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VW(フォルクスワーゲン)排ガス試験不正問題(その4)意外と早い?VWの復活。VWの抜本改革は実現しない。ドイツの「不都合な真実」 [企業経営]

VW(フォルクスワーゲン)排ガス試験不正問題については、昨年10月11日に取上げた。半年が過ぎた今日は、(その4)意外と早い?VWの復活。VWの抜本改革は実現しない。ドイツの「不都合な真実」 である。

先ずは、1月5日付け日経ビジネスオンライン「意外と早い? VWの復活 トヨタとの世界一争いの行方を占う」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・(冒頭省略)昨年の自動車業界の話題といえば何といっても独フォルクスワーゲン(VW)の不正ソフトの事件だろう。同事件についてはこのコラムの「号外」と第37回で取り上げているが、世界一の自動車メーカーの座をトヨタ自動車と争うVWが、このような不正に手を染めたという事実に、筆者自身非常に驚かされた。年初のこのコラムでは、トヨタとVWの今後について占ってみたい。
▽販売への影響は軽微
・結論からいうと、VWの復活は意外と早いのではないかと筆者は思っている。その根拠の1つとして、まずVWの販売に、それほど大きな影響が出ていないことが挙げられる。確かに、日本国内での販売台数は大きく減った。2015年10月は前年同月比46%減とほぼ半減、11月も同31.8%の大幅減となった。今回の事件の震源地となった米国でも、10月は同0.2%増とプラスを保ったが、11月は同24.7%の大幅なマイナスとなっている。
・しかし、日本や米国は、VWの世界販売台数から見ればマイナーな市場だ。VWにとって重要なのは、世界販売の4割近くを占める中国市場や、35%程度を占める欧州市場である。これらの市場では、意外にも今回の事件の影響が軽微なのだ。まず、主力市場である欧州18カ国では、11月は同2.5%増とプラス成長を維持した。最大市場の中国市場でも、11月は同5.5%増である。欧州では同じ時期に、市場全体で同12.9%、中国では同20.0%伸びているから、どちらの市場でも決して良い数字を示しているわけではないのだが、大きく崩れることは免れている。世界全体での販売台数を見ても、11月は同2.2%減と、同3.5%減だった10月よりもマイナス幅が縮小し、販売は比較的短期間で回復基調にあるといえそうだ。
・根拠の2つ目は、不正問題の拡大に歯止めがかかりそうなことだ。VWの不正は、米国のディーゼル車から欧州のディーゼル車に拡大し、さらに欧州で発売する車種ではガソリン車も含めてCO2排出量の測定方法で不正があったとされるなど、拡大の一途を辿ってきた。しかしその後の調査で、CO2の排出量に関しては不正がなかったことが明らかになった。
▽リコール費用も低い
・そして復活が早いと見る3つ目の根拠は、巨額の費用を要すると見られていたリコールも、当初の見通しより損失が少なくて済みそうなことだ。筆者が驚いたのが、2015年11月末に発表された欧州でのリコールの内容である。リコール対象となるディーゼルエンジン「EA189」には、1.2L・3気筒、1.6L・4気筒、2.0L・4気筒の3種類があるのだが、このうち1.2Lのと2.0Lはソフトウエアの書き換えのみ、1.6Lも、ソフトウエアの書き換えに加え、非常に簡単な部品の追加で対応するというのだ。これならリコール費用は少なくて済むだろう。
・筆者がなぜ驚いたかといえば、もっと複雑でコストのかかる対応が必要なのではないかと思っていたからだ。欧州での不正の内容も、米国と同様に、台上試験の間だけ欧州の排ガス規制に適応するようにエンジンを制御するソフトウエアを切り替えるというものだが、その具体的な内容は、路上に出るとEGR(排ガス再循環装置)の働きを弱めるものだったと考えられている。
・EGRというのは、排ガスの一部をエンジンの燃焼室に戻す装置である。なぜそんなことをするかといえば、NOx(窒素酸化物)を減らすためだ。NOxは、エンジン内の燃焼温度が高いと発生する。そこで、燃焼に寄与しない排ガスを燃焼室内に戻すことで、燃焼温度の上昇を抑えるのがEGRの役目だ。しかし、排ガスを燃焼室に戻すと、NOxは減るものの、燃焼が悪化し、燃費や出力が低下してしまうという問題がある。VWは、エンジンの出力や燃費の低下を嫌って、エンジンに排ガスを戻す量を減らしていたと考えられる。
・従って、VWがリコール対策として実施したソフトウエアの書き換えは、NOxを減らすために、排ガスを燃焼室内に戻す量を増やすことであると考えられる。このことは、単純に考えれば、燃費や出力を悪化させるはずだ。VWは、燃費や出力の低下はないと発表しているのだが、もしもそれが可能であるなら、そもそもソフトウエアの不正をする必要がなかったはずで、VWの説明には素直に頷けないところがある。
▽簡単な対策
・1つのヒントになるのは1.6Lエンジンの対応だろう。1.6Lエンジンだけは、ソフトウエアの書き換えに加えて、「空気量の測定精度を上げるデバイス」を追加するとしている。名前だけから判断すると非常に大げさだが、これは写真を見ると、樹脂製の管の内部に、格子状のメッシュが設けてあるだけの、極めて単純な部品だ。この部品を「エアフローメーター」という、エンジンに流入する空気量を測定する装置の前に取り付けるのだという。
・エンジンに入る空気の量は、アクセルの踏み込み量などによって絶えず変化する。だから正確に測るのはそもそも難しいので、EGRによってエンジンに戻す排ガスの量は、多少余裕を持たせて多めにしてあるはずだ。これに対して今回のリコール対策では、NOx低減のためにエンジンに戻す排ガスの量を増やさなければならない。燃費や出力の低下を抑えるために、増やす量は最低限に抑えることを狙っているはずだ。1.6Lエンジンに追加するデバイスは、空気の流れを整えて、なるべく正確に空気の量を測り、その空気の量に見合う最低限の量の排ガスをエンジンに戻す狙いだろう。
・EA189エンジンは2008年からVWグループの車種に搭載されているのだが、同エンジンを設計したころに比べると、シミュレーションの技術は格段に進化している。リコール対策で実施するソフトウエアの書き換えは、こうした技術も駆使しながら、エンジンに入る空気量の測定精度を向上させるように制御を進化させ、排ガス性能と、出力・燃費を両立できるセッティングを追求しているはずだ。実際、最新型車に積まれているEA189の次の世代のエンジン「EA288」は、不正ソフトを積まずに燃費、出力を向上させつつ排ガス規制をクリアしており、そのノウハウも生かされたはずだ。
▽米国では別の対策も必要?
・いずれにせよ、ソフトウエアの書き換えだけならクルマ1台当たりのリコール費用は50ユーロ(1ユーロ=132円換算で6600円)以下、部品交換を伴う場合でも100ユーロ(同1万3200円)以下に抑えられると見られるので、対象台数が約850万台といわれる欧州でのリコール費用は、現在VWが特別損金として引き当てている65億ユーロ(同8580億円)で足りるだろう。
・ただし、今回の事件の震源地となった米国では、同様な対策では済まないはずだ。欧州で、ソフトウエアの書き換えや、簡単なデバイスの追加だけで対応が可能だったのは、欧州におけるディーゼル車の排ガス規制値が、米国に比べて緩いことが背景にある。測定方法に違いがあるので厳密な横並びの比較はできないのだが、米国のディーゼル排ガス規制値は、NOxの排出量を欧州規制値の半分近くに抑えることを求めている。従って、米国でのリコールに対しては、欧州のようにソフトウエアの改良だけでは済まないのではないかと筆者は思っている。
・既にVWは2015年11月20日に、EPA(米環境保護局)とCARB(カリフォルニア州大気資源局)にリコールの内容を申請しており、本来なら2015年12月にこの内容を認可するかどうか決定するはずだった。しかしこの決定は、2016年の1月中旬まで延期されており、VWがどのようなリコール内容を申請しているのかは、現時点でまだ明らかになっていない。古いリコール対象の車種ではソフトウエアだけでなく、ハードウエア面での改良が必要になるとの報道もある。
・ただ、米国でのリコール対象車の数は48万2000台と、欧州に比べれば格段に少ない。仮にこのすべての台数がハードウエアの変更まで伴うリコールとなり、1台当たりのリコール費用が、欧州の約10倍の1000ユーロ(1ユーロ=132円換算で13万2000円)としても、リコール費用は636億円で済む。米国ではほかに、3.0Lのディーゼルエンジン搭載車約8万5000台についても不正があったとされているが、こちらの対策にはそれほど費用はかからないで済む模様だ。
・このように、一連のリコールに要する費用は、巨額ではあるものの、VWの屋台骨を揺るがすほどの規模にはならない見通しになってきた。ただ、予断を許さないのはリコール以外の費用だ。米国では、大気浄化法に対する法令違反で、最大2兆円規模の制裁金が課される可能性があるほか、米国全体で500以上の民事訴訟が発生しており、これらの判決によっても多額の補償金を求められる可能性がある。
▽MQBを立て直せるか
・このように、VWの一連の事件は、訴訟費用などの面で不確定要素はあるものの、当初予測されたよりは短期に収束する見通しになってきた。これは筆者にとっても意外であるのと同時に、欧州での不正に対してソフトウエアの書き換えや簡単なデバイスの追加で対応できたことを見ると、同社の技術力は依然として衰えていないことを感じる。
・そうなると、気になるのが今後のトヨタ自動車との世界一競争の行方だ。VWの将来を占ううえで重要なポイントが、「MQB」を立て直せるかどうかだろう。MQBについては既にこの連載の第24回で、トヨタ自動車の「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」とともに詳しく紹介しているが、簡単にいえば、モジュール化によって車種間の部品の共通化率を高め、開発効率、生産効率を上げてコスト競争力を向上させるとともに、性能・品質をより良くすることを狙った最新のプラットフォームである。
・MQBはすでに、VWの基幹車種である「ゴルフ」や、同グループのアウディ「A3」などに採用されており、特にゴルフは2012年秋の全面改良当初、クラスを超えた乗り心地、静粛性、ボディ剛性などで世界の完成車メーカーを驚かせた。当時、TNGAをベースとした新型「プリウス」を開発中だったトヨタ自動車も、設計を大幅に変更して、ボディ剛性の強化を図ったというエピソードを、この連載の号外でお伝えした。このようにMQBは、クルマの基本性能を向上させるという点では大きな成功を収めたが、コスト削減や開発効率の向上、生産性の改善には、当初の目論見ほどつながっていないようだ。
・今回の事件が起こる前から、VWでは利益率の低い体質が問題になっていた。VWグループ内で、VWブランドのみの営業利益率を取り出すと、2011年の4%から2014年には2.5%へと落ち込んでおり、MQB導入後のほうが、むしろ利益率は下がっている。アウディの高い利益率に支えられて、グループ全体の営業利益率は5.9%を確保しているものの、トヨタが10%の営業利益を上げているのと比べると、半分程度にとどまる。
・この原因については、MQBの開発・生産のために多額の投資をした割に、当初の目論見ほど部品の共通化率が上がらず、生産現場でも混乱があったためだと言われている。また、VWに詳しい欧州のコンサルタントに聞いた話で筆者が驚いたのは、MQBが生産設備の流用を考慮していないということだ。日本の完成車メーカーでは、ある車種が全面改良しても、生産設備は基本的に流用し、必要な部分を手直しする程度にとどめる場合が多い。これに対してMQBでは、次世代のMQBへの切り替えの際に、生産設備も全面的に刷新することを想定しているというのだ。
・日本の完成車メーカーと異なり、欧州の完成車メーカーでは車種の全面改良に伴って設備も刷新することが多く、それ自体は驚くべきことではないが、MQBの導入にあたって、VWはそれと対になる技術としてモジュール化・汎用化した生産技術「MPB」を導入したことを表明しており、いよいよVWもクルマの全面改良の度に設備も全面刷新する無駄に切り込み始めたと思っていたので、そのコンサルタントの言葉には、思わず「それは本当か?」と何度も確認してしまった。
・VWは、今回の事件に伴う損失をカバーするために、次世代のMQBの導入を先送りし、次世代のゴルフでは現行モデルの部品の多くを流用することを検討しているとのニュースも伝えられている。これなら確かに開発コストや設備投資は抑えられるが、今度は技術面で後れを取らないかとの懸念は残る。いずれにせよ、開発効率や生産効率といったMQBの本来のメリットをフルに引き出せるかどうかが、今後のVWの命運を左右しそうだ。
▽中国市場で伸ばせるか
・ここまで見てくると、VWはディーゼル車の不正問題が片付いても、それですべての問題が解決するわけではないことが分かる。だとすれば、トヨタ自動車の世界一の座は、今後も盤石といえるのだろうか。
・そもそも2015年の前半は、世界販売台数でVWがトヨタを上回り、世界一の座を奪還するかに思われた。それが、思わぬ事件でVWは足元をすくわれ、世界一の座は遠のいた。2016年はトヨタが世界一の座を維持するのは間違いないだろう。しかし、今後2020年程度までの世界の自動車市場を見通すと、その状況は決して予断を許さない。世界の自動車販売台数は2015年の約9000万台から、2020年には1億台を突破すると言われており、その最大の推進力は中国市場の伸びだ。中国市場は、2015年の2400万台から、2020年は3000万台以上に増加すると予測されており、世界市場の伸びの6割を占めることになる。
・VWは中国市場で約2割のシェアを占めており、このシェアを維持するだけで、100万台以上の増加要因となる。一方で、トヨタの中国でのシェアは、直近で4.5%程度しかない。トヨタが強い米国市場は、2020年までを見通すと大きな伸びは見込めず、また東南アジア市場も中国市場ほどの勢いはない。従って、各地域でのVW、トヨタのシェアがこのまま維持されると仮定した場合、2020年までにVWが世界一の座に就く可能性は高い。
・従って、トヨタが今後も世界一の座を維持できるかどうかは、中国市場でのシェアを大幅に伸ばしていけるかどうかにかかっている。そのためには、開発の現地化を進め、現地のニーズに合った商品を投入していくことが、これまで以上に重要になるだろう。VWはすでに、現地主導で開発した中国独自の商品を投入しており、成功を収めている。トヨタにおいても、現地で開発を任せられる人材の育成が、当面の最大の課題になりそうだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/010400018/?P=1

次に、3月8日付け日経新聞がThe Economist誌記事を転載した「VWの抜本改革は実現しない」のポイントを紹介しよう。
・排ガスを巡る不祥事は、生産台数を年間1000万台に増やし、世界最大の自動車メーカーとしてトヨタ自動車を打ち負かすことに専念する企業文化の表れ。規模を追求する中で利益率は悪化。生産台数が大幅に増えたにもかかわらず、営業利益は何年も120億ユーロ前後で推移。中国市場がもたらす莫大な利益が、欧州でのお粗末な業績と、米国、新興国での赤字を覆い隠した。
・欧州と米国では今年1月、新車需要全体が増加したにもかかわらず、VWの販売台数は減少。しかし、ミュラー氏は、2016年は好スタートを切っており、スキャンダルの影響が長引くことはなさそうだと話す。その見方は正しいのかもしれない。かつて、米GMはエンジン始動スイッチの不具合で、トヨタは「意図しない急加速」でそれぞれ大量リコールを余儀なくされたが、販売は数カ月で持ち直した。
・VWは15年の年次報告書の発行を、支払うべき罰金の実態がより明確になる4月まで延期。米司法省は理論上、600億ユーロの罰金を科すことができるが、そこまでやる可能性は低そうだ。GMもトヨタも10億ユーロ前後の罰金。今回の不祥事の代償は苦痛ではあるが致命的ではないと分かれば、VWが自らを抜本的に改革する推進力は勢いを失うだろう。
・だが、同社は変化を必要としている。VWは成功の度合いが異なる多数のブランドの集まりだ。グループの利益のほぼ2/3は、高級車ブランドのアウディとポルシェが稼いでいる。主要ブランドのVWは、グループのお荷物だ。調査会社サンフォード・C・バーンスタインは、14年のVWブランドの利益は主に中国での部品販売とロイヤルティー収入(VWの合弁会社から支払われるもの)で、中核の欧州市場では利益を全くあげなかったと試算。
・ミュラー氏は、厳格なヒエラルキーのもと、意思決定は全て本社が下すという企業文化の刷新を図ることでスタート。上級役員10人のうち7人を入れ替えた。外部から起用した人もいるが、「新顔」の多くはミュラー氏と同様、VWのやり方が染みついたグループのインサイダーだ。それでも、ミュラー氏は、多々ある傘下ブランドのトップにより大きな責任を与えることで、硬直的な意思決定を速めようとしている。包括的なリストラ計画を年内に実施することに加え、VWは利益をより重視。
・まず、VWブランドで来年、10億ユーロのコストを削減。アナリストらは、大手自動車メーカーの中で唯一、金融危機時にコストを削減できなかったVWには、落とすべき脂肪がまだ膨大にあるとみている。モデル数の異常な多さと、バカらしいほど多くあるオプションの数も削減。VW「ゴルフ」のハンドルの選択肢は、117から43に減る予定だ。最も解決が難しい問題は、低い生産性だ。特に大衆向けのVWブランドの生産性の低さは甚だしい。VWグループの売上高に占める人件費は、07年の13%前後からほぼ17%に増加。現地企業との合弁会社で自動車を生産している中国を別にすると、VWグループの52万人の従業員は14年に670万台の車を生産。1人当たりの生産台数が約13台となる計算で、これは、利益率の高い高級モデルのみを生産しているダイムラーのメルセデス部門とほぼ同じ生産性だ。
・競合各社が生産を低賃金国へ移す中、VWはほぼドイツにとどまった。従業員の約45%がドイツにおり、その多くが週4日労働を享受。スイスの金融大手UBSのパトリック・フンメル氏は、VWブランドのドイツ工場は「業界で最も高コストな工場の一つ」と言う。しかし、ドイツに対するVWのコミットメントは絶対だ。「我々はドイツ企業であり、ドイツの雇用を守る」とミュラー氏は言う。強大な権限を持つ労働組合は必ず人員削減に抵抗。ミュラー氏は、改革の必要性では労使は合意していると言うが、その方法については意見の対立があると認める。

第三に、ドイツ在住の作家の川口マーン惠美氏が4月22日付け現代ビジネスに寄稿した「VW事件にみるドイツの「不都合な真実」~ユーロ圏最悪の格差社会はこうして出来上がった ここでも下流老人が急増中」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽排ガス不正問題はどうなったのか
・VW(フォルクスワーゲン)社の不正ソフト事件が明るみに出てから7ヵ月が過ぎようとしている。ところが未だに社内で犯人の見当さえ付かないらしい。 監査役会(取締役会を監督する機関)が、真相究明のために依頼したのは、アメリカの「ジョーンズ・デイ」(全米最大の法律事務所)だが、彼らにもまだ不正の全貌が見えず、特定の課やら何人かの社員を疑うところまでしか行っていないという。
・VW社の不正ソフトとは、排ガス検査の時だけ、窒素化合物など有害物質の排出を少なくすることができるという優れものだ。これをVW社は7年以上も、自社のディーゼル車に搭載し続けた。
・これによって排ガス検査は合格したものの、普通の走行時は、検査時の10倍から40倍もの有毒物質を排出したというのだから呆れた話だが、VW社はそうした車を「クリーン・ディーゼル」と銘打って、排ガス規制の厳しいアメリカで売りまくった。
・化けの皮が剥がれたのは昨年の9月。11月になると、窒素化合物だけでなく、二酸化炭素についても不正が見つかり、今では、アメリカ当局への制裁金だけで5兆円を超すのではないかといわれている。
・今年1月には、アメリカの司法省が、大気浄化法違反でVW社に対して民事訴訟を起こした。同省はそれと並行して刑事訴訟の準備も着々と進めている。また、2月には集団訴訟手続きも始まり、全米で約50万人の原告が損失補填を求める予定という。
・一方、VW社の車の売り上げも落ちた。ドイツ国内での落ち込みはそれほどでもないものの、アメリカでの今年第一四半期の売り上げは、去年比でマイナス12.5%。南米とロシアは、それぞれマイナス31.3%、マイナス12.5%とやはり大きく落ち込んでいる。
・頼みの綱は中国で、VW社が第一四半期に売った72万2800台の車両のうち、約半分が中国向け。まさに中国サマサマだが、この依存度は危険かもしれない。というわけで、VWの故郷、ドイツのニーダーザクセン州の空は黒雲に覆われたままで、陽の光はまだ見えない。従業員の間では、賃金カット、リストラの懸念が膨らんでいる。
▽報酬を死守したい経営陣とリストラに怯える労働者
・だから、VWの役員たちも真摯に節約に励んでいるかと思ったら、とんでもない話だった。それどころか彼らは、自分たちのボーナスを守るために、大立ち回りをやっているらしい。 ドイツは、アメリカや他の西ヨーロッパの国と同じく、企業内の報酬の格差が大きい。VWなどという一流大企業になると、その差はとりわけ大きく、役員の年収は、日本円で言えば軽く億を超える。それも年収の約80パーセントがボーナスという形で支払われるという。
・ちなみに、VWの役員の2014年分のボーナス額は、一人平均650万ユーロ(9億円近い)だったという。そこに、やはり億単位の正規のお給料が加算されたのが、彼らの年収だ。
・不正事件が明るみに出たあと、VWの社長(CEO)は、ヴィンターコーン氏からミュラー氏に代わったが、この新社長が現在の会社の状況を鑑みて、ボーナスを少し返上しようと言い出した。当然のことだと、日本人なら思う。
・そもそもミュラー新社長は、会社の汚れた体質を刷新するという目的で就任したのだから、このくらいは言わなければ格好がつかない。ところが、多くの役員はそれを拒否した。結局、すったもんだの末、少なくとも30%は返上しようというところまでは漕ぎ着けたのだが、舞台裏での戦いは続いているらしく、正式な発表はまだない。
・しかしドイツでは、こういうことは今始まった話ではない。会社がどんなに困ろうが、従業員がリストラされようが、たいていの役員たちは、そんなことで報酬を一部たりとも返上しようなどとは考えない。 前社長のヴィンターコーン氏は、ドイツのCEOとしては、最高の報酬額を誇っていた。2014年の年収は、1,586万ユーロ。日本円にすれば20億を超える。そもそも、彼の経営の下で未曾有のスキャンダルが起こり、会社が傾き、その責任を取って辞任したはずだが、契約は2016年まで続いているので、今年もビッグな年収が保証されている。
・いつ、首を切られるかとビクビクしている社員たちは、もちろん腹が立つ。しかし、契約がある限り、訴えたところで勝ち目はない。ドイツでは、こういうニュースが流れるたびに国民が憤慨する。しかし、ニュースはまもなく消え、当事者でない限り、皆すぐに忘れてしまうので、結局、金持ちは金持ちのまま。失業した人は運が悪かったということになる。
▽豊かな人がさらに豊かになるシステム
・1月に日本で『ドイツ帝国の正体』という本が出た。ドイツ語からの翻訳だ。元のタイトルを直訳すると『ドイツ国は誰のものか?』。著者イエンス・ベルガーは、活躍中のジャーナリストである。
・同書によると、ことあるごとに機会平等を唱えるドイツ人だが、実は中身は違っており、ユーロ国の中でドイツほど資産格差が大きい国はないという。しかも興味深いのは、それがいつ始まったかの説明だ。  戦後、徐々に縮まっていった貧富の差が、再び拡大し始めたのは2000年になってからだ。原因は、90年代の終わりにSPDシュレーダー政権(社民党政権)が行った構造改革だという。
・東西ドイツ統一の負担と、行き過ぎた福祉とで、どうしようもないほど落ち込んでいた経済を活性化する目的で、「アジェンダ2010」という改革が行われた。これにより、国民の税負担が引き上げられ、一方、資産家のそれが減らされ、雇用者に有利な法律が決められ、さまざまな福祉は切り捨てられた。97年には、政府は資産税の徴収まで投げ出した。
・以降、企業の利益は増え、次第に経済は上向き、いまやEUではドイツ一人勝ち状態だが、その代わり貧富の差は猛烈に拡大したという。現在のドイツ人の資産は労働所得や貯金ではなく、「遺産」であるというのがベルガーの主張だ。豊かな人がさらに豊かになるシステムが、しっかりと構築されてしまった。
・そうこうするうちに、今、突然、ドイツの政治論議の場で、「年寄りの貧困問題」が持ち上がった。実は、前述の構造改革のとき、年金制度の一部が民営化され、いわゆる従来の公的年金と、国民が自分でお金を積み立てる保険との二階建てに変わったのだが、今になって、これがうまく機能しないことが明らかになったという。
・すでに現在、年金生活者が怒涛のように「貧困層」に陥り始めている。年金が、最小限の生活を営むのに足らない場合は、生活保護が支給されるが、それを受けている老人の数は、2003年は25万8000人だったのが、2014年には倍増して51万2000人になった。さらに、2025年には、100万人を超えるという予想だ。そして、2030年、年金生活者の半分が貧困になるとか。
▽総選挙の目玉は「年金問題」か
・40年間も働き、年金を支払ってきて、その挙句、質素な老後さえ送れないというのは不公平だが、だからと言って、若い世代にこれ以上負担をかけるのも考えものだ。 少子高齢化社会の弊害といえばそれまでだが、しかし、一方で、大金持ちが増えているとなると、すべてを人口問題のせいにするわけにもいかないだろう。年金崩壊は、来年の総選挙の大きな争点になるはずだ。
・今月13日、巨大ドラッグストア、シュレッカー社が、横領、粉飾倒産などで訴えられた。同社は同族会社で、かつてドイツだけではなくヨーロッパ中に9000の店舗と5万人の従業員を持つ大会社だったが、次第に経営が悪化し、2012年に倒産した。2万5000人の従業員が路頭に迷い、かなりの社会問題になった。 ところが、このファミリーが倒産前に、日本円にして何十億(何百億?)もの資産を、兄弟や子供や孫で山分けにしていたという容疑が固まっている。
・VWの役員たちもそうだが、ドイツのお金持ちのモラルには、どうも日本人には付いていけない激しさがあるようだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48501

第一の記事で、VWの売上は、欧州や中国では順調、全世界での減少幅も縮小、というのは予想外の堅調ぶりだ。リコール費用も「屋台骨を揺るがすほどの規模にはならない見通しになってきた。ただ、予断を許さないのはリコール以外の費用だ」としている。昨日取上げた三菱自動車では、破綻の可能性するあることと比べると、大きな違いだ。23日付け日経新聞によれば、米国当局との顧客補償費など合意を受けて、2015.12期決算に不正問題の対策費用として162億ユーロ(約2兆円)を引き当てたとのことである。罰金や刑事訴追の可能性はまだ残っている。
第二の記事で、VWグループの利益の2/3がアウディとポルシェが稼ぎ出し、低採算のVW本体はほぼドイツに留まり、今後もドイツの雇用を守るとしているようだ。The Economist誌が求めるような「抜本改革」は難しそうだ。
第三の記事では、ドイツでの役員報酬の多さには驚いた。しかも、ボーナスを少し返上しようとの新社長が呼びかけたにも拘らず、「舞台裏での戦いがまだ続いている」には、さらに驚かされた。また、引責辞任した前社長が、契約上の任期が残っていて報酬を受け続けるというのも、空いた口が塞がらない。ひところ欧州の病人と揶揄されたドイツ経済が蘇る契機となった社民党政権による構造改革「アジェンダ2010」が、格差拡大という大きな副作用をもたらしたようだ。社民党はその後、支持率を大幅低下したままという政治的な代償を払ったようだ。「年寄りの貧困問題」は、日本でも問題になっている「下流老人」と、原因などでの相違はあるにせよ、相通じるものもありそうだ。
タグ:競合各社が生産を低賃金国へ移す中、VWはほぼドイツにとどまった 多くの役員はそれを拒否した。結局、すったもんだの末、少なくとも30%は返上しようというところまでは漕ぎ着けたのだが、舞台裏での戦いは続いているらしく、正式な発表はまだない 新社長が現在の会社の状況を鑑みて、ボーナスを少し返上しようと言い出した 報酬を死守したい経営陣とリストラに怯える労働者 刑事訴訟の準備 VW事件にみるドイツの「不都合な真実」~ユーロ圏最悪の格差社会はこうして出来上がった ここでも下流老人が急増中 クリーン・ディーゼル 現代ビジネス 契約は2016年まで続いているので、今年もビッグな年収が保証 (その4)意外と早い?VWの復活。VWの抜本改革は実現しない。ドイツの「不都合な真実」 包括的なリストラ計画を年内に実施することに加え、VWは利益をより重視 前社長 生産設備も全面的に刷新することを想定 日経ビジネスオンライン リコールに要する費用は、巨額ではあるものの、VWの屋台骨を揺るがすほどの規模にはならない見通しに 川口マーン惠美 販売への影響は軽微 VWの抜本改革は実現しない 年金生活者が怒涛のように「貧困層」に陥り始めている 欧州におけるディーゼル車の排ガス規制値が、米国に比べて緩いことが背景 貧富の差は猛烈に拡大 アジェンダ2010 SPDシュレーダー政権(社民党政権)が行った構造改革 ユーロ国の中でドイツほど資産格差が大きい国はない ドイツ帝国の正体 豊かな人がさらに豊かになるシステム 落とすべき脂肪がまだ膨大にあるとみている 排ガス試験不正問題 利益率の低い体質が問題 日経新聞 中国市場で伸ばせるか The Economist誌記事を転載 意外と早い? VWの復活 トヨタとの世界一争いの行方を占う EA189エンジン グループの利益のほぼ2/3は、高級車ブランドのアウディとポルシェが稼いでいる 業界で最も高コストな工場の一つ MQB 主要ブランドのVWは、グループのお荷物 日本や米国は、VWの世界販売台数から見ればマイナーな市場 空気量の測定精度を上げるデバイス 我々はドイツ企業であり、ドイツの雇用を守る VWブランドのドイツ工場 ミュラー氏は、2016年は好スタートを切っており、スキャンダルの影響が長引くことはなさそうだと話す ソフトウエアの書き換え 簡単な対策 VW(フォルクスワーゲン) リコール費用も低い CO2の排出量に関しては不正がなかったことが明らかになった
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