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日中関係(その1)岸田訪中時の王毅外相会談など [外交]

今日は、日中関係(その1)岸田訪中時の王毅外相会談など を取上げよう。

先ずは、5月6日付けダイヤモンド・オンライン「日中関係が改善していると思っているのは日本人だけ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・4月30日、中国・北京で岸田文雄外相が李克強首相、王毅外相らと会談した。国際会議を除いて日本の外相が中国を訪問するのは、2011年以来5年ぶりのこと。一歩前進を期待させる一方で、会談が暗示したのは「楽観は禁物」という脆弱な日中関係だ。
・近年、中国で沸き上がる訪日旅行ブームにより「日中の二国間関係も好転している」と感じた市民や企業人も少なくないだろう。日中関係は改善に向かっているかのようだったが、実は中国当局は内心腹を立てていたのである。
・それが現れたのは、会談中に中国側が示した「4つの希望と要求」である。そのひとつに「二度と中国脅威論をまき散らさないこと」という強めの文言がある。安倍晋三首相が国際会議の場で中国の海洋進出への批判を繰り返してきたことが、中国の癇(かん)に障ったようだ。
▽改善ムードくっきりの2015年
・今年の春節、埼玉県のある友好団体が主催した賀詞交歓会の席で、中国大使館員が述べた言葉は印象的だった。 「2015年を節目に、日中関係は改善の方向に向かっている。複雑な問題が残されているものの、中国には『問題より解決策の方が多い』ということわざがある」――  会場のムードはそんな前向きなスピーチになごんだ。2012年に尖閣諸島を国有化して以降、数年に及んだ「堅い空気」はすっかり取り払われたかのようだった。
・2015年を振り返れば、安倍首相は4月、訪問先のインドネシアで、習近平国家主席と会談した。2014年11月の北京での会談で険しい表情を崩さなかった習氏が一転してにこやかな表情になり、習氏が「中日関係は改善してきた」と述べたことは日本でも話題となった。
・同年5月、自民党の二階俊博総務会長率いる民間人3000人が、北京の人民大会堂を訪れた。夕食会には習氏も出席し演説を行った。「両国人民の友好を子々孫々続けることを心から期待する」とした「習演説」について、日本の外交専門家は「『対日牽制』より『民間交流への期待』の色合いが強い」という解釈を与えていた。
・戦後70年を迎えるにあたって安倍首相が8月に発表した「安倍談話」についても、中国は厳しい批判を見せなかった。続く9月には「抗日戦争勝利70年」の式典が北京で行われたが、この軍事パレードについて中国政府は「特定の国に向けたものではない」と、再三強調した。
・戦勝記念日の連休中、愛国運動の激化を怖れて多くの日本人が上海から退避したが、結局何も起こらなかった。同月、日本政府では安保関連法案が成立したが、これに対する中国外交部報道官のコメントも極めて冷静なものにとどまった。
▽中国の日本企業も「やりづらい」
・確かに日中間には、こうした空気の変化が存在した。だが明けて2016年、日中関係の先行きがかすんでくる。筆者は2月末、上海で何人かの日系企業の管理職と面会したが、意外にも耳にしたのは「日中関係はいいとは思わない」という声だった。
・大手日本メーカーの中国人幹部のひとりは次のように語った。 「日中関係が改善していると思っているのは日本人だけ。現地での企業経営のやりにくさは、2011年の反日デモ以来、大きな変化はありません」
・2015年から転じたといわれる関係改善ムードだったが、中国における企業経営の現場でその実感は乏しい。またその変化を鵜呑みにできるほど中国は日本に対して寛容でもないという。
・前出の幹部は「恐らく南シナ海の問題かもしれない」と手をこまねく。中国では「日本が中国の海洋進出に難癖をつけていることが中国を怒らせた」と語られており、中国の態度硬化の原因は、南シナ海における人工島造成をめぐりアメリカと歩調を合わせて中国を牽制する日本であると、昨年末から憶測が流れていた。
・一方、それが明らかになるのが今年3月の全国人民代表大会(全人代)である。これに合わせて開催された記者会見で、日本の新聞記者が王毅外交部長に対し、「日中関係は実際好転しているのか、改善していないのか」と質問した。
・中国中央テレビの報道によれば、王毅氏は記者会見で次のように述べ、日本政府の二枚舌を批判している。 「日本政府と指導者は、一方で関係改善を叫びながら、一方で中国にとっての厄介ごとを探している。“二つの顔を持つ”ということの典型的な事例だ」 さらに「病根は絶つべき」とし、「関係悪化の病根は日本の政治家の対中認識にある」と主張、「中国は友人なのか敵なのか、日本はこの問題を真剣に考えるべきだ」と語った。
・そして、4月30日に行われた会談では、王毅氏は日本に「4つの希望と要求」を突きつけたのだ。「1つの中国の原則を守れ」 「中国脅威論をまき散らすな」 「中国を対等に扱え」 「中国への対抗心を捨てよ」とする「要求と希望」からは、安倍政権の対中政策への不満が見て取れる。「病根」は安倍首相その人だというわけである。
▽日中関係は「政冷民熱」か
・1978年に日中平和友好条約が締結されると、1980年代を通じて日中関係は「蜜月時代」を迎える。しかし、90年代以降は教科書問題や靖国参拝など歴史をめぐる話が何度も蒸し返され、ナショナリズムに火がつくこともたびたびあった。
・もともと盤石とは言えない日中関係は、これまでの歴史に見るとおりだ。その先も大きな期待はできないと筆者は予測するが、それでも注目すべき変化がある。 それが、前回のコラム(「日本は理想郷」ネオ親日派は中国を変えるか)で述べた“訪日旅行ブーム”である。政治面では関係改善には至らないながらも、中国の民間では“日本ブーム”が到来している。日本の商品やサービスのみならず、産業転換や社会制度に関心を持つ中国人が徐々に増えているのだ。
・言ってみれば日中関係は、政治は冷めているが民間はそれなりに熱いという“政冷民熱”状態にある。依然としてアンバランスな関係には変わりはないし、「楽観は禁物」である。だが、それでも望みがあるとすれば「民の成熟」である。日中関係は世代交代と市民の成熟とともに、異なる展開が生まれてくる可能性がある。
http://diamond.jp/articles/-/90691

次に、より厳しい見方として、元レバノン大使の天木直人氏が5月5日付けの同氏のブログに掲載した「日中関係をぶち壊しただけの岸田外相の外遊だったという事だ」を紹介しよう。
・わが目を疑う記事を見つけた。 きょう5月5日の読売新聞が、ビエンチャン発米川丈士記者の記事として報じた。 ラオスを訪問中の岸田外相は4日、サルムサイ外相と会談し、7月のアセアン外相会議などで南シナ海問題を議題に取り上げるよう要請したという。
・ただでさえ南シナ海問題で板挟みになっているアセアンだ。 そのアセアン会合で、よりによって南シナ海問題を取り上げろと外交干渉したのだ。 外交の常識では考えられない非礼な干渉だ。
・それだけではない。 これを知ったら中国は激怒するだろう。 そう思っていたら、やはりきょう5月5日の朝日新聞が北京発倉重奈苗記者の記事として報じた。 中国外務省の洪磊(こう らい )副報道局長は、5月4日の定例記者会見で、アセアン歴訪中の岸田外相の南シナ海をめぐる発言に、「日本は域外国にもかかわらず執拗にこの問題で存在感を示そうとしている」と名指しで批判したと。 この副報道局長の発言は、時系列的には、岸田・サルムサイ外相会談の前に行われたものと思われる。
・それでも中国は岸田外相の外遊中における南シナ海問題に関する言動を批判している。 もしこの岸田外相のアセアン外相会議への干渉発言を知ったなら、中国の怒りは激しいものになるに違いない。 もはや日中関係は修復不能だ。
・鳴り物入りで始まった岸田外相のゴールデンウィークの外遊は、訪中から始まった。 4年半ぶりの外相会談で日中関係を改善するのが目的と喧伝された。 外遊が終わって見れば、日中関係はさらに悪化した。 日中関係をぶち壊しに外遊に出かけたということだ。 岸田外相と外務省に日本外交を担う資格はない(了)
http://天木直人.com/2016/05/05/post-4484/

ゴールデンウィークを利用した閣僚の外遊は、例年のことではあるが、今回の岸田・王毅両外相会談は、1日付け日経新聞によれば、昼食会と合わせて合計4時間20分、通訳の翻訳時間が半分としても、比較的長時間で、「ヒマつぶしの表敬訪問」とは異なり、実質的な会談であった。王毅外相から「4つの希望と要求」を突き付けられたようだが、事前の事務方の交渉のシナリオに沿ったものだったのではなかろうか。2016になってから、「安倍政権の対中政策への不満」から中国側の姿勢が厳しくなったようだ。記事にある「政冷民熱」、特に「民の成熟」については、中国の体制を考えると、楽観的過ぎる印象を持った。
天木氏が指摘するように、ラオス訪問時に、南シナ海問題を取り上げるよう表立って要請したというのは、やり過ぎで、中国側がますますヘソを曲げるのも理解できる。確かに、中国の南シナ海での行動は目に余るものがあり、それを日本が指摘するのは当然としても、第三国を巻き込んで「中国包囲網」まで作ろうとするのは、要請された第三国を難しい立場に追い込むだけでなく、中国を怒らせるだけだろう。仮にやるとしても、水面下での示唆程度に留めておくべきだったろう。もっと慎重で合理的な外交を期待したいものだ。
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