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日本型経営の問題点(その1)「仕事後進国」日本の敗因、日本企業(組織)の劣化 [企業経営]

今日は、日本型経営の問題点(その1)「仕事後進国」日本の敗因、日本企業(組織)の劣化 を取上げよう。

先ずは、マイクロソフト シンガポール シニアマネジャーの岡田兵吾氏が3月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「シャープはなぜアジア企業に屈したか?「仕事後進国」日本の敗因」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽1日の時間は限られている
・時間が増えないなら圧縮すべし! 台湾企業に買収されるシャープをはじめ、日本のビジネスがアジアなどの海外で勝てなくなった背景には、仕事のやり方に関する「後進性」にも原因がある。
・日本人は勤勉で真面目なので、効率よく仕事しているように思いがちだが、筆者から言わせると、日本人は効率的に仕事をするのが苦手だ。 お笑い芸人でありながらIT企業役員を務める厚切りジェイソンが発した言葉「日本はスタート時間に厳しいのにエンド時間にルーズ」は物議を醸したが、筆者も彼の意見には激しく同意せざるを得ない。
・今回は、外国人が実践している効率よく仕事を進める抜本的な心構えを紹介しよう。
・率直に言えば、まずは今の日本で行われている、稟議や確認、承認を取りながら進める意思決定プロセスがいかに無駄かに、気づかなければならない。海外ではとにかく決断が速いために、どんどん業務が流れる。スピードはグローバルビジネスの鉄則なのだ。
・また、スピード化を進める対策として、マネジャー以上にはかなりの意思決定に関する権限が与えられ、会社の体制的にもスピード化を推進しやすいようになっている。
・そう言えば、今月1日のNHK『クローズアップ現代』「シャープ“買収”~日本のもの作りはどこへ~」で、元三洋電機社員が、経営がハイアールに代わってからの違いを、次のように語っていた。 「とにかく、スピードが早い。(以前の会社では)当然 社員がいて主任がいて課長がいて部長。根回しして段階踏んで決裁を取るまでに1ヵ月かかるとか。今は今日言って明日からって感じかな。そのスピードにびっくりしましたね。負けますわ。あのスピード感には。日本メーカー」
・彼が言っていることは大げさではなく、海外の多国籍企業では当たり前のことなのだ。その当たり前のことが日本ではできていないところが大問題なのに、一番の問題はこの問題を深刻に捉えていない日本人マインドなのである。
▽日本は「仕事後進国」? 致命的なトロさに気づくべき
・ちなみに筆者は、デロイトコンサルティング東南アジアにて、シンガポールを基軸にアジア全域の日系企業進出支援を行っていたが、欧米多国籍企業と日系企業では圧倒的なスピード差があり、驚愕したものだ。  たとえば、アジア全域の業務統合の基幹システム(ERP)導入プロジェクト。日系企業は1ヵ国に1年ほどかけて導入していたが、欧米多国籍企業がシステム導入に業務改革も含めて、10ヵ国を10ヵ月で完了してしまったのを見たときには、この違いに唖然としたものだ。
・日本では大規模プロジェクトでは、よく「Go/No-Go Meeting(実施するか否か)」とプロジェクトの実施可否判定を行うが、海外ではこんなものは存在しない。「Go/How Meeting(実施する。じゃあどのように?)」と、プロジェクト達成に向け動く前提で実現方法を模索していく。日本流の「Yes, let me think」(了解。じゃあ、どうするか考えさせてくれ)ではなく、グローバルは「動きながら考える」のが基本スタンスなのだ。
・またつい先日には、「シャープへ出資、最大2000億円減……鴻海打診、機構の3000億円下回る」という記事が報じられたが、意思決定のスピードの遅さが首を絞めた典型例だ。トロトロちんたらし続ける様子は、外国人には理解しがたい「無意味ワールド」だ。結果、シャープは選択肢が狭まり、再生機会を大幅に逃したと言える。
・この例からも読み取れるように、ビジネスにおいてスピードの遅さは致命傷につながる。逆にこのスタンスを速めることができた旧三洋電機・白物家電事業は、15年連続の赤字を黒字転換させることに成功したそうだ。 ビジネスはスピード!遅さは自らの首を絞めることをよくよく肝に銘じ、本気で社内の業務改善に即刻着手すべきだ。
▽コラボ下手を改善せよ! メンバー全員がリーダーシップを
・日本人は世界的に見ても、協業(コラボレーション)がヘタだ。これは日本が得意としている「チームワーク=号令のもと一糸乱れぬ行動をすること」に関してということではなく、人種や価値観の異なる人々と考え方をオープンに話し合って仕事を進める協業が下手だということだ。
・日本社会では、ちょっと質問したり、少し意見を述べるだけで怒られてしまう場合があるので、気軽に「色々なことを聞いても良い人」が限られる。それに比べて外国人は、実にうまく対処する。異なる意見や考えを笑顔で聞いて、お互いに素直に話し合って議論する。また上司にしても、海外では上下関係があまりなく、フラット。友人のようにフランクに接する場合が多い。
・上司の仕事の本分は、上下関係よりも自分のチームに最大限のアウトプットを出させることなので、「How can I help you?(なんか手助けできないか?)」「Any problem?(何か問題あるか?)」と、上司のほうから積極的に気にかけて問題点を聞き出し、部下がより働きやすい環境でアウトプットを出しやすいよう、サポートしているのだ。このような環境下であるからこそ、ガチンコ本音で発言しやすくなり、新しい価値観を生み出しプロジェクトを進めることができる。
・もちろん、反対意見も歓迎される。これは、ディベートテクニックとして相手に反対意見をぶつける「悪魔の代弁者(Devil's Advocate)」という手法を使い慣れていることもある。しかし、日本社会では理論的にディベートテクニックを使うことさえも、「異なる意見=相手の思想を否定=相手が嫌い」と捉えられてしまい、ケンカした小学生のように仲が悪くなってしまう場合もある。
・シャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の下で再建が決まり、東芝の白物家電事業が中国家電大手・美的集団に売却が決まったことを受け、メディアは「白物家電 アジア系企業に屈す」と報じていた。
・日本人の筆者からしても悔しいことだが、日本の「仕事後進国」の改善にこそ着手していかないと、シャープや東芝のようなケースがこれから続いていく懸念を拭い切れない。日本企業がイノベーションを生み出せない一番の大きな弊害は、意見やアイディアが磨かれない環境だ。マイナス評価や意見をすると嫌われてしまう環境では、多くのアイディアの種は埋もれていることだろう。読者諸氏も何度となく、言葉を飲み込んできたはずだ。
・日本の従来型である「1人の絶対的なリーダーがいて全責任を取る」環境にも、問題アリだろう。あらゆる異なる意見を受け入れる環境では、メンバー全員がリーダーシップを発揮する「メンバーのリーダーシップの総和で業務を推進する協業」こそが、新しい価値観を生む。結果として、業務を効率的に効果的に時間短縮し、推進し、インパクトとイノベーションを生み出してゆく。
・とにかく日本にとっては、意見やアイディアの芽を発言しやすい環境へとスイッチを切り替えるための模索が急務であろう。
▽個々人が職人芸で働くのではなく チーム・組織で効率化を図れ
・日本では、なんでもできて、誰よりも長く一所懸命に仕事する人が偉いと思われることが多い。かつて筆者も、日本からシンガポールに渡ったばかりのころ、なんでも1人でこなせるスーパービジネスマンを目指し、1人で仕事を抱えて、こっそりサービス残業の日々を過ごしていた時期がある。
・その経緯は、連載第5回「日本の「残業代ゼロ論争」にモノ申す!(上)」などで詳細を何度か書いたので割愛するが、当時の筆者の「自分でなんでもするスーパービジネスマン」思想が、海外では「仕事ができない思想」になってしまったことがある。
・つまり海外では、他の人を信じて仕事を任せられない人は、「逆に信頼されていない人」と評価される。信頼しないのであれば、結局は誰からも信頼されなくなってしまう。 信用が低いとマネジメント職としては致命傷だ。1人で仕事を抱え、残業三昧を強いられ、「チームはコントロールできず、1人分の仕事しかできない人」と最終的には低い評価を受けてしまうのだ。
・経済大国とはいえ、成熟国として色々な社会問題が顕在化し始めた日本。グローバル化が加速し、国内外で外国人とのコラボが必要となる今だからこそ、日本は個々人が考え方を変え、仕事の仕組み、業務の進め方を変える必要があるのだ。業務内で効率よく仕事を進めるために、今こそ仕事の進め方に関しての考え方を、抜本的に変えてみてはいかがだろうか。
 ●日本はスピードが致命的にトロい
 ●時間は限られている。圧縮化が必要
 ●自分でやったほうが早い!は損している
 ●部下をヒーローにするためのマネジメントをする
・仕事をうまく任せることで、周りの人間が仕事ができるようになる。そうすると、自分は別の仕事をすることができる。このサイクルで、仕事は効率良く回り、プライベートとのバランスも取れるのだ。
▽「パッシング」から「ラッシング」へ 世界が憧れる「仕事先進国」を目指せ
・「Japan Passing」(日本は無視・素通り)と言われて久しい、閉塞感漂う日本を助けてくれるのは、私たち日本人以外いない。私たち一人ひとりが変革していかねばならないのだ。私たち一人ひとりが変わり、元気になり、日本が元気に繁栄のイノベーションを生み出すことができれば、「Japan Rushing」(ジャパンラッシング、日本へ殺到)と言われるようになり、日本は改めて世界から注目されるはずだ。
・日本から閉塞感が1日も早く払拭され、日本がアジア・世界のリーダーとして世界の発展と平和に貢献し、今まで以上に世界から敬愛され、日本人であることを誇りに思い、仕事やプライベートを楽しめる国となることを、心から願っている。  STAY GOLD!!(岩崎の注:輝き続けよう)
http://diamond.jp/articles/-/88467

次に、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏が4月6日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本企業は劣化したのではなく、もともといい加減だった」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽立派だったはずの日本の事業会社が急激に「劣化」している
・かつては経団連会長を出した名門、東芝も不正会計などが明るみに出て世間の評価はガタ落ちだ。
・筆者は、過去も現在も大まかには金融業界の人間なので、1990年代から2000年代前半にかけて、山一證券や日本長期信用銀行が破綻したり、全国の大きな駅前ごとに支店があるような大銀行が、いわゆる不良債権を抱えるだけでなく、それを隠し、しかも、十分に隠し切れもせず、ついには公的資金の注入を受けるに至った「情けなさ」を身近に見てきた。
・しかし、「お金」ばかりを追っている金融業は浮わついた「虚業」だとしても、「ものづくり」を中核とする日本の事業会社は、それなりに「しっかりしている」とされていた。例えば、経済団体(もはやなくてもいい存在だと思うが)のトップは、金融業種から選ばれることはほとんどなく、事業会社のトップが就任して、格の高い勲章をもらうのが常だった。
・しかし、原発に関する安全管理が結局のところできていなかった東京電力も、かつて経団連のトップを出していた企業だ。また、大規模な決算の誤魔化しに「チャレンジ」してそれが露見し評判が地に落ち、生き残りのためにのたうち回っているように見える東芝も、かつては経団連会長を出した「名門」だった(いまだに強制捜査の対象にならないのは「名門」だからなのだろう)。なお、東芝に関しては、先般の東芝メディカルの独禁法逃れとしか言いようのない売却過程も仕事の進め方が「粗末」だった。売るなら、必要な手続きに間に合うタイミングで物事を進める必要があったし、そもそも、東芝メディカルは売るべき対象だったのだろうか。
・電機大手では、三洋電機はその名が消えた。シャープは時間切れギリギリに偶発債務の問題を突かれて鴻海精密工業に買い叩かれた。かつて「技術のソニー」と呼ばれたソニーにも旧日の輝きはない。
・他方、名門メーカーよりも財界的な序列は一枚落ちるが商社もひどい。 財閥系の大手商社、三菱商事と三井物産は、それぞれ今期決算に対して大幅な黒字予想だったものを、3月に入ってから一転して赤字に(三菱商事は連結純利益3000億円の黒字予想を、1500億円の赤字に一回で修正した)。資源関連の投資の減損処理が主な原因だが、投資のリスク管理が十分できていたのか、また、上場企業として情報の出し方が適切だったのか(資源価格の下落は去年の段階で十分わかっている)、その「仕事ぶり」に疑問なしとしない。
・小うるさい繰り言のようで恐縮だが、どうも「立派だ」とされていた日本企業のあちこちで、急激な「劣化」が起こっているように思えてならない。 最近、筆者が個人的に接する範囲でも、満足に挨拶ができない大手広告代理店マンや、上場銘柄のコード番号も知らない大手証券マンなどと会って、彼ら一人ひとりがというよりも、企業全体の劣化が心配になることがある。職場に緊張感が欠けているのではないか。
▽MRJも大型客船も遅延 三菱重工よ、お前もか
・さて、日本企業の劣化をいよいよ心配させる話が、最近、また起こった。 今度は、三菱グループの真の中核企業ともいうべき三菱重工だ。同社をグループの中核と呼ぶことには、銀行も商事も反対はするまい。  同社では、国産初のジェット旅客機であるMRJが試験飛行に成功した明るいニュースがあったが、このMRJも初号機の納入が当初予定よりも1年程度遅れそうな見込みだ。
・そして、同社の祖業である造船事業で、同社が受注・製造した大型客船2隻の製造が順調に進まず、1800億円の特別損失を計上した。受け渡しが遅延した上に、結局受注額の2倍近いコストが掛かったようだ。  同社については、大型客船事業の存廃に関して特別委員会を設けて検討するのと共に、株式や不動産を2000億円程度売却して、損失の財務的な穴埋めをする意向が報じられている。
・もちろん、製造業においては、大型の機器の製造や新製品開発のプロジェクトが予定よりも遅延することがあってもおかしくはないが、兵器も作っているあの三菱重工が、製造現場を十分コントロールできていない様子を見ると、防衛マニアでなくても心配になる。
・企業以外の分野を見るとしても、エンブレムに加えて、競技場の設計で揉めて、果たして工期が間に合うかどうかが心配される新国立競技場の問題を抱える2020年の東京オリンピックを巡るあれこれも、著作権、納期、コスト等、各種のリスク管理に異常を来している感じがする。重要な場面で、「仕事」が、普通に期待される水準を満たしていないという意味で、東京オリンピック関連のドタバタも同類の問題だと思える。
・企業に話を限るとしても、広範な日本企業の「劣化」は、なぜこんなに目に付くようになったのだろうか。  筆者が思いつく原因が2つある。
▽仮説1.もともと「企業は、いい加減」
・一つ目は、我ながら冷静だと思う想像なのだが、「日本企業はもともとひどかったのだが、それが近年、見つかりやすくなっただけではないか」という可能性だ。 ついでに言うと、「日本企業」が特に悪かったり、劣化したりしたわけではないのではないか。そもそも、「企業」というものは、世界的にいい加減なものなのなのだと考えることが妥当なのではないか。
・不良債権問題があり、「飛ばし」などの不正もあったバブル崩壊後の日本企業は、株式持ち合いなどもあり、株主の権利がないがしろにされ、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が十分機能していないのだと批判された。
・しかし、ガバナンスが進んでいたはずのアメリカの企業にあっても、共に意図的な巨大粉飾事件と言うべき、エンロン事件もあればワールドコムの問題があった。また、ネットバブルの時代も、サブプライム問題から金融危機に至る時期も多くの大手金融機関でガバナンスがまともに機能していたとは言い難い。金融業界の「プレーヤー」にとって、顧客もカモだったし、自分が勤める会社の株主(資本家!)もカモだった。合法的だが半分詐欺のようなビジネスが、彼らの高額報酬の裏に存在した。
・その後、日本にもコーポレート・ガバナンスのアメリカ的強化を良しとする「風」が吹いた(企業統治で商売したい人々や、社外取締役の天下り先を作りたい官僚などが自分に都合良く感化されたのが実態だろうが)。委員会設置会社などという大袈裟な仕組みを持つ企業が登場したが、ガバナンス優等生とされた、東芝やソニーがどうなったかは、読者がご存じの通りだ。
・例えば、社外取締役とは、そもそも人事権者(通常は経営者)に都合良く選ばれ、おだてられた素人であり、企業経営のプラスになるような存在ではない場合が多い。しばしば、経営者の報酬アップに賛成するための、応援団員に過ぎない。
・つい張り切って、社外取締役の批判に話が逸れてしまったが、話を元に戻そう。 要は、ビジネスがたまたま順調であるか、実態以上に評判がいい幸運な企業のどちらかでない限り、どんな業種・業態であっても、企業というものは、第三者たる個人が感心するような立派なものではないのが普通だと仮定しよう。
・今まで幸運で立派に見えていた企業の幸運が続かなくなると、企業はあっという間に劣化して見えるようになる。そういうことなのではないだろうか。
▽仮説2.インセンティブの劣化
・しかし、たとえば、あの三菱重工の造船所(長崎)の現場に、仮に労働者の中に不慣れな者や外国人が多いとしても、サボったり、タバコの吸い殻を捨てたりする者がいるような状況を、かつてなら許しただろうか。それらは、「悪い」上に「恥ずかしいことだ」として、職場の地位に関係なく非難する者が現れて、駆逐されていたのではなかろうか。
・また、大手商社にあって、例えば経営企画職の社員や、IR(インベスターズ・リレーションズ)の担当者であっても、資源価格の明白な下落に対して、減損処理発生の可能性を市場(株主と投資家)に伝えるべきだと、自分の職の問題だとしてアクションを起こす者がいなかったのだろうか。経営トップに漫然と判断を任せるだけなら、彼らにさしたる存在価値はない。
・それぞれ直接顔を見たわけではないのだ。仕事に対する「やる気」自体があちこちの現場で低下しているように思える。そのために、仕事として任されたことが、かつてなら「常識だろう」と思うレベルで実行されなくなってしまう事例が頻発しているのではないか。
・こうした「現場のやる気」の低下の原因として、筆者のアタマに思い浮かんだのは、行動経済学では有名な、イスラエルの保育園の「お迎え」を巡る話だ。確か、前に読んだことがあると思い、探したら、iPadの中から見つかった。『その問題、経済学で解決できます。』(ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト著、東洋経済新報社)の中にその話はあった。
・著者のニーズィー教授らが行った実験によると、保育園の「お迎え」に遅刻する親に対して罰金(米ドルで3ドルほど)を課することにしたところ、罰金のない状態よりも遅刻する親が顕著に増えたというのである。  この場合、親たちは遅刻の意味を、「約束を破ることの罪悪感」から「3ドルのコストで償える迷惑の価値」に読み替えた(注:筆者の解釈である)。従って、「私は3ドル払う用意があるのだから、遅刻することは許される選択肢の一つだ」と考えるようになったので、罪悪感なしに遅刻できるようになったのだ。
・著者たちは、罰金の反対側のインセンティブについても実験している。イスラエルの募金の日に慈善目的の募金を集めるに当たり、募金集めに向かう高校生180人を60人ずつ以下の3グループに分けた。
 【グループ1】慈善事業の意義を十分に説いて募金集めに向かわせる。
 【グループ2】グループ1に聞かせた話に加えて、集めた募金額の1%相当の報奨金を個人に払うと約束して募金集めに向かわせる(1%は集めた募金の中からではなく別途払われることが事前にはっきり告げられている)。
 【グループ3】集めた募金額の10%が払われると告げて募金集めに向かわせる。
・グループ1に金銭的なインセンティブはなく、グループ2は募金の意義に加えて募金集めの成果を損なわない金銭インセンティブが1%あり、グループ3は10%とグループ2よりも大きなインセンティブがある。
・結果を見ると、一番お金を集めたのは金銭的なインセンティブがないグループ1で、最もダメだったのは、グループ2だったという。実験結果について、著者は「この話のキモは、お金はたっぷり支払うか、あるいはまったく支払わないかのどちらかでないといけない、ということだ」と書いている。
・仕事の意義を押し付けつつ、仕事の成果によって金銭的な報酬の差を少々つけると焚きつける、日本企業の多くが導入している「成果主義」は、「所詮仕事はカネのためなので、カネ相応に働けばいい」という気分につながって、現場に関わる社員たちのインセンティブを、かえって劣化させているのではないだろうか。
▽一般社員も経営者層も報酬がインセンティブとして機能していない
・ちなみに、日本企業の成果主義は、経営者周辺の社内エリート層と(筆者は「経営茶坊主」と呼んでいる。典型的な部署名は「経営企画部」だ。経営者が本来の機能を果たしていないから、こういう名前の部署が存在するのだろう)、マーケティング上彼らに巧みに取り入った人事コンサルタント会社の作品だが、社員の仕事自体に対するやる気や責任感を、かえって後退させている。
・加えて、近年、経営者層の報酬額が上昇したことで、中間管理職を含む一般社員(正社員の大半)は、会社の責任になるようなことは経営者たちに任せておけばいい、と考えるようになった。「社員の一人一人が、あたかも社長であるかのように会社のことを考える」という熱気は、大半の社員から失せた。むしろ、経営者の報酬に比べて大いに少ない報酬で「我慢」して働いていることを、会社に対する貸しのように思うようになった。
・しかも、名門メーカーや大手商社で2億円台、三菱重工でも1億円台後半といった経営トップの報酬は、本人たちが感じる責任(株主代表訴訟のリスクもある)や、成果の意識(円安が原因であっても取りあえず最高益ではないか、等)や、他社の経営者の報酬との比較の中で、こちらもあくまで「本人たちにとっては」だが、そこそこに頑張ればいい程度の、中途半端な報酬額になっているように見える。 すなわち、一般社員と経営者層と、両方でインセンティブの劣化が起こっている。
・いずれにしても、共にプロフェッショナルの意識を持つ、同僚どうしが、相互いに仕事の質を評価する中で、「恥ずかしいことはできない」と思うような緊張感が、日本企業の仕事の「現場」から、後退しているのではないか。
・前掲書の結論を踏まえると、「お金をたっぷり支払う」ことを現場単位まで導入する資力は日本企業にはなさそうだ。さりとて、報酬が仕事のインセンティブとして大きな意味を持たないような世界で、「仕事」に対するプロフェッショナリズムに基づく緊張感を鍛え直すのも、難しそうだ。
・次善の策としては、せめて経営トップ層が、報酬水準も含めて現場の社員ともっと近づくことだが、彼らは、当面、「ROE(自己資本利益率)」や「ガバナンス(企業統治)改革」を旗印に、お友達の社外取締役を味方につけて、自分たちの報酬水準を上げつつ企業を経営することに忙しい。
・「インセンティブ」は、プラスにもマイナスにも働く「くせ玉」だが、日本企業は、このコントロールに成功していないように思える。最近の「劣化」事例のなにがしかは、この要因で説明できるのではなかろうか。
http://diamond.jp/articles/-/89146

岡田氏は、海外から見た日本企業の仕事ぶりの非効率さを、様々な角度で指摘している。文中から、同氏の「もどかしさ」が溢れて出してくるようだ。ただ、『日本の従来型である「1人の絶対的なリーダーがいて全責任を取る」環境』には違和感を感じた。日本の伝統的スタイルは「おみこし」型で、中堅管理層が実質的にリードしてきた筈だ。
山崎氏の鋭い指摘には感服した。私のこのブログでも三菱重工、東芝、ソニー、シャープ、「東京オリンピックを巡るあれこれ」、なども取上げているが、『重要な場面で、「仕事」が、普通に期待される水準を満たしていない』という日本の組織の「劣化」は確かに目に余る。ただ、その要因として、インセンティブの「コントロールに成功していないように思える」は、一要因に過ぎず、他にも要因が隠れているような気もする。残念ながら、これが何であるかを今のところ思いつかないので、今後、考えていゆきたい。
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