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アベノミクス(その14)「働き方改革」、日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由 [経済政策]

アベノミクスについては、7月9日に取上げたが、今日は、(その14)「働き方改革」、日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由 である。

先ずは、健康社会学者の河合薫氏が8月9日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「働き方改革」が描く、自立の名の下の弱者排除 「自立」と「成果主義」で残業が減るという不可解なロジック」を紹介しよう(▽は小見出し、+は段落)。
・加藤勝信一億総活躍・働き方改革担当相が、誕生した。 もし、就任の記者会見で、「手始めに、夏季休暇2週間を義務づけます! え? はい、そうですよ! この夏に、です。気象庁の分類では、7、8、9と、9月までが夏となっていますので、9月を含めて交代で休んでください!」  なんてことを言ってくれれば、加藤大臣株は急上昇したに違いない。
・「え? 無理? いやいや、あのときだってみなさん、できたじゃないですか。そうですよ。2011年の東日本大震災のときです。 不要不急の仕事、つまり、重要でも急ぎでもない仕事の場合、会社に来なくていいって、会社から自宅待機の指示を受けた方たち多かったですよね? 博報堂、電通、ソニー、富士フイルム、鹿島、武田薬品工業、楽天、ノエビアなどなど、名だたる大企業が、続々と「自宅待機」や「出社見合わせ」を命じていましたよね。
・え? 『来るな』って言われたのに、行ってしまったって? ああ、ダメです、ダメです。我が内閣は、本気で長時間労働是正に取り組みますので。その手始めとして、世界でダントツに低い有給休暇消化率の改善から始めます! 我々は本気です。経営者のみなさん、『一人ひとりが輝くため』なんですから、どうぞよろしくお願いします!」 もし、こんな具合に少々強引でも、多少反発を食らおうとも言ってくれれば、内閣改造後の酷暑も気にならなかったかもしれない。
・が、現実は、「げっ、マジ?」という方向に進みそうな事態になっている。 そこで今回は、「働き方改革の行方」について、アレコレ考えてみる。
▽長時間労働も非正規もなくなる「働き方の未来」
・働き方改革大臣が誕生した、その前日のこと。厚生労働省のHPに、私たちの「未来予想図」となる報告書が掲載された。 タイトルは、「『働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために』懇談会 報告書」。 従来の枠組みにとらわれずに20年先を見据えて「働き方」についての議論を目的に、今年1月に発足した厚労省の「働き方の未来2035」懇談会の政策提言書である。
・この内容を読むと、第3次安倍再改造内閣の発足時に安倍首相が述べた、文言の真意を理解することができる。 「党内きっての政策通、重厚な経済閣僚をそろえて、成長戦略を一気に加速してまいります。目指すは戦後最大のGDP600兆円。さらには、希望出生率1.8、介護離職ゼロ。この3つの『的』に向かって『一億総活躍』の旗を一層高く掲げ、安倍内閣は『未来』への挑戦を続けていきます。 その最大のチャレンジは、『働き方改革』であります。長時間労働を是正します。同一労働同一賃金を実現し、『非正規』という言葉をこの国から一掃します」
・長時間労働が、本当になくなるのか? 非正規という言葉が、本当に一掃されるのか? その答えが、「自立」という見栄えのよいキーワードが乱舞する報告書の中で語られていた。  2035年の「幸せな働き方」の前提となるのが、VRやAIによる技術革新。最新技術を最大限に働き方に生かせば、どこでもいつでも、場所に拘束されることなく働けるようになる。工場のように、実際にその現場に人がいなければならない作業は、ロボットがやる。 技術を最大限に生かせば、「働き方」が変わる。多様な働き方が可能になり、「個」を生かした働き方を可能する…のだそうだ。
▽「自立」で個が生きる“素晴らしき”世界
・個」を生かすって、何なんだ??? ふむ。既に私の脳内には、サルやタヌキの「つっこみ隊」が押し寄せているのだが、その前に、報告書の内容を抜粋し、要約する。
・【長時間労働について】
+同じ空間で同時刻に共同作業することが不可欠だった時代は、そこに実際にいる「時間」が評価指標の中心だった。だが、時間や空間にしばられない働き方への変化をスムーズに行うためには、成果による評価が一段と重要になる。 その結果、不必要な長時間労働はなくなり、かつ、是正に向けた施策が取られるようになる。
・【会社との関係】
+空間と時間を共有することが重要だった時代は、企業はひとつの国家やコミュニティのような存在だったが、2035年の企業は、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となる。プロジェクト期間が終了すれば、別の企業に移動する形になっていく。その結果、企業に所属する期間の長短や雇用保障の有無等によって「正社員」や「非正規社員」と区分することは意味を持たない。
+一日のうちに働く時間を自由に選択するため、フルタイマーではないパートタイマーの分類も意味がないものになる。兼業や副業は当たり前になる。一つの会社に頼り切る必要もなくなるため、不当な働き方や報酬の押し付けを減らせる。
・【企業の役割の変化】
+これまで企業は、ひとつの国家、あるいはコミュニティ、家族のような役割を担ってきた。だが、自立した個人が多様な価値観をもって自由に働く社会では、企業への帰属意識は薄れ、これまで企業が担ってきたコミュニティの役割を、代替するものが生まれてくるに違いない。
+生活を重視する流れが強まれば、居住する地域コミュニティの役割が重要になってくる。地域コミュニティでの相互扶助などが働く人を支えることもあり得る。
・【介護・子育て】
+AI による自動化・ロボット化によって、介護や子育て、家事などの負担から働く人が解放されていることが期待される。
+健康管理のシステムにより要介護状態になる前に予防的措置がなされ、かつ介護ロボットの導入で介護負担が大きく改善する。
+施設に入れなくても、自宅で遠隔の安全管理システムが見守りを行ったり、移動ツールによって要介護者の外出が容易になるなど、働く人の負担は大きく軽減される。
・【働きがい】
+「働く」ことが、単にお金を得るためではなく、社会貢献や地域との共生など、多様な目的をもって行動することをも包摂する社会になる。共に支え合い、それぞれが自分の得意なことを発揮でき、自立した個人が自律的に多様なスタイルで「働く」ことが求められる。そのためには、必要な能力開発や教育が、どの世代に対しても十分に行われ、 社会貢献も含め、多様な自己実現の場が提供されているべきだ。
・【セイフティーネット】
+個人が自立して働く社会では、これまで以上に適切なセーフティネットの構築が重要になる。2035 年においては、複数の仕事をすることが当たり前になっていくことで、失業から生じるリスクはある程度低下させることができるだろう。セーフティネットの基本は、キャリアアップ、キャリアチェンジのための充実した職業教育である。
+セーフティネットは、最終的に国が責任をもって提供するとしても、民間の創意工夫による適切な保険の提供という形でできるだけ行われることが望ましい。
・【自立した個人】
+2035年には個人が、企業や経営者との対等な契約で、自律的に活動できる社会に大きく変わる。企業の内と外との境界線が低くなり、独立して活動する個人も増える。
+自立した個人が積極的に活躍できる社会では、教育のあり方も早急に見直されるべき。
+自立するための教育とは、「好きで得意な道選び」を実現するための教育である。
・以上です。フ~ッ……。
▽自立して会社に依存しなくなれば、即ハッピー???
・さて、と。実際にはもっとまどろこしいかなり込み入った文章なので、詳細は原文をご覧頂きたいのだが、私はこの報告書のメッセージを、 「20年後は“自立した個”じゃなきゃ働けないし、生きられないし、幸せにならないよ~。会社に頼らないでね~。 だってさ、自立するってことは、すべて自分でコントロールできるってことだし、自由になることだし、長時間労働だってなくなるんだよ~。 正社員って概念が必要なくなるから、非正規とかもなくなるでしょ? 非正規のみんな、やったね! とにかく「個」。とにかく「自立」。自立する体力をつけた人が、自由になる。幸せになれる!いいよね、これって~。最高~~」 と解釈した。
・自立、契約、情報、で、自立、契約、自由、それでまた自立……といった具合に、原文には、「自立」という二文字が脅迫的なまでに使われていて、読み終えたあとに“食あたり”ならぬ、“自立あたり”に襲われた。 その症状は、同じく報告書内にあふれる「自由」から受ける心の反応とは、全く反対のモノ。攻撃的で、排他的で、強い人だけが幸せになれると、言われているようで。申し訳ないけど、マジ、具合が悪くなった。
・確かに、言いたいことはわかる。 でも、今ある問題を解決するために、なぜ、今ある大切なものまで壊す必要があるのか。今、当たり前と思っている中に、壊しちゃいけない幸せがあるんじゃないのか? そもそも、「会社にいかなくても仕事ができる=長時間労働なくなる」というロジックが私には理解できない。「成果による評価=長時間労働がなくなる」というのもちっともわからない。
・先の国会で、継続審議となった「残業代ゼロ法案」も、同様のロジックになっているけど、なぜ、全く逆のリスクを置き去りにする? たとえば、この原稿。 「アレって、毎週書くの大変ですよね~。あれって何文字なんですか? 相当なボリュームですよね?」 こんな質問を度々される。
・文字数にすると、だいたい5000字前後。だが、同じ5000字のコラムでも、半日で書けるものもあれば、3日かかるものもある。パソコンさえあれば書けるものもあれば、古本屋に行ったり、論文検索したり、取材したり、「書く」以外の作業が必要になるものもある。 単発か連載かでも労力は変わる。連載の場合、ほぼ365日頭をクルクルさせ、アンテナを立てる。頭を解放させようとビデオを見たりすることもあるが、その行為すらやる気力というか、能力が失せることも少なくない。 つまり、「成果」には、そこにカウントされていない「時間」が費やされているのもまた、事実なのである。
▽“へなちょこ”に生き残る道はあるのか
・実はこれこそが、現代のストレス社会の深刻な原因の一つになっている。 1980年代以降、肉体労働から知的労働への時代となり、判断業務や精神緊張・心的疲労を増大させる業務が増大し、精神神経的負担や心理的ストレスが急激に増えた。 これらは「食べて寝れば自ずと回復する」という単純なものではない。回復や適応が極めて難しく、持続・蓄積・慢性化しやすい特徴を持つ。
・だからこそ、「職場環境」が大切になった。 。
・「会社」という組織の中で、自分の力だけでは抗えない状況に遭遇すると、「会社=悪」と誰もが思う。しかし、もともと「会社」に存在する「幸せ」を享受していると、「会社=良」であることをなかなか認識できない。  仕事の合間に仲間たちとする、たわいもない会話。同僚たちのおおらかさや笑いが、精神的緊張を緩める妙薬になる。そういったプラスの面も、会社というコミュニティには存在する。「会社」というコミュニティで共にする時間が、目に見えないつながりを育み、「個」の力を超えたチーム力を最大限に発揮させるのだ「プロジェクトの塊となれば、正社員や非正規社員の区分は意味を持たない」としているけど、これは誰にとっての「意味」なのか?
・職務保証(job security)の重要性は、これまで散々訴えてきた。「今日と同じ明日がある」という安心感は、人が前向きに生きるための根本をなす大切な要因である。 また、「プロジェクト期間が終了すれば、別の企業に移動する形になっていく」と、サラリと書いているけど、その度に、新しい会社、仕事、生活、人間関係……のすべてに適応を強いられることのしんどさをわかっているのだろうか。
・人間は適応する動物である。いや、正確には「適応できる」だけ。“莫大なエネルギー”をつぎ込み、ストレスに上手く対処し、生きていくために、ただただ必死に適応する。目に見えない労力がつぎ込まれているのである。
・「個の確立」という言葉は、実に魅力的だ。「個を確立」すれば、すべてが手に入りそうな気分になる。 だが実際には、個を確立して、結果を出せるのはごく一部。どんなにスキル習得の機会を提供されようにも、どんなに「目標を持て!」「もっと強くなれ!」「自分を信じろ!」と言われたって、どうやったって強くなれない“へなちょこ”の方が実際には多い。というか、“へなちょこ”がフツーなのだ。 なのに…。やっかいなのは、「個」という言葉が魅力的過ぎて、その“へなちょこ”までもが「個を確立」さえすればいいんだと錯覚することだ。
▽唯一無二の「自立した個」など、はなから幻想
・社会的動物である人間は、生まれながらに「個」として独立した生き物ではない。関係性の中にこそ個人は存在し、唯一無二の「自立した個(自己)」など、はなから幻想にすぎない。
・「信頼できる人たちに囲まれている」「いろんな人に依存して自己がある」という確信を手に入れることが必要で、この確信こそが、私が何度も書いている「SOC(Sense of Coherence)」だ。これは、平たくいえば人間が持つ「たくましさ」のこと。SOCは人とその人を取り巻く環境で育まれる前向きな力だ。
・SOCの強い人は、生きる力が高い。SOCの強い人は、「自分1人でできることには限界がある」と素直に認め、自分1人で頑張るのではなく、他人の力にうまく頼ることで、一歩踏み出すことができる。依存できる環境が、「個の自立」を引き出す。 強いSOCを持つ人は、ストレスを成長の糧にして、喜怒哀楽に富んだ豊かな人生を歩むことが可能だ。つまり、強いSOCを持つことが、現代社会を生きる必須の「武器」になる。それは2035年になっても、どんな技術革新が起きようとも、変わることはない。
・「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」に書かれているような働き方で、本当に豊かな人生が期待できるだろうか? どこでも自由に仕事ができる時代になるからこそ、「会社」というコミュニティと、職務保証を大切にしたほうがいい。 「個」を強要する時代より、「個」を引き出す社会へ。依存を否定する社会ではなく、依存の先の自立を目指す社会へ。
・大切なことなので何度も書くが、SOCを提唱したアーロン・アントノフスキーは、1970~80年代の日本を見て、「日本人のSOCは強い」と強いと分析した。日本には我慢を美徳とする文化があり、親子関係が密接で、地域の結びつきが強いこと、会社と働く人との間に存在する相互依存の関係がその理由である。 「個」の過剰な追求は、「個」の攻撃をもたらす。それがどんな社会か? 考えただけで背筋が寒くなり、暑さがぶっ飛びました!
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/080500065/?P=1

次に、みずほ証券チーフ・マーケット・エコノミストの上野泰也氏が8月23日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由 有給取得に「罪悪感」感じる割合は世界でダントツ」を紹介しよう(▽は小見出し、[■  ]は本の引用部分、+はその中での段落)。
・政府は8月2日に閣議決定した事業規模約28兆円超の「未来への投資を実現する経済対策」に、「働き方改革」を盛り込んだ。政府はこれを「最大のチャレンジ」と表現し、構造改革の1番手に挙げた。今後は長時間労働に頼らずに成果を上げることが喫緊の課題となるが、現状では日本人の長時間労働の抑制はまったく進んでおらず、有給休暇取得率にも改善の兆しはない。今回は日本人が仕事を休めない事情について考えてみる。
▽一億総活躍社会を切り開く鍵は「働き方改革」
・政府は8月2日に、新たな経済対策「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定した。そして、経済対策の多岐にわたるメニューの1つとして「働き方改革の推進」を掲げた上で、以下のような文言を盛り込んだ。 「一億総活躍社会を切り開く鍵は、多様な働き方を可能とする社会への変革であり、最大のチャレンジは、働き方改革である。そのため、同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正、労働制度の改革を進め、我が国から非正規という言葉を無くす決意で臨む」
・だが、会社員などの関心が高いとみられる「長時間労働の是正」に関しては、いわゆる36(サブロク)協定(※注)における時間外労働規制の再検討を開始すると書かれているだけである。6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」で「観光先進国の実現」の部分で言及されていた、「企業における労使一体での年次有給休暇の取得向上や休暇取得の分散化等の休暇改革の推進」は、今回の対策では具体的に展開されなかった。
▽日本の有給休暇の取得率の低さは下から2番
・諸外国と比べた場合に、日本では有給休暇の消化率(取得率)が極めて低いことは、よく知られている。国別比較でよく用いられる「Expedia有給休暇・国際比較調査」の2015年データを見ると、最下位はお隣の韓国(40%)で、日本は下から2番目(60%)である<■図1>。
・ただし、日本の消化率は、厚生労働省の公式データではもっと低く、直近データ(2014年)で47.6%。時系列で見ると、1999年までは50%を超えていたものの、2000年以降は50%未満にとどまっている<■図2>。 日本ではなぜ、有給休暇の消化日数がこのように少ないのだろうか。
▽有給取得に「罪悪感」を感じてしまう日本人
・この疑問への回答になると思われる興味深い内容を、「Expedia有給休暇・国際比較調査」(2015年データ)は含んでいた。 1つは、「有給休暇取得に罪悪感を感じる人の割合」である<■図3>。 日本は18%という、突出して高い数字になっている。本来は権利の行使であるはずの有給休暇を取る際に「すみません」と言ってしまう感覚だ。 そして、そう感じる理由の第1位は「人手不足」。ぎりぎりの人繰りで仕事が回っている場合、休暇取得中に同僚や部下の仕事が増えてしまうことに、心理的な抵抗感があるということなのだろう。第2位は「お金がない」。休んでも遊びに行くお金がない、ということだろうか。第3位は「自営業で時間がない」である。
▽休暇中に仕事が頭から離れない人の割合も1番
・もう1つは、「休暇中も仕事が頭から離れない人の割合」である<■図4>。 日本は13%で、韓国の11%を上回るトップの数字。「仕事漬け」的な心理状態になっており、ONとOFFの切り替えができないということだろう。電子機器の進歩がそうした心理を創り出すのに大いに貢献していると考えるのは、筆者だけではあるまい。
・このほか、日本の会社では疾病休暇(病気休暇)を取得しにくいので(日数が多いと無給になるのが通常)、自分が病気になった時のために有給休暇をある程度残しておくという動機付けがあるのだろうという指摘がある。実際、筆者の友人の1人はまさにこのパターン通りの行動をとっており、疾病休暇についてはその存在さえ知らなかった。 さらに、会社が年間の「休暇パターン」のモデル例を提示しているため(銀行業界の場合に多いのは「1週間休暇+3日休暇+それらをとらなかった四半期に1日ずつ」)、それを超える日数の休暇はとりにくい雰囲気になっているという声も聞いた。
▽ドイツ軍は激戦のさなかでも休暇を取っていた
・では、Expediaの調査には出てこないが日本とは真逆と言える、有給休暇消化率が極めて高いドイツの状況は、どのようなものだろうか。筆者が最近読んだドイツに関する2冊の本から興味深かった部分を、最後に引用したい。 驚いたことに、第2次世界大戦中のヒトラー体制下のドイツ軍でも、休暇取得制度がしっかりワークしていた。日本人にはすぐには真似のできない国民性というか、メンタリティーが、ドイツではしっかり根付いていることがわかる。
[■熊谷徹 「ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか」(青春出版社 青春新書インテリジェンス、880円+税) 「大半のドイツ企業が、労働組合との間の賃金協約に基づき、30日間の有給休暇を与えている。さらに、残業時間を1年間に10日前後まで代休として消化することを認めている。大手企業の中には、33日間の有給休暇を与えている会社もある。したがって多くのドイツの会社員は、実際には40日前後の有給休暇を取っていることになる」
+「もちろん日本の経営者も、社員に有給休暇を与えることを労働基準法によって義務づけられている。だが労基法による最低休暇日数は、企業への就職直後はまず10日であり、継続勤務年数が6年半を超えてようやく20日になる。ほとんどのドイツ企業では、企業に採用されてから半年間の試用期間には、有給休暇を取る資格はない。しかし試用期間が過ぎれば、ただちに30日間の有給休暇を取る権利が与えられる。つまり最低休暇日数において、日独の間にはすでに大きな格差があるのだ」
+「私がドイツで『すごい』と思うのは、大半のサラリーマンが30日間の有給休暇を、完全に取るということだ。ほとんどのドイツ人たちは、本当に毎年30日間、休暇を取っているのだ」 「知り合いのドイツ人たちを見ていても、管理職を除けば、有給休暇を100%消化しない人はいない。消化できなかった有給休暇をお金で払ってもらうという話も聞いたことがない」
+「また休暇の時の連絡先を上司に伝える必要はないし、平社員には、休暇の間に仕事のメールを読む義務もない。休暇の間は完全に『行方不明、音信不通』になることが許される。それは、『週末や休暇中に会社のメールを読んでいると、気分転換ができない』と考える人が多いからだ」
+「有給休暇に加えて、ドイツには毎年9~13日間の祝日がある。祝日数は、州によって異なる。大半の祝日は、キリスト教にまつわるもので、カトリック教徒が多い南部地方ほど、祝日の数が多い。たとえば2015年の時点で祝日の数が最も多いのは、バイエルン州の13日」  「バイエルン州の多くの企業では有給休暇、祝日、代休を合わせると、56日間休めることになる」]
[■大木毅 「ドイツ軍事史-その虚像と実像」(作品社、2800円+税) 「クレフェルト(『補給戦』の著者として有名なマーティン・ファン・クレフェルト)のまとめによれば、原則として、すべてのドイツ軍人は、階級や兵科にかかわらず、年間14日の休暇(所属部隊と自宅の往復に要する時間として、別に2日)が与えられていた。ほかに、結婚や家族の死亡といった慶弔時、自宅が爆撃で破壊された場合、あるいは家族の入院などといった事態となった際には、10~20日の休暇が認められることがあった。ちなみに、休暇が与えられるのは、既婚者が未婚者に優先。加えて、既婚者のあいだでも、家庭に何か問題があるものが先にもらえることになっている。ただし、作戦開始直前、あるいは、出動が予想される場合には、指揮官には、すべての休暇を差し止める権利がある。なお、前線にある部隊の場合、休暇を与える人数は、総員の1割を超えてはならないと規定されていた」
+「しかし、かように立派な規定があったとしても、戦況が厳しくなり、一兵卒といえども貴重となってくれば話は別、実際には休暇など与えられなかったのではないのか。南方の島々に兵をばらまき、休暇どころか、補給さえも充分に与えなかった総司令部をいただいていたという過去を持つ日本人の一人としては、つい、そう疑ってしまう」
+「ところが、幸い1942年から43年にかけての第9軍(司令官は、ヴァルター・モーデル上級大将)の休暇関係記録が残っており、これを分析すると、この時期にあっても休暇システムが機能していることがわかる」  「第9軍にあっては、ひと月あたり構成員の約10%に休暇を与えている。前線勤務にあたる兵士には、原則として、最初の1年には12か月あたり1度、2年目には9か月に1度、3年目には6か月に1度の割で休暇が許可された。また、前線部隊の将兵は(連隊指揮所より前方で勤務するものと規定されている)休暇を得るにあたり、後方要員よりも優先されることになっていた。驚くべきことに、第9軍に関していえば、激戦のさなかにあっても、こうした休暇規定は守られていたのである」]
・このように見てくると、「働き方改革」のうちで有給休暇の積極的取得という問題は、日本の場合、トップダウンで進展するような容易な話ではないことが痛感される。 残念な結論だが、結局、一人ひとりが自らの意識改革を行いながら、無理ない範囲で、できるだけのことをやっていくしかないのだろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/081900056/?P=1

「『働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために』懇談会 報告書」は、一方的な思い込みの強い内容で、到底、官庁の出す報告書とは思えないような酷い代物だ。河合氏も指摘するように、『「成果による評価=長時間労働がなくなる」』というのは、まるで「風が吹けば、桶屋・・・」の類である。『仕事の合間に仲間たちとする、たわいもない会話。同僚たちのおおらかさや笑いが、精神的緊張を緩める妙薬になる。そういったプラスの面も、会社というコミュニティには存在する。「会社」というコミュニティで共にする時間が、目に見えないつながりを育み、「個」の力を超えたチーム力を最大限に発揮させるのだ』、 『どうやったって強くなれない“へなちょこ”の方が実際には多い。というか、“へなちょこ”がフツーなのだと』、さらに『唯一無二の「自立した個」など、はなから幻想』、などの指摘もその通りだ。
ちなみに懇談会のメンバー・アドバイザーを下記でみたところ、まともそうな学者や労使代表も入っているが、大学をG型とL型に分けることを主張した経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏(このブログでは昨年11月8日)、ゴリゴリの新自由主義者である昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授の八代尚宏氏も入っており、なるほどと納得した。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133760.html
上野氏が指摘するように、有給取得に「罪悪感」を感じてしまう日本人が多いというのはその通りだろう。 『ドイツ軍は激戦のさなかでも休暇を取っていた』、という事実には驚かされた。やはり、われわれは「休暇」についての考え方を、改めて深く考え直す必要がありそうだ。
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