SSブログ

リニア新幹線(その1)「国家プロジェクト」化決定 [経済政策]

今日は、リニア新幹線(その1)「国家プロジェクト」化決定 を取上げよう。

先ずは、7月22日付けロイター「リニア新幹線「国家プロジェクト」化、採算や経済効果危ぶむ声も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三首相が打ち出した経済対策では、リニア新幹線に財政投融資資金を投入し、東京─大阪間の開業を8年前倒しする構想が盛り込まれた。未来投資の看板として「国家プロジェクト」化が鮮明になったが、採算性や経済効果などで先行きを危ぶむ声もある。大阪圏の政財界による活発なロビー活動が政府を動かしたとの指摘もあるリニア計画浮上の過程に迫った。
▽自主性と資金コストメリットで揺れるJR東海
・「政府の支援なんかいらない。金を出せば政治は必ず口も出してくる。もうこりごりだ。自己資金での計画ができているのだから、(JR東海の柘植康英社長は)財投活用にノーと言ってほしい」――。リニア中央新幹線のプロジェクトに関わったことのある東海旅客鉄道<9022.T>(JR東海)幹部の1人は、吐き捨てるように言った。
・安倍首相が参院選投開票日の翌12日に検討を指示した経済対策の柱は、財政投融資資金を投入し、リニア中央新幹線の全線開業を最大8年前倒しすることだった。「未来投資」にふさわしい先端技術と経済効果への期待を兼ね備えた象徴的な事業であり、事業規模も9兆円と目玉政策として申し分ないように見える。 国土交通省高官も「財投資金でより有利に資金調達ができ、工事を早めることができるならと、今回JR東海と話が折り合った」と話す。
・だが、JR東海側は「政府から具体的な提案を受けていない」(広報部)、「(財投資金の)受け入れを決めたわけではない。自己負担でリニア建設を行う方針は転換していない」(同)と主張し、両者の話はかみ合っていない。 同社の柘植康英社長はロイターに対し、財投活用について「大変ありがたいことだと受けとめている。政府から具体的な提案があれば、民間企業として、経営の自由、投資の自主性を確保できること、さらには将来にわたって健全経営と安定配当を堅持できることを前提に、十分検討させていただく。民間会社として受け入れ可能な案を提示いただければ大変ありがたい」とするコメントを寄せた。
・JR東海では、旧国鉄時代の轍(てつ)を踏まぬよう、「政府の介入」に対する警戒感が根強い。また大阪延伸の工事を8年も前倒し着工することは、人手や工期などに相当の負担が発生するリスクがあるという。  一方で、 財投資金投入により自社調達より低い利率の資金借り入れができれば、同社にとって調達コストが低下。メリットを享受できる。
・同社の資金計画では、工事進ちょくに合わせ16年以降およそ3兆円程度の長期債務の増加が予定されている。直近発行の同社20年債の利率は0.4%台だが、仮にその金利で3兆円を調達した場合には、20年で2400億円の利息がかかる。仮にゼロ金利で財投融資が受けられれば、その分が削減できる。
・現在、自民党内ではリニア事業に対する3兆円規模の財投融資の金利を0.3%前後を軸に検討している。その場合、20年間で1800億円の利息となり、自己調達と比べ利息支払額は600億円の削減となる。  政府とJR東海の間で、経営の自主性確保とコスト削減メリットをめぐり、交渉が始まるのはこれからだ。
▽大阪勢のロビー活動、マイナス金利導入で一気に具体化
・また、リニア新幹線の工事前倒しが安倍政権の目玉政策に浮上する過程で、大阪圏の政治・経済団体のロビー活動が、大きな影響を与えたと関係者は口をそろえる。 「JR東海が自力で行うとしていることも勘案しつつ、要望を受けて対応を考えていきたい」。世耕弘成官房副長官は2014年当時、関西経済連合会のリニア新幹線「国家プロジェクト化」と大阪・名古屋同時開業要望に対してこう語った。
・JR東海が自己負担を原則に進めてきた計画に、長年距離を置いてきた政府が関与を強め始めたのは、このころからだ。 ロビー活動の主役は「おおさか維新の会」(現政党名)の松井一郎幹事長と橋下徹代表(ともに当時)だった。 両氏は大阪府知事、大阪市長として、関西経済団体とともに大阪・名古屋同時開業に向けた協議会を設立。自民党の大阪府選出議員らも財投資金での支援、税制優遇など要望策をまとめた。さらに和歌山県選出の二階俊博総務会長の働き掛けも大きかったと関係者は語る。
・その後、今年6月の「骨太方針」に財投活用による大阪までのリニア前倒し開業が盛り込まれることとなったのは「日銀によるマイナス金利の導入がきっかけだった」(政府高官)という。 首相ブレーンとして強い影響力を持つ藤井聡内閣官房参与(京都大大学院教授)は、ロイターに対し「マイナス金利政策の中、公共投資の活性化のための財投を活用すべきだと安倍首相に提案した」と断言した。
▽不透明な経済効果、輸出市場も見当たらず
・ただ、今回の「国家プロジェクト」案には、経済効果について一部で疑問の声も上がっている。 国土交通省・交通政策審議会答申(2011年5月)では、経済成長率1%を前提に大阪までの開業時(2045年)の経済効果を年間8700億円と試算した。国内総生産(GDP)500兆円のわずか0.17%だ。
・さらに大阪府は、2027年に大阪と名古屋を同時に開業する場合の上乗せ効果について6700億円と試算。 これに対し、藤井教授は累計136兆円、年間7.5兆円、GDPの1.1%になるとはじき出し、両者には相当な開きがある。
・輸出への期待も、現状では先行き不透明感が色濃い。安倍首相は昨秋、オバマ米大統領にワシントンDC―ニューヨーク間でのリニア採用計画を提案した。 米国側は調査費として連邦政府補助金を承認し、日本側も今年度予算で同様に調査費を計上した。ただ、採用されるかどうかの見通しは立っていない。 さらに世界中を見ても、米国での案件以外に超高速新幹線に見合う候補地が見つかっていない。その点はJR東海自身も認めている。輸出案件の進展がはかばかしくない場合、東京─大阪間がリニア新幹線の唯一の路線になりかねない。
・「リニア新幹線―巨大プロジェクトの『真実』」の著者であるアラバマ大学名誉教授の橋山禮治郎氏は「海外輸出の可能性はゼロ」と言い切る。「世界で鉄道に求められているものは超高速性ではなく、安全性、利便性、ネットワーク性、環境保全性。(リニア開発は)はっきり言って独りぼっち」と語る。
・もともとリニア新幹線の導入目的は、東京─大阪という大動脈の二重系化と、東海地震など災害リスクへの備え、そして東海道新幹線の大規模改修工事への対応だった。 ただ、リニア技術の採用で新幹線整備事業としては「これまで例を見ない巨額投資」(国土交通省鉄道局)となることが確実になった。財投資金の投入に関しては、このビジネスの将来性や経済効果など一段と詳細なシミュレーションと国民の理解が必要だとの指摘もある。
・BNPパリバ証券・シニアエコノミスト、白石洋氏は「財投資金を使ってやるべきことなのかどうかの判断は、経済全体にとってリターンがあるか、外部効果があるのかという点が基本的な判断基準になる。だが、その必然性が不明だ」と指摘している。
http://jp.reuters.com/article/linear-sinkansen-idJPKCN1020D8?pageNumber=1

次に、ジャーナリストの池田信夫氏が7月29日付けJBPressに寄稿した「リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首相の「ヘリコプターマネー」は昭和型」のうち、ヘリコプターマネー部分を除いて紹介しよう(▽は小見出し)。
・政府は来週、「事業規模で28兆円」という大型の補正予算をまとめる予定だ。参院選で「アベノミクスのエンジンを最大限にふかし、デフレからの脱出速度をさらに上げる」と繰り返した安倍首相が出してきたのは、昔ながらの自民党のバラマキ財政だ。 だが中身を見ると「真水」といわれる財政支出は3兆円で、大部分は来年度の当初予算まで含む「水増し」だ。中には貧困層に1万5000円ずつ金券をばらまく計画もあり、無差別に現金をばらまく「ヘリコプターマネー」の効果を狙っているようだ。(ヘリコプターマネー部分は省略)
▽リニア新幹線の採算性は疑問だらけ
・今回の補正で注目されたのが、JR東海のリニア新幹線の全線開業を8年早めるために財政投融資から3兆円の低利融資を行うという話だ。リニア新幹線は東京―大阪間を最高時速500キロメートルで結び、67分に短縮しようという壮大な計画だ。 本格的な工事はこれからだが、人口の減少する日本で9兆円もの設備投資を行い、完成は2045年という計画の採算性を危ぶむ専門家は多い。安倍首相と親しい葛西敬之氏(JR東海代表取締役名誉会長)が救済を求めたともいわれる。
・2045年には人口は1億人を下回り、特に新幹線を利用する労働人口はほぼ半減するが、JR東海は完成時の品川―大阪間の総輸送量を年間529億人キロメートルと予測しており、これは2011年の東京-大阪間の新幹線の輸送実績443億人キロメートルの1.2倍以上だ。 鉄道の輸送量はGDP(国内総生産)にほぼ比例しており、新幹線の場合は品川駅の開業や列車の増便で混雑は緩和されている。今後の人口減少でおおむねゼロ成長が続くとすると、リニア新幹線は過剰設備になるおそれが強い。
・しかもリニア新幹線は図のように山岳部を突っ切って走るため、品川―名古屋間の86%がトンネルだ。長大な地下鉄に乗るようなもので、快適とはいいがたい。また地下40メートルの大深度地下を走るので地上から駅まで20分近くかかり、品川─大阪間だと地上まで出るのに100分以上かかる。
・今でも品川―新大阪間は新幹線で2時間20分、飛行機なら羽田―伊丹間は1時間だ。アクセスの便利な現在の新幹線と比べても、搭乗時間20分の国内便と比べても、リニア新幹線はほとんど優位性がない。料金は新幹線より700円ぐらい高くするというが、そんな料金では採算は取れないだろう。
・日本のリニアモーターカー技術は世界最高レベルだが、これは平地で長距離を走るのに適しており、東京―大阪のように短距離でほとんどがトンネルという路線には向いていない。アメリカやロシアなどにプラント輸出したほうがいい。
▽バラマキ財政でJRは「再国有化」される
・最大の問題は、向こう30年もの長期資金をいかにして調達するかだ。今はJR東海は0.4%という低金利で20年債を発行しているので、金利負担は2400億円だが、向こう30年も低金利が続くとは考えられない。たとえば長期金利が2%に上がると、金利負担は1兆2000億円になり、工費は1割以上も上がる。
・そこで政府の今度の計画では0.3%の固定金利で融資し、工期を前倒ししようというのだ。その財源とする財政投融資は、昭和時代に赤字ローカル線をつくるのに利用された「第2の予算」だ。これは政府保証で財投債を発行し、それを長期間かけて償還するもので、金利リスクを政府が負担するということだ。
・もし金利が上がって1兆円以上になったら、どうするのだろうか。財投の原則では財投債を発行する機関が負担することになっているが、これを政府が肩代わりすると固定金利の財投債に評価損が発生する。おそらくそれは税金で穴埋めすることになるだろう。
・これは昔の国鉄と同じだ。採算の合わないローカル線をつくるために、田中角栄は鉄建公団(鉄道建設公団)という特殊法人をつくり、そこが財投の資金を借りて鉄道を建設し、その借金の穴埋めを一般会計でやるという方式で、全国に赤字ローカル線をたくさん建設した。 政治家がカネを出すときは、必ず口も出す。政府が資金援助すると実質的にJRは再国有化され、「第2の国鉄」になるだろう。リニア新幹線を強く推進してきたのが、国鉄民営化の最大の功労者だった葛西氏だというのも皮肉だ。自民党は昔の自民党に戻り、JRは昔の国鉄に戻る――その先に待っているのは重税と経済の衰退である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47498

リニア新幹線については、JR東海が自己責任で社運を賭けてやるものと思っていたら、突如、財投資金投入で大阪まで延伸するとなった。おおさか維新の会や二階総務会長の働きかけに加え、『安倍首相と親しい葛西敬之氏(JR東海代表取締役名誉会長)が救済を求めたともいわれる』、とのことらしいので、裏の事情はなるほどと分かった。ただ、ロイターによれば、JR東海社内は、財投資金を受取ることには、異論も残っているらしい。『政治家がカネを出すときは、必ず口も出す。政府が資金援助すると実質的にJRは再国有化され、「第2の国鉄」になるだろう』との池田氏が喝破しているのは、その通りだろう。しかしながら、2001の財投改革では、資金運用部を廃止、市場原理にのっとった資金調達、政策コスト分析の導入などの精神はどこへ行ったのかと思わせるほど、今回の措置により財投の肥大化が再び進むことになる。
池田氏は、リニア新幹線計画そのものの採算性も問題にしている。しかも、難工事が予想されるなかで、8年も工事を前倒しすれば、工事費は見積もりを大幅に上回り、採算はさらに厳しくなる可能性が高いと覚悟しておくべきだろう。
経済効果についても、国土交通省の試算(年8700億円)と、首相ブレーンとして強い影響力を持つ藤井聡内閣官房参与の試算(年7.5兆円)は、余りに格差があり過ぎる。
『先に待っているのは重税と経済の衰退である』、との宣告はなんともやり切れない。
明日は、リニア新幹線について小田嶋氏が2013年9月に執筆した記事がまだ現在でも通用する好コラムなので、取上げる予定である。
タグ:リニア新幹線「国家プロジェクト」化、採算や経済効果危ぶむ声も リニア新幹線 (その1)「国家プロジェクト」化決定 ロイター 安倍晋三首相 経済対策 リニア新幹線に財政投融資資金を投入 東京─大阪間の開業を8年前倒し 「国家プロジェクト」化 採算性や経済効果などで先行きを危ぶむ声 自主性と資金コストメリットで揺れるJR東海 JR東海では、旧国鉄時代の轍(てつ)を踏まぬよう、「政府の介入」に対する警戒感が根強い 8年も前倒し着工することは、人手や工期などに相当の負担が発生するリスク 世耕弘成官房副長官 ロビー活動の主役は「おおさか維新の会」 二階俊博総務会長の働き掛けも大 国土交通省・交通政策審議会答申 経済効果を年間8700億円と試算 首相ブレーンとして強い影響力を持つ藤井聡内閣官房参与 年間7.5兆円 両者には相当な開きがある 輸出案件の進展がはかばかしくない場合、東京─大阪間がリニア新幹線の唯一の路線になりかねない 池田信夫 JBPRESS リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首相の「ヘリコプターマネー」は昭和型 リニア新幹線の採算性は疑問だらけ リニア新幹線は過剰設備になるおそれが強い バラマキ財政でJRは「再国有化」される 政治家がカネを出すときは、必ず口も出す 政府が資金援助すると実質的にJRは再国有化され、「第2の国鉄」になるだろう その先に待っているのは重税と経済の衰退である
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 10

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0