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東芝不正会計問題(その20)株主総会の模様、公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」 [企業経営]

東芝不正会計問題については、5月7日に取上げた。今日は、(その20)株主総会の模様、公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」 である。

先ずは、突撃取材で有名な大西記者が6月23日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「室町社長、渾身の会社防衛 シナリオ通りに進んだ東芝株主総会」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・6月22日。今日は東芝の株主総会である。どんよりした空の下、両国国技館を目指して黙々と歩く株主さんたち。道案内の看板に目をやると、今年もやはり、お土産、お弁当は「なし」。「うるさい人達には来てほしくない」という気持ちの表れか。 すると株主の流れに混ざってとぼとぼ歩くシニア記者の方をぽんっと叩く者あり。
▽応援、ありがとうございます!
・「あれ、あなた大西さん?」 全く存じ上げない初老の男性である。 「はあ、大西ですが」 「やっぱり、そのメガネ。いつも読んでますよ。今日もあれですか?」 「あれ」とは、「突撃!」のことだろうか。 「ええ、まあ」  「そうか、そうか。そいつは楽しみだ。また鋭いやつを期待していますよ」 「あ、ありがとうございます!」
・一気にテンションが上がるシニア記者である。日経ビジネスオンラインの読者の皆さんは、ちゃんと読んでくれている。ジャーナリストにとっては百万の味方を得た思い。ええ、やりますとも。立派に突撃してご覧にいれましょう。
・勇気百倍で国技館に近づくと、何やらチラシを配っている人たちがいる。スーツ姿で見るからにインテリっぽい人たちなので、特売セールではなさそうだ。チラシの表紙にはこう書いてあった。 東芝事件株主弁護団 東芝の不正会計事件に関心のある方へ 東芝に正しい経営をして欲しいと願う方へ 東芝の不正会計事件は、様々な角度から考える必要があると思うのです。 「東芝 弁護団」で検索してください。 全部、ワシに当てはまるではないか。あとで検索してみよう。 忙しそうにチラシを配る若者の背後から近づいて、聞いてみた。  「今の時点で、集団訴訟に加わった株主は何人ですか」
▽「1000人を目指しています」
・彼らは優しく教えてくれた。 「380人くらいです。とりあえず1000人を目指しています。集団訴訟としてはライブドア事件以来の規模になりますよ」 なるほど、闘っているのはワシだけではない。東芝不正会計を「このまま、うやむやにしてはいけない」と思っている人は世の中に大勢いるのだ。ますます勇気が湧いたシニア記者である。
・定刻の午前10時、室町正志社長の挨拶で東芝の第177期定時株主総会が始まった。 昨年7月に社長に就任してから1年足らず。室町氏にとってはこれが社長として最後の仕事だが、話しぶりはいつもと全く変わらない。淡々と前期の業績を報告し、力を入れてきたガバナンス改革の説明をした。 取締役の人数を16人から11人に減らし、過半数を独立社外取締役にする。取締役会議長も社外にする。7つあった社内カンパニーを4つに集約する。
・なるほど形の上では随分、改革が進みましたな。しかし、そもそも東芝は不正会計が発覚する前から「日本で最も先進的なガバナンス制度を導入した会社」と賞賛されていた。形ばかりをいくら整えても、魂が入らなければ意味がない、というのは自ら証明したところである。
・株主の皆さんも同じことをお考えのようである。最初の質問者は室町社長にこう問いかけた。 「私、東芝で長年、経理をやっておった者です。松下幸之助さんは不祥事があった時、『ノーと言える経理になれ』と説いたそうです。経理が社長のいいなりではダメです。もう一つ大切なのは経営者の力。京セラに売却された東芝のケミカル部門は稲盛和夫さんの指導で黒字になったと言います。東芝は制度ばかり変えていますが、稲盛さんみたいな人を入れたらいいんじゃないですか」 そう。仏を掘っても魂が入らねば意味がありません。これに対して室町社長はこうおっしゃる。 「経理財務の独立性を高めるため、CFOの任免権を社長から指名委員会に移しました」 やっぱり制度の話である。 中盤に登場したのは、おそらく現役の女性社員
▽「パワハラ、セクハラは今も続く」
・「改革をしたとおっしゃいますが、パワハラ、セクハラは今も続いています。上司は部下に『何も考えるな、指示に従え』と命じています。在庫管理システムについても10年前から…」 「質問は簡潔にお願いします」と質問を遮る室町社長。 「はい、在庫管理システムについては10年以上前から現場が『おかしい』と言っているのに課長やその上の人が『変える必要はない』と…」  「簡潔にお願いします」 再び質問を遮り、回答する室町社長。 「内部通報制度は十分、充実させております」 またしても制度である。
・杓子定規な室町社長の返答ぶりに苛立った株主が立ち上がった。 「さっきから聞いてれば『ご意見賜ります』ばかりで、ちっとも質問に答えていないじゃないか。株主の皆さん、馬鹿にされてるんですよ。私はね、ウエスチングハウスの買収から不正会計が始まったと考えている」 「御質問は簡潔に」 「ウエスチングハウスの減損を隠蔽した話が日経ビジネスに出た時も、株主の質問は無視された。第三者委員会の調査もウエスチングハウスは対象外に…」  質問はここで途切れた。おそらくマイクを奪われたのだろう。それでも会場からは何やら叫ぶ声が聞こえるが、モニター越しでは聞き取れない。 「お静かに願います」と釘を刺した上で、室町社長が回答する。 「ウエスチングハウスから不正が始まったという認識はしておりません。減損の開示が遅れたことについては反省しており、今後開示姿勢を強化するために広報・IR部門を社長直轄にいたしました」
▽室町社長は何を守ったのか
・どこまでいっても制度の話。見事である。 人間として、言いたいこともあっただろう。その気持ちを押し殺し、社長という機関に徹した1年間。個人的には、その先に明るい未来があるわけでもないのに、室町社長は最後まで組織を守り続けた。 その鋼の意思はどこから生まれたのだろう。個を殺し組織の一員に徹するその生き様は、ある意味、サラリーマンの鑑である。 だが、あなたはそれで幸せなのか。インタビューが叶うのなら、室町社長に聞きたいのは、それだけである。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/280248/062200025/?P=1

次に、7月1日付け東洋経済オンライン「公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」の全容 東芝メディ買収に暗雲、富士フイルムは憤慨」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「グレーだがクロではない。ただし同じことをする会社が今後現れたら『クロである』と考える」――。6月30日、公正取引委員会が、経団連会長輩出会社キヤノンに対して、「異例」ともいえる「注意」を行った。
▽制度の趣旨を逸脱し、規定違反のおそれがある
・キヤノンは、東芝の医療器機子会社・東芝メディカルシステムズ(TMSC)の買収を3月に発表。買収スキームは、SPC(特別目的会社)や種類株・新株予約権を用いた複雑なものだった。 その買収スキームに対し公取は、独占禁止法が定める「事前届出制度の趣旨を逸脱し、独禁法第10条2項の規定に違反する行為につながるおそれがある」と、キヤノンに文書で注意をした。
・これを受けて、キヤノンは公式コメントを即日公表。「(公取の注意を)真摯に受け止め、今後とも法令を遵守し、透明性の高い経営に取り組む」と簡潔に述べた。 文書による注意で済んだということは「軽い」ことに見えるかもしれないが、公取が注意をするのも、注意したことを公表するのも、今回のケースが初めて。グレーだがクロ認定ではないので、罰金刑などの刑罰は科されない。なお、複雑なスキームの実行に関与した東芝にも、公取は「事前届出制度の趣旨を逸脱するような行為に関与しないように」口頭で注意したという。
・キヤノンによるTMSC買収そのものについては、「競争を実質的に制限することにはならないので排除措置命令を行わない」として、同日、審査終了を宣言している。 いったい、何が問題になったのだろうか。 スキームの内容は明らかにされていないのだが、TMSCの法人等登記謄本や東芝とキヤノンの臨時報告書をつきあわせると、全貌が見えてくる。
・東芝は巨額赤字で債務超過転落の危機にあり、3月末までにTMSC株の売却益を計上したい。一方のキヤノンは成長事業の獲得のために、TMSCを買収し完全子会社化したい――両社の要求を実現するために、法律の専門家など複数関係者が考案したのが、以下の複雑な買収スキームだ。
▽公取が注意した複雑な買収スキーム
・第1段階(3月9日):入札の結果、キヤノンがTMSC買収の独占交渉権を東芝から得る。これに先だって、MSホールディング(以下MSH)を同8日に設立。
・第2段階(3月15日):TMSCの普通株(1億3498万0060株)をすべてC種類株に変更。
・第3段階(3月16日):TMSCは議決権のあるA種類株20株、議決権のないB種類株1株、新株予約権100個を発行し東芝に交付。それらと引き替えに東芝はC種類株をすべてTMSCに譲渡。 ここまでが準備段階である。翌日に現在の状態に移行した。
・第4段階(3月17日):東芝がTMSCの売却を発表。B種類株1株と新株予約権を6655億円でキヤノンに譲渡。同時に、A種類株20株を9万8600円でMSHに譲渡。これらにより、TMSCの議決権は東芝から離れてすべてMSHに移行した。
・日本をはじめとした競争法の審査がすべて終わることが、新株予約権の権利行使の条件となっている。  審査がすべて終わると、TMSCはMSHからA種類株20株を3600万円で、B種類株1株を4930円で買い取ることになっている。A・B種類株はTMSCにとって自己株なので、議決権を持たなくなる。 そのうえで、キヤノンが新株予約権100個をすべて行使し、TMSCを完全子会社化する――これが図の第5段階である最終形だ。
・焦点となったのは、MSHのキヤノンからの独立性である。 MSHは売上高ゼロなので、独禁法上の審査(クリアランス)をせずにTMSCを完全子会社化できる。これにより東芝は売却益を3月末までに計上できる。
・しかし、MSHにキヤノンからの「独立性」がなければ、キヤノンには医療機器部門の売上高が200億円以上あるので、キヤノンがクリアランスを申請しなければならない。そしてキヤノンがクリアランスを関係国すべてで終了するまで、東芝は本来の目的である売却益の計上ができない。 独立性とは何か。 独立性とは、TMSCの親会社であるMSHが、他社の指図を受けずにTMSCの役員を代えたり、TMSCを他社と合併させたりすることができるということだ。
・これらの重要な判断に、キヤノンが口をはさめる状況にあるならば、MSHには独立性がないということになる。口をはさめる状況にあるかどうかの判断は、文書などの証拠がなくても、口約束による密約、金銭の貸借関係が認められれば、成立しうるという。
▽申請の取り下げ・再申請を繰り返したキヤノン
・キヤノンは、上記の理由とは別に、最終的には新株予約権を発動してTMSCを完全子会社化するつもりなので、4月中旬に、公取に申請していた。 30日の審査期限が来るたびに、5月中旬、6月中旬と「クリア&リファイル(申請の取り下げ・再申請)」を繰り返し、今回の審査終了となった。 クリア&リファイルは、審査を長引かせないために一般的に取られる手段である。1次審査の期限が過ぎると、自動的に2次審査に移行する。すると、追加で提出する資料が増えるほか、パブリックコメントを取ることになり、結果として審査期間が長くなる。それを回避するために、1次審査の状態でとどまろうとするのがクリア&リファイルだ。
・公取がグレーだと指摘したのは、要するに最終的にはキヤノンが買収するつもりなのに、途中にSPCを挟んで申請義務を一時的に回避した点だ。
・一方で今回、クロだとしなかったのはなぜか。 それは、キヤノンとTMSCの明確な結合関係(すなわち親子関係)が認定できなかったこと、今回は初のケースであり、明確なルールがなかったことの2点を、公正取引委員会の品川武・企業結合課長は挙げている。 今後同様のスキームが出たらクロだと明言したのは、「すでにキヤノンと同様のことがしたい、という問い合わせが企業からあるからだ」とも述べた。
▽ライバル・富士フイルムは口惜しさひとしお
・TMSCの入札で残り、最後はキヤノンに敗れた富士フイルムホールディングスも、以下のコメントを即日発表した。 「この買収にフェアな姿勢で臨んだ我々にとって、アンフェアな競争であった。これが許されるなら、競争法が形骸化する。(中略)これが悪しき前例となり、日本国内で競争法の手続きを無視した、海外企業を含む企業買収が行われることが懸念される。このようなスキームを、今後は認めないが今回は認めるということであれば、なぜ今回は認めるのか明確に説明されることを望む」
・富士フイルムの古森重隆CEOは、かつて東洋経済の取材に対して、「クリアランスが通らず、東芝とキヤノンのディールがなくなったとき、富士フイルムが買いに出る選択肢はあるのか」との問いに「それはウエルカムだ」と明言していた。それだけに、今回のグレー判定に口惜しさはひとしおだ。
・ただ、今回の公取の判定が最終判断というわけでもない。今回は「密約が認められなかったとはいえ、今後証拠が出てくればクロに覆る」と品川氏は説明する。しかも、他の国での審査はこれから。海外の判断次第では、まだキヤノンは「一安心」とはいかないのである。
http://toyokeizai.net/articles/-/125299

株主総会での室町社長対応について、大西記者が『個を殺し組織の一員に徹するその生き様は、ある意味、サラリーマンの鑑』、としているのはその通りだ。ただ、ウエスチングハウスの減損隠蔽問題がシナリオ通りに闇に葬られたのは残念だ。
キヤノン「灰色買収」問題は、このブログの5月7日でも取上げたが、結局、公取はクロ認定を回避した。恐らく、債務超過を何としてでも回避したい東芝の必死の政治力が効いたのだろう。SPCと種類株・新株予約権を駆使したスキームには、相当巨額の弁護士報酬が支払われたと思われる。それにしても、公取が明らかに法律の趣旨を逸脱する脱法行為を形式論だけで、今回に限ってグレーとし、今後は許さないと逃げるとは、「独禁法の番人」も形骸化したものだ。富士フイルムが悔しがるのは当然だ。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:東芝 不正会計問題 (その20)株主総会の模様、公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」 日経ビジネスオンライン 室町社長、渾身の会社防衛 シナリオ通りに進んだ東芝株主総会 東芝事件株主弁護団 集団訴訟 室町正志社長 株主総会 形ばかりをいくら整えても、魂が入らなければ意味がない、というのは自ら証明したところ パワハラ、セクハラは今も続く ウエスチングハウスの減損を隠蔽 どこまでいっても制度の話。見事である 社長という機関に徹した1年間 室町社長は最後まで組織を守り続けた 個を殺し組織の一員に徹するその生き様は、ある意味、サラリーマンの鑑である 東洋経済オンライン 公取が"注意"したキヤノン「灰色買収」の全容 東芝メディ買収に暗雲、富士フイルムは憤慨 グレーだがクロではない。ただし同じことをする会社が今後現れたら『クロである』と考える 公正取引委員会 キヤノンに対して、「異例」ともいえる「注意」 制度の趣旨を逸脱し、規定違反のおそれがある 東芝メディカルシステムズ(TMSC)の買収 買収スキームは、SPC(特別目的会社)や種類株・新株予約権を用いた複雑なものだった 債務超過転落の危機 3月末までにTMSC株の売却益を計上したい 焦点となったのは、MSHのキヤノンからの独立性 申請の取り下げ・再申請を繰り返したキヤノン クリア&リファイル クリア&リファイルは、審査を長引かせないために一般的に取られる手段 クロだとしなかったのはなぜか。 それは、キヤノンとTMSCの明確な結合関係(すなわち親子関係)が認定できなかったこと、今回は初のケースであり、明確なルールがなかったことの2点 ライバル・富士フイルムは口惜しさひとしお
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