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半導体産業(その1)”にわか有機ELブーム”をどうみるか [科学技術]

今日は、半導体産業(その1)”にわか有機ELブーム”をどうみるか を取上げよう。

先ずは、3月11日付け日経ビジネスオンライン「有機ELに「iPhoneバブル」?需要は未知数、繰り返されてきた肩透かし」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・いま、ディスプレー業界のもっぱらの話題と言えば、有機EL。 米アップルがiPhoneに採用する見通しが明らかになってから、関連市場はバブルの様相を呈している。
・韓国サムスン電子やLGディスプレーは新工場の立ち上げや増産投資を加速、日本でも、ジャパンディスプレイ(JDL)が「今後最も力を入れていく事業」と位置付けているほか、話題の鴻海(ホンハイ)精密工業もシャープの技術を活かし有機ELパネル市場に参入する計画だ。政府の資金援助で液晶パネル工場を立てまくっていた中国メーカーも、建設中の工場設備の一部を有機EL用に変えることを検討していると言う。住友化学や出光興産などの素材メーカーも、関連する部材の増産体制を整えている。猫も杓子も、有機ELだ。
▽アップルは前倒し採用の動きも
・アップル側から正式な発表はないものの、同社が有機ELを採用する方針であることはほぼ間違いない。ディスプレーや装置、材料メーカーには、2015年夏頃からその意向を伝えていた。 足元では、有機ELの採用時期を前倒ししようとする動きもある。当初は2018年に発売するモデルに採用予定だったが、「1年早く供給できないか」と関連メーカー各社に話をしているという。iPhone販売台数の伸び率が鈍化するなか、一部機種限定ではあるが早期に有機ELモデルを発売し、勢いを取り戻す起爆剤にしたいと考えているようだ。
・有機ELは、電圧をかけると自ら発光する材料を回路基板に付着させて画像を映し出す。バックライトが不要なため液晶より薄くできたり、曲面加工ができたりするなどの利点がある。
・1990年頃から「液晶の次」と期待されてきた有機EL。しかし、その歴史は参入と撤退の繰り返しだった。1990年代後半には出光興産やパイオニアなどの日本メーカーが有機ELのディスプレーを試作。デジタルカメラや携帯電話にも採用されたほか、ソニーや東芝など大手電機メーカーもタブレットや業務用モニターに有機ELを採用した。その度に「有機ELの時代がやってきた」とバブルに沸いたが、結局、良品率の悪さやコスト面、需要低迷などに頭を抱え、すぐに開発凍結、撤退する結末に終わった。現状はサムスンが自社のスマホに、LG電子が大型テレビ、スマートウオッチ向けに量産しているのみだ。
・早ければ2017年にも市場に登場すると見られる有機EL採用のiPhone。世界スマホ販売台数の2割弱のシェアを占めるアップルが有機ELを採用するとなれば、関連市場が一斉に動き出すのもうなずける。 「出る出る詐欺」と揶揄され続け20年強。現在の有機ELバブルは、ようやくビジネスチャンス到来と盛り上がっているようにも見える。 だが、関連業界の本音は少し異なるようだ。
▽スマホではまだ生かせぬ優位性
・皆、恐る恐る投資をしている状況です」 パネル関連の製造装置を手掛けるメーカー幹部はこう明かす。  最大の理由は、有機ELを採用したスマホの需要が未知数なことだ。 有機ELの特徴としてしばしば、発色の良さやコントラストの高さがあげられる。確かにLG電子が発売している大型の有機ELテレビを見ると、その特徴はよく分かる。しかし、手に収まるサイズのスマホの画面で、こうした発色の良さやコントラストの高さを求める消費者がどれだけいるかは分からない。記者はiPhone6sを使用しているが、現在の液晶のままでも十分表示画面はキレイだと感じる。
・曲面加工ができる点も有機ELの特徴とされる。しかし、これもスマホ向けではあまり需要はなさそうだ。昨年サムスンが発売した「ギャラクシーS6 エッジ」は、両端を曲面に加工し丸みを持たせた筐体だったが、市場の反応はいまいち。一部では、「持っているときに間違って触れてしまい文字入力やタップなどがしにくい」との声もある。
・有機ELなら折り畳めるような形状のスマホも可能と言われているが、「実現は不可能に近い」(パネルメーカーの開発部門担当者)と言う。スマホで使用するならば、何千回もの折り畳み動作に耐える必要があるが、折りたたみ箇所の信頼性確保のハードルが相当高いと言う。「特殊な材料などが開発されない限り、10年たっても実現できないのでは」(同)と冷静に見る声は少なくない。
・現状有機ELのメリットは、バックライトが不要なため筐体を薄くできること。これにより容量の大きいバッテリーを搭載することが可能になり、電池寿命を延ばすことができる。 あえてもう一つ挙げるとすれば、「これまでのパネルとは違うものを使っていますよ」と打ち出しやすいことだろう。アップルが有機EL採用に動くのも、この点が大きい。頭打ちのiPhone販売のテコ入れ策として、「有機EL採用」という新味を消費者に打ち出したいと考えている。
▽またしても肩透かし?
・液晶に比べ生産コストがかかってしまうため、有機ELスマホは液晶スマホに比べ価格が高くなる可能性は大きい。しかし、成熟し始めたスマホ市場の中で今後需要拡大が見込まれる分野は、中低価格モデル。新興国で高価格の有機EL採用のiPhoneが売れるとは考えにくい。
・「結局液晶に比べメリットが少ないと言う理由で、一部機種の採用に留まり続けるのではと不安に思っているメーカーは多い」(前出のパネルメーカー開発担当者)。とはいえ、各社はアップルが「採用する」と言った手前、開発に前向きな姿勢を見せなくてはならない。「液晶=古い」「有機EL=新しい」と言うイメージが定着してしまったことで、「液晶関連の投資だとお金を借りられないが、有機ELだと借りられるし市場の反応も良い」(同)といった事情もあるようだ。
・バブルに沸く一方で、結局のところ、「いつもの瞬間風速的なものになるのでは」との不安は拭い去れていない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/031000185/?P=1

次に、早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏が6月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「にわか有機ELブーム」に飛びつく電機各社の浅慮」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「にわか有機ELブーム」に飛びつく電機各社の皮算用
・液晶ディスプレイの次世代新技術「有機EL」(有機エレクトロルミネッセンス)という言葉を耳にしたことがあ、「いつもの瞬間風速的なものになるのでは」との不安は拭い去れていない。
る人は多いだろう。海外ではOLEDと呼ばれる。有機(オーガニック)の「O」に発光ダイオードの「LED」、つまり有機素材を用いたLEDということだ。
・液晶パネルは、パネルそのものが発光しているのではなく、液晶は光を通す、通さないをコントロールしているので、液晶パネルの背後には光源となるバックライトがあり、前面には色をつけるためのカラーフィルターが存在している。一方、有機ELは有機素材に電圧をかけると自発光(素材そのものが光る)するので、バックライトやカラーフィルターなどの余計な部材が必要なく、部品点数を減らすことでコストダウンが容易になるというポテンシャルがある。 また、自発光する有機素材は印刷に近い技術で基盤に塗布することができるので、薄型化やフレキシブル化が容易とも言われている。
・2000年代半ばには有機ELが次世代テレビの本命として、韓国サムスン電子とLG電子が試作機を発表して話題となっていたが、その後一時沈静化していた。サムスン電子は同社のハイエンドスマートフォンに有機ELを採用してきた程度で、大きくクローズアップされることもなかったが、昨秋アップルが次世代iPhoneに有機ELを採用すると発表してから、にわかに業界を騒がせている。
・iPhone生産を手がける鴻海精密工業もシャープと一緒に有機ELを開発すると息巻き、日本の液晶パネルメーカーのジャパンディスプレイ(JDI)や中国メーカーも、こぞって有機ELに参入するという。
・しかし、有機ELにはいくつものハードルがある。また、それを越えても今までにない素晴らしい世界がメーカーにも消費者にも訪れるのかと言えば、筆者にはどうもそうではないように思える。今回は、電機各社がにわかに熱い視線を送り始めた有機ELの将来性について、分析してみよう。
・液晶パネルと比較したときの有機ELの課題の1つは、価格であった。確立された技術である液晶に比べて歩留まりが悪く、低価格化のポテンシャルがあると言われながらも、これまではパネルの価格が高かった。しかし、各種報道によると、ここに来て業界トップのサムスン電子が、液晶パネルと遜色のない価格で有機ELパネルを供給できるようになったと言われており、それがアップルに採用されてさらに弾みがつくとも言われている。
▽参入してもおいしくない? 有機ELの「泣きどころ」とは
・ただ、これで有機ELの普及には何のハードルもなくなり、液晶パネルは駆逐されていくのかというと、それほど簡単な話ではない。 まず、技術的な問題として、有機素材を使っているが故に熱に弱く、高温多湿の環境では使いにくい。たとえば、最近は自動車のメーターパネルに液晶ディスプレイの採用が進んでいるが、真夏に高温になる車内に有機ELを採用することはできないだろう。また、寿命に関しても液晶より良いとは言えないとも言われる。応用できる製品の範囲という意味で、まだまだ液晶の方に分がありそうだ。
・それだけではない。液晶パネルは数インチの小型サイズから100インチ超の大型テレビまで大画面化が可能になっているが、有機ELはテレビに使えるような大型サイズについてはまだまだ生産が安定していない。日本で初めて有機ELテレビを発売したソニーは、現在でも20インチ台の業務用ディスプレイにしか応用できておらず、先行する韓国2メーカーも大型有機ELテレビを販売しているものの、主力は依然液晶のままである。
・よって、現在応用できる有機EL製品はスマートフォンくらいしかなく、電機メーカーにとってテレビなどに使用するその他の薄型ディスプレイを同時に手がけるとなると、技術も設備も二重投資をしなければならない。
・しかも、液晶や有機ELには化学素材が多く使われていて、電機メーカーだけでなく、化学メーカーの協力も不可欠であるが、液晶パネルと異なり化学製品の部品点数が少ない有機ELは、化学メーカーにとって必ずしも儲かるビジネスではない。有機EL原料にしても、化学メーカーが生産する様々な化学素材の生産量に比べて、仮に世界中のテレビが有機ELに置き換わったとしても、大したビジネス規模にはならないという。
・現在の「有機ELブーム」は、昨秋アップルがiPhoneへの採用を発表したことから起きているが、アップル自体が減収減益でiPhoneの減産も伝えられているなか、iPhone需要だけで(あるいは高価格帯スマートフォン市場だけで)、莫大な投資をするほどの価値が有機ELにあるのかは疑問が残る。何よりも、有機ELのメリットがそれほどスマートフォン市場拡大の起爆剤になるとは思えない。
・日本でも販売されているサムスン電子の「Galaxy S」シリーズには、長く同社の有機ELパネルが採用されているが、同社は日本市場で苦戦を強いられている。おそらく、店頭でGalaxyの有機ELパネルと他社スマートフォンの液晶パネルを見比べても、ほとんどの消費者はその差に気がついていないのではないだろうか。もし有機ELが差別化技術としてキラーコンテンツになるのであれば、もっとサムスンの日本国内シェアが高くなっていてもおかしくない。
・過去を振り返ると、そもそもPowerPC(アップルとIBMが共同開発したCPU)を採用した頃のマックのように、アップルが特定の要素技術をウリにしようとしたときは、アップルがアップルらしくなくなるタイミングでもあった。アップルのすごさは、誰もが思いつかなかったような新しいライフスタイルを提案する商品構想力にあるのであって、アップル製品の技術的な機能や性能が前の機種より良くなったから売れる、ということではなかったはずだ。
・しかも、有機ELはアップルが技術的に優位性を持っているわけでもない。もし、スティーブ・ジョブズが生きていたら、「iPhoneに有機ELを採用する」などと言っただろうか。それよりも、iPhoneという概念をそろそろぶち壊すようなアイデアを構想していたのではないだろうか。
▽バブルは所詮バブルでしかない 相手の土俵に乗らないのも戦略
・自身に有機ELの優位性がないのは、日本のパネルメーカーや家電メーカーにしても同じことである。外部環境を見たときにサムスンという先行者がいて、内部資源を見たときに有機ELの分野で先行メーカーより技術的に優れた資源を持っているわけでもない状態で、ライバルの土俵である市場に入っていくべきではないというのは、経営学の「イロハのイ」である。
・もちろん、世界中のメーカーが有機ELを志向し、参入メーカーが増えるなかで技術革新が起き、市場が嫌でも有機ELに傾くということも、ないわけではないだろう。しかし、そうなる可能性よりも「バブルは所詮バブルでしかない」可能性が高いのではないかと筆者は見ている。有機ELブームも、一過性のものに終わってしまうのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/92230

日経ビジネスオンラインは、有機ELの『歴史は参入と撤退の繰り返しだった』、『「出る出る詐欺」と揶揄され続け20年強』、『「いつもの瞬間風速的なものになるのでは」との不安は拭い去れていない』、と指摘、警戒的トーンだ。
長内厚氏の記事は、さらにより技術的な側面も入れて、有機ELの「泣きどころ」を、『熱に弱い』、『大型化にネック』、『現在応用できる有機EL製品はスマートフォンくらいしかなく、電機メーカーにとってテレビなどに使用するその他の薄型ディスプレイを同時に手がけるとなると、技術も設備も二重投資をしなければならない』、『化学製品の部品点数が少ない有機ELは、化学メーカーにとって必ずしも儲かるビジネスではない』、と指摘。さらに、『アップルのすごさは、誰もが思いつかなかったような新しいライフスタイルを提案する商品構想力にあるのであって、アップル製品の技術的な機能や性能が前の機種より良くなったから売れる、ということではなかったはずだ』、と上記の記事以上に警戒的が強い。
こうしてみると、アップルの有機EL採用方針の真の狙いが、よく分からなくなってきた。まさか、「話題つくり」だけということもない筈だが・・・。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:半導体産業 (その1)”にわか有機ELブーム”をどうみるか 日経ビジネスオンライン 有機ELに「iPhoneバブル」?需要は未知数、繰り返されてきた肩透かし 米アップルがiPhoneに採用 関連市場はバブルの様相 韓国サムスン電子 LGディスプレー 新工場の立ち上げや増産投資を加速 ジャパンディスプレイ(JDL)が「今後最も力を入れていく事業」と位置付けているほか 鴻海(ホンハイ)精密工業もシャープの技術を活かし有機ELパネル市場に参入する計画 アップルは前倒し採用の動きも バックライトが不要 液晶より薄くできたり 曲面加工ができたりするなどの利点 1990年頃から「液晶の次」と期待 歴史は参入と撤退の繰り返しだった 早ければ2017年にも市場に登場すると見られる有機EL採用のiPhone 「出る出る詐欺」と揶揄され続け20年強 現状はサムスンが自社のスマホに、LG電子が大型テレビ、スマートウオッチ向けに量産しているのみだ スマホではまだ生かせぬ優位性 筐体を薄くできること 容量の大きいバッテリーを搭載することが可能になり またしても肩透かし? いつもの瞬間風速的なものになるのでは」との不安 長内 厚 ダイヤモンド・オンライン にわか有機ELブーム」に飛びつく電機各社の浅慮 有機エレクトロルミネッセンス OLED バックライトやカラーフィルターなどの余計な部材が必要なく、部品点数を減らすことでコストダウンが容易になるというポテンシャル 印刷に近い技術で基盤に塗布することができる 薄型化やフレキシブル化が容易 液晶に比べて歩留まりが悪く、低価格化のポテンシャルがあると言われながらも、これまではパネルの価格が高かった サムスン電子が、液晶パネルと遜色のない価格で有機ELパネルを供給できるようになったと言われており 有機ELの「泣きどころ」 熱に弱く 高温多湿の環境では使いにくい 大型サイズについてはまだまだ生産が安定していない 現在応用できる有機EL製品はスマートフォンくらいしかなく 電機メーカーにとってテレビなどに使用するその他の薄型ディスプレイを同時に手がけるとなると、技術も設備も二重投資をしなければならない 化学製品の部品点数が少ない有機ELは、化学メーカーにとって必ずしも儲かるビジネスではない GALAXY S 有機ELパネルが採用されているが、同社は日本市場で苦戦を強いられている アップルのすごさは、誰もが思いつかなかったような新しいライフスタイルを提案する商品構想力にあるのであって、アップル製品の技術的な機能や性能が前の機種より良くなったから売れる、ということではなかったはずだ バブルは所詮バブルでしかない 相手の土俵に乗らないのも戦略
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