団塊世代があと9年、2025年には一斉に75歳以上となる。介護保険は65歳以上から利用できるが、75歳までの利用者は15%に達しない。75歳以上の後期高齢者になると、心身の細胞劣化が進み、要介護状態に近づく。
・2025年以降に団塊世代が75歳を超えていくと、介護や医療の需要は一段と膨らんでいく。しかも、この世代はこれまでの世代以上に長生きが予測されるため、65歳以上の高齢者の中で75歳以上の割合が半分以上となる時代が相当に続いていく(図1)。
・このままでは介護保険の維持、継続が難しくなると判断した厚労省は、病院や施設からコストの安い在宅重視を掲げて「地域包括ケアシステム」を掲げだした。 ところが、介護需要は全国一律で急増するわけではない。団塊世代は圧倒的に都会部に集中している。高校や大学受験で首都圏など都会部にやってきて、卒業後も同じ都会部で就職。近郊の団地やニュータウンに住みついてしまった。
・2005年から2025年に増える高齢者数を都道府県別に見ると、全国平均より多いのは13の都道府県。東京圏のほかは、大阪、兵庫、愛知、北海道が上位8地域を占める(図2)。 75歳以上で見るともっと明白だ。2015年から2025年の間に埼玉県では76・5万人から117・7万人に54%も増える。千葉県も71・7万人から108・2万人へと51%増だ (図3)。
・特養の待機者が52万人と言われるが、これからはその大半がこうした大都会部の地域に集約されていくだろう。一時金がなく入居しやすい有料老人ホームもこうした地域に焦点を合わせて開設が増えていく。それでも、サービスが需要を満たすことができるか疑問という声が多い。
・一方、地方では、「待機者がいついなくなっても不思議ではない」という介護関係者の声を聞くようになった。都会部とは全く違う状況だ。筆者は先週、たまたま山形県を訪れた。山形新幹線の大石田駅がある大石田町まで脚を延ばした。3年前に開設された特別養護老人ホームは現在待機者がいない。
・定員29人の地域密着型特養だから、制度上、大石田町の住民しか入居できない。50年前には1万2000人いた大石田町の住民は7600人に減り、高齢化率は33%。人口が半分近くに小さくなった集落の3人に1人は高齢者だ。
・この特養は、廃校になった小学校を改修して開設された。子どもが減って小学校が高齢者施設に変わり、その施設も入居者がいなくなりそうだ。日本の過疎地、山間部にはこうした現象が珍しくないだろう。 人口減がそのまま高齢者減となる状況はこの先も続く。先述の75歳以上の人口を見ると、1015年から2025年にかけてだが、秋田県や鹿児島県は共に9%しか増えない。元々高齢者が多いけれど、その増加率は極めて少ない。
▽「垣根」を取り払う兆しに期待
・このように保育と介護の利用者数は、地方と都会部で大きな違いがある。保育園や介護施設に余裕がある地域と足らない地域ではその提供の仕組みが異なってしかるべきだろう。不足している地域の仕組みが、余裕のある地域の状況に引きずられて抜本策が手遅れになりはしないか。
・政府が、施設での保育と介護の一体化に取り組み出したのは、この疑問を解消する手立てとして大いに評価したい。
・老人福祉法や介護保険法と児童福祉法壁になって、互いの乗り入れが妨げられてきた。例えば、同じ建物内に保育園と高齢者施設があっても、厨房はそれぞれ別々に設けねばならない。 「幼老ケア」「共生社会」などと持ち上げられても、効率的な運営は度外視されてきた。その垣根を取り払う兆しが出てきたのは評価したい。
http://diamond.jp/articles/-/88728

第三に、3月15日付け日刊ゲンダイ「<第1回>平均月収20万円…保育士の待遇が悪すぎる“理不尽”」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「保育園落ちた日本死ね!!!」――匿名ブロガーの投稿で、保育所不足の深刻さが浮き彫りになった。待機児童は潜在人数を含めると300万人なんて推計もある。保育所が足りない大きな要因のひとつが保育士不足だ。2015年の保育士の有効求人倍率は、全国平均2.18。なり手がいないのは「待遇の悪さ」が原因だ。
・保育士の平均月収は約20万7000円とされ、全産業平均より9万円以上低い。昨年8月の厚労省の調査によると、〈保育士としての就業を希望しない理由〉のトップは〈賃金と希望が合わない〉だった。一方、〈就業を希望しない理由が解消した場合の保育士への就業希望〉については、〈希望する〉との回答が63%に上った。つまり、待遇さえ改善されれば保育士をやりたい人は多いのだ。
▽全国に「滞在保育士」は約68万人
・全国で保育士の資格を持っていながら、働いていない「潜在保育士」は約68万人と推計されるから、単純計算で、約43万人が保育士の仕事に就く可能性がある。一体、なぜ保育士の待遇は悪いのか。
・待機児童問題に詳しい「認定NPO法人フローレンス」代表理事の駒崎弘樹氏はこう言う。 「『保育士は女性の仕事でしょせんは子守り』との偏見が根強く、社会的に専門性を評価されていないことが原因です。また、認可保育所は国から補助金が入るので、保育料が安い。環境もいいので人気が高く、経営も安定しやすいですが、保育料だけが収入源の認可外保育所は、保育料を高くしないとやっていけない。少しでも人件費を削り、保育料を抑えないと認可保育所に子供を取られっぱなしになってしまいます。認可外保育所の保育士の多くは、非正規雇用で時給制。昇給もまず望めません」 
・では、保育士の待遇をどう改善すべきなのか。 「私は、全国の保育士の給与を月1万円上げるのに約340億円の財源が必要と推計しています。月10万円なら3400億円です。安倍政権発足以降、国と地方の税収は約21兆円増加しました。3400億円程度の財源は微々たるものでしょう。子育て支援を拡充すれば、多くの女性が働くことが可能になります。さらなる経済成長、税収増を見込めるはずです。未来への投資と考え、保育所への補助金の予算規模を拡大すべきです」(駒崎弘樹氏)
・消費増税を決めた3党合意で、保育士の給与改善のための381億円を含む3000億円の「子育て支援策」が決まっていた。ところが、安倍政権になって実施はウヤムヤだ。それを厚労委で問われた塩崎厚労相は「検討したい」と明確な答弁をさけたが、一刻も早く対処しなければウソである。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/177314/1

だいぶ前に「幼保一元化」について聞いた記憶はあったが、待機児童問題に絡めて思い出すことはなかったが、上久保誠人氏の指摘で思い出した。合理的な考え方であるにも拘らず、例によっていつもの「縦割り行政」が阻み、10年以上も進展してないとは何たることだろう。最近の国会やマスコミの議論でも「幼保一元化」は忘れ去られているようだ。英国のように首相に強い権限を持たせることで、役所の壁を打破するというのは、一般論としては賛成だが、こと安部首相にまで持たせていいのかは留保したい。もっとも、日本では官庁の抵抗が強すぎて、実現は「夢のまた夢」といったところだろう。やはり、内閣府の調整機能強化をあらゆる手段で図るのが筋だろう。「各省庁から派遣された役人が、省庁側の意向に沿って縄張り争いを行うことが常である」のは当然だが、内閣府側が中立的な財務省や総務省出身でより高位の人間に調整させればいい筈だ。
浅川澄一氏の指摘で、厚労省が待機児童の数字を小さく見せるために、定義を狭くしたというのは、初めて知った。こうした中国並みの操作が、日本でもまかり通っていたとは、驚きだ。「隠れ待機児童」の下にさらに「潜在待機児童」までいるとは、底の深い問題だ。保育と介護の一体化は、大いに進めてほしいが、「好色な老人」による問題が起きないかは気になるところだ。
「潜在保育士」約68万人に働く気にさせるためにも、報酬の大幅引上げが急務だろう。ウヤムヤになっている「保育士の給与改善のための381億円を含む3000億円の「子育て支援策」」への三党合意は、消費増税問題と切り離し、他の無駄を削減してでも実施すべきだろう。
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