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日本企業のコーポレート・ガバナンス問題(その4)クックパッドの騒動(創業者問題) [企業経営]

昨日に続いて、日本企業のコーポレート・ガバナンス問題を取上げよう。 今日は、(その4)クックパッドの騒動(創業者問題) である。なお、昨日予告したオプトは、あえて取上げるほどでもないので、クックパッドに絞った。

先ずは、2月10日付け日経ビジネスオンライン「クックパッド、「一本化」でもくすぶる火種 企業の世代交代と権限委譲の問題提起に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・クックパッドの“お家騒動”にようやく出口が見え始めた。同社は2016年2月5日、自身を除く取締役をすべて交代する株主提案をしていた創業者・佐野陽光氏との間で、取締役選任議案を一本化することで合意したと発表した。佐野氏の意向をくみ取った取締役選任案を指名委員会で審議・決定し、3月の株主総会に提出することになる。
・1月19日に明らかになった株主提案で、佐野氏は「従来のクックパッドの強みであるレシピ事業や会員サービスをないがしろにし、食とは関係のない事業の多角化を進めている」と、穐田誉輝(あきた・よしてる)社長ら現経営陣を強く非難。取締役を交代し、自らが社長に就く提案を3月の株主総会に提出する運びとなっていた(関連記事:クックパッド騒動は最初から異種格闘技戦だった)。その提案に関して、2月5日午前、現経営陣と佐野氏が歩み寄りを行い、一本化を目指す方向で合意した。
・同日夕方、クックパッドは投資家・アナリスト向けの決算説明会を開催した。2015年12月期の連結決算は、売上高147億1600万円、営業利益は65億4400万円、純利益40億9000万円。レシピサービスの月間利用者数は5755万人と6000万人の大台が見えてきた。決算期や会計基準の変更があるものの、前年同期比で売上高が1.6倍、純利益が1.7倍と業績を拡大させた。
・穐田氏は説明会で、佐野氏が「ないがしろにしている」としたレシピ事業や「食」関連の事業も好調であることを強調。プレミアム会員の増加傾向が鈍化していることは経営課題としながらも、新サービスを投入するなどの施策や、NTTドコモとのレベニューシェアモデルが利益増に貢献していることなどを挙げた。
・佐野氏が中心となって取り組む海外事業については、特に米レシピサイトのALLTHECOOKSの買収について「正直なところ上手くいかなかった」(穐田氏)と明言。2月2日には、ALLTHECOOKSの親会社であるCOOKPAD Inc.(クックパッドの米子会社)で特別損失9億300万円を計上したと発表した。ALLTHECOOKSの月間利用者数が当初の計画を大幅に下回り、減損処理を実施したことが影響した。
・穐田氏はALLTHECOOKSの現地責任者との契約を解除し、クックパッド主導のサービスで改めて米国市場を攻めていくと説明。米国以外の海外市場に関しても、プラットフォームを統一することでさらなる成長を目指すと説明した。
▽「10年来方向性違うが、切磋琢磨してきた」
・説明会の質疑応答では、穐田氏が続投するのかという質問が相次いだ。それに対し穐田氏は「指名委員会が決めるものだが、指名されればやる」と回答。また、佐野氏との関係についても「10年来方向性は違うし、今後もそれは変わらない。一方、そうだからこそ切磋琢磨してこられたという側面もある。戦略も組織も歩み寄るつもりだ」と述べた。
・一本化の発表と決算を受けて、週明け2月8日月曜日の株価は20パーセント以上上昇。2月9日には騒動以来初めて、一時2000円台に株価を戻した。
・一件落着に見える今回の“お家騒動”だが、火種はまだくすぶる。今後の人選だ。穐田氏に近い関係者は「穐田さんの性格からして、佐野案が色濃く残る流れだったら辞めるはず。ある程度自分寄りにできると踏んでいるのではないか」と話すが、誰が取締役に選任されるかは不透明なままだ。ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは「穐田氏が経営メンバーから急にいなくなるというのが最大のリスク。好調な業績を今後も継続させるには、穐田氏の経営参加が条件になるだろう」と言い切る。
・さらに、今回の件が禍根を残すことを心配する声もある。2人の間にはもともと、仲違いがあったり、いがみあったりといったことはなかった。例えば、2015年4月にクックパッドに入社した元暮しの手帖編集長の松浦弥太郎氏は、佐野氏が穐田氏に紹介し、穐田氏とも意気投合したことから、入社に至ったという。ここ半年以内でも、佐野氏と穐田氏が社内で和気藹々と話をしていた姿が目撃されている。
・しかし、「黎明期からクックパッドを知る貴重な人材」(佐野氏)として2012年4月に佐野氏から社長を引き継いだ穐田氏には、自らが業績を急拡大させたという自負もある。「そうした経緯も飲み込んで今回は穐田さんが“大人の対応”をしたが、きれいさっぱりなかったことにして、これからもこれまで通り仲良くしましょう、とはなかなかいかないのではないか。ここまでのことを佐野さんにやられては、2人の関係がこじれないとも限らない」(前出関係者)。いちよし経済研究所の納博司主席研究員は「(佐野氏と穐田氏の)2人が理解し合って事業を進めるのがベスト。どちらが欠けてもダメで、2人がそろっていることを評価していた」とし、2人の間に残る可能性のある「埋められない溝」を懸念する。
▽権限委譲、どうあるべきか
・今回の問題は、企業における権限委譲の難しさを改めて浮き彫りにした。 クックパッドは、慶應義塾大学環境情報学部の熊坂賢次教授を委員長とした社外取締役5名と佐野氏からなる指名委員会を設置している。指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任・解任議案を決定する権限を持つ機関だ。
・会社法に詳しい平林健吾弁護士は「今回のケースでは、創業者、大株主、取締役として会社に多大な影響力を及ぼしているであろう佐野氏であっても、社外取締役が過半数を占める指名委員会が決定する取締役選任議案の内容をコントロールできず、株主提案権の行使という手段にでるほかなかった。指名委員会等設置会社という制度を選択したことがガバナンスにある程度寄与した結果ともいえる」と解説する。一方で、「指名委員会等設置会社であっても、例えば社外取締役が経営陣の“お友達”であれば、制度自体が絵に描いた餅になることもある」(同)と企業の制度設計の難しさを指摘する。
・ドイツ証券の風早氏は「クックパッドのような優良企業であっても、こうした問題に直面することがある。世代交代や権限委譲をする過程で、資本構造と経営構造をどうバランスよく保っていくべきかということを考えさせられるよい事例になった」とし、今後の同社の一層のガバナンス強化を求める。
・今後、クックパッドは指名委員会を経て、取締役を選任、3月24日の株主総会に諮る。これ以上こじれれば、社員の士気やその先にあるサービスにまで影響が出かねない。「サービスやブランドの毀損は微少」(いちよし経済研究所の納氏)な段階で、いち早く火消しをする必要に迫られている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/020900243/?P=1

次に、その後の状況として、4月6日付け日経ビジネスオンライン「クックパッド、創業者退陣要求で労組を結成 佐野・岩田体制に8割の社員が「待った」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・経営体制をめぐり対立が続くクックパッドで新たな動きが出てきた。創業者である佐野陽光執行役兼取締役や新たに社長に就いた岩田林平氏の退陣を要求するため、社員が労働組合を立ち上げた。執行部は委員長を含めた5名の予定。ベンチャー企業では、労働組合を立ち上げること自体がまれ。労組の活動自体が経営陣を退陣させることはできないが、社員が結束して経営側と闘う姿勢を示した。
▽「今の状況は、おかしいのではないでしょうか」
・「おとなしく平和主義に見える社員が、こうした積極的な活動に出たのは驚きだった」(元執行役)。 3月24日に開かれた株主総会の翌週月曜日、全社員に向けてある社員がメールで訴えた。「今の状況は、おかしいのではないでしょうか」。メールを送ったのは、2015年4月にクックパッドに入社した、元くらしの手帖編集長の松浦弥太郎氏だ。呼応するように署名活動が始まり、国内240名超の正社員のうち、8割以上の署名が集まった。
・その後、有志社員が活動を開始。会社以外のメールアドレスを使って連絡を取り合い、業務後に話し合いを続けている。既に佐野氏と岩田氏も出席した社内討論会も開かれた。テーマは「クックパッドをどうしていきたいのか」。時に涙を流しながら訴える社員もいたが、佐野氏側から明確な方針が打ち出されなかったとされる。社員は労働組合を立ち上げ、佐野氏と岩田氏を退陣させるための戦略も練り始めたという。
・2015年11月から続いている同社の経営陣を巡る騒動は、収まるどころか社員を巻き込んだ騒動に発展している。 3月24日の株主総会直前に佐野氏は執行役を解任された。執行役を解任された状態で挑んだ株主総会では、当時の社外取締役の岩倉正和氏などが、「ガバナンスコード上不適切であり、米国なら善管注意義務違反を問われる恐れもある」などと株主に執行役解任の理由を述べた。
・一方、当時社長だった穐田誉輝(あきた・よしてる)社長は、執行役の解任はある種のペナルティだったと認めつつも、今後も取締役として佐野氏のビジョンや経験は必要と佐野氏をかばう姿勢も見せた。
・株主総会では、会社側と佐野氏の「合意案」として提出された取締役案が可決。44%の株式を持つ大株主の佐野氏の議決権の大きさが“威力”を発揮した。9名のうち、北川徹氏、柳澤大輔氏、出口恭子氏といった新たな社外取締役を選任。柳澤氏は佐野氏とは慶應義塾大学時代の旧友で、出口氏は「創業間もない頃に知り合った」(出口氏)という旧知の仲だ。前年の取締役から残留をしたのは、穐田氏、佐野氏を除き、新宅正明氏、西村淸彦氏の2名だけだった。取締役会の顔ぶれは、佐野氏に近い人が過半を占めるようになった。
▽「会社の存続さえ危うい」
・新しい取締役会が下した決断はさらに波紋を呼んだ。株主総会後に開かれた取締役会で、当時社長だった穐田氏を解任。2月に入社したコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の岩田林平氏を社長に据えることを決めたのだ。
・従来の執行役メンバーは、総会後の取締役会で佐野氏、岩田氏、穐田氏を除きすべて解任された。創業にかかわった小竹貴子氏が再度入社する予定であるなど、徐々に幹部メンバーは決まってきているとされるが、会員事業、管理部門など、重要なポジションのトップはほとんどが空席のままだ。
・社内に対しても、未だに明確な経営方針は示されず、「足下のプロジェクトをこのまま進めるべきかどうするのか、といった現場レベルでの判断が難しくなってきている」(ある社員)といった実務面での影響を不安視する声も聞かれる。
・そうした状況を鑑み、ついに社員が動いたというわけだ。 労働組合は、今週中に開催予定の取締役会に、佐野氏と岩田氏の退陣を要求する嘆願書と署名を提出する予定だ。結果によっては、穐田氏以下、前体制を支持する社員が一気に辞職をする可能性も出てきている。ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは、「もはや、中長期的にみたサービスの提供や会社の存続さえ危ういといっていい。さらに、社員が一丸となって否定するような執行役メンバーを選んだ社外取締役の“甘さ”も責任追及されるべきだ」と話す。
・クックパッドの株価は、株主総会後、17%安の1770円まで急落した。東証1部上場企業の値下がり率で首位となった。その後も株価は下落を続け、4月5日の終値では1500円を切るところまで落ち込んでいる。
・労働組合は法律上、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」と規定されており、経営権を持っているわけではない。労働組合が佐野氏に対して退陣を要求したとしても、それを岩田氏や佐野氏が無視することは容易だろう。さらに言えば、社員の多くが辞めたとしても、クックパッドの最大の資産である会員組織は会社の資産として残る。
・半年に及ぶ“クックパッド騒動”は、ついに社員も巻き込んだ“大騒動”の様相を呈してきた。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040500299/?P=1

もともと、コーポレート・ガバナンス関連では、世間を賑わせた大塚家具の問題もあったが、これは、父娘対立という余りにドロ臭いネタだったので、あえて取上げなかった。クックパッドも、第一の記事にあるような創業者と経営者の対立という段階では、注視しているだけだったが、第二の記事にあるように、ベンチャーでは珍しい労組までが、創業者の佐野氏と、その息がかかった岩田新社長に対し、反旗を翻したことで、このブログでも取上げた次第である。「世代交代」や「権限移譲」というのは、従来から企業経営上の難しい問題である。社外取締役も佐野氏の「お友達」だからといって、社内従業員から反発されるような新社長を選任するとは、もってのほかである。また、新社長の岩田氏も、マッキンゼーのコンサルタントだったのであれば、「火中の栗を拾う」ような社長職を何故引受けたのか、が疑問で残る。
記事では「会員組織は会社の資産として残る」としているが、仮に有力社員が辞めてしまうと、魅力的なレシピの更新がなくなり、アクセス減少や会員の退会により、資産が急速の劣化するリスクも強い。
株価は今日も1599円と低迷している。
明日はセブン&アイの問題を取上げる予定である。
タグ:日本企業のコーポレート・ガバナンス問題 (その4)クックパッドの騒動(創業者問題) 日経ビジネスオンライン クックパッド、「一本化」でもくすぶる火種 企業の世代交代と権限委譲の問題提起に クックパッド 創業者・佐野陽光 身を除く取締役をすべて交代する株主提案 取締役選任議案を一本化することで合意 レシピ事業 会員サービス 穐田誉輝 現経営陣を強く非難 自らが社長に就く提案 海外事業 ALLTHECOOKSの買収について「正直なところ上手くいかなかった」 別損失9億300万円を計上 元暮しの手帖編集長の松浦弥太郎氏 2人の間に残る可能性のある「埋められない溝」を懸念 権限委譲 世代交代 資本構造と経営構造をどうバランスよく保っていくべきか クックパッド、創業者退陣要求で労組を結成 佐野・岩田体制に8割の社員が「待った 社員が労働組合を立ち上げた 社員は労働組合を立ち上げ、佐野氏と岩田氏を退陣させるための戦略も練り始めたという 北川徹氏、柳澤大輔氏、出口恭子氏といった新たな社外取締役を選 柳澤氏は佐野氏とは慶應義塾大学時代の旧友 佐野氏に近い人が過半 社長だった穐田氏を解任 マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の岩田林平氏を社長に 従来の執行役メンバーは、総会後の取締役会で佐野氏、岩田氏、穐田氏を除きすべて解任 労働組合は、今週中に開催予定の取締役会に、佐野氏と岩田氏の退陣を要求する嘆願書と署名を提出する予定 社員が一丸となって否定するような執行役メンバーを選んだ社外取締役の“甘さ”も責任追及されるべきだ
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