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東芝不正会計問題(その22)「バイセル取引」を巡る金融庁と検察の応酬 [企業経営]

東芝不正会計問題については、7月17日に司法の壁などを取上げたが、今日は、(その22)「バイセル取引」を巡る金融庁と検察の応酬 である。

先ずは、7月18日付け産経新聞「東芝不正会計、歴代3社長の訴追要否で異例の応酬…監視委「明らかな粉飾」 検察「疑問点多く困難」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・東芝の不正会計問題で、田中久雄元社長ら歴代3社長の刑事訴追の要否をめぐり、証券取引等監視委員会と検察当局が異例の応酬を続けている。「明らかな粉飾」とみて金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)罪で刑事告発を目指す監視委に対し、検察は「証拠上、疑問点が多い」と否定的だ。逮捕、起訴権限を持つ検察の見解は重いが、会計の専門家からも「刑事訴追が見送られれば、海外投資家に日本は会計不正に甘い国だと思われる」との声が出ている。
▽発表取りやめ
・監視委は昨年12月、東芝に過去最高額の約73億円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した後、パソコン事業での不正会計については、田中元社長と西田厚聡(あつとし)、佐々木則夫両元社長の刑事責任を問う必要があるとして、半年以上、調査を続けてきた。
・関係者によると、監視委はこの間、告発を受理する検察当局とやり取りをしながら、田中元社長を任意聴取するなどしてきたという。検察は当初から立件について慎重姿勢だったが、今月に入り「証拠上、疑問点が多く、立件は困難」との見解を監視委に伝えた。
・これに対し、監視委は検察が疑問を示すパソコン事業の「Buy-Sell取引」の違法性などへの反論を伝えた。さらに「報道でバイセル取引が違法ではないかのような誤解が広がっている」(金融庁関係者)として、バイセル取引の違法性についての監視委の見解を発表しようとしたが、「検察と対立していると誤解される可能性がある」(同)として直前になって取りやめた。
▽取引実態は?
・バイセル取引は、東芝が調達したパソコンの部品を、組み立てを委託する台湾のメーカーにいったん売却し、後から完成品を買い戻す手法。部品の調達価格が外部に漏れないよう原価に一定金額を上乗せした価格で販売し、その分を上乗せした価格で買い取っていたが、東芝はこの取引を悪用。決算期末に大量の部品を販売することで、一時的に得られる上乗せ分を利益として計上していた。
・検察は、実際に部品はやり取りされており、架空取引とはいえないなどとして立件は困難との見方を示している。一方で監視委は、取引の実態としては東芝の在庫部品を台湾メーカーに預けただけにすぎず、部品の形式的な移動によって判断されるものではないと反論する。
▽「会計の常識50」
・「粉飾決算」などの著書がある公認会計士の浜田康氏は、「一時的に得られる『未実現利益』を計上してはいけないのは会計の常識。四半期末に部品の販売を増やして、利益をかさ上げするのは明らかな粉飾」と断じる。「刑事訴追されないなら『今期だけごまかして、しのげばいい』と、同様手法で利益計上する会社が出てくる可能性がある」と懸念する。
・青山学院大学の八田進二教授(会計監査)によると、かつて今回のような取引は多くの会社で行われていたが、今はほとんどないという。「会計的には粉飾の一丁目一番地で、この問題がおとがめなしで終わったら、日本の市場の信頼性が問われる」と危惧する。
・ただ、検察が立件困難とする理由はバイセル取引の問題だけではない。元社長らの指示、認識の立証や、「重要な事項につき虚偽の記載」をしたと認定できるか-など立件のハードルは高い。 過去の粉飾決算事件をみても、架空取引で赤字を黒字に装うなど市場を欺く意図が明確な場合が多かった。監視委と検察当局はさらに協議を重ねた上で最終判断する。
http://www.sankei.com/affairs/news/160718/afr1607180003-n1.html

次に、7月21日付けビジネス法務の部屋「金融庁も検察も国民を敵に回すべきではない(東芝元経営者立件騒動)」を紹介しよう。
・東芝不正会計は違法・・・、金融庁が公式見解を発表しようとしましたが、検察との意見相違が報じられるなかで、同庁は急きょ、発表を中止したそうです(経緯を詳細に報じる産経新聞ニュースはこちらです)。すでにご承知のとおり、東芝会計不正事件について、元経営トップの3名の訴追を要望する金融庁と、証拠上立件は困難として訴追を見送る検察庁との対立が話題になっています。東芝事件の元経営トップの立件について、検察と証券取引等監視委員会(特別調査課)との間で温度差があることは、実はかなり前から(風の噂で?)私は聞き及んでおりました。
・先日のエントリー「企業不正に立ちはだかる司法の壁と行政当局の対応」でも述べましたが、昨日(7月19日)の朝日「法と経済のジャーナル」(有償版)の詳しい記事を読むと、やはり長銀事件最高裁判決(無罪判決)の射程範囲をどう考えるか、という点が金融庁と検察との対立の一因のようです。今回の東芝事件における経営トップの訴追において、果たして長銀事件最高裁判決が先例となりうるかどうかは、たとえば中央ロー・ジャーナル最新号(第12巻4号)の金築誠志先生(何度も当ブログで述べましたが、私が最も尊敬する元最高裁判事の方です)によるご論稿「判例について」を読むと参考になるのではないでしょうか(もちろん、これは法律専門家向けのお話ですが、金築論文は裁判実務的にたいへん有益な論稿でして必読ではないかと)。
・ところで「なぜ金融庁は公式見解の発表をとりやめたのか?」という点ですが、検察庁からクレームがあったということよりも、(告発があった場合に)検察審査会の職務の独立性(検察審査会法3条)を侵害するおそれがあったからではないかと勝手に推測しています。社会的に話題となった事件において、司法改革の一環として導入された検察審査会の起訴議決が活用されるケースが増えています。もし、後日検察審査会が開催されるような事態となり、行政当局が「これは違法である」と公式に意見表明をしてしまいますと、検察審査会もこの意見に影響を受けてしまうことになりそうです。しかし、これは(国民の素直な処罰感情を訴追に反映させるという)審査会の機能を不全に至らしめ、国民の利益を侵害するおそれがあります。
・そしてもうひとつ考えられる理由は、平成30年6月までに施行される「日本版司法取引」への対応です。今回の東芝会計不正事件は、経済犯罪に対する平成28年改正刑事訴訟法上の司法取引(刑事訴訟法350条の2以下)の典型的な活用場面です。東芝事件では、「公正なる会計慣行の逸脱」という論点だけでなく、不正会計の実行者とその指示者が別であり、故意の立件に困難が伴うことが予想されます。粉飾の共犯者(トップから指示を受けた者)に捜査・公判への協力と引き換えに訴追免除する約束をとりつけて経営トップの認識を裏付ける供述を引き出すというものですね。
・なお、金融庁職員(特別調査官)は強制捜査の権限は有していても、「司法警察員」ではないので司法取引を行う権限はありません。あくまでも金融庁から告発を受けた検察の権限です。したがって、今後同様の事案を立件するにあたり、金融庁は検察による司法取引の権限をどうしても活用したいところです。したがって金融庁と検察は、これからさらに信頼関係を密に保持することが必要です。場末の弁護士の勝手な邪推にすぎませんので、「話半分」くらいにお聴きいただければ結構ですが、こういった理由がホンネの部分だったりするのではないかと。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2016/07/post-5525.html

第三に、「バイセル取引をより詳しく解説した記事として、7月22日付け日経ビジネスオンライン「東芝粉飾決算「利益水増し」なぜできたのか 価格4~8倍で販売「バイセル取引」の中身」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・東芝の不正会計が発覚してから、約1年が経過しました。利益の水増し額は合計で2306億円にのぼり、複数の経営陣が引責辞任に追い込まれました。巨額の「粉飾決算」と呼んでも差し支えない会計操作で、証券取引等監視委員会が刑事告発を視野に調査を進めてきました。焦点になっているのがパソコン事業の「バイセル取引」です。東芝はなぜ“打ち出の小槌”のように見かけの利益を増やせたのでしょうか。
・東芝はなぜ不正会計に手を染めたのか。結論から先に言えば、稼ぐ力を失った事業の内情を外部の目から隠そうとしたのが理由です。 経営不振の実態が明らかになると、株価が下落するだけでなく、株主や投資家からリストラを迫られることにもなります。東芝の経営陣はそうした事態を恐れ、決算書類をごまかすことで問題を先送りしてきたのです。 ではどのようにして、利益を水増ししてきたのか。不正の金額が最も大きかった、パソコン事業を例に見ていきましょう。
▽ノートパソコンの先駆者が陥った苦境
・東芝は1985年、世界で初めてノートパソコンを世に送り出した業界の先駆者です。しかし、2000年代後半になると業界構造が大きく変わります。パソコンが企業や家庭に広く行き渡り、機能やブランドよりも価格が重視されるようになりました。米IBMは2005年に中国レノボ・グループにパソコン事業を売却。日立製作所もパソコン製造から撤退しました。 高いシェアを武器にスケールメリットを追求する一部のメーカーが勝ち組となる一方、東芝はこの流れに対応しきれませんでした。
・東芝のパソコン事業に在籍していた幹部はこう言います。「個人向けパソコン事業は赤字が続き、社内では常に売却や撤退が取り沙汰されていた」。 にもかかわらず、東芝の歴代経営陣は抜本的な対策を取りませんでした。むしろ「バイセル取引」といった手口を悪用して、不振を覆い隠してきたのです。
▽500億円超を水増しした「バイセル取引」
・東芝はパソコンの組み立てを、台湾などの組み立てメーカーに委託していました。こうしたメーカーはODM(受託製造業者)と呼ばれます。 受託製造業者は東芝と比べて、経営規模が見劣りします。そこでパソコン事業では液晶や半導体などの部品を東芝が安く調達し、受託製造業者に再販していました。東芝は安く部品を調達する一方で、その原価を隠すため通常より高い値段で受託製造業者に売っていました。この差額を「マスキング」と呼びます。
・受託製造業者はその部品を使ってパソコンを組み立て、マスキングによる上乗せ金額も含めて完成品を東芝が買い戻します。そして最終的に、東芝が消費者に販売します。この取引自体は「部品の有償支給」と呼ばれ、自動車会社なども導入している一般的なものです。
・しかし東芝は、この取引の盲点を突きました。 受託製造業者にマスキング価格を上乗せした部品を販売した段階で利益を計上していましたが、その価格が調達時の4~8倍に達することもあったのです。 東芝はさらに、会計期末の月に必要以上の部品を押し込むことで、一時的に利益をかさ上げしていました。これを東芝は売買を意味する「バイセル取引(Buy-Sell)」と呼んでいました。
▽リーマンショックで「チャレンジ」が激化
・バイセル取引が激しくなったのは、2008年のリーマンショックがきっかけです。世界中でパソコンの需要が激減したことで、東芝の売り上げと利益が大幅に減少。何らかの対策が求められるようになりました。 本来なら、事業の競争力を強化して赤字の脱却を目指すべきです。斬新な新商品の開発やリストラなど、様々な戦略があり得るでしょう。しかし東芝の経営陣は会計数値をごまかすことで、不振を覆い隠そうとしたのです。
・そこで使われるようになったのが「チャレンジ」という言葉でした。一般的には「挑戦」を意味します。しかし東芝社内では、チャレンジは無理な業務目標の強要を意味していました。 東芝の不正会計を調べた第三者委員会は2015年7月に報告書を公表し、「社長月例」と呼ばれる会議の異様な風景を描写しています。象徴的なのが2012年9月の社長月例です。 当時の社長、佐々木則夫氏はパソコン事業の責任者に対し、「3日間で120億円の営業利益改善」を求めるなど、法令を順守しては達成が難しいようなチャレンジを強要していました。
・社長の指示は、上意下達で伝わっていきます。カンパニーごとに定められたノルマは部、課、そして個人へと割り振られ、東芝社内の各所で「パワハラ会議」が横行していました。そして、利益の水増しが続けられていったのです。
▽不正会計に対して、過去最高の課徴金
・こうした不正に手を染めたのは、パソコン事業だけではありません。社会インフラや半導体、テレビなど東芝の様々な事業領域で、利益がかさ上げされていたことが判明しています。その金額は、2009年3月期以降の約7年間で合計2306億円に達します。
・決算をごまかすことは、投資家に対する裏切りです。金融庁は2015年12月、東芝に対して金融商品取引法違反(有価証券報告書などの虚偽記載)があったとして、73億7350万円の課徴金納付を命じました。不正会計に対する課徴金としては、過去最高額です。
・ただし、これで“けじめ”が十分についたとは言えないでしょう。一連の不正会計で責任を取ったのは、歴代3社長など一部のトップのみで、実際に不正に手を染めた幹部は今も東芝社内に残っています。逆に出世していくケースすらあります。カネボウやオリンパスの事件では、元トップが起訴されています。
・メディアの追及も不十分です。多くの新聞やテレビは「不適切会計」という言葉で一連の問題を表現してきました。この言葉は、東芝の発表資料をそのまま使ったものです。 冷静に考えれば、東芝がやってきたことは「粉飾」です。広辞苑(第6版)によると、粉飾決算は「企業会計で、会社の財政状態や経営成績を実際よりよく見せるために、貸借対照表や損益計算書の数字をごまかすこと」。東芝がしてきたことを表現するのに、これ以上適切な言葉は見当たりません。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/070600052/072000005/?P=1

金融庁と検察の応酬は、産経記事内で公認会計士の浜田康氏や八田進二教授が指摘するように、見逃せば、『日本の市場の信頼性が問われる』。
ただ、ビジネス法務の部屋では、「金融庁は公式見解の発表をとりやめ」のは、『検察審査会の職務の独立性(検察審査会法3条)を侵害するおそれがあったからではないかと勝手に推測』、されるが、これは、『国民の利益を侵害』するとして、不適切としている。『「日本版司法取引」への対応』、というのはありそうなことだが、出来れば、金融庁にはそんなことをしなくても立件できるとの意気込みで取り組んでもらいたいところだ。
バイセル取引の解説は、他の企業でも一般的にやっている取引とは、全く異なる東芝の異様さが、よく分かるので、紹介した次第である。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:東芝 不正会計問題 (その22)「バイセル取引」を巡る金融庁と検察の応酬 産経新聞 東芝不正会計、歴代3社長の訴追要否で異例の応酬…監視委「明らかな粉飾」 検察「疑問点多く困難」 証券取引等監視委員会 検察当局 異例の応酬 。「明らかな粉飾」とみて金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)罪で刑事告発を目指す監視委 検察は「証拠上、疑問点が多い」と否定的 会計の専門家からも「刑事訴追が見送られれば、海外投資家に日本は会計不正に甘い国だと思われる」との声 立件は困難」との見解を監視委に伝えた バイセル取引の違法性についての監視委の見解を発表しようとしたが、「検察と対立していると誤解される可能性がある」(同)として直前になって取りやめた 東芝はこの取引を悪用。決算期末に大量の部品を販売することで、一時的に得られる上乗せ分を利益として計上 公認会計士の浜田康 刑事訴追されないなら『今期だけごまかして、しのげばいい』と、同様手法で利益計上する会社が出てくる可能性がある 八田進二教授 会計的には粉飾の一丁目一番地で、この問題がおとがめなしで終わったら、日本の市場の信頼性が問われる 元社長らの指示、認識の立証や、「重要な事項につき虚偽の記載」をしたと認定できるか-など立件のハードルは高い ビジネス法務の部屋 金融庁も検察も国民を敵に回すべきではない(東芝元経営者立件騒動) 長銀事件最高裁判決が先例となりうるかどうかは 金築論文は裁判実務的にたいへん有益な論稿 なぜ金融庁は公式見解の発表をとりやめたのか?」 検察審査会の職務の独立性(検察審査会法3条)を侵害するおそれがあったからではないかと勝手に推測 これは(国民の素直な処罰感情を訴追に反映させるという)審査会の機能を不全に至らしめ、国民の利益を侵害するおそれがあります 「日本版司法取引」への対応 金融庁は検察による司法取引の権限をどうしても活用したいところです。したがって金融庁と検察は、これからさらに信頼関係を密に保持することが必要 日経ビジネスオンライン 東芝粉飾決算「利益水増し」なぜできたのか 価格4~8倍で販売「バイセル取引」の中身 稼ぐ力を失った事業の内情を外部の目から隠そうとしたのが理由 ノートパソコンの先駆者が陥った苦境 東芝の歴代経営陣は抜本的な対策を取りませんでした。むしろ「バイセル取引」といった手口を悪用して、不振を覆い隠してきたのです 500億円超を水増しした「バイセル取引」 パソコン事業では液晶や半導体などの部品を東芝が安く調達し、受託製造業者に再販していました。東芝は安く部品を調達する一方で、その原価を隠すため通常より高い値段で受託製造業者に売っていました マスキング 部品の有償支給 動車会社なども導入している一般的なものです 東芝は、この取引の盲点を突きました マスキング価格を上乗せした部品を販売した段階で利益を計上していましたが、その価格が調達時の4~8倍に達することもあったのです 会計期末の月に必要以上の部品を押し込むことで、一時的に利益をかさ上げしていました バイセル取引(Buy-Sell) 激しくなったのは、2008年のリーマンショックがきっかけです チャレンジ 3日間で120億円の営業利益改善 法令を順守しては達成が難しいようなチャレンジを強要 利益がかさ上げされていたことが判明しています。その金額は、2009年3月期以降の約7年間で合計2306億円 73億7350万円の課徴金納付を命じました ・メディアの追及も不十分
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