オバマ大統領広島訪問(「核なき世界」にほど遠い米国の現実、米専門家がみるオバマ広島訪問の本当の理由、オバマ訪問で広島は何が変わったのか) [外交]
今日は、オバマ大統領広島訪問(「核なき世界」にほど遠い米国の現実、米専門家がみるオバマ広島訪問の本当の理由、オバマ訪問で広島は何が変わったのか) を取上げよう。
先ずは、5月30日付けダイヤモンド・オンライン「オバマ歴史的訪問でも「核なき世界」にほど遠い米国の現実」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・伊勢志摩サミット終了後の27日夕方、アメリカのオバマ大統領が広島市の平和記念公園を訪れた。原爆投下から約71年。現職の米大統領による被爆地訪問や献花は歴史的瞬間となり、17分に及ぶスピーチの中で「核を保有する国々は、勇気をもって恐怖の論理から逃れ、核兵器のない世界を追求しなければならない」といった言葉を広島から世界に発信した。しかし、オバマ大統領が就任当初から取り組んできた世界規模の核軍縮や核不拡散は、現在も紆余曲折の途上といえる。
▽オバマ訪問で厳戒態勢の広島市内 原爆使用の是非に米では世代間ギャップも
・アメリカのオバマ大統領が平和記念公園を訪れるため、27日の広島市内は朝から市内各所に多くの警察官が配置され、平和記念公園周辺では100ヵ所以上で検問も行われた。「これまでにも広島を訪れた外国の政治家はたくさんいましたが、こんなに凄い警備を目の当たりにしたのは初めてです」と苦笑しながら語るのは市内のタクシー運転手の男性。27日正午過ぎのことだ。市内ではパトロールなどを行う警察官の姿が随所で確認でき、制服から兵庫県警や熊本県警から派遣されてきたこともわかる。広島県警は11の都府県から約2000人の応援を得る形で、約4600人の警察官を動員して、オバマ大統領の到着に備えた。
・核兵器を実戦使用した唯一の国であるアメリカの現職大統領による初の広島訪問は、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞の契機となった2009年4月の「プラハ演説」の流れもあり、数時間の広島滞在で何を行い、どのような言葉を発するのかに注目が集まった。広島市の平和記念公園周辺には27日の朝から大勢の人が詰めかけ、中には外国メディアの関係者も少なくなく、伊勢志摩サミットの取材で来日したドイツ公共放送の女性記者は筆者に対し「どのような演説が行われるのかはわかりませんが、現職の米大統領による広島訪問そのものが歴史的な瞬間になるでしょう」と語ってくれた。
・27日正午までは公園に入場規制がかけられなかったため、多くの人が平和記念公園を訪れていた。広島市民に加えて、海外からの観光客や、メディアの関係者も少なくない。オバマ大統領を一目見ようと公園を訪れたというアメリカ人男性に話を聞いた。 「とてつもなく悲劇的なことですね。個人的には開発した原子爆弾が本当に使えるのかを確認するための実験的な意味合いもあったのではないかと思いますが、人それぞれで見方は異なると思います。どのような理由であれ、原爆の使用は人道に対する犯罪だったと思います」
・アメリカ人男性は原爆投下についての見解を語ってくれたが、今でもアメリカでは原爆使用は戦争を終結させて多くのアメリカ人兵士の命を救うために必要だったという考えが根強く残っている。同時に「抑止力としての核兵器保有」を正当化する声もまだまだ根強い。しかし、核に対する考えでは世代間ギャップも生じているようだ。
・オバマ大統領が1期目から自らに課した大きなタスクの一つが、核軍縮と核不拡散の推進だ。しかし、「核兵器をなくす」という考えにはアメリカ国内でも世論が二分している。CNNが2010年に実施した世論調査では、回答者の49%が「アメリカを含む数ヵ国は、他国の攻撃に備えて核兵器を保有すべき」と答えている。同様の調査が行われた1988年、回答者の56%が「世界中からすべての核兵器をなくすべき」と答えていたが、冷戦終結後の現在の方が核兵器保有を支持する声が多いのは皮肉な話だ。
▽原爆投下の「正当性」に関してはアメリカ人の意識も様変わり
・核兵器を巡る世論調査には、第二次世界大戦末期の広島、長崎に対する原爆投下の「正当性」に関するものもある。こちらに関しては、時間の経過とともに原爆投下に否定的な見方をするアメリカ人が増えてきているが、「原爆を使用しなければ、より多くのアメリカ人が戦地で命を落としていた」という考えはアメリカ社会に根強く残っている。
・1945年にギャラップ社が実施した世論調査では、回答者の85%が広島への原爆投下を支持したが、それから70年後の2015年にピュー・リサーチ・センターによって行われた世論調査では、広島と長崎に対する原爆投下を支持するアメリカ人は56%にまで減少していた。70年の間にアメリカ人の原爆投下に対する意識の変化が徐々に生じているように思えるが、原爆投下に対する見方には世代によって温度差が存在し、1980年代から2000年代初頭に生まれたいわゆる「ミレニアル世代」においては原爆投下に対する否定的な意見がより顕著になっている。調査に携わったピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス国際経済世論調査部門ディレクターが、調査結果から垣間見えるアメリカ国内の世論の変化について語る。
・「原爆投下に関する世論調査で、原爆投下は正しい判断だったとする声が、なぜこれだけ減少したのかを完全に知りうることは不可能ともいえる。ただ、一つの要因として過ぎ去った時間の存在を挙げることは可能であろう。広島での原爆投下や第二次世界大戦はそれぞれ『歴史』の中に消えてゆき、戦争体験者の数も減少傾向にある。高齢のアメリカ人と比較した場合、アメリカの若い世代の間では、原爆投下を正当化しようと考える人の数が少ない。我々の調査では、65歳以上のアメリカ人の70%が原爆投下の正当化を支持しているが、18歳から29歳までの若い回答者になると、原爆投下の正当化への支持は47%にまで急落する。
・年齢別だけではなく、性別や支持政党でも、原爆投下をめぐって意見が分かれていることが分かる。共和党員の74%が原爆投下を支持し、民主党員の場合は52%だった。原爆投下の正当性を支持した男性は62%に達したが、女性は50%だった。また、白人と非白人(ヒスパニックを含む)でも見解の違いは大きく出ている。白人の65%が原爆使用は正しかったと答えたが、同じ回答をした非白人は40%であった」
▽訪問で日米間のギャップは埋まらない米保守派からは「弱腰外交」と批判も
・調査結果からは、原爆投下に対する日米のギャップが少しずつ埋まりつつある傾向も見える。ストークス氏が再び語る。 「(2015年に行った)調査では、原爆投下に対する日本とアメリカにおける見解のギャップが狭まってきたことを確証するものはなかった。しかし、より多くのアメリカ人が原爆投下の正当性に否定的な見解を示すようになり、その点では日本人が長年にわたって抱いてきた思いに近づいているとも言えるだろう」
・米ランド研究所のアジア太平洋政策センターでアソシエイト・ディレクターを務めるスコット・ハロルド氏は、オバマ大統領の広島訪問によって日米間の原爆使用を巡る認識のギャップが埋まるという考えには否定的であったが、広島訪問が世界に向けて大きなメッセージを発信すると確信している。 「オバマ大統領の広島訪問によって日米間のギャップが縮まるとは思えない。なぜならば、今回の訪問は戦争被害に苦しんでこられた方々に敬意を表し、同時に世界の核保有国に対して被爆地の広島からメッセージを送る目的で計画されたからだ。アメリカはロシアや中国、パキスタンやイランといった国々、さらには北朝鮮に対して、核兵器の配備や使用を決して行ってはならないという姿勢を打ち出す必要がある」
・原爆使用の正当性を巡って、世代間で見解が異なるアメリカの国内事情については先に述べたが、メディアの論調も様々だ。「ネオコン」の中心的人物として知られ、ブッシュ政権時に国連大使を務めたジョン・ボルトン氏は26日、ニューヨーク・ポスト紙に「オバマの恥ずべき謝罪ツアーが広島に上陸」と題したコラムを寄稿し、キューバとの国交回復や広島訪問といったオバマ外交を激しく批判している。
・ブッシュ政権時に見られた強硬な外交スタイルがオバマ政権下では用いられないことに苛立ちを隠さず、これまでのオバマ外交を弱腰と批判する姿から、ネオコンの中枢にいたボルトン氏の外交スタンスが垣間見えるが、彼もまた、高齢者を中心に広く浸透している「原爆投下によって、結果的に多くのアメリカ人兵士の命が救われたのだ」という考えをコラムの中で強調している。
・ジョージ・メイソン大学でアメリカの戦史を教えるクリストファー・ハムナー准教授は、保守系コメンテーターらがオバマ大統領の広島訪問を批判したことについて、予期できたことだったと語る。でっち上げられたような怒りは現在のアメリカ政界で保守派とリベラルの両方が用いる手法で、相手の上げ足を取るような政治手法常習化しているのだという。ハムナー准教授は、5月30日に国民が戦没者に追悼の意を表す目的で「メモリアル・デイ」という祝日が作られ、その直前にオバマ大統領が広島を訪れたことに注目している。退役軍人への配慮は非常に重要視されているようだ。
・「オバマ政権関係者はこれまでに何度も退役軍人らで作るグループと接触を図り、彼らがオバマの広島訪問に激しく憤慨しても、それをなだめることのできる関係を構築していた。1995年にスミソニアン博物館が広島に原爆を落としたエノラゲイの展示を含む原爆展を企画した。しかし、これは退役軍人グループを激怒させ、結果的に展示は中止に追い込まれている。退役運人の存在を考慮して、当初からオバマ大統領が広島で謝罪をする計画はなかったが、彼のスピーチは多くの人の心に届いたのではないか通っている」
▽広島にも持ち込まれた「フットボールとビスケット」 「核なき世界」の実現に逆行する1兆ドルの巨大計画
・27日夕方に広島市の平和記念公園を訪れたオバマ大統領は、17分間の演説の中で「核なき世界」を目指そうと、世界に向けてメッセージを発信した。また、現職の米大統領が広島を訪れ、平和記念公園内で献花を行い、被爆された方と抱き合ったシーンは歴史的な瞬間として各国のニュースで取り上げられた。一方で、核軍縮や核不拡散を具体的にどう進めていくのか、アメリカがどのくらい本気でその問題に取り組もうとするのかという点には疑問が残ると言わざるを得ない。
・米英の複数のメディアは、「核のフットボールとビスケット」の存在を取り上げ、これらがオバマ大統領の広島訪問の際にも現地に持ち込まれていたと伝えている。「核のフットボール」とは、黒皮に包まれた重さ約20kgのアタッシュケースを指す俗称で、中には米大統領が核兵器の使用を許可するための通信機器が入っている。大統領がホワイトハウスを離れる際には、このアタッシュケースを持った軍事顧問が必ず大統領に同行する。大統領はまた「ビスケット」とよばれる特別なカードキーを常時携帯しており、アタッシュケース経由で米軍に核兵器使用を許可する場合に、カードキーを使って大統領本人であるという認識作業が必要になるのだという。
・「核のフットボール」はキューバ危機に直面したケネディ政権から本格的に使われるようになった。カードキーをスーツのポケットに入れっぱなしだったカーター大統領が、誤ってカードキーの入ったスーツをドライクリーニングに出してしまったという話や、暗殺未遂事件の際に病院に運ばれたレーガン大統領とアタッシュケースを持った軍事顧問が離れ離れになってしまったというエピソードが残っているものの、基本的には米大統領の近くには「核のフットボール」を持った軍事顧問が常にいる。それが広島であっても、だ。
・「核のフットボール」は核保有国アメリカを象徴する代物だが、アメリカ国内における核兵器に関連した政策に目を向けても、オバマ大統領が世界に向けて発信した「核なき世界」の実現はまだまだ遠い先の話のようだ。
・米軍は昨年から新型核爆弾「B6112型」を飛行中の爆撃機から投下する実験を開始し。1966年から現在までに3000発以上の「B61」が配備されてきたが、現在開発中の12型にはより多くの電子機器が組み込まれ、精密爆撃が可能になるとニューヨークタイムズ紙は今年1月に伝えている。だ。国内の政治的な駆け引きでオバマ大統領が譲歩せざるをえなかったという指摘もあるが、対外的なメッセージとして「核なき世界」を声高に叫ぶオバマ政権が、自国の核兵器の削減に及び腰では批判を受けるのも当然だ。
▽前出のハムナー准教授が、オバマ大統領の苦悩について語る新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められる予定
・「(核兵器改善計画の存在は)オバマ大統領の政策がブレているというよりも、むしろ民主主義における連立政治の機能の問題ではないかと思う。とりわけ、世界の安全保障や外交関係といったテーマでは議会の動きにも目を向けるべきだ。オバマ大統領が掲げる世界平和への取り組みの中で『核なき世界』の実現は大きなカギとなっている。
・ただ、取り組みは非常に長い時間を要するもので、スーパーパワーと呼ばれる大国が一国で推し進められるものでもなく、大統領一人の権限で事態が大きく変化するというようなものでもない。核兵器や核兵器の貯蔵庫などは新しくされるべきだ。核兵器で用いられる技術には寿命があり、コストはかかるが、安全面で新しくする必要がある」
・加えて、オバマ政権下で実際に削減された核兵器の数が、冷戦後の歴代政権の中で最も少なかった事実も判明している。ブッシュ政権下(2001~2008年)で約5300発の核兵器が削減されたのに対し、オバマ政権下で削減された核兵器は約700発に過ぎず、2013年に米国防総省から議会に提出された報告書に記された削減可能数よりも少ない。ロシアとの関係悪化などが原因で、オバマ大統領が就任当時に描いていたような形で自国の核兵器削減を推し進められなかったとする指摘も存在するが、オバマ大統領の核軍縮ビジョンは現時点で「有言実行」と言えないのも事実だ。
▽オバマ大統領が残る任期で実現可能な核兵器削減政策とは
・マンハッタン計画に従事した原子力科学者らを中心に1945年に結成され、現在も非営利組織として核兵器の廃絶や国際的な安全保障政策などの分野で提言を行う米科学者連盟(FAS)は26日、同団体のハンス・クリステンセン核情報プロジェクト代表によるオバマ政権の核兵器削減の取り組みに対する提言をウェブサイトで公開した。
・ロシアとの関係悪化に加えて、米議会における政党間対立が原因となってオバマ大統領が核軍縮をアメリカ国内で行えなかった事に一定の理解を示しながらも、オバマ大統領が残りの任期中にできる事はまだまだ存在するとの見解を示している。クリステンセン氏は核兵器の削減では政党間対立を繰り返す米議会が、前述の核兵器性能改善計画ではほぼ全会一致で承認する姿勢を見せた点に、イデオロギー対立の弊害があるとも指摘している。
・オバマ大統領が残りの任期で実現できる具体的な事案として、2020年代中ごろまでに旧式の核爆弾や海上発射ミサイルを一線から退かせる計画を今すぐに行うこと、新型空中発射核ミサイルの開発計画の早急な中止、もしくは計画の延期、国内での事故やトラブルを避け、ロシア側にも警戒レベルを引き下げさせる目的で、アメリカの核兵器警戒レベルの早急な引き下げも提案している。また、オバマ大統領が任期中にこれらを実現できなかった場合には、「ヒラリー・クリントン大統領」がオバマ氏の後始末をきちんとすべきだとの表現で、クリステンセン氏は提言の最後を締めている。
・原爆投下に対するアメリカの世論が少しずつ変化を見せるまでに70年を要したが、「核なき世界」の実現にはどのくらいの時間が必要なのだろうか?オバマ政権の残りの8ヵ月、そしてポスト・オバマ時代に核兵器は世界的な規模でどのような扱いになるのだろうか?プラハと広島のスピーチでは世界に向けて「核なき世界の実現」を提唱したオバマ大統領だが、実現へのロードマップは果てしなく長い。
http://diamond.jp/articles/-/92064
次に、作家/コンサルタントの佐藤智恵氏が6月3日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ハーバード大教授が徹底解説!オバマ広島訪問の本当の理由 サンドラ・サッチャー教授に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、+は回答のなかでの段落)。
・ハーバードビジネススクールでリーダーシップの専門家として数多くの講座を受け持つサンドラ・サッチャー教授。特にリーダーの決断とモラルについて議論する選択科目「モラル・リーダー」は、ハーバードの看板授業だ。授業でトルーマン大統領(当時)の原爆投下について教えているサッチャー教授は、今回のオバマ大統領の広島訪問をどのように評価したのか。徹底解説してもらった。(聞き手/佐藤智恵インタビュー〈電話〉は2016年5月29日)
▽オバマ大統領の広島訪問に対するハーバード大教授の評価とは?
・佐藤サッチャー教授はハーバードでトルーマン大統領の原爆投下について教えていますが、今回のオバマ大統領の広島訪問をどのように評価しますか。
・サッチャーオバマ大統領はとても勇気ある決断をしたと思います。中国や韓国など、日本政府が日本の戦争責任をめぐる論議を終わらせてしまう口実になるのではないか、という懸念を示した国もありましたから、複雑な政治状況であったことは確かです。そんな中で大統領は現在の政治状況を包括的に見た上で、広島訪問を決断しました。 リーダーシップの観点から見ても、オバマ大統領は正しい決断をしたと思います。なぜなら彼は広島で3つの重要なメッセージを世界に伝えることができたからです。
+1つめは、原爆投下という歴史から学ぶこと、原爆の犠牲者や遺族に人間としての思いやりを示すことがいかに大切かということ。2つめが、アメリカは自国の行動について責任をとる国なのだ、ということ。そして、最後に、どの国にとっても、自国の歴史と向き合い、歴史から学ぶことは重要だ、ということです。
・佐藤オバマ大統領は、世界の模範となるリーダーシップを示したと言ってもいいのでしょうか。
・サッチャーとても力強い「モラルリーダーシップ」(道徳的なリーダーシップ)を示したと思います。現職大統領の広島訪問は、オバマ大統領のリーダーシップなくしては実現できなかったでしょう。
▽広島訪問に込められた5つの目的
・佐藤広島でのオバマ大統領の演説は、私たち日本人だけではなく世界の人々の心を打つ歴史的なスピーチであったと思います。サッチャー教授は、この演説内容をごらんになって、オバマ大統領のどのような思いを感じましたか? 大統領の広島訪問の真意はどこにあったのでしょうか。
・サッチャーオバマ大統領のスピーチの全文を注意深く読み解いていくと、広島訪問には5つの目的があったことが分かります。
+まず1つめは、原爆投下の犠牲者を哀悼することです。オバマ大統領は多くの方々が亡くなったことだけではなく、死に至るまでの過程でどれほど苦しんだかについても言及しています。例えば、次のような箇所です。 「私たちは、(原爆投下によって亡くなった)10万人を超える日本人の男性、女性、そして子どもたち、数千人の朝鮮半島出身者、12人の米国人捕虜を悼むために(広島を)訪れるのです。 ここ広島の中心に立てば、原子爆弾が投下された瞬間、人々がどんな思いをしたか、想像せざるをえません。目の前で起きた出来事に、子どもたちはどれほど混乱し、怖い思いをしたか。それを感じ、彼らの無言の叫びに耳を傾けるために広島を訪れるのです。あの恐ろしい戦争で、それ以前、あるいは、それ以降に起きた数々の戦争で、多くの罪なき人々が亡くなりました。私たちは犠牲となった全ての人々のことを忘れないために、ここを訪れるのです」 (出所:ホワイトハウス公式ウェブサイト、翻訳:筆者、以下同)
+2つめは、人間の絆、つまり、すべての人間は、人間性という共通の絆でつながっていることを伝えることです。それは次のような箇所に象徴されています。 「私たちが広島を訪れるのは、愛する人々のことを思うためです。朝一番に笑顔を見せてくれる子どもたち、食卓越しに優しく手を触れてくれるパートナー、そして、愛情いっぱいに抱きしめてくれる父親や母親。こうした人たちのことを思い浮かべれば、71年前、亡くなった人々にも同じように大切な人との大切な時間が流れていたことが分かります」
+3つめは、“人類が抱える根源的な矛盾”について語ることです。彼はその矛盾を次のように説明しています。 「私たちの思考力、想像力、言語能力、道具を作る能力、自らを自然と区別し、自然を意のままに変化させる能力、これらは人類だけが持つ特別な能力ですが、同時にとてつもない破壊力をもたらすものでもあるのです」
+4つめは、世界の国々にとって、自国を防衛することは必要不可欠なことですが、武力を行使する際には、道徳的なルールに基づいていなければならないということです。意見が違う人々に対しても、人間性を尊重しなさい、というメッセージが、次のような箇所から読み取れます。 「広島はこの真実を教えてくれます。人間社会が科学技術と同じスピードで進化していかない限り、技術が人類を破滅させることもあるのです。科学の分野で原子分裂という革新がおこったのであれば、同じように人間社会のモラルもそれに応じて革新していかなければなりません。 私たちは戦争そのものへの考え方を変えなくてはなりません。外交によって紛争を防ぎ、すでに始まった紛争については終結させる努力をしなければなりません。世界の国々はますます相互依存を高めるようになっていくことでしょう。しかしそれは、暴力的な対立ではなく、平和的な協力関係につなげていくべきです。他の国を破壊する能力ではなく、何を築き上げてきたかによって、国としての価値を評価されるべきなのです」
+そして5つめは、歴史から正しい教訓を学び、よりよい世界を築き上げることに貢献してほしいという願いを世界の人々に伝えることです。 「なぜ私たちはここ、広島を訪れるのでしょうか。そう遠くない昔に、この地に放たれた恐ろしい力について深く考えるためです。(中略)ここで亡くなった方々の魂が私たちに語りかけます。自らの心の中をのぞき、あなたは何者で、何ができるかを考えよと。 私たちには、歴史を直視する責任があります。こうした悲惨な出来事が二度と起こらないようにするために何が出来るかを自問すべきなのです。 何よりも大切なのは、私たちが人類の一員であることを認識し、お互いの関係をよりよいものにしていくことです。これもまた、人類だけがもつ特殊な能力です。私たちの運命は遺伝子によって決まっているわけではありません。過去の失敗を繰り返すように定められているわけではないのです。私たちは学ぶことができるし、選択することもできる。子どもたちに新しい物語を伝えることができます。戦争が起こることもなく、残虐な行為が許容されることもなくなった、新しい世界の物語を伝えることができるのです」
▽すべてのリーダーをめざす人々に模範的な行動を示したオバマ大統領
・佐藤確かにサッチャー教授に分析していただいた上で、演説をあらためて読み返すと、「広島を訪れる理由」が何度も強調されていることが分かります。 戦後71年たった今年、現職の大統領による広島訪問は、なぜ実現したと思われますか。やはりオバマ大統領でなければ実現できなかったでしょうか。
・サッチャーオバマ大統領の行動から判断するに、彼は何よりも被爆者の方々に直接会いたかったのだと思います。彼は思いやりに満ちたリーダーで、これまでもアメリカ国内でも様々な事件の犠牲者のもとに自ら出向き、面会しています。 アメリカが冒した行為によって苦しんできた人々に、大統領自らが会いに行き、彼らのことを思いやる。これはすべてのリーダーをめざす人々にとって模範になるのではないでしょうか。
+日本の被爆者、そして、遺族の方々もまた、オバマ大統領の気持ちを思いやっていたように思います。現職のアメリカ大統領として広島を訪れ、「広島で起きた悲惨な出来事から教訓を学びましょう」というのは、道徳的な葛藤もあったと思います。しかし、そうした葛藤や大統領の思いを被爆者の方々も深く理解していたように感じました。
・佐藤アメリカ国内でも事件の犠牲者に直接、会いにいったとのことですが、最近ではどのような例がありましたか。
・サッチャー最近では米カリフォルニア州の福祉施設で発生した銃乱射事件で犠牲者となった方々の家族に直接会いに行きました。
・佐藤2015年12月、カリフォルニア州サンバーナディーノで14人が犠牲者になった銃乱射事件ですね。ミシェル夫人とプライベートで訪れ、犠牲者の遺族らと3時間近くにわたって面会したそうですね。
・サッチャーそうです。アメリカでは銃規制が不十分であるために、銃による事件が後を絶ちません。そのため、オバマ大統領はいわゆる“銃犯罪による犠牲者の喪主”としての役割を担い、犠牲者や遺族に思いやりを示すことによって、銃がもたらす危害を訴えているのです。アメリカだけではなく他国でも同じ問題を抱えていますが、オバマ大統領は、銃規制を強化しなくてはならないという姿勢を明確にしています。
+オバマ大統領は、共感力の高いリーダーであり、傷ついている人々の気持ちに寄り添うことができる人なのだと思います。広島訪問は、こうしたオバマ大統領の人間性を象徴していると思います。
▽オバマ大統領のモラルリーダーシップはいかに形成されたか
・佐藤オバマ大統領はなぜ犠牲者や弱者に対して、特別な思いやりを示すのでしょうか。やはり彼が国際的な環境で育ってきたことも影響していますか?
・サッチャー オバマ大統領が最初に執筆した自伝『マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝』には、彼が若い頃、アイデンティティー問題に苦しんだことが書かれています。 彼は「自分が何者であるか」について常に考え、その現実をありのままに受け入れようとしてきた人です。ケニア出身の父親とアメリカ人の白人の母親との間に生まれたことが、自分の人生にどのような影響を与えてきたか、について、かなりのページを割いて書いています。『こうした両親のもとに生まれたことは、多くの利点をもたらしたが、同時に人生を複雑にもした』『自分は何者であるかを問い続けることで、ようやく人生が満たされた』といった内容が書いてありました。
+オバマ大統領は、ハーバードロースクールを修了後、シカゴのコミュニティーオーガナイザーになります。そこで恵まれない黒人の人々が、必要な社会資源が得られるように、行政に訴えかける活動をはじめたのです。コミュニティーの人々がお互いに協力しながら生活を向上させ、生活環境を改善するための手助けをしました。
+つまり彼には政治家になるまでの過程で、自分のアイデンティティーを追求してきた長い歴史があるのです。自分の生い立ち、インドネシアでの居住経験、家族環境などすべてを受け入れようとしました。だからこそ、彼の考え方は国際的なのだと思います。世界には様々な人々がいて、それぞれ自分とは違っている点もあれば、共通点もある。その事実を偏見なく受け入れられるのです。
・佐藤オバマ大統領が広島訪問を決断するにあたって、最も大切にした価値観は何でしょうか?
・サッチャー人間にとって最も重要な価値観とは何か、を考えて、決断したと思います。人間同士をつなげている価値観とは何だろう。人々がよりよい市民となり、お互いの意見を尊重するような世界にするために必要な共通の価値観とは何だろう。私たちが過去、そして、未来の行動に対して責任をとるために、そして、人間がさらに学び、変化し、成長していくためには、どんな価値観が必要だろうか。こうしたことを考えて決断したと思います。 「平和」と「核なき世界」というのは単なるスローガンではありません。どれほど実現が困難で、多大な時間と労力を要したとしても、現実的な目標であるべきなのです。
・佐藤「人間にとって最も重要な価値観」とは、一言でいえば、道徳観のことでしょうか。
・サッチャーそうです。人間としての道徳観です。モラルリーダーシップの核心は、他人の人間性を尊重することです。それはまさにオバマ大統領が広島での演説で伝えたことであり、広島を訪問するという行動で示したことです。同じように、オバマ大統領を受け入れた被爆者の方々もまた、高い道徳観を示されたと思います。
+私は個人的に被爆者の方々が謝罪を求めるのではなく、核なき未来を実現してくださいと伝えたことに、とても感銘を受けました。被爆者の方々は、私たちには現在だけではなく、次世代のために未来を築き上げる責任があることを示しました。これは非常に重要で、道徳的な行為であったと思います。
・佐藤被爆者の方々もまた、モラルリーダーシップを示した、と考えますか。
・サッチャーそのとおりです。これほどの苦しみを与えた相手に対して、怒りや恨みを持ち、「生きている限り、絶対に許さない」と思うのも当然のことです。にもかかわらず、被爆者の方々は、「核なき世界の実現に向け、一緒に取り組みましょう」とおっしゃった。これは人間の精神の偉大さや高い品格を象徴する姿勢であり、被爆者の方々は日本だけではなく世界中の人々の模範となるリーダーシップを示したと思います。
http://diamond.jp/articles/-/92393
第三に、7月18日付け東洋経済オンライン「オバマ訪問1カ月、広島は何が変わったのか 外国人の訪問は急増しているが…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国のオバマ大統領が被爆地の広島を訪れて1カ月あまりが経過した。訪問当時はあれだけ注目された「広島」も今ではほとんどニュースになることがない。あの嵐のような"事件"を広島はどのように受け止めたのか。そして何が変わり、何が変わっていないのか。現地を取材した。
・オバマ大統領が広島を訪問した"効果"は絶大だった。訪問翌日の5月28日(土)とその翌日の29日(日)2日間の広島平和記念資料館の来館者数は合計1万3389人を記録。このうち2869人が外国人だった。1年前の5月最終の土日と比較すると、来館者数は2倍、外国人も2倍に増えた。
・6月1カ月間を見ても、来館者数は前年同月比41.8%増の14万8432人。外国人に限定すると56.5%増、修学旅行など団体を除くと実に64.1%も増えた。 さらに、6月1カ月間の来館者数をデイリーに追ってみると、6月は修学旅行が一段落する時期であるためか、昨年同様、総入館者数は月末に向けて若干落ちているが、外国人の訪問は逆に増えている。6月9日以降、オバマ大統領が記したメッセージ、オバマ大統領自身が折り、メッセージに添えられた折り鶴2羽、そして資料館でオバマ大統領を出迎えた子供たちに、オバマ大統領が手渡した折り鶴2羽の計3点の展示が始まったことも影響しているかもしれない。
▽増加著しい外国人入館者
・開館初年度の1955年度に11万人強だった平和記念資料館の入館者数は、1971年度に100万人を突破。年度によって多少の増減を繰り返しながら、1991年度には159万人に達したが、その後は減少に転じた。2004年度の106万人を底に、2009年度にいったん140万人まで回復するも、東日本大震災が発生した2011年度には121万人に減った。だが、2012年度からは徐々に回復。2015年度は突如前年比18万人、率にして13%の増加となり149万人になった。 大幅増の主たる要因は外国人の増加だ。2014年度は23万4360人だったが、2015年度は33万8891人。前年比で10万人、率にして44%もの伸びとなった。前年比半減の9万6510人に激減した2011年度と比較すると、2015年度はその3.5倍だったことになる。
・今年度は既に6月までの3カ月間で45.7万人(うち外国人11.8万人)を超えており、過去最高となることはほぼ間違いない。 近年の外国人来館者数の増加はインバウンドブームと無縁ではない。「JRの訪日外国人向けツアーでは宮島とここ(平和記念公園)がセットになっているし、外国人がよく使う観光情報サイトでも、ここが必見のスポットとして紹介されているらしい」(広島市内のタクシー運転士)。
・外国人来館者は主に「あくまで自分の肌感覚だが、アメリカ、イギリス、フランスやロシアといった欧米諸国の人が多く、アジアだとインドやパキスタンの人。台湾や香港の人は希にいるけれど、中国本土の人は来ていない気がする」(平和記念資料館で入館者の案内役を務めるヒロシマピースボランティアの村本純二氏)という。
・村本氏は英語が話せるため、外国人来館者と直接話す機会も少なくない。母国が核保有国であっても「驚くほど核に対する知識がなく、怖さを理解していない。母国が核を保有していることは知っていても、何発持っているかとか、世界中で1万5000発存在していることとか、一部の国同士の紛争でそのごく一部が使われただけで、発生する煙によって地球全体の日光が遮断され、甚大な農業被害が引き起こされて食糧危機が起きるということも知らない。ほんの少し使っただけで地球全体が壊れる、と言うと驚く」という
▽喪服を着て、毎日供養塔に通い続けた
・今年で47回目を迎えた大宅壮一ノンフィクション賞。今年度の書籍部門の受賞作品は『原爆供養塔-忘れられた遺骨の70年』だった。著者は広島テレビ出身のジャーナリスト堀川恵子氏。原爆投下直後に広島市内に入って被爆した、入市被爆者・佐伯敏子さんの半生を軸に、20年以上に渡る取材を経て執筆した大作である。
・タイトルの原爆供養塔とは、7万人もの被爆者の遺骨が無縁仏として安置されている、平和記念公園の片隅にある慰霊の塚である。佐伯さんは、1970年代後半から約20年に渡って毎日欠かさず喪服を着てここに通い続け、周囲を清掃し、近くのベンチに腰掛け、時には語り部として体験を語り一日を過ごした人だという。健康上の理由で今は通えなくなったが、現在もご存命である。
・オバマ大統領と抱き合う姿が世界中のメディアで報じられた森重昭氏は、8歳の時に被爆。戦後は会社勤務の傍ら、1974年から30年以上にわたり、被爆した米兵捕虜の身元調査を続けた。被爆者に国籍は関係ない、という思いで続けた調査によって、最終的に12人の身元を特定。原爆による死没者として広島市の名簿登録を行う一方、遺族に被爆の事実を伝える活動を続け、自費で慰霊碑もたてた。その経緯をしたため、2008年に『原爆で死んだ米兵秘史』を上梓している。
・「広島文学資料保全の会」は、原民喜、峠三吉、栗原貞子といった被爆作家の作品を後世に残すべく、ユネスコの世界記憶遺産への登録を目指している。 これまで原爆に関する多数の書籍が世に送り出されてきたにもかかわらず、世の中にはなかなか伝わらない。原爆投下から70年以上が経過し、被爆者は次々と鬼籍に入り、語り部も減っていく。原爆がもたらした結果を原爆を投下した当事国の大統領にその目で見てほしい、実際に見れば何をしたのかがわかるはず――。
・米国大統領による広島訪問は、被爆者のみならず「原爆」を後世に伝えたい人々の悲願であったことは間違いない。だが、謝罪はなく、大統領のわずか数列うしろには、核攻撃命令の暗号を収めたブリーフケースを持った将校が待機していたわけだから、複雑な思いで受け止めている人たちも当然居る。
▽「原爆はほとんどトラウマ」
・「広島文学資料保全の会」代表の土屋時子氏は、「被爆者がオバマ大統領と安倍(晋三)首相の政治パフォーマンスに利用された感がある」という。 小学校入学から高校卒業までの12年間を広島で過ごし、現在は米国在住の40代の男性は「毎年8月が来るたびに原爆に関する教育を受けてきた。原爆はほとんどトラウマ」と言う。資料館の展示資料は、おそらく大抵の人に原爆の悲惨さ、残酷さを直感的に理解させる。それだけに大人でも受け止めるのはかなりしんどい。子供ならなおさらだろう。
・だが、トラウマと引き替えに、核や戦争、憲法、政治に対する自分の考えを整理する機会は否応なく得た。日本ではこの類の話題は敬遠されるだけだが、米国では周囲の知人が普通に議論を挑んでくる。日本に住む同世代の日本人男性で、この類の議論を挑まれ、まともに応えられる人は果たしてどのくらいいるだろうか。
・オバマ大統領訪問については、「政治パフォーマンスの形でなければ訪問は実現するはずがなかった。それでも少なくともオバマ大統領がその目であの展示資料を見たという事実は評価していいと思う」という。
・ピースボランティアとして働く川本省三氏はいわゆる原爆孤児である。小学校6年生の時に疎開中に原爆が投下され家族を失った。後日広島市内に入った入市被爆者でもある。 原爆孤児で施設に引き取られた人はごく一部。戦後間もない時期、多くの原爆孤児の生活を支えたのは復興の過程で経済力を握って台頭した暴力団。それが、実際に広島で起きた暴力団同士の抗争を扱った、深作欣二監督の名作「仁義なき戦い」に繋がっていく。 生活を支えられたとは言っても、飢餓の恐怖に苛まれながら過酷な労働を強いられ、被爆時点で学歴が止まったまま大人になった人が多いという。筆舌に尽くしがたい苦労ゆえか、自らの経験を口にする原爆孤児はごく少数派。川本氏は極めて貴重な語り部である。
・「持っている人から奪わなければ生きていることすらできない。それが現実だったことを、正直、何不自由ない暮らしが当たり前の現代の子供たちに理解してもらうのは難しい。それでも平和であることは当たり前ではないのだということを、少しでも多くの人に伝えたくてこの仕事をしている」。
▽2度と繰り返さないでほしい
・オバマ大統領の訪問については「様々な受け止め方があるのは仕方がない。ただ、自分は責め合う気持ちにはなれない。なぜあんなことが起きたのかを子供たちに知ってもらい、2度と繰り返さないでほしいと願うのみ」だという。 大統領訪問に対する海外メディアの反応は総じて微妙だった。特に周辺国の反応は「被害者面は許さない」――。
・堀川恵子氏の言葉を借りるなら、「戦争がもたらす不条理は、いつも非力な立場にある人たちへと押し寄せる」。そして「貧しく、弱い立場の者から矢面に立たされ殺されていく」。周辺国の非難の矛先は一個人に向けられたものではなく、国家に向けられたものではあろうが、これほどの被害に遭った人たちが、今もなお矢面に立たされ続けているということを思い知らされる。 もうすぐ8月6日が、そして8月9日がやってくる。
http://toyokeizai.net/articles/-/127571
第一の記事の「原爆投下の「正当性」に関する世論調査の1945年と2015年の比較には余りに年月が経ち過ぎて、やや無理がある気もした。むしろ、2015年時点でも投下支持が56%もあることに、改めて驚かされた。「核のフットボールとビスケット」の持ち込みについては、保有国である限り、その責任の一環で当然と思う。むしろ、問題なのは、『新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められる予定』、であろう。米科学者連盟(FAS)の提言を、「ヒラリー次期大統領」が着実に実行してくれることを期待するが、産軍複合体との関係から、期待薄かも知れない。
第二の佐藤氏は、遠慮し過ぎたためか厳しい質問をせず、物足りないが、オバマ演説の絶妙なレトリックを知るために紹介したものである。さすが「演説巧者」だけあって、その場で聞いていれば、恥ずかしながら「感動させられた」に違いない。面白かったのは、サッチャー教授が、『中国や韓国など、日本政府が日本の戦争責任をめぐる論議を終わらせてしまう口実になるのではないか、という懸念を示した国もありましたから、複雑な政治状況であったことは確かです』、といまだに戦争責任にこだわる中国や韓国に言及した点である。
第三の記事で、ヒロシマピースボランティアの村本純二氏が、『母国が核保有国であっても「驚くほど核に対する知識がなく、怖さを理解していない』、というのはそうだと思うし、だからこそ、平和記念資料館やピースボランティアが重要なのだろう。 『周辺国の反応は「被害者面は許さない」』、というのは、私は理解できる。あえて誤解を恐れずに言えば、被爆者の方々は、被害者であると同時に、日中戦争から太平洋戦争に至る加害国の国民でもあったことは否定すべくもない。無論、戦後直後の東京に生まれた私には、被爆者の方々の苦しみは、マスコミを通じた知識しかないとはいえ、筆舌に尽くし難い苦しみを味あわされたことには、心底から同情を申し上げる立場にあることはいえまでもない。しかしながら、他方で、日本が周辺国に塗炭の苦しみを与えたことも忘れてはならない。周辺国も含めた世界からの理解を得る上では、被爆者が一方的に被害者であるとするのではなく、加害者でもあったことも同時に認める方が理解を得やすいのではなかろうか。被爆者への最大の加害者は米国もさることながら、それ以上に、「国体護持」にこだわって長崎への投下まで降伏を拒否した日本の軍国政府・体制であったと考えるべきと思う。
先ずは、5月30日付けダイヤモンド・オンライン「オバマ歴史的訪問でも「核なき世界」にほど遠い米国の現実」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・伊勢志摩サミット終了後の27日夕方、アメリカのオバマ大統領が広島市の平和記念公園を訪れた。原爆投下から約71年。現職の米大統領による被爆地訪問や献花は歴史的瞬間となり、17分に及ぶスピーチの中で「核を保有する国々は、勇気をもって恐怖の論理から逃れ、核兵器のない世界を追求しなければならない」といった言葉を広島から世界に発信した。しかし、オバマ大統領が就任当初から取り組んできた世界規模の核軍縮や核不拡散は、現在も紆余曲折の途上といえる。
▽オバマ訪問で厳戒態勢の広島市内 原爆使用の是非に米では世代間ギャップも
・アメリカのオバマ大統領が平和記念公園を訪れるため、27日の広島市内は朝から市内各所に多くの警察官が配置され、平和記念公園周辺では100ヵ所以上で検問も行われた。「これまでにも広島を訪れた外国の政治家はたくさんいましたが、こんなに凄い警備を目の当たりにしたのは初めてです」と苦笑しながら語るのは市内のタクシー運転手の男性。27日正午過ぎのことだ。市内ではパトロールなどを行う警察官の姿が随所で確認でき、制服から兵庫県警や熊本県警から派遣されてきたこともわかる。広島県警は11の都府県から約2000人の応援を得る形で、約4600人の警察官を動員して、オバマ大統領の到着に備えた。
・核兵器を実戦使用した唯一の国であるアメリカの現職大統領による初の広島訪問は、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞の契機となった2009年4月の「プラハ演説」の流れもあり、数時間の広島滞在で何を行い、どのような言葉を発するのかに注目が集まった。広島市の平和記念公園周辺には27日の朝から大勢の人が詰めかけ、中には外国メディアの関係者も少なくなく、伊勢志摩サミットの取材で来日したドイツ公共放送の女性記者は筆者に対し「どのような演説が行われるのかはわかりませんが、現職の米大統領による広島訪問そのものが歴史的な瞬間になるでしょう」と語ってくれた。
・27日正午までは公園に入場規制がかけられなかったため、多くの人が平和記念公園を訪れていた。広島市民に加えて、海外からの観光客や、メディアの関係者も少なくない。オバマ大統領を一目見ようと公園を訪れたというアメリカ人男性に話を聞いた。 「とてつもなく悲劇的なことですね。個人的には開発した原子爆弾が本当に使えるのかを確認するための実験的な意味合いもあったのではないかと思いますが、人それぞれで見方は異なると思います。どのような理由であれ、原爆の使用は人道に対する犯罪だったと思います」
・アメリカ人男性は原爆投下についての見解を語ってくれたが、今でもアメリカでは原爆使用は戦争を終結させて多くのアメリカ人兵士の命を救うために必要だったという考えが根強く残っている。同時に「抑止力としての核兵器保有」を正当化する声もまだまだ根強い。しかし、核に対する考えでは世代間ギャップも生じているようだ。
・オバマ大統領が1期目から自らに課した大きなタスクの一つが、核軍縮と核不拡散の推進だ。しかし、「核兵器をなくす」という考えにはアメリカ国内でも世論が二分している。CNNが2010年に実施した世論調査では、回答者の49%が「アメリカを含む数ヵ国は、他国の攻撃に備えて核兵器を保有すべき」と答えている。同様の調査が行われた1988年、回答者の56%が「世界中からすべての核兵器をなくすべき」と答えていたが、冷戦終結後の現在の方が核兵器保有を支持する声が多いのは皮肉な話だ。
▽原爆投下の「正当性」に関してはアメリカ人の意識も様変わり
・核兵器を巡る世論調査には、第二次世界大戦末期の広島、長崎に対する原爆投下の「正当性」に関するものもある。こちらに関しては、時間の経過とともに原爆投下に否定的な見方をするアメリカ人が増えてきているが、「原爆を使用しなければ、より多くのアメリカ人が戦地で命を落としていた」という考えはアメリカ社会に根強く残っている。
・1945年にギャラップ社が実施した世論調査では、回答者の85%が広島への原爆投下を支持したが、それから70年後の2015年にピュー・リサーチ・センターによって行われた世論調査では、広島と長崎に対する原爆投下を支持するアメリカ人は56%にまで減少していた。70年の間にアメリカ人の原爆投下に対する意識の変化が徐々に生じているように思えるが、原爆投下に対する見方には世代によって温度差が存在し、1980年代から2000年代初頭に生まれたいわゆる「ミレニアル世代」においては原爆投下に対する否定的な意見がより顕著になっている。調査に携わったピュー・リサーチ・センターのブルース・ストークス国際経済世論調査部門ディレクターが、調査結果から垣間見えるアメリカ国内の世論の変化について語る。
・「原爆投下に関する世論調査で、原爆投下は正しい判断だったとする声が、なぜこれだけ減少したのかを完全に知りうることは不可能ともいえる。ただ、一つの要因として過ぎ去った時間の存在を挙げることは可能であろう。広島での原爆投下や第二次世界大戦はそれぞれ『歴史』の中に消えてゆき、戦争体験者の数も減少傾向にある。高齢のアメリカ人と比較した場合、アメリカの若い世代の間では、原爆投下を正当化しようと考える人の数が少ない。我々の調査では、65歳以上のアメリカ人の70%が原爆投下の正当化を支持しているが、18歳から29歳までの若い回答者になると、原爆投下の正当化への支持は47%にまで急落する。
・年齢別だけではなく、性別や支持政党でも、原爆投下をめぐって意見が分かれていることが分かる。共和党員の74%が原爆投下を支持し、民主党員の場合は52%だった。原爆投下の正当性を支持した男性は62%に達したが、女性は50%だった。また、白人と非白人(ヒスパニックを含む)でも見解の違いは大きく出ている。白人の65%が原爆使用は正しかったと答えたが、同じ回答をした非白人は40%であった」
▽訪問で日米間のギャップは埋まらない米保守派からは「弱腰外交」と批判も
・調査結果からは、原爆投下に対する日米のギャップが少しずつ埋まりつつある傾向も見える。ストークス氏が再び語る。 「(2015年に行った)調査では、原爆投下に対する日本とアメリカにおける見解のギャップが狭まってきたことを確証するものはなかった。しかし、より多くのアメリカ人が原爆投下の正当性に否定的な見解を示すようになり、その点では日本人が長年にわたって抱いてきた思いに近づいているとも言えるだろう」
・米ランド研究所のアジア太平洋政策センターでアソシエイト・ディレクターを務めるスコット・ハロルド氏は、オバマ大統領の広島訪問によって日米間の原爆使用を巡る認識のギャップが埋まるという考えには否定的であったが、広島訪問が世界に向けて大きなメッセージを発信すると確信している。 「オバマ大統領の広島訪問によって日米間のギャップが縮まるとは思えない。なぜならば、今回の訪問は戦争被害に苦しんでこられた方々に敬意を表し、同時に世界の核保有国に対して被爆地の広島からメッセージを送る目的で計画されたからだ。アメリカはロシアや中国、パキスタンやイランといった国々、さらには北朝鮮に対して、核兵器の配備や使用を決して行ってはならないという姿勢を打ち出す必要がある」
・原爆使用の正当性を巡って、世代間で見解が異なるアメリカの国内事情については先に述べたが、メディアの論調も様々だ。「ネオコン」の中心的人物として知られ、ブッシュ政権時に国連大使を務めたジョン・ボルトン氏は26日、ニューヨーク・ポスト紙に「オバマの恥ずべき謝罪ツアーが広島に上陸」と題したコラムを寄稿し、キューバとの国交回復や広島訪問といったオバマ外交を激しく批判している。
・ブッシュ政権時に見られた強硬な外交スタイルがオバマ政権下では用いられないことに苛立ちを隠さず、これまでのオバマ外交を弱腰と批判する姿から、ネオコンの中枢にいたボルトン氏の外交スタンスが垣間見えるが、彼もまた、高齢者を中心に広く浸透している「原爆投下によって、結果的に多くのアメリカ人兵士の命が救われたのだ」という考えをコラムの中で強調している。
・ジョージ・メイソン大学でアメリカの戦史を教えるクリストファー・ハムナー准教授は、保守系コメンテーターらがオバマ大統領の広島訪問を批判したことについて、予期できたことだったと語る。でっち上げられたような怒りは現在のアメリカ政界で保守派とリベラルの両方が用いる手法で、相手の上げ足を取るような政治手法常習化しているのだという。ハムナー准教授は、5月30日に国民が戦没者に追悼の意を表す目的で「メモリアル・デイ」という祝日が作られ、その直前にオバマ大統領が広島を訪れたことに注目している。退役軍人への配慮は非常に重要視されているようだ。
・「オバマ政権関係者はこれまでに何度も退役軍人らで作るグループと接触を図り、彼らがオバマの広島訪問に激しく憤慨しても、それをなだめることのできる関係を構築していた。1995年にスミソニアン博物館が広島に原爆を落としたエノラゲイの展示を含む原爆展を企画した。しかし、これは退役軍人グループを激怒させ、結果的に展示は中止に追い込まれている。退役運人の存在を考慮して、当初からオバマ大統領が広島で謝罪をする計画はなかったが、彼のスピーチは多くの人の心に届いたのではないか通っている」
▽広島にも持ち込まれた「フットボールとビスケット」 「核なき世界」の実現に逆行する1兆ドルの巨大計画
・27日夕方に広島市の平和記念公園を訪れたオバマ大統領は、17分間の演説の中で「核なき世界」を目指そうと、世界に向けてメッセージを発信した。また、現職の米大統領が広島を訪れ、平和記念公園内で献花を行い、被爆された方と抱き合ったシーンは歴史的な瞬間として各国のニュースで取り上げられた。一方で、核軍縮や核不拡散を具体的にどう進めていくのか、アメリカがどのくらい本気でその問題に取り組もうとするのかという点には疑問が残ると言わざるを得ない。
・米英の複数のメディアは、「核のフットボールとビスケット」の存在を取り上げ、これらがオバマ大統領の広島訪問の際にも現地に持ち込まれていたと伝えている。「核のフットボール」とは、黒皮に包まれた重さ約20kgのアタッシュケースを指す俗称で、中には米大統領が核兵器の使用を許可するための通信機器が入っている。大統領がホワイトハウスを離れる際には、このアタッシュケースを持った軍事顧問が必ず大統領に同行する。大統領はまた「ビスケット」とよばれる特別なカードキーを常時携帯しており、アタッシュケース経由で米軍に核兵器使用を許可する場合に、カードキーを使って大統領本人であるという認識作業が必要になるのだという。
・「核のフットボール」はキューバ危機に直面したケネディ政権から本格的に使われるようになった。カードキーをスーツのポケットに入れっぱなしだったカーター大統領が、誤ってカードキーの入ったスーツをドライクリーニングに出してしまったという話や、暗殺未遂事件の際に病院に運ばれたレーガン大統領とアタッシュケースを持った軍事顧問が離れ離れになってしまったというエピソードが残っているものの、基本的には米大統領の近くには「核のフットボール」を持った軍事顧問が常にいる。それが広島であっても、だ。
・「核のフットボール」は核保有国アメリカを象徴する代物だが、アメリカ国内における核兵器に関連した政策に目を向けても、オバマ大統領が世界に向けて発信した「核なき世界」の実現はまだまだ遠い先の話のようだ。
・米軍は昨年から新型核爆弾「B6112型」を飛行中の爆撃機から投下する実験を開始し。1966年から現在までに3000発以上の「B61」が配備されてきたが、現在開発中の12型にはより多くの電子機器が組み込まれ、精密爆撃が可能になるとニューヨークタイムズ紙は今年1月に伝えている。だ。国内の政治的な駆け引きでオバマ大統領が譲歩せざるをえなかったという指摘もあるが、対外的なメッセージとして「核なき世界」を声高に叫ぶオバマ政権が、自国の核兵器の削減に及び腰では批判を受けるのも当然だ。
▽前出のハムナー准教授が、オバマ大統領の苦悩について語る新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められる予定
・「(核兵器改善計画の存在は)オバマ大統領の政策がブレているというよりも、むしろ民主主義における連立政治の機能の問題ではないかと思う。とりわけ、世界の安全保障や外交関係といったテーマでは議会の動きにも目を向けるべきだ。オバマ大統領が掲げる世界平和への取り組みの中で『核なき世界』の実現は大きなカギとなっている。
・ただ、取り組みは非常に長い時間を要するもので、スーパーパワーと呼ばれる大国が一国で推し進められるものでもなく、大統領一人の権限で事態が大きく変化するというようなものでもない。核兵器や核兵器の貯蔵庫などは新しくされるべきだ。核兵器で用いられる技術には寿命があり、コストはかかるが、安全面で新しくする必要がある」
・加えて、オバマ政権下で実際に削減された核兵器の数が、冷戦後の歴代政権の中で最も少なかった事実も判明している。ブッシュ政権下(2001~2008年)で約5300発の核兵器が削減されたのに対し、オバマ政権下で削減された核兵器は約700発に過ぎず、2013年に米国防総省から議会に提出された報告書に記された削減可能数よりも少ない。ロシアとの関係悪化などが原因で、オバマ大統領が就任当時に描いていたような形で自国の核兵器削減を推し進められなかったとする指摘も存在するが、オバマ大統領の核軍縮ビジョンは現時点で「有言実行」と言えないのも事実だ。
▽オバマ大統領が残る任期で実現可能な核兵器削減政策とは
・マンハッタン計画に従事した原子力科学者らを中心に1945年に結成され、現在も非営利組織として核兵器の廃絶や国際的な安全保障政策などの分野で提言を行う米科学者連盟(FAS)は26日、同団体のハンス・クリステンセン核情報プロジェクト代表によるオバマ政権の核兵器削減の取り組みに対する提言をウェブサイトで公開した。
・ロシアとの関係悪化に加えて、米議会における政党間対立が原因となってオバマ大統領が核軍縮をアメリカ国内で行えなかった事に一定の理解を示しながらも、オバマ大統領が残りの任期中にできる事はまだまだ存在するとの見解を示している。クリステンセン氏は核兵器の削減では政党間対立を繰り返す米議会が、前述の核兵器性能改善計画ではほぼ全会一致で承認する姿勢を見せた点に、イデオロギー対立の弊害があるとも指摘している。
・オバマ大統領が残りの任期で実現できる具体的な事案として、2020年代中ごろまでに旧式の核爆弾や海上発射ミサイルを一線から退かせる計画を今すぐに行うこと、新型空中発射核ミサイルの開発計画の早急な中止、もしくは計画の延期、国内での事故やトラブルを避け、ロシア側にも警戒レベルを引き下げさせる目的で、アメリカの核兵器警戒レベルの早急な引き下げも提案している。また、オバマ大統領が任期中にこれらを実現できなかった場合には、「ヒラリー・クリントン大統領」がオバマ氏の後始末をきちんとすべきだとの表現で、クリステンセン氏は提言の最後を締めている。
・原爆投下に対するアメリカの世論が少しずつ変化を見せるまでに70年を要したが、「核なき世界」の実現にはどのくらいの時間が必要なのだろうか?オバマ政権の残りの8ヵ月、そしてポスト・オバマ時代に核兵器は世界的な規模でどのような扱いになるのだろうか?プラハと広島のスピーチでは世界に向けて「核なき世界の実現」を提唱したオバマ大統領だが、実現へのロードマップは果てしなく長い。
http://diamond.jp/articles/-/92064
次に、作家/コンサルタントの佐藤智恵氏が6月3日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ハーバード大教授が徹底解説!オバマ広島訪問の本当の理由 サンドラ・サッチャー教授に聞く」を紹介しよう(▽は小見出し、+は回答のなかでの段落)。
・ハーバードビジネススクールでリーダーシップの専門家として数多くの講座を受け持つサンドラ・サッチャー教授。特にリーダーの決断とモラルについて議論する選択科目「モラル・リーダー」は、ハーバードの看板授業だ。授業でトルーマン大統領(当時)の原爆投下について教えているサッチャー教授は、今回のオバマ大統領の広島訪問をどのように評価したのか。徹底解説してもらった。(聞き手/佐藤智恵インタビュー〈電話〉は2016年5月29日)
▽オバマ大統領の広島訪問に対するハーバード大教授の評価とは?
・佐藤サッチャー教授はハーバードでトルーマン大統領の原爆投下について教えていますが、今回のオバマ大統領の広島訪問をどのように評価しますか。
・サッチャーオバマ大統領はとても勇気ある決断をしたと思います。中国や韓国など、日本政府が日本の戦争責任をめぐる論議を終わらせてしまう口実になるのではないか、という懸念を示した国もありましたから、複雑な政治状況であったことは確かです。そんな中で大統領は現在の政治状況を包括的に見た上で、広島訪問を決断しました。 リーダーシップの観点から見ても、オバマ大統領は正しい決断をしたと思います。なぜなら彼は広島で3つの重要なメッセージを世界に伝えることができたからです。
+1つめは、原爆投下という歴史から学ぶこと、原爆の犠牲者や遺族に人間としての思いやりを示すことがいかに大切かということ。2つめが、アメリカは自国の行動について責任をとる国なのだ、ということ。そして、最後に、どの国にとっても、自国の歴史と向き合い、歴史から学ぶことは重要だ、ということです。
・佐藤オバマ大統領は、世界の模範となるリーダーシップを示したと言ってもいいのでしょうか。
・サッチャーとても力強い「モラルリーダーシップ」(道徳的なリーダーシップ)を示したと思います。現職大統領の広島訪問は、オバマ大統領のリーダーシップなくしては実現できなかったでしょう。
▽広島訪問に込められた5つの目的
・佐藤広島でのオバマ大統領の演説は、私たち日本人だけではなく世界の人々の心を打つ歴史的なスピーチであったと思います。サッチャー教授は、この演説内容をごらんになって、オバマ大統領のどのような思いを感じましたか? 大統領の広島訪問の真意はどこにあったのでしょうか。
・サッチャーオバマ大統領のスピーチの全文を注意深く読み解いていくと、広島訪問には5つの目的があったことが分かります。
+まず1つめは、原爆投下の犠牲者を哀悼することです。オバマ大統領は多くの方々が亡くなったことだけではなく、死に至るまでの過程でどれほど苦しんだかについても言及しています。例えば、次のような箇所です。 「私たちは、(原爆投下によって亡くなった)10万人を超える日本人の男性、女性、そして子どもたち、数千人の朝鮮半島出身者、12人の米国人捕虜を悼むために(広島を)訪れるのです。 ここ広島の中心に立てば、原子爆弾が投下された瞬間、人々がどんな思いをしたか、想像せざるをえません。目の前で起きた出来事に、子どもたちはどれほど混乱し、怖い思いをしたか。それを感じ、彼らの無言の叫びに耳を傾けるために広島を訪れるのです。あの恐ろしい戦争で、それ以前、あるいは、それ以降に起きた数々の戦争で、多くの罪なき人々が亡くなりました。私たちは犠牲となった全ての人々のことを忘れないために、ここを訪れるのです」 (出所:ホワイトハウス公式ウェブサイト、翻訳:筆者、以下同)
+2つめは、人間の絆、つまり、すべての人間は、人間性という共通の絆でつながっていることを伝えることです。それは次のような箇所に象徴されています。 「私たちが広島を訪れるのは、愛する人々のことを思うためです。朝一番に笑顔を見せてくれる子どもたち、食卓越しに優しく手を触れてくれるパートナー、そして、愛情いっぱいに抱きしめてくれる父親や母親。こうした人たちのことを思い浮かべれば、71年前、亡くなった人々にも同じように大切な人との大切な時間が流れていたことが分かります」
+3つめは、“人類が抱える根源的な矛盾”について語ることです。彼はその矛盾を次のように説明しています。 「私たちの思考力、想像力、言語能力、道具を作る能力、自らを自然と区別し、自然を意のままに変化させる能力、これらは人類だけが持つ特別な能力ですが、同時にとてつもない破壊力をもたらすものでもあるのです」
+4つめは、世界の国々にとって、自国を防衛することは必要不可欠なことですが、武力を行使する際には、道徳的なルールに基づいていなければならないということです。意見が違う人々に対しても、人間性を尊重しなさい、というメッセージが、次のような箇所から読み取れます。 「広島はこの真実を教えてくれます。人間社会が科学技術と同じスピードで進化していかない限り、技術が人類を破滅させることもあるのです。科学の分野で原子分裂という革新がおこったのであれば、同じように人間社会のモラルもそれに応じて革新していかなければなりません。 私たちは戦争そのものへの考え方を変えなくてはなりません。外交によって紛争を防ぎ、すでに始まった紛争については終結させる努力をしなければなりません。世界の国々はますます相互依存を高めるようになっていくことでしょう。しかしそれは、暴力的な対立ではなく、平和的な協力関係につなげていくべきです。他の国を破壊する能力ではなく、何を築き上げてきたかによって、国としての価値を評価されるべきなのです」
+そして5つめは、歴史から正しい教訓を学び、よりよい世界を築き上げることに貢献してほしいという願いを世界の人々に伝えることです。 「なぜ私たちはここ、広島を訪れるのでしょうか。そう遠くない昔に、この地に放たれた恐ろしい力について深く考えるためです。(中略)ここで亡くなった方々の魂が私たちに語りかけます。自らの心の中をのぞき、あなたは何者で、何ができるかを考えよと。 私たちには、歴史を直視する責任があります。こうした悲惨な出来事が二度と起こらないようにするために何が出来るかを自問すべきなのです。 何よりも大切なのは、私たちが人類の一員であることを認識し、お互いの関係をよりよいものにしていくことです。これもまた、人類だけがもつ特殊な能力です。私たちの運命は遺伝子によって決まっているわけではありません。過去の失敗を繰り返すように定められているわけではないのです。私たちは学ぶことができるし、選択することもできる。子どもたちに新しい物語を伝えることができます。戦争が起こることもなく、残虐な行為が許容されることもなくなった、新しい世界の物語を伝えることができるのです」
▽すべてのリーダーをめざす人々に模範的な行動を示したオバマ大統領
・佐藤確かにサッチャー教授に分析していただいた上で、演説をあらためて読み返すと、「広島を訪れる理由」が何度も強調されていることが分かります。 戦後71年たった今年、現職の大統領による広島訪問は、なぜ実現したと思われますか。やはりオバマ大統領でなければ実現できなかったでしょうか。
・サッチャーオバマ大統領の行動から判断するに、彼は何よりも被爆者の方々に直接会いたかったのだと思います。彼は思いやりに満ちたリーダーで、これまでもアメリカ国内でも様々な事件の犠牲者のもとに自ら出向き、面会しています。 アメリカが冒した行為によって苦しんできた人々に、大統領自らが会いに行き、彼らのことを思いやる。これはすべてのリーダーをめざす人々にとって模範になるのではないでしょうか。
+日本の被爆者、そして、遺族の方々もまた、オバマ大統領の気持ちを思いやっていたように思います。現職のアメリカ大統領として広島を訪れ、「広島で起きた悲惨な出来事から教訓を学びましょう」というのは、道徳的な葛藤もあったと思います。しかし、そうした葛藤や大統領の思いを被爆者の方々も深く理解していたように感じました。
・佐藤アメリカ国内でも事件の犠牲者に直接、会いにいったとのことですが、最近ではどのような例がありましたか。
・サッチャー最近では米カリフォルニア州の福祉施設で発生した銃乱射事件で犠牲者となった方々の家族に直接会いに行きました。
・佐藤2015年12月、カリフォルニア州サンバーナディーノで14人が犠牲者になった銃乱射事件ですね。ミシェル夫人とプライベートで訪れ、犠牲者の遺族らと3時間近くにわたって面会したそうですね。
・サッチャーそうです。アメリカでは銃規制が不十分であるために、銃による事件が後を絶ちません。そのため、オバマ大統領はいわゆる“銃犯罪による犠牲者の喪主”としての役割を担い、犠牲者や遺族に思いやりを示すことによって、銃がもたらす危害を訴えているのです。アメリカだけではなく他国でも同じ問題を抱えていますが、オバマ大統領は、銃規制を強化しなくてはならないという姿勢を明確にしています。
+オバマ大統領は、共感力の高いリーダーであり、傷ついている人々の気持ちに寄り添うことができる人なのだと思います。広島訪問は、こうしたオバマ大統領の人間性を象徴していると思います。
▽オバマ大統領のモラルリーダーシップはいかに形成されたか
・佐藤オバマ大統領はなぜ犠牲者や弱者に対して、特別な思いやりを示すのでしょうか。やはり彼が国際的な環境で育ってきたことも影響していますか?
・サッチャー オバマ大統領が最初に執筆した自伝『マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝』には、彼が若い頃、アイデンティティー問題に苦しんだことが書かれています。 彼は「自分が何者であるか」について常に考え、その現実をありのままに受け入れようとしてきた人です。ケニア出身の父親とアメリカ人の白人の母親との間に生まれたことが、自分の人生にどのような影響を与えてきたか、について、かなりのページを割いて書いています。『こうした両親のもとに生まれたことは、多くの利点をもたらしたが、同時に人生を複雑にもした』『自分は何者であるかを問い続けることで、ようやく人生が満たされた』といった内容が書いてありました。
+オバマ大統領は、ハーバードロースクールを修了後、シカゴのコミュニティーオーガナイザーになります。そこで恵まれない黒人の人々が、必要な社会資源が得られるように、行政に訴えかける活動をはじめたのです。コミュニティーの人々がお互いに協力しながら生活を向上させ、生活環境を改善するための手助けをしました。
+つまり彼には政治家になるまでの過程で、自分のアイデンティティーを追求してきた長い歴史があるのです。自分の生い立ち、インドネシアでの居住経験、家族環境などすべてを受け入れようとしました。だからこそ、彼の考え方は国際的なのだと思います。世界には様々な人々がいて、それぞれ自分とは違っている点もあれば、共通点もある。その事実を偏見なく受け入れられるのです。
・佐藤オバマ大統領が広島訪問を決断するにあたって、最も大切にした価値観は何でしょうか?
・サッチャー人間にとって最も重要な価値観とは何か、を考えて、決断したと思います。人間同士をつなげている価値観とは何だろう。人々がよりよい市民となり、お互いの意見を尊重するような世界にするために必要な共通の価値観とは何だろう。私たちが過去、そして、未来の行動に対して責任をとるために、そして、人間がさらに学び、変化し、成長していくためには、どんな価値観が必要だろうか。こうしたことを考えて決断したと思います。 「平和」と「核なき世界」というのは単なるスローガンではありません。どれほど実現が困難で、多大な時間と労力を要したとしても、現実的な目標であるべきなのです。
・佐藤「人間にとって最も重要な価値観」とは、一言でいえば、道徳観のことでしょうか。
・サッチャーそうです。人間としての道徳観です。モラルリーダーシップの核心は、他人の人間性を尊重することです。それはまさにオバマ大統領が広島での演説で伝えたことであり、広島を訪問するという行動で示したことです。同じように、オバマ大統領を受け入れた被爆者の方々もまた、高い道徳観を示されたと思います。
+私は個人的に被爆者の方々が謝罪を求めるのではなく、核なき未来を実現してくださいと伝えたことに、とても感銘を受けました。被爆者の方々は、私たちには現在だけではなく、次世代のために未来を築き上げる責任があることを示しました。これは非常に重要で、道徳的な行為であったと思います。
・佐藤被爆者の方々もまた、モラルリーダーシップを示した、と考えますか。
・サッチャーそのとおりです。これほどの苦しみを与えた相手に対して、怒りや恨みを持ち、「生きている限り、絶対に許さない」と思うのも当然のことです。にもかかわらず、被爆者の方々は、「核なき世界の実現に向け、一緒に取り組みましょう」とおっしゃった。これは人間の精神の偉大さや高い品格を象徴する姿勢であり、被爆者の方々は日本だけではなく世界中の人々の模範となるリーダーシップを示したと思います。
http://diamond.jp/articles/-/92393
第三に、7月18日付け東洋経済オンライン「オバマ訪問1カ月、広島は何が変わったのか 外国人の訪問は急増しているが…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国のオバマ大統領が被爆地の広島を訪れて1カ月あまりが経過した。訪問当時はあれだけ注目された「広島」も今ではほとんどニュースになることがない。あの嵐のような"事件"を広島はどのように受け止めたのか。そして何が変わり、何が変わっていないのか。現地を取材した。
・オバマ大統領が広島を訪問した"効果"は絶大だった。訪問翌日の5月28日(土)とその翌日の29日(日)2日間の広島平和記念資料館の来館者数は合計1万3389人を記録。このうち2869人が外国人だった。1年前の5月最終の土日と比較すると、来館者数は2倍、外国人も2倍に増えた。
・6月1カ月間を見ても、来館者数は前年同月比41.8%増の14万8432人。外国人に限定すると56.5%増、修学旅行など団体を除くと実に64.1%も増えた。 さらに、6月1カ月間の来館者数をデイリーに追ってみると、6月は修学旅行が一段落する時期であるためか、昨年同様、総入館者数は月末に向けて若干落ちているが、外国人の訪問は逆に増えている。6月9日以降、オバマ大統領が記したメッセージ、オバマ大統領自身が折り、メッセージに添えられた折り鶴2羽、そして資料館でオバマ大統領を出迎えた子供たちに、オバマ大統領が手渡した折り鶴2羽の計3点の展示が始まったことも影響しているかもしれない。
▽増加著しい外国人入館者
・開館初年度の1955年度に11万人強だった平和記念資料館の入館者数は、1971年度に100万人を突破。年度によって多少の増減を繰り返しながら、1991年度には159万人に達したが、その後は減少に転じた。2004年度の106万人を底に、2009年度にいったん140万人まで回復するも、東日本大震災が発生した2011年度には121万人に減った。だが、2012年度からは徐々に回復。2015年度は突如前年比18万人、率にして13%の増加となり149万人になった。 大幅増の主たる要因は外国人の増加だ。2014年度は23万4360人だったが、2015年度は33万8891人。前年比で10万人、率にして44%もの伸びとなった。前年比半減の9万6510人に激減した2011年度と比較すると、2015年度はその3.5倍だったことになる。
・今年度は既に6月までの3カ月間で45.7万人(うち外国人11.8万人)を超えており、過去最高となることはほぼ間違いない。 近年の外国人来館者数の増加はインバウンドブームと無縁ではない。「JRの訪日外国人向けツアーでは宮島とここ(平和記念公園)がセットになっているし、外国人がよく使う観光情報サイトでも、ここが必見のスポットとして紹介されているらしい」(広島市内のタクシー運転士)。
・外国人来館者は主に「あくまで自分の肌感覚だが、アメリカ、イギリス、フランスやロシアといった欧米諸国の人が多く、アジアだとインドやパキスタンの人。台湾や香港の人は希にいるけれど、中国本土の人は来ていない気がする」(平和記念資料館で入館者の案内役を務めるヒロシマピースボランティアの村本純二氏)という。
・村本氏は英語が話せるため、外国人来館者と直接話す機会も少なくない。母国が核保有国であっても「驚くほど核に対する知識がなく、怖さを理解していない。母国が核を保有していることは知っていても、何発持っているかとか、世界中で1万5000発存在していることとか、一部の国同士の紛争でそのごく一部が使われただけで、発生する煙によって地球全体の日光が遮断され、甚大な農業被害が引き起こされて食糧危機が起きるということも知らない。ほんの少し使っただけで地球全体が壊れる、と言うと驚く」という
▽喪服を着て、毎日供養塔に通い続けた
・今年で47回目を迎えた大宅壮一ノンフィクション賞。今年度の書籍部門の受賞作品は『原爆供養塔-忘れられた遺骨の70年』だった。著者は広島テレビ出身のジャーナリスト堀川恵子氏。原爆投下直後に広島市内に入って被爆した、入市被爆者・佐伯敏子さんの半生を軸に、20年以上に渡る取材を経て執筆した大作である。
・タイトルの原爆供養塔とは、7万人もの被爆者の遺骨が無縁仏として安置されている、平和記念公園の片隅にある慰霊の塚である。佐伯さんは、1970年代後半から約20年に渡って毎日欠かさず喪服を着てここに通い続け、周囲を清掃し、近くのベンチに腰掛け、時には語り部として体験を語り一日を過ごした人だという。健康上の理由で今は通えなくなったが、現在もご存命である。
・オバマ大統領と抱き合う姿が世界中のメディアで報じられた森重昭氏は、8歳の時に被爆。戦後は会社勤務の傍ら、1974年から30年以上にわたり、被爆した米兵捕虜の身元調査を続けた。被爆者に国籍は関係ない、という思いで続けた調査によって、最終的に12人の身元を特定。原爆による死没者として広島市の名簿登録を行う一方、遺族に被爆の事実を伝える活動を続け、自費で慰霊碑もたてた。その経緯をしたため、2008年に『原爆で死んだ米兵秘史』を上梓している。
・「広島文学資料保全の会」は、原民喜、峠三吉、栗原貞子といった被爆作家の作品を後世に残すべく、ユネスコの世界記憶遺産への登録を目指している。 これまで原爆に関する多数の書籍が世に送り出されてきたにもかかわらず、世の中にはなかなか伝わらない。原爆投下から70年以上が経過し、被爆者は次々と鬼籍に入り、語り部も減っていく。原爆がもたらした結果を原爆を投下した当事国の大統領にその目で見てほしい、実際に見れば何をしたのかがわかるはず――。
・米国大統領による広島訪問は、被爆者のみならず「原爆」を後世に伝えたい人々の悲願であったことは間違いない。だが、謝罪はなく、大統領のわずか数列うしろには、核攻撃命令の暗号を収めたブリーフケースを持った将校が待機していたわけだから、複雑な思いで受け止めている人たちも当然居る。
▽「原爆はほとんどトラウマ」
・「広島文学資料保全の会」代表の土屋時子氏は、「被爆者がオバマ大統領と安倍(晋三)首相の政治パフォーマンスに利用された感がある」という。 小学校入学から高校卒業までの12年間を広島で過ごし、現在は米国在住の40代の男性は「毎年8月が来るたびに原爆に関する教育を受けてきた。原爆はほとんどトラウマ」と言う。資料館の展示資料は、おそらく大抵の人に原爆の悲惨さ、残酷さを直感的に理解させる。それだけに大人でも受け止めるのはかなりしんどい。子供ならなおさらだろう。
・だが、トラウマと引き替えに、核や戦争、憲法、政治に対する自分の考えを整理する機会は否応なく得た。日本ではこの類の話題は敬遠されるだけだが、米国では周囲の知人が普通に議論を挑んでくる。日本に住む同世代の日本人男性で、この類の議論を挑まれ、まともに応えられる人は果たしてどのくらいいるだろうか。
・オバマ大統領訪問については、「政治パフォーマンスの形でなければ訪問は実現するはずがなかった。それでも少なくともオバマ大統領がその目であの展示資料を見たという事実は評価していいと思う」という。
・ピースボランティアとして働く川本省三氏はいわゆる原爆孤児である。小学校6年生の時に疎開中に原爆が投下され家族を失った。後日広島市内に入った入市被爆者でもある。 原爆孤児で施設に引き取られた人はごく一部。戦後間もない時期、多くの原爆孤児の生活を支えたのは復興の過程で経済力を握って台頭した暴力団。それが、実際に広島で起きた暴力団同士の抗争を扱った、深作欣二監督の名作「仁義なき戦い」に繋がっていく。 生活を支えられたとは言っても、飢餓の恐怖に苛まれながら過酷な労働を強いられ、被爆時点で学歴が止まったまま大人になった人が多いという。筆舌に尽くしがたい苦労ゆえか、自らの経験を口にする原爆孤児はごく少数派。川本氏は極めて貴重な語り部である。
・「持っている人から奪わなければ生きていることすらできない。それが現実だったことを、正直、何不自由ない暮らしが当たり前の現代の子供たちに理解してもらうのは難しい。それでも平和であることは当たり前ではないのだということを、少しでも多くの人に伝えたくてこの仕事をしている」。
▽2度と繰り返さないでほしい
・オバマ大統領の訪問については「様々な受け止め方があるのは仕方がない。ただ、自分は責め合う気持ちにはなれない。なぜあんなことが起きたのかを子供たちに知ってもらい、2度と繰り返さないでほしいと願うのみ」だという。 大統領訪問に対する海外メディアの反応は総じて微妙だった。特に周辺国の反応は「被害者面は許さない」――。
・堀川恵子氏の言葉を借りるなら、「戦争がもたらす不条理は、いつも非力な立場にある人たちへと押し寄せる」。そして「貧しく、弱い立場の者から矢面に立たされ殺されていく」。周辺国の非難の矛先は一個人に向けられたものではなく、国家に向けられたものではあろうが、これほどの被害に遭った人たちが、今もなお矢面に立たされ続けているということを思い知らされる。 もうすぐ8月6日が、そして8月9日がやってくる。
http://toyokeizai.net/articles/-/127571
第一の記事の「原爆投下の「正当性」に関する世論調査の1945年と2015年の比較には余りに年月が経ち過ぎて、やや無理がある気もした。むしろ、2015年時点でも投下支持が56%もあることに、改めて驚かされた。「核のフットボールとビスケット」の持ち込みについては、保有国である限り、その責任の一環で当然と思う。むしろ、問題なのは、『新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められる予定』、であろう。米科学者連盟(FAS)の提言を、「ヒラリー次期大統領」が着実に実行してくれることを期待するが、産軍複合体との関係から、期待薄かも知れない。
第二の佐藤氏は、遠慮し過ぎたためか厳しい質問をせず、物足りないが、オバマ演説の絶妙なレトリックを知るために紹介したものである。さすが「演説巧者」だけあって、その場で聞いていれば、恥ずかしながら「感動させられた」に違いない。面白かったのは、サッチャー教授が、『中国や韓国など、日本政府が日本の戦争責任をめぐる論議を終わらせてしまう口実になるのではないか、という懸念を示した国もありましたから、複雑な政治状況であったことは確かです』、といまだに戦争責任にこだわる中国や韓国に言及した点である。
第三の記事で、ヒロシマピースボランティアの村本純二氏が、『母国が核保有国であっても「驚くほど核に対する知識がなく、怖さを理解していない』、というのはそうだと思うし、だからこそ、平和記念資料館やピースボランティアが重要なのだろう。 『周辺国の反応は「被害者面は許さない」』、というのは、私は理解できる。あえて誤解を恐れずに言えば、被爆者の方々は、被害者であると同時に、日中戦争から太平洋戦争に至る加害国の国民でもあったことは否定すべくもない。無論、戦後直後の東京に生まれた私には、被爆者の方々の苦しみは、マスコミを通じた知識しかないとはいえ、筆舌に尽くし難い苦しみを味あわされたことには、心底から同情を申し上げる立場にあることはいえまでもない。しかしながら、他方で、日本が周辺国に塗炭の苦しみを与えたことも忘れてはならない。周辺国も含めた世界からの理解を得る上では、被爆者が一方的に被害者であるとするのではなく、加害者でもあったことも同時に認める方が理解を得やすいのではなかろうか。被爆者への最大の加害者は米国もさることながら、それ以上に、「国体護持」にこだわって長崎への投下まで降伏を拒否した日本の軍国政府・体制であったと考えるべきと思う。
タグ:オバマ大統領 広島訪問 (「核なき世界」にほど遠い米国の現実、米専門家がみるオバマ広島訪問の本当の理由、オバマ訪問で広島は何が変わったのか) ダイヤモンド・オンライン オバマ歴史的訪問でも「核なき世界」にほど遠い米国の現実 平和記念公園 現職の米大統領による被爆地訪問や献花 核兵器を実戦使用した唯一の国であるアメリカの現職大統領による初の広島訪問 アメリカでは原爆使用は戦争を終結させて多くのアメリカ人兵士の命を救うために必要だったという考えが根強く残っている 抑止力としての核兵器保有」を正当化する声もまだまだ根強い 原爆投下の「正当性」に関してはアメリカ人の意識も様変わり 訪問で日米間のギャップは埋まらない米保守派からは「弱腰外交」と批判も フットボールとビスケット 広島訪問の際にも現地に持ち込まれていたと 新型核爆弾「B6112型」 新型核爆弾の実験は、今後30年で1兆ドルを投じて行う核兵器性能改善計画の一環で、新型のミサイルやステルス爆撃機などの開発や配備も同時に進められる予定 オバマ大統領が残る任期で実現可能な核兵器削減政策 米科学者連盟(FAS) オバマ政権の核兵器削減の取り組みに対する提言 佐藤智恵 ハーバード大教授が徹底解説!オバマ広島訪問の本当の理由 サンドラ・サッチャー教授に聞く サンドラ・サッチャー教授 リーダーシップの専門家 中国や韓国など、日本政府が日本の戦争責任をめぐる論議を終わらせてしまう口実になるのではないか、という懸念を示した国もありましたから、複雑な政治状況であったことは確かです つの重要なメッセージを世界に伝えることができたからです 原爆投下という歴史から学ぶこと アメリカは自国の行動について責任をとる国なのだ どの国にとっても、自国の歴史と向き合い、歴史から学ぶことは重要だ 5つの目的 原爆投下の犠牲者を哀悼 すべての人間は、人間性という共通の絆でつながっていることを伝えることです 、“人類が抱える根源的な矛盾”について語ることです 世界の国々にとって、自国を防衛することは必要不可欠なことですが、武力を行使する際には、道徳的なルールに基づいていなければならないということです 歴史から正しい教訓を学び、よりよい世界を築き上げることに貢献してほしいという願いを すべてのリーダーをめざす人々に模範的な行動を示したオバマ大統領 オバマ大統領のモラルリーダーシップ 被爆者の方々もまた、モラルリーダーシップを示した 東洋経済オンライン オバマ訪問1カ月、広島は何が変わったのか 外国人の訪問は急増しているが… 広島平和記念資料館の来館者数 増加著しい外国人入館者 ヒロシマピースボランティア 村本純二氏 母国が核保有国であっても「驚くほど核に対する知識がなく、怖さを理解していない。母国が核を保有していることは知っていても、何発持っているかとか、世界中で1万5000発存在していることとか、一部の国同士の紛争でそのごく一部が使われただけで、発生する煙によって地球全体の日光が遮断され、甚大な農業被害が引き起こされて食糧危機が起きるということも知らない。ほんの少し使っただけで地球全体が壊れる、と言うと驚く」という
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