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ビジット・ジャパン(インバウンド)戦略(その3)行政主導型の不都合な真実、観光政策から姿を消した「おもてなし」、「桜押し」は、ひとりよがり観光戦略の象徴 [経済政策]

ビジット・ジャパン(インバウンド)戦略については、2月25日に取上げた。今日は、(その3)行政主導型の不都合な真実、観光政策から姿を消した「おもてなし」、「桜押し」は、ひとりよがり観光戦略の象徴 である。

先ずは、まちビジネス事業家の木下斉氏が3月25日付け東洋経済オンラインに寄稿した「行政が主導する「日本型◯◯」の不都合な真実 知恵がない人が陥る欧米事例の骨抜き輸入」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・観光庁は全国に100カ所に上る「日本型DMO」を創設を目指している、と報じられました。 え、DMO?なんの話?と思われる方がほとんどと思います。それもそのはず、DMOとは Destination Management/Marketing Organisation の略称で、欧米にある観光事業組織の略称です。
・DMOは、コンベンションなど大型観光企画を営業して誘致し、お客さんが必要とする宿泊や会場やレストランの手配などを提供する組織です。運営資金は、DMOの誘致で得をするホテルや飲食店からの年会費や手数料など。さらに観光に特化した税金をホテルなどから取る特別区を設定したり、観光産業による税収増を期待して自治体が投資する事例もあります。
・これらに一貫しているのは、DMOは「観光で稼ぐための組織」だということです。 しかし、いつのまにか日本では、行政が主導して「日本型DMO」の設立を推進。全国からDMO組織を募集し、国が認定、補助金まで用意する、みたいな話になってしまいました。
・以下の地方創生予算でも、全国から日本型DMOを名目にした予算申請が相次いでいます。
 ●地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型)
 ●地方創生加速化交付金
・しかも、海外組織をモデルとした新たな組織と言いながら、ふたを開けてみたら、多くが地方の観光協会やら自治体、それらが作る形だけ新組織が国に認定を受けて予算をもらうみたいな話になってきており、今までと何が違うのかさえわからない状況です。
・実は、海外にある成功事例を「日本型◯◯(横文字)」として、さも新しいかのように見せつつ、内実は旧来地域組織への補助金事業、ということは、地域政策によくあることです。
▽欧米の仕組みとはまったく異なる仕組みに
・15年ほど前、「日本型TMO (Town Management organization)」という組織が全国地方都市の中心部再生のために導入されることがありました。こちらも当初は、米国のBID、英国のTCMといった欧米事例を日本に導入する話でした。
・BIDやTCMというものは、行政ではなく、都市部の不動産オーナーや店舗オーナーが自ら投資して活性化事業に取り組むものです。民間が資金を出すからには、稼いで元を取ろうと必死になるため、成功事例が生まれる。これらは「都市で稼ぐための組織」なのです。
・しかし日本型TMOは、地方自治体が計画を出して、国が認定、必要な予算を補助金として出すという、欧米の仕組みとはまったく異なる仕組みになりました。結局は、地方の商工会議所と自治体などといった古典的な組織が補助金もらうために、形だけ「TMO」を作りまくりました。そして、補助金を食い散らかした後に、約5年で事実上廃止となりました。
・最近では、高齢者を地方に移住させる日本版CCRCといったものも類似例です。こちらも欧米では民間中心の高齢者向けビジネスなわけですが、日本では地方自治体などが高齢者住宅を作るための補助金、交付金獲得のネタとなってしまいました。
▽日本が誇る高度な「骨抜き」システム
・海外でやっているモデルを日本に輸入する「日本型◯◯」が日本人は大好物。一方で、それらが日本でマトモに機能したものを見たことはありません。 どのように海外の事例が日本に入ってくる過程で骨抜きになるのでしょうか。日本が誇る、海外事例の「骨抜きベルトコンベア」を見ていきましょう。
 (1) 欧米にあって、日本にないものが「問題」となる 欧米事例が大好きな日本。欧米でやっているのに日本では取り組んでいない、というのが、日本が立ち遅れている、問題だ、となる。導入すれば問題解決、と安直に考える。
 (2) 「制度」から議論が開始 欧米においては、民間主導での事業が出発点となり、事業が発展して組織が立ち上がり、最終的に民間組織が政治的に動いて制度化を果たす。しかし、日本では、欧米の「制度」ばかりに注目がいき、日本版制度をどう作るかという話からスタート。制度ありき、組織は制度の道具、事業の話は後回しとなる。
 (3) 行政依存の既存組織の「合意形成」が優先 日本への導入にあたり、業界団体の委員会などで検討がなされる。今までの組織は、既存組織を尊重するような組織制度と補助金の要求を行い、国としても配慮。  (4) 国による「支援」ありきの制度設計 国の委員会などで制度の検討がなされ、補助金のための予算請求もなされる。補助金のために認定制度も作られる。国政、地方政治としても推進。
 (5) 地方組織がコンサルに投げ、日本型◯◯が乱立 自治体や既存業界団体はコンサルに外注し、認定を受けて補助金をもらう事業計画を作らせる。予算のための組織となり、稼ぐことは二の次に。複数の地域で潰し合い。
 (6) 国から予算が出なくなった、用済み。次なる制度を食いに行く  といった、かなり高度な「骨抜きシステム」を日本は備えております。
▽お上に作ってもらうのではなく、自ら作る
・大の大人が「国にルールを作ってもらい、予算を出してもらわないと何もできない」という依存前提の思考をしているかぎり、地方活性化なんてものは程遠いです。
・欧米のモデルは日本で役立つものばかりではありません。まねるのであれば、制度だけとか、組織の名前だけとかではなく、彼らが現在の成果を生み出すまでに費やした数十年のプロセスをまねて現地化しなくてはなりません。DMOも戦後50年以上かけて、BIDも30年以上かけています。一朝一夕に制度だけ作ればパクれるといった話ではないのです。
・地域活性化とは、「稼ぎを作ること」です。観光で稼ぐ、都市で稼ぐ、分野は違っても理屈は同じです。稼ぐために皆で投資して事業を作り、事業に即した組織を作り、事業と組織に即した制度を作る。事業も組織もないのに、拙速に制度だけ作っても意味はありません。ましては自前で稼ぐ事業ではなく、補助金で活動する組織にしてしまうなんてもってのほかです。
・別に国に制度を作ってもらわなくても、補助金がなくても、海外の取組みのエッセンスを理解し、日本で自分なりに取り組むことは十分にできます。かくいう私も学生時代に訪問した米国BIDの現場に刺激を受け、民間が投資して中心部を活性化する会社を熊本や愛知などで作り、さらに共鳴する仲間と各地で奮闘しています。
・欧米における取組みを参考にするのに必要なのは、制度でも予算でもなく、民間が自ら自立心をもって「稼ぐ」ことと向き合う具体的な取り組みにほかなりません。
http://toyokeizai.net/articles/-/110759

次に、元ゴールドマン・サックスアナリストで現在は小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が、4月19日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「おもてなし」が観光政策から姿を消した理由 さらに進化する「アベノミクス最大の成果」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2012年から2015年の3年間に劇的に伸びた経済指標として、インバウンド関連の指標が挙げられる。訪日外国人旅行者数は836万人から約2倍の1974万人に、訪日外国人旅行消費額は1兆846億円から約3倍の3兆4771億円に――観光政策は、「アベノミクス最大の成果」と言っても過言ではないだろう。
・その観光政策が、さらにもう一歩進化したという。何が新しいのか。書籍『新・観光立国論』や、その続編『国宝消滅』などで日本の観光政策に関する提言を続けているイギリス人アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が解説する。
・3月30日、日本の未来に極めて大きな影響を与える画期的な「ビジョン」が示されました。 2020年の訪日外国人観光客数を4000万人、外国人旅行消費額を8兆円。同じく2030年には6000万人で15兆円の消費を目指すという明確な数字と、それを達成するため、赤坂迎賓館や京都迎賓館という公的施設の開放や、文化財や国立公園の活用など10の改革案を、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が提示したのです。
・訪日外国人観光客数2000万人突破が目前となった昨年秋から開催されているこの会議は、安倍晋三首相を議長として菅義偉官房長官が副議長、国交相、財務相、地方創生担当相、経産相などの閣僚から編成されています。そういう意味においては、これは「政府が示したビジョン」と言っても差し支えないでしょう。
・ただ、そう言われても、なぜこれが画期的なのかと首を傾げられる方も多いでしょう。大きな理由は3つあります。 まず、ひとつはようやく「日本のポテンシャルに近い目標」になったということです。
▽理由1目標が「ポテンシャル」に追いついた
・私は拙著『新・観光立国論』(東洋経済新報社)のなかで、日本がもつ自然、文化、気候、食事など幅広い観光資源をふまえれば、現時点の日本の潜在能力でも5600万人は集客可能で、今後も世界の市場拡大を反映し、2030年には8200万まで増加していくと予測しました。
・その関係で、この「構想会議」でも、「有識者」として参加させていただいているのですが、今回の目標が出される前にほかの参加者のみなさんと、「どれくらいの目標が掲げられるのか」を話題にしていました。2020年には3000万人、2030年には4000万人くらいではないかと予想される方が多い中で、私だけが2020年に4000万人、2030年に7000万人という予想を立てていました。
・周囲はアグレッシブな数字だと驚いていましたが、私はかなり現実的な数字だと思っています。年間約3300万人の外国人観光客が訪れるドイツの人口は約8500万人です。同じく約3200万人が訪れるイギリスの人口は約6500万人です。人口約1億2700万人で、自然や文化財に恵まれる日本の目標値が3000万人というのは、いくらなんでもハードルが低過ぎます。
・そのように考えていたところ、安倍首相が掲げた目標は2020年に4000万人、2030年に6000万人。私の予想をやや下回りましたが、極めて実現可能な数字だと思いました。 ご存知のように、霞が関が出してくる目標というのは往々にして保守的なものが多いのですが、今回はそんなことはありません。このような日本の潜在能力を考慮した現実的な目標が設定されたというのは、大きな前進でしょう。 画期的なのはそれだけではありません。それが2番目の理由である「旅行消費額」です。
▽理由2人数だけでなく「消費額」が示された
・これまで政府が出す「観光」に関する目標で、このように明確な消費額の数値目標が示されたことはありません。さらに特筆すべきは、8兆円→15兆円という、観光客数を上回る成長率を目指していることから、「観光客ひとりあたりの単価」を上げていく戦略が読み取れることです。これは中国の中間層・富裕層をこれまで以上に積極的に呼び込むことはもちろん、現時点ではほとんど来日していない、欧州などの遠方からやってくる中間層・富裕層、長期滞在客なども視野に入れていることのあらわれです。
・このような発想の転換も、日本の観光行政が次のフェーズに変化していて、どんどんレベルアップしている証拠です。それが出てきたということは、いよいよ日本という国が「観光で稼ぐ」ことに対して本気になってきたのではないかと大いに期待できるのです。
・明らかにこれまでとは違うことが始まろうとしている――それは「目標」だけではなく、ビジョンを実現するための施策にも顕著にあらわれています。 それが3つ目の理由です。ある意味で、私はこれが一番衝撃を受けました。
▽理由3目標から「おもてなし」の文字が消えた
・「ビジョン」の中にある『「観光先進国」への「3つの視点」と「10の改革」』を見ていただくと、さまざまなことが書いてあります。 これまでは外国人観光客はおろか、日本人ですらあまり立ち入ることができなかった赤坂や京都の迎賓館を大胆に公開・開放したり、自然保護がメインだった「国立公園」を体験・活用型の空間にするなどさまざまな「規制緩和」がなされていますが、そんな中、あることに気づくはずです。
・ここには、数年前から日本の観光ビジョンに必ず盛りこまれていた「ある言葉」がありません。「外国人観光客」を語る文脈では必ずといっていいほど登場していたあの言葉。そう、「おもてなし」です。
・「おもてなし」について、私はかねてから観光の支持要因であっても、決定要因ではないことを指摘させていただいております(参考:「英国人、『おもてなし至上主義』日本に違和感」)。 これまでの著書のなかでも、私は「観光」というのは「多様性」がもっとも大事だと訴えてきました。ひとくちに外国人観光客といっても、国籍も違えば年齢も収入も違う、日本にやってくる目的もバラバラです。同じ人間であっても、2週間も滞在していれば、ずっと同じような観光をしていることもありません。そのような幅広いニーズに応える、細かい施策が必要なのです。
▽日本の魅力は「あるもの」ではなく「磨くもの」
・。 それらは、外国人の多くが、新幹線の清掃チームの手際の良さを表した「7分の奇跡」に象徴される「おもてなし」や、「桜」などの日本の伝統美を好むはずだと考えてつくられた面もあったと思います。
・私はこのような「発信」というのは、外国人のニーズをしっかりと分析をして、その観光資源の魅力を磨いたうえで行うべきだと考えてきました。それはあくまで観光を「ビジネス」としてとらえているからです。
・「明日の日本を支える観光ビジョン」の中にある「文化財を保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」「国立公園を世界水準のナショナルパークへ」という具体的な施策が象徴するように、日本の観光戦略は、資源の魅力を磨いてから発信をするという戦略へと大きく舵を切りました。
・このような発想の大きな転換こそが、「明日の日本を支える観光ビジョン」の意味することなのです。
http://toyokeizai.net/articles/-/113306

第三に、同氏が 4月29日付け同誌に寄稿した「「桜押し」は、ひとりよがり観光戦略の象徴だ アトキンソン氏が考える正しい戦略とは?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「桜は、年に1~2週間しか見られない『希少生物』。それを国の観光PRに多用するのは、考え直したほうがいい。たとえば『コアラ』が年に1~2週間しか人前に姿を現さない動物だとして、オーストラリア政府はこれほどPRしただろうか」 
・外国人向けの観光情報に多用される「桜」。その美しさは認めるものの、「外国人観光客向けの情報発信」として考えると、問題が非常に多いという。 どういうことか。書籍『新・観光立国論』や、その続編『国宝消滅』などで日本の観光政策に関する提言を続けているイギリス人アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が解説する。
・前回、3月30日に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」(案)について、日本が「観光先進国」へ向けて大きな第一歩を踏み出したと高く評価しました。 ですが、まだまだ課題もあります。今回は、「情報発信」について考えてみましょう。
・「観光ビジョン」の中には、「インバウンド観光促進のための多様な魅力の対外発信」という施策があり、これまで以上に海外に日本の魅力を伝えていく姿勢が明確にされています。 具体的には、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアを中心とする富裕層も含めたターゲットに対してストーリー性のある日本の伝統文化を発信したり、日本向けのツアーの造成を促進するなどの取り組みを行うほか、在外公館やNHKの海外向け放送を活用して「日本の魅力」を広く世界に届けていくとしています。
・観光の基本中の基本は、「多様性」です。魅力発信にも「多様性」が極めて重要です。実際、これまでの日本の魅力発信は、もっと多様化する必要があると思います。分析をすると、従来のPRは歴史、文化に偏重しすぎている印象が強いのです。
・拙著『新・観光立国論』でも指摘させていただいていますが、基本的に日本の情報発信は、日本人が考える「外国人というのは、日本のこういうところに興味があるだろう」という想像や、「興味があるに違いない」という根拠が疑わしい思い込みに基づいていることが少なくないのです。
・訪日外国人たちやターゲットとしている国の人々に対して、日本のどのような魅力に惹きつけられるのかという徹底的な市場調査を行うわけでもなく、自分たちが「日本の魅力」と考えているものを一方的に発信する姿は、厳しい言い方をすれば、「ひとりよがり」でさえありました。たとえば、先日調査をしていたある県のHPでは、お国自慢の「果物」の記載しかありませんでした。おいしい果物も魅力的ではありますが、それだけで「訪れてみよう」と思う人は少ないのではないでしょうか。
・この理由のひとつとして、日本のPRは従来、ほぼ「純日本製」だったということが挙げられます。たとえば、英国政府観光庁(Visit Britain)の職員の35%はイギリス人ではないのに対して、日本政府観光局(JNTO)はそこまでではありません。どうしても日本目線になりやすかったのではないかと思います。これも昨年から海外の広告代理店を使うようになったので、大きな進歩だと思います。
▽桜は「ひとりよがり」の象徴
・そんな従来の日本の魅力発信を象徴するものが、「桜」です。 訪日外国人向けのパンフレットやウェブサイトを見ると、必ずと言っていいほど「桜」のデザインがかなりの面積を占めています。 日本政府公式の観光情報が掲載されたJNTOのウェブサイトでも、4月は春ということでしかたがない部分があるとは言え、どこを見ても「桜」だらけでした。
・平城宮跡、天橋立、由布岳、松山城、富岡製糸場などの自然や文化財だけではなく、カップヌードルパークなど幅広い観光スポットが紹介されていますが、その写真はほとんどが、「桜が満開」の風景なのです。日本のトイレについて紹介したコラムにも、なぜかランドセルを背負った小学生が、桜並木で飛び跳ねている写真が使われているほどなのです。
・調査をすると「春」以外の季節でも、PRサイトや広告の中で「桜」が占める面積は、やはり非常に大きいものとなっています。外国人へ向けて「日本の魅力」を発信しようと考えたとき、とにもかくにも「桜」を前面に押し出しています。桜は日本を代表する美のひとつで、私も「桜の美しさ」を否定しているわけではありません。ですがこれには、日本と「桜」では新鮮味がないことを別にしても、3つの問題があると考えています。
▽理由1:桜は「運」に左右されすぎる
・まずひとつ目の大きな理由として、桜は「運に左右される観光資源」だという問題があります。 JNTOのバナーにもあった平城宮跡を例にして説明しましょう。ここには約120本の桜があります。日本気象協会のホームページの開花予想によれば、「4月上旬から中旬」となっています。そのタイミングで現地を訪れた外国人観光客は、JNTOが発信したとおりの美しい日本の風景を見ることができたでしょう。
・しかし、少し前にやってきた観光客はまだ見られませんし、見頃が過ぎた頃にやってきた観光客は、もはや散った後かもしれません。みなさんが海外旅行をすることを考えていただければわかるはずです。異国の地で花が咲くタイミングに合わせて旅行の計画を立てることは、難しいはずです。 つまり、外国人観光客が、JNTOが発信しているような「美しい風景」が見られるかどうかというのは「運任せ」なのです。
・しかたないだろうと思うかもしれませんが、それは「国内の観光客」の発想です。日本人ならば、観光地で桜が咲いていなくとも、「運がない、来年また来よう」ですむ話かもしれませんが、数十万の費用を費やしてやってくる外国人は、そうは思わないでしょう。
・日本人は「桜」が好きな人の比率が非常に高いわけですが、その「桜」をかなり昔から発信しているにもかかわらず、10年前には400万人の観光客しか訪れていなかったことを考えると、日本人からすれば大きな魅力であっても、外国人にとってどこまで魅力的かは不明です。
・運良く「桜」の時期に来日したとしても、いいことばかりではありません。ご存知のように、「桜」の時期は、日本人の見物客であふれており、右も左もわからぬ外国人観光客がガイドブック片手に気軽にやってきて、楽しめるような雰囲気ではありません。場所取り、見物のための大行列、ホテルや宿もいっぱいで、新幹線の席もとれないという状況もあります。「桜」に魅力を一局集中させてしまうことで、このようなマイナス部分にも目が集まってしまうおそれがあるのです。
▽理由2:「桜」の時期以外は美しくないのか?
・「桜」への過度な集中をやめるべきだと考える2番目の理由としては、「誤ったメッセージを伝えるおそれ」があるからです。 ご存知のように、「桜」が観光できる期間は非常に短いです。長くても2週間程度、雨などが降ればわずか数日で散ってしまいます。日本のガイドブックやパンフレットにはいたるところに「桜」の絵や写真があるのに、結局、本物の桜を見ることなく帰国の途につく外国人観光客ばかりというのが現実なのです。
・そんな希少動物のような「桜」を、国をあげてPRするということは、日本というのは1年のうちにわずかな期間だけしか「美しい風景」を見ることができないという情報を発信していることになります。これは裏を返せば、「桜がない時期に日本に来てもおもしろくないですよ」というメッセージを間接的に伝えてしまうおそれがあるのです。
・たとえば、オーストラリア旅行を想像してください。日本人にも人気の渡航先ですが、ここを選んだ理由に、「コアラ」があったという人も多いのではないでしょうか。オーストラリアにいけば、いたるところで「コアラ」は見られます。だから、オーストラリアは国をあげて「コアラ」をPRするのです。
・しかし、もしもこの動物が、1年でわずか1~2週間しか人間の前に現れないような希少動物だとしたらどうでしょう。オーストラリア政府はそれでも「コアラ」をPRしたでしょうか。 私はしないと思います。見られないことが多い観光資源などPRしても、観光客に失礼です。「芸者」のPRはこの類です。一見さんお断りで、外国人観光客はなかなか本物の芸者さんを目にすることができないのに、日本のPRにはかなり登場しています。これは、日本人が誇りに思っていることをPRしているだけで、相手のことを優先していない証なのではないでしょうか。 3つめの理由は、「観光客が偏ってしまう」「対象が狭くなる」ということです。
▽理由3:幅広い魅力発信こそが「観光立国」を支える
・日本政府だけではなく、地方自治体が外国人向けに発信している内容を客観的に分析してみると、やはり日本の文化・歴史、そして「桜」「紅葉」というものが圧倒的に多く見られます。最近の日本航空の海外向けPRを例にとっても、和傘、富士山、浅草寺、お城に桜、着物、寿司です。やはりどうしても、歴史・文化の観光に偏ってしまっている印象です。
・このような発信をすれば、文化や歴史が好きな外国人には響くでしょう。日本の歴史・文化をひと目見たいという人にもいいでしょう。
・しかし、世界の観光客はこのような人ばかりではありませんし、この需要は非常に限られています。たとえば2週間の滞在中に、朝から晩まで文化財をめぐるという人はまずいません。グルメ、ショッピング、スポーツ、アウトドアなど旅行の目的は人それぞれであり、「観光立国」を目指す以上、このような人々へ魅力を伝えることも大事なのです。
・幸い、日本は非常に多様性に富んだ観光資源に恵まれています。ビーチ、スキー、サーフィン、スキューバダイビング、その他スポーツ、山登り、川下り、古道散策、農業、乗馬、植物・動物鑑賞、文化財、文化体験、買い物、食事、酒……。これだけ幅広い魅力があるのに、1~2週間程度しか楽しむことができない「桜」に執着するというのは、どう考えても合理的ではありません。PRに多様性を持たせ、より幅広くアピールして、来日する対象を広げていけば、観光ビジョンの目標である2020年に訪日外国人観光客4000万人も実現できるはずです。
▽魅力をカテゴライズし、統一して発信を
・ただ、これらの多様な魅力を個々がバラバラに叫んでも、海外には届きません。しっかりとカテゴリー分けなどの交通整理をしたうえで、国の統一された情報発信のもとで、海外へと届けていくべきです。
・私の感覚では、観光の種類を7?8種類に集約すべきです。国がそれを定めて、理想的なのはPRサイトや観光客用の資料というソフトを作って各地方へ配布していくことです。そして、各地方が観光の種類の枠組みのなかに、地域性のある独自のコンテンツをどんどん入れていって、地方ごとに多様性を見せつつ海外へと発信していくのが、最も合理的だと思っています。
・どこの地域のPRを見ても、ホームページを利用しても、全体の骨組みが一緒であれば、外国人観光客側もわかりやすく使えます。ばらつきがないので安心感もあります。また、各自治体が独自に動くと、PRが重複したりするという問題も生まれますので、九州や四国などは全体が共同でPRするのもいいでしょう。北海道や沖縄の観光PRが比較的うまくいく理由のひとつは、ひとつのエリアにひとつの自治体しかないことで、このような問題がないからなのです。
・観光ビジョンから「おもてなし」という自己満足的な発想が消えた今、やはり魅力発信も同様のことをしていかなければいけません。
http://toyokeizai.net/articles/-/115828

木下氏の指摘で初めて「日本的」の実態を知り、笑ってしまった。「補助金もらうために、形だけ「TMO」を作りまくりました。そして、補助金を食い散らかした後に、約5年で事実上廃止」、「日本が誇る高度な「骨抜き」システム」は言い得て妙だ。なんと、無駄なことを繰り返しているのだろう。官庁に提案してくるコンサルタントらに金儲けさせるだけだ。
アトキンソン氏は、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」のメンバーになり、彼の意見がかなり取り入れられたらしいこともあって、政府への批判はなくなった。彼がこれまで批判してきた『「おもてなし」や「クールジャパン」など、日本の良さを見つけて、それを世界に発信さえすれば、観光客が訪れてくれるという考え方』は引っ込められたのは、大きな前進だ。外国からの観光客に、「桜押し」するのは、確かに「ひとりよがり」の情報発信だ。「魅力をカテゴライズし、統一して発信を」も、その通りだ。アトキンソン氏流の観光戦略が実を結ぶことを期待したい。
他方で、バス不足、宿泊場所の不足など多くのボトルネックの深刻化も懸念されている。これにより「二度と日本へは行きたくない」思い出を残してしまえば、取り返しがつかないことになる。こうした問題は後日、取上げたいと思う。
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